личное местоимение
まず念頭に置いておかなければならないのは、日本語の人称代名詞とロシア語の人称代名詞とでは、特に実際の運用において、大きな違いがあるという点である。
たとえば、こんにちの日本で、日常会話で「おまえ」や「あんた」以外の二人称の代名詞を使う人はまずいないだろう(関西人は「自分」を使うが)。同じく三人称の代名詞である「かれ」や「彼女」も、本来の意味ではあまり使われない。いずれの場合も、固有名詞をそのまま使う方が一般的ではないかと思う。それどころか、一人称においてすら代名詞ではなく固有名詞を使う人がいる。
これに対してロシア語では、一人称や二人称で固有名詞が使われることはない。三人称においても、それが何(誰)を指しているか明らかな場合(特にすでに会話・文で固有名詞が出てきている場合)、人称代名詞を使うのが一般的である。
人称と代名詞
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | я́ | мы́ | |
二人称 | ты́ | вы́ | |
三人称 | 男性 | о́н | они́ |
女性 | она́ | ||
中性 | оно́ |
英語に慣れた人が時々犯す間違いだが、ロシア語の一人称単数の代名詞 я は大文字ではない(もちろん文頭にあれば大文字となる)。
格変化
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
一人称 | 二人称 | 一人称 | 二人称 | |
主格 | я́ | ты́ | мы́ | вы́ |
生格 | меня́ | тебя́ | на́с | ва́с |
与格 | мне́ | тебе́ | на́м | ва́м |
対格 | меня́ | тебя́ | на́с | ва́с |
造格 | мно́й | тобо́й | на́ми | ва́ми |
前置格 | мне́ | тебе́ | на́с | ва́с |
単 | 複 | |||
---|---|---|---|---|
男 | 中 | 女 | ||
主 | о́н | оно́ | она́ | они́ |
生 | его́ | её | и́х | |
与 | ему́ | е́й | и́м | |
対 | его́ | её | и́х | |
造 | и́м | е́й | и́ми | |
前 | ём | е́й | и́х |
なお、人称代名詞の生格には「〜の」という意味はない。すなわち、меня は「わたしの」を意味しない。ロシア語では「〜の」は、所有代名詞というまったく異なるカテゴリの単語を使う。
一人称
一人称複数の代名詞 мы には、次のような特殊な使い方がある。
- 単数を表す場合
- 「きみとぼく」
- 君主の一人称複数
- 筆者の一人称複数
- 二人称を表す場合
1-1 「きみとぼく」というパターンは、以下のようなものである。мы с тобой、мы с вами、мы с ним、мы с папой、мы с женой、мы с Ваней、мы с Петровым
この言い回しは、特に会話において多用される。話者と、もうひとり(あるいは複数)とをひっくるめて言う言い方である。
この場合の мы は、厳密に言うと一人称単数と一人称複数のどちらでもあり得る。つまり、мы с тобой は「きみとぼく」と「きみとぼくたち」の双方を意味し得る。しかし現実的には、一人称単数、すなわち「きみとぼく」という意味で使われることがほとんどである。
これは慣例である。
たとえば я с тобой、я и ты という言い方も文法上はあり得るが、現実の日常会話で使われることはまずあるまい。
1-2 君主の一人称複数とは、ロシア語では «монаршее мы» と呼ばれる用法。
君主は一人称単数の代名詞を使わず、代わりに一人称複数を用いる。日本語で言う「朕」、「余」などに相当する。君主はその国にひとりの絶対的存在であるから、複数形が実際に複数を意味することはないのである。
(ニコライ2世による日露開戦の詔勅の前半)
БОЖИЕЮ ПОСПЕШЕСТВУЮЩЕЮ МИЛОСТИЮ,
МЫ, НИКОЛАЙ ВТОРЫЙ,
ИМПЕРАТОР И САМОДЕРЖЕЦ
ВСЕРОССИЙСКИЙ,
Московский, Киевский, Владимирский, Новгородский; Царь Казанский, Царь Астраханский, Царь Польский, Царь Сибирский, Царь Херсониса Таврического, Царь Грузинский, Государь Псковский, и Великий Князь Смоленский, Литовский, Волынский, Подольский, и Финляндский; Князь Эстляндский, Лифляндский, Курляндский и Семигальский, Самогитский, Белостокский, Корельский, Тверский, Югорский, Пермский, Вятский, Болгарский и иных; Государь и Великий Князь Новагорода низовския земли, Черниговский, Рязанский, Полоцкий, Ростовский, Ярославский, Белозерский, Удорский, Обдорский, Кондийский, Витебский, Мстиславский, и всея Северныя страны Повелитель; и Государь Иверския, Карталинския, Грузинския и Кабардинския земли и области Арменския; Черкасских и Горских Князей и иных Наследный Государь и Обладатель; Государь Туркестанский; Наследник Норвежский, Герцог Шлесвиг-Голштинский, Стормарнский, Дитмарсенский и Ольденбугрский, и прочая, и прочая, и прочая.
Объявляем всем Нашим верным подданным:
В заботах о сохранении дорогого сердцу Нашему мира, Нами были приложены все усилия для упрочении спокойствия на Дальнем Востоке. В сих миролюбивых целях Мы изъявили согласие на предложенный Японским Правительством пересмотреть существовавших между обеими Империями соглашений по Корейским делам. Возбужденные по сему предмету переговоры не были однако приведены к окончанию, и Япония, не выждав даже получения последних ответных предложений Правительства Нашего, известила о прекращении переговоров и разрыв дипломатических сношений с Россиею.
...
1-3 筆者の一人称複数とは、ロシア語では «авторское мы» と呼ばれる用法。
学術論文などで、執筆者が自身を指す場合に一人称単数ではなく一人称複数を用いる。これは、筆者が自身の論述の経緯を読者にも追体験させて、つまりは筆者と読者を含んで мы を使っているのだ、などとも言われる。
新聞・雑誌の社説の筆者が用いる «редакторское мы» というものもあるが、これもほぼ同様の用法である。もっともこちらでは、筆者の謙虚さを表明しているのだと言われる。
いずれにせよ、ロシア語では学術論文や新聞・雑誌の社説などにおいては、一人称単数の代わりに一人称複数を用いるのが一般的である。
2 一人称複数で二人称を表すというのは、何もロシア語に限った話ではない。日本語でも、大人が子供に対して「ぼくたち何をしているのかな?」と言うことがある。ロシア語でも、相手に対する共感を表明する言い方として、二人称単数・複数の代わりに一人称複数を用いる場合がある。ただし、ロシア語ではこれは必ずしも大人が子供に対して使うものではない。より広く使われている。ただし、多少冗談めかしたニュアンス、皮肉のニュアンスが加わる場合が多い。
なお、ロシア語では必ず一人称複数である。日本語では相手が単数であれば「ぼく何してるの?」と一人称単数を使うが、ロシア語の一人称単数の代名詞 я は常に一人称単数の意味で用いられる。ゆえに、相手が単数であっても я ではなく мы を用いる。
二人称
1 二人称複数の代名詞で単数を表すという用法は、ヨーロッパの言語ではほぼ普遍的に見られる現象である。英語でも、元来二人称複数の代名詞 you が単数をも意味するようになったため、元来二人称単数の代名詞 thou が廃れてしまった。
ロシア語では、二人称複数 вы を単数の意味で使うことで、相手に対する敬意を表す。その結果、二人称単数 ты は敬意を持たない言い方となった。
ただし敬意だけではなく、相手との親疎を示すこともある。この辺りは個々人のフィーリングによる部分も大きいので厳密に ты と вы を区別することは不可能である。強いてそれぞれが持つニュアンスの違いを図式化すれば以下のようになる。
相手の立場・相手との関係 | 口調 | 場 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ты | 年下 | 部下 | 身内 | 親しい | ぞんざい | カジュアル | 私的 | 若者同士 |
вы | 年上 | 上司 | 他人 | 親しくない | 丁寧 | フォーマル | 公的 | 年輩者同士 |
言うまでもないが、ты と вы には本来の単数と複数という区別が基本として存在する。ゆえに、現実的な使い分けは以下のようになる。
相手がひとり | 相手が複数 | |
---|---|---|
目下・親しい・ぞんざい・その他 | ты 君・お前 | вы 君ら・お前ら |
目上・親しくない・丁寧・その他 | вы あなた | вы あなた方 |
2 命令文には、主語を示す人称代名詞主格は必要ない。しかし必要ない二人称代名詞を使うことで、次のようなニュアンスを表現する。
第一は、強調である。すなわち、ほかの誰でもない君が、というニュアンスを表現する。
第二は、命令のニュアンスを和らげる働きである。特に動詞の命令形複数と現在形二人称複数とが同形である場合、二人称複数代名詞の主格が加えられると、命令文と平叙文との区別がつかなくなる。
三人称
三人称代名詞の区別が、たとえば英語の he、she、it とはまったく異なる点に注意。он は男性名詞を受ける代名詞、она は女性名詞を受ける代名詞、оно は中性名詞を受ける代名詞である。ゆえに
日本語 | 英語 | ロシア語 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
人 | 男 | かれ | he | they | он | они |
女 | 彼女 | she | она | |||
モノ | 男性名詞 | それ あれ | it | он | ||
女性名詞 | она | |||||
中性名詞 | оно |
という関係になる。вечер「晩」、дом「家」、сон「眠り」は男性名詞であるから、すべて он である。гора「山」、тишина「静けさ」、заря「朝焼け」は女性名詞であるから、すべて она である。небо「空」、чувство「感覚」、чтение「読書」は中性名詞であるから、すべて оно である。«Он там.» という文は、前後の文脈次第では「かれはそこにいる」という意味にもなるし、「それはそこにある」という意味にもなる。
なお、三人称代名詞の斜格(主格以外)は、前置詞と結合すると、語頭に н- が付加される。от него、к ней、на них、с ним、о ней