И05:比較とは
比較の概念
「A は B だ」と言う場合、A を A' と比べて「A' に比べれば A の方が B だ」ということがある。これが «比較» の表現である。比較する A と A' とには、様々なものがある。
- 太郎は花子より年上だ。
- あの山は富士山よりは低い。
- 今日は昨日よりも寒かった。
- かれは彼女より背が高い。
- ミーシャはマーシャより歌がうまい。
しかし、このように A と A' が明確なものばかりではない。さらには「A' に比べれば A の方がより〜に D する」という比較表現もある。
- レーナよりもリーザの方が早く到着した。
- この石の方がそっちよりも目方がある。
- あいつにやらせるよりも自分でやった方が早い。
- 人前でしゃべるくらいなら歌う方がいい。
- 彼女は美しいと言うよりは可愛い人だ。
- きみはいつもより顔色が悪いよ。
- 思っていたよりもたくさん宿題が出た。
- かれの活躍は期待以上だった。
- もう少し大人になりなよ。
- おれがやった方がまだマシだ。
- 彼女はもう泣いていない。
- あいつは後から来る。
日本語には «比較» という文法概念が存在しない。
A は | A' より(比較対象) | B だ | |
---|---|---|---|
比較の文 | あの山は | 富士山よりは | 低い |
比較ではない文 | あの山は | ─ | 低い |
このように、比較の意味を持つかどうかは、比較対象が示されているかどうか、だけで表現されてしまう。
もちろん、比較対象を示さなくても、「あの山の方が低い」とすることで比較のニュアンスを表現することはできる。
一方、ロシア語では、比較対象が示されていなくても比較が表現できる。比較が単語の変化を伴って表現されるからである。それが文法用語でいう «比較級» と «最上級» である。
これは逆に言えば、ロシア語では、比較対象が示されていなくても、比較の意味が含意されていれば、比較級や最上級を用いなければならない、ということである。
しかし比較という文法概念を持たない日本語をしゃべるわれわれ日本人は、適切なロシア語にできないことが多い。つまり、比較対象がない場合に、それどころか比較対象がある場合にすら、比較級を使わずに済ませてしまうのである。
次の文を考えてみよう。
「このところめっきり寒くなった」
理屈からすると、「寒く」を比較級にするかどうかで、意味が大きく変わってくる。
- 比較級を使わない
- 以前は寒くなかった。だがいまは寒い。
- 比較級を使う
- 以前は寒くなかった。いまもまだ寒くはないが、以前よりは気温が下がった。※実際はこのような場合に「このところめっきり寒くなった」とは、日本語でもロシア語でも言わない。
- 以前も寒かった。だがいまはよりいっそう寒くなった。
もちろん、こんなに単純かつ画然としているわけではないが、われわれ日本人はむしろ、比較級を使う使わないでこのぐらい厳密に違いが生じると思っていた方がいいだろう。
また逆に、ロシア語における比較のニュアンスを正確に理解できない場合もある。とりあえず日本語で説明しておくと、
- 太郎は背が高い。
- 太郎は花子より背が高い。
において、2. は当然ながら比較の文である。太郎と花子の背を比較した上で、花子よりは太郎の方が背が高いと言っているのである。これは「花子は太郎より背が低い」とイコールである。言っておくが、この 2. では「太郎は背が高い」とは言っていない。太郎も花子も背が低いかもしれない。太郎が 120 cm、花子が 110 cm というような場合である。それでも 2. の文は成立する。
比較級の用法
ロシア語における «比較» は、純粋に文法的に見ると少々ややこしい。
- 副詞
- 述語(述語副詞)
- Мне́ интере́снее разгова́ривать с Ни́ной, чѐм с Да́шей. 「ダーシャとおしゃべりするよりニーナとおしゃべりする方がぼくには面白い」
⇔ Мне́ интере́сно разгова́ривать с Ни́ной. 「ニーナとおしゃべりするのはぼくには面白い」
- Мне́ интере́снее разгова́ривать с Ни́ной, чѐм с Да́шей. 「ダーシャとおしゃべりするよりニーナとおしゃべりする方がぼくには面白い」
- 修飾語
- О́н расска́жет интере́снее меня́. 「ぼくよりかれの方が面白く話してくれるよ」
⇔ О́н расска́жет интере́сно. 「かれなら面白く話してくれるよ」
- О́н расска́жет интере́снее меня́. 「ぼくよりかれの方が面白く話してくれるよ」
- 述語(述語副詞)
- 形容詞
- 述語(AはBだ)
- «Преступле́ние и наказа́ние» интере́снее? 「『罪と罰』の方が面白い?」
⇔ «Преступле́ние и наказа́ние» интере́сный? 「『罪と罰』は面白い?」
- «Преступле́ние и наказа́ние» интере́снее? 「『罪と罰』の方が面白い?」
- 修飾語
- Да́йте мне́ кни́гу интере́снее, чѐм «Война́ и ми́р». 「『戦争と平和』より面白い本をください」
⇔ Да́йте мне́ интере́сную кни́гу. 「面白い本をください」
- Да́йте мне́ кни́гу интере́снее, чѐм «Война́ и ми́р». 「『戦争と平和』より面白い本をください」
- 述語(AはBだ)
интереснее というのが、интересно という副詞、および интересный という形容詞の比較を表す形、すなわち «比較級» である。ロシア語では、このように интереснее というまったく同じ形の比較級が、副詞と形容詞、それぞれ述語と修飾語として使われる。逆に言えば、文法的な区別をせずに済む、という点が楽ではある。
#188 形容詞・副詞には比較級・最上級という形がある。