И04:長語尾と短語尾の使い分け
長語尾と短語尾を使い分ける形容詞は、どのような基準で使い分けるか、によって次のように分類できるだろう。
- 意味に応じて使い分けるもの
- 文脈に応じて使い分けるもの
1. 意味に応じて使い分けるもの
- живо́й 生き生きした ⇔ жи́в | жива́ | жи́во | жи́вы 生きている
- здоро́вый 健康な ⇔ здоро́в | здоро́ва | здоро́во | здоро́вы 元気だ(病気をしていない)
- мёртвый 生気のない・死んだような ⇔ мёртв | мертва́ | мёртво́ | мёртвы́ 死んでいる
- 中性形・複数形のアクセントは、мёртво ⇔ мертво́、мёртвы ⇔ мертвы́ のどちらも可。
- пра́вый 正義の ⇔ пра́в | права́ | пра́во | пра́вы 正しい
- свобо́дный 自由な ⇔ свобо́ден | свобо́дна | свобо́дно | свобо́дны ヒマだ・空いている
これらの形容詞は、意味さえ覚えておけばいい。
- Солда́т живо́й. 「(この)兵士は生き生きしている」 ⇔ Солда́т мёртвый. 「(この)兵士には生気がない」
Солда́т жи́в. 「(この)兵士は生きている」 ⇔ Солда́т мёртв. 「(この)兵士は死んでいる」 - Моя́ жена́ здоро́вая. 「家内は健康・頑健・丈夫です」
Моя́ жена́ здоро́ва. 「家内は息災です(いま病気はしていません)」 ⇔ Моя́ жена́ больна́. 「家内はいま病気です」 - Па́па пра́вый. 「パパは正義(の人)よ」
Па́па пра́в. 「パパ(の言っていること)は正しい」=「パパの言う通りよ」 - Я́ свобо́дный. 「ぼくは自由(な人間)だ」
Я́ свобо́ден. 「ぼくはヒマだ」 ⇔ Я́ за́нят. 「ぼくは忙しい」
日常会話的には、よく使われるものの、言い回しのバリエーションはさほど多くはないだろう。
- Я́ жи́в и здоро́в. 「ぼくは元気です・息災です・ぴんぴんしています」(手紙などの定型句)
- Бу́дь здоро́в. 「お大事に」(くしゃみをした人には必ず言おう)
- Бори́с, ты́ не пра́в. 「ボリース、きみは間違ってる」(ソ連共産党政治局員・書記エゴール・リガチョーフ)
- 本来、«Ты не прав.» だけで「きみは間違っている」という、何の変哲もない文である。ところが1988年にリガチョーフがエリツィンに放ったこのセリフがなぜか独り歩きし、多くの人がとりあえず文頭に «Борис» を加えてこの文を発するようになった。相手がミハイールだろうがイヴァンだろうが、果ては女性だろうが関係なく、«Борис, ты не прав.» と言う。もっとも、さすがにいまでは日常会話での使用は廃れてきた。
- Э́то ме́сто свобо́дно? 「この場所・席は空いてますか?」
- Ты́ свобо́дна сего́дня ве́чером? 「今夜時間ある?」
#186 長語尾と短語尾で意味の違う形容詞がある。通常は辞書でも区別されている。
2. 文脈に応じて使い分けるもの
«意味に応じて使い分ける形容詞» に比べて、«文脈に応じて使い分ける形容詞» はいささか使い分けが難しい。
とりあえず乱暴に一言で言うと、
「誰々にとっては〜すぎる」という意味であれば短語尾
と理解しておこう。
- большо́й 大きい ⇒ вели́к | велика́ | велико́ | велики́
- большой には短語尾がない。仕方ないので великий の短語尾で代用する。
- дешёвый 安い ⇒ дёшев | дешева́ | дёшево́ | дёшевы́
- 中性形・複数形のアクセントは、дёшево ⇔ дешево́、дёшевы ⇔ дешевы́ のどちらも可。
- дорого́й 高価な ⇒ до́рог | дорога́ | до́рого | до́роги
- ма́ленький 小さい ⇒ ма́л | мала́ | ма́ло́ | ма́лы́
- маленький には短語尾がない。仕方ないので малый の短語尾で代用する。
- 中性形・複数形のアクセントは、ма́ло ⇔ мало́、ма́лы ⇔ малы́ のどちらも可。
- молодо́й 若い ⇒ мо́лод | молода́ | мо́лодо | мо́лоды
- у́зкий 狭い ⇒ у́зок | узка́ | у́зко | у́зки́
- 複数形のアクセントは、у́зки ⇔ узки́ のどちらも可。
- широ́кий 広い ⇒ широ́к | широка́ | широко́ | широки́
この場合、「誰々にとっては」は与格で示す。
боти́нок(男性名詞)編上げ靴 ※単数形だと片方。
※日本人が普通「シューズ」とか「革靴」でイメージするもの。
кольцо́(中性名詞)輪、指輪
сапо́г(男性名詞)長靴・ブーツ ※単数形だと片方。
гру́дь(女性名詞)胸(内臓的な意味でも外見的な意味でも)・乳房
брю́ки(複数名詞)ズボン
- Боти́нки мне́ велики́. 「(この)クツはわたしには大きすぎる」
- Кольцо́ тебе́ дёшево. 「(この)指輪はきみには安すぎる(安物で相応しくない)」
- Маши́на на́м дорога́. 「(この)車はわたしたちには高すぎる」
- Сапоги́ мне́ малы́. 「(この)ブーツはわたしには小さすぎる」
- Пла́тье бы́ло мне́ у́зко в груди́. 「(この)ワンピース・ドレスは胸のところがきつかった」
- Брю́ки широки́. 「ズボンがだぶだぶだ」
このように、買い物の時には短語尾が大活躍する。
これで、
- Э́тот костю́м ма́лый.
- Э́тот костю́м ма́л.
の違いがおわかりだろう。
単純に言えば、1. では長語尾が使われているから、「誰々にとって小さすぎる」というニュアンスがない。だから、このスーツは「そもそも小さい」、「絶対的に小さい」、「物理的に小さい」という意味である。
これに対して短語尾を使った 2. は、文上では明言されていないが、あくまでも「誰かにとって小さすぎる」という意味である。
#187 短語尾では「誰々にとって〜すぎる」というニュアンスが生じる形容詞がある。
15歳のアレクサンドル大公と14歳のエリザヴェータ・アレクセーエヴナ(のちの皇帝アレクサンドル1世と皇妃)を見た廷臣ロストプチーン伯は、こう書き残している。
Ка́к бы э́тот бра́к не принёс несча́стья вели́кому кня́зю. О́н та́к мо́лод. А жена́ его́ та́к прекра́сна...
「この結婚は大公(アレクサンドル1世)に不幸をもたらしはしまいか。大公はあんなにも若く、その妻(エリザヴェータ)はあんなにも美しい……」
単純に言ってしまうと、「あんなに美しい妻にとって(その夫となるには)大公は若すぎる」、「あんなに若い大公にとって(その妻になるには)彼女は美しすぎる」というニュアンスが、この短語尾で示されている、ということだ。
現実には、以上挙げた形容詞以外にも、日常会話レベルで短語尾が使われる形容詞は少なくない。しかしここですべてを挙げるのは不可能なので、ひとつひとつ辞書で確認するようにしよう。