I 式の格変化は、男性名詞と中性名詞のほとんどに見られる格変化のパターンである。
男性名詞と中性名詞の違いは、主格(単・複)、および複数生格にのみ表れる。
硬変化
男性名詞
1-1
-(子音) |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -ø | -ы |
生 | -а | -ов |
与 | -у | -ам |
対 | ★ | ★ |
造 | -ом | -ами |
前 | -е | -ах |
1-2
-г/-к/-х |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -ø | -и |
生 | -а | -ов |
与 | -у | -ам |
対 | ★ | ★ |
造 | -ом | -ами |
前 | -е | -ах |
1-3
-ц |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -ø | -ы |
生 | -а | -ев / -о́в |
与 | -у | -ам |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем / -о́м | -ами |
前 | -е | -ах |
1-4
-ж/-ч/-ш/-щ |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -ø | -и |
生 | -а | -ей |
与 | -у | -ам |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем / -о́м | -ами |
前 | -е | -ах |
1-1 が基本であり、1-2、1-3、1-4 は正書法に基づく逸脱である。正書法を弁えていれば覚える必要はない。なお、1-3 と 1-4 は軟変化に分類すべきで、ゆえに 1-4 で複数生格が -ей となる(ここでは便宜上硬変化に含めた)。
ただし男性名詞には以下のような «揺らぎ» がある。
- 単数生格で -у となる場合がある
- 単数前置格で -у́ となる場合がある
- 複数主格で -а となる場合がある
- 複数主格で -а́ となる場合がある
- 複数主格で -е となる場合がある
- 複数生格で -ø となる場合がある
中性名詞
2-1
-о |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -о | -а |
生 | -а | -ø |
与 | -у | -ам |
対 | ★ | ★ |
造 | -ом | -ами |
前 | -е | -ах |
2-2
-же/-це/-че/-ше/-ще |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -е | -а |
生 | -а | -ø |
与 | -у | -ам |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем | -ами |
前 | -е | -ах |
中性名詞でも男性名詞と同じく、2-1 が基本で、2-2 は正書法に基づくバリエーションである。
また、中性名詞にも次のような揺らぎが見られる。
- 複数主格で -и となる場合がある
- 複数生格で -ов となる場合がある
軟変化
男性名詞
3-1
-ь |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -ь | -и |
生 | -я | -ей |
与 | -ю | -ям |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем / -ём | -ями |
前 | -е | -ях |
3-2
-й |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -й | -и |
生 | -я | -ев / -ёв |
与 | -ю | -ям |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем | -ями |
前 | -е | -ях |
3-3
-ий |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -й | -и |
生 | -я | -ев / -ёв |
与 | -ю | -ям |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем | -ями |
前 | -и | -ях |
軟変化でも男性名詞には以下のような揺らぎが見られる。
- 単数生格で -ю となる場合がある
- 単数前置格で -ю́ となる場合がある
- 複数主格で -я となる場合がある
- 複数主格で -я́ となる場合がある
中性名詞
4-1
-е |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -е | -я |
生 | -я | -ей |
与 | -ю | -ям |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем | -ями |
前 | -е | -ях |
4-2
-ье/-ьё |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -ье | -ья |
生 | -ья | -ей |
与 | -ью | -ьям |
対 | ★ | ★ |
造 | -ьем / -ьём | -ьями |
前 | -ье | -ьях |
4-3
-ие/-иё |
格 | 単数 | 複数 |
主 | -е | -я |
生 | -я | -й / -ёв |
与 | -ю | -ям |
対 | ★ | ★ |
造 | -ем | -ями |
前 | -и / -е́ | -ях |
男性名詞の揺らぎ
単数生格で -у / -ю
- 規則変化と共存しており互換可能。
- 用法は次の4点。これ以外の用法では規則変化。
- 「〜から」という «奪格»。アクセントは前置詞上に移動する。
- 例 : и́з виду, о́т году, и́з дому, и́з лесу, по́ миру, о́т роду
- 「全体の中の一部」という «分格»(いわゆる部分生格)。
- 一般的に、抽象名詞か物質名詞に現れる。
- ве́с, виногра́д, гла́з, го́д, ду́х, ды́м, кра́й, кри́к, лу́к, ма́х, ме́д, наро́д, о́тдых, по́лк, просто́р, ра́з, разбо́р, разгово́р, ри́с, са́хар, све́т, сме́х, сне́г, со́к, спи́рт, спо́р, сро́к, стра́х, сы́р, творо́г, то́лк, ча́й, ча́с, ша́г, шокола́д, шу́м, ...
- пить чай「お茶を飲む」 ⇔ выпить чаю「(一杯の)お茶を飲む(飲み干す)」
аромат чая「お茶の香り」 ⇔ чашка чаю「カップ一杯のお茶」
- 「たくさん」。 例 : Снегу!, Шуму!, Ну и народу!, Снегу там намело!, Толку никакого., Чаю!
- 否定。 例 : без весу, конца краю нет, ни разу, спору нет
- 1. と 4. は原則として慣用表現(決まり文句)でしか用いられない。
- 2. と 3. の用法でも、使用される名詞と場面(主に特定の動詞との結合)が限定される。
- 文体論的には、書き言葉では規則変化が一般的になりつつあり、この特殊変化には口語的ニュアンスがある(чашка чаю ⇒ чашка чая)。
- 一致定語(形容詞)がある場合は、規則変化。чашка крепкого чая
単数前置格で -у́ / -ю́
- 規則変化と共存しているが、互換可能な単語と互換不可能な単語がある。
- 前置格以外の斜格ではアクセントの位置は語幹。
- в ないし на と結合した場合のみ。それ以外の場合は規則変化。
- 意味は、いわゆる «処格»。場所を表す。ゆえに в ないし на と結合しても場所を表さない場合は規則変化。ただしこの点は単語にもよる。
- нужда во льде「氷の欠乏」 ⇔ роза во льду́「氷の中のバラ」
- この変化語尾が使用されるのは以下のような単語のみ(以下の互換不可/互換可能の分類は必ずしも厳密ではない)。
- 互換不可 : а́д, аэропо́рт, ба́л, бе́рег, бо́й, бо́к, бы́т, ве́рх, ве́тер, гла́з, го́д, до́лг, До́н, жа́р, за́д, кру́г, Кры́м, лёд, ле́с, ло́б, ми́р, мо́зг, но́с, пле́н, по́л, по́лк, по́рт, по́ст, пру́д, пы́л, ра́й, ро́в, ро́д, ро́т, са́д, сле́д, стро́й, су́к, ты́л, хо́лод, цве́т, шка́ф, ...
- 互換可能 : га́з, до́м, ду́б, ды́м, жи́р, зо́б, кра́й, мёд, ме́х, мы́с, о́тпуск, пи́р, ря́д, све́т, сло́й, хо́д, хо́р, це́х, ча́й, ча́с, ша́г, ...
- 文体論的には、互換可能な単語においては、規則変化が古語ないし文語的ニュアンスを持つのに対して、この特殊変化にはニュートラルな、あるいは口語的な、あるいは専門用語的なニュアンスがある。ただし意味により使い分けられる単語、語結合により決まってくる単語などもあるので一概には言えない。
- 互換不可の名詞でも、次のような場合は、規則変化をしなければならない。
- 一致定語(形容詞)がある場合
- 固有名詞の一部となっている場合(小説のタイトルなども含む)
複数主格で -е
- 規則変化と共存しておらず互換不可。
- 次の単語のみ。
- семьяни́н を除く -янин, -анин, ба́рин, боя́рин : -ин ⇔ -е
- цыга́н : -ø ⇔ -е
- これらはすべて、複数生格では -ø。
複数主格で -а / -я
- 単数と複数で語幹が異なる名詞。語幹そのものが変化するので、変化語尾だけ覚えても意味がない。
- 規則が複雑で、とてもまとめきれない。個々の単語ごとに覚えるほかはない。詳しくは名詞の語幹の変化を参照のこと。
- 一応次のようにまとめてみる。
- 子供
- -о́нок ⇔ -а́та, -ёнок ⇔ -я́та
- бесёнок ⇔ бесеня́та, чертёнок ⇔ чертеня́та, щено́к ⇔ щеня́та/щенки́
- -ин ⇔
- хозя́ин ⇔ хозя́ева
- господи́н ⇔ господа́
- ⇔ -ья
- бра́т, бру́с, дру́г, зу́б, кли́н, кло́к, ко́л, ко́лос, ко́м, крю́к, ли́ст, лоску́т, му́ж, о́бод, по́вод, по́лоз, пру́т, собра́т, стру́п, сту́л, су́к, шу́рин,
- де́верь, зя́ть, кня́зь,
- ку́м, сы́н
- 単語によっては規則変化と共存している。сын のように文体により使い分けるもの(互換可能)、зуб のように意味により使い分けるもの(互換不可)等、単語ごとに規則変化との使い分け方も異なる。
複数主格で -а́ / -я́
- 原則として、単数では語幹に、複数では語尾にアクセントがある名詞。
- 新しい形であり、過去200年間でこの語尾を取る名詞は急激に増加している。口語・専門用語を中心に現在も増え続けており、正確な把握は不可能。
- 大まかに次のように分類できる。
- -а́ / -я́ のみの名詞 : а́дрес, бе́рег, бо́к, ве́к, ве́чер, гла́з, го́лос, го́род, до́м, ко́локол, ле́с, ме́х, но́мер, о́круг, о́стров, о́тпуск, па́спорт, по́вар, по́езд, рука́в, сне́г, то́м, хо́лод, ...
- 規則変化と共存している名詞 : го́д, догово́р, ла́герь, ме́сяц, пе́карь, про́пуск, сле́сарь, то́карь, то́н, то́рмоз, учи́тель, хле́б, це́х, ...
- 特にラテン語起源の -ер / -ор は -а́ への移行が顕著。
- -а́ / -я́ のみの名詞 : дире́ктор, до́ктор, ма́стер, профе́ссор, те́нор, ...
- 規則変化と共存している名詞 : инспе́ктор, инстру́ктор, ле́ктор, реда́ктор, се́ктор, тра́ктор, ...
- この影響で間違った -а́ / -я́ が口語で頻出 : вы́бор, вы́говор, инжене́р, офице́р, тре́нер, шофёр, ...
- 文体論的にはより口語的。特に、выбор, выговор... 等。
また専門家が専門的な話をする際、本来規則変化をする名詞を -а́ / -я́ と変化させる例も目立つ(化学における「糖分」という意味での сахар 等)。
中性名詞の揺らぎ
複数主格で -и
- 規則変化と共存しておらず互換不可。
- 大まかに次のように分類できる。
- 複数生格 -ø : ве́ко, плечо́, я́блоко, ...
- 複数生格 -ов : очко́, ...
- 複数生格 -ей : коле́но, о́ко, у́хо, ...
複数生格
複数生格の変化は複雑だが、以下のような原則がある。
- -ов / -ев
- 男性名詞 : 語幹末が硬子音 ⇒ -ов、ц か母音 ⇒ -ев
- 中性名詞 : 例外(о́блако; су́дно; де́рево, дно́, звено́, коле́но, крыло́, перо́, помело́, ши́ло, ...)
- 女性名詞 : なし
- -ø / -ь
- 男性名詞 : 例外
- 単数主格と同形
- 集合的意味
- 兵士 : гренаде́р, гуса́р, драгу́н, партиза́н, солда́т, ...
- 民族 : грузи́н, осети́н, румы́н, туркме́н, ту́рок, ...
- ペア : ботино́к, ва́ленок, во́лос, гла́з, рожо́к ⇒ ро́жек, сапо́г, чуло́к, ...
- 単位 : ампе́р, ва́тт, во́льт, гекта́р, ге́рц, гра́мм, килогра́мм, рентге́н, э́рг, ... ра́з, челове́к
- 野菜・果物(口語) : абрико́с, апельси́н, бана́н, мандари́н, помидо́р, ...
- 単数主格と別形
- 仔 : -ёнок, -о́нок, щено́к
- 人 : семьяни́н を除く -янин, -анин, ба́рин, болга́рин, боя́рин, господи́н, тата́рин, хозя́ин,
- 中性名詞 : 語幹末が硬子音か жчшщ
- 女性名詞 : II 式変化で語幹末が硬子音 ⇒ -ø、軟子音 ⇒ -ь
- -ей
- 男性名詞 : 語幹末が軟子音か жчшщ
- 中性名詞 : 語幹末が軟子音
- 女性名詞 : II 式軟変化で変化語尾にアクセント/III 式
- -й
- 男性名詞 : なし
- 中性名詞 : 語幹末が母音
- 女性名詞 : II 式変化で語幹末が母音