И03:短語尾しか使わない形容詞
まず、述語としては短語尾しか使わない形容詞を以下に挙げてみる(これがすべてではなく、主なものだけである)。
- больно́й 病んだ ⇒ бо́лен | больна́ | больно́ | больны́ 病気だ
- гото́вый 用意のできた ⇒ гото́в | гото́ва | гото́во | гото́вы 準備OK
- дово́льный 満足している ⇒ дово́лен | дово́льна | дово́льно | дово́льны 造格に満足だ
- ×(長語尾なし) ⇒ до́лжен | должна́ | должно́ | должны́ 動詞不定形しなければならない
- за́нятый ふさがった ⇒ за́нят | занята́ | за́нято | за́няты 忙しい・使用中
- изве́стный 有名な ⇒ изве́стен | изве́стна | изве́стно | изве́стны 有名だ・知られている
- ну́жный 必要な ⇒ ну́жен | нужна́ | ну́жно | ну́жны́ 必要だ
- 複数形 нужны のアクセントは ну́жны、нужны́ のどちらも可。
- по́лный 満杯の ⇒ по́лон | полна́ | полно́ | полны́ 生格で一杯だ
- похо́жий 似た ⇒ похо́ж | похо́жа | похо́же | похо́жи на+対格に似ている
- ×(長語尾なし) ⇒ ра́д | ра́да | ра́до | ра́ды 嬉しい
- согла́сный 同意の ⇒ согла́сен | согла́сна | согла́сно | согла́сны 賛成だ
- счастли́вый 幸せな ⇒ сча́стлив | сча́стлива | сча́стливо | сча́стливы 幸せだ
- アクセントの位置に注意。かなり特殊なアクセント移動の例である。
- уве́ренный в+前置格を確信している ⇒ уве́рен | уве́рена | уве́рено | уве́рены в+前置格を確信している
例文で見てみよう。
- Сейча́с о́н бо́лен. 「いまかれは病気だ」
*Сейча́с о́н больно́й.- больной は述語としては短語尾しか使われない。ところが、細かい話だが、«Он больной.» という文はあり得る。この場合、больной は形容詞「病んだ」ではなく、名詞「病人」。つまり「かれは病気だ」ではなく「かれは病人だ」を意味する。
- Обе́д гото́в? 「お昼できてる?」
*Обе́д гото́вый? - Э́тим ты́ дово́лен? 「これで満足か?」
*Э́тим ты́ дово́льный? - Она́ должна́ была́ написа́ть письмо́. 「彼女は手紙を書き上げなければならなかった」
*Она́ до́лжная была́ написа́ть письмо́. - Ты́ за́нят? 「きみ忙しい?」
*Ты́ за́нятый? - О́н хорошо́ изве́стен. 「かれはよく知られている/かれは有名だ」
*О́н хорошо́ изве́стный. - Она́ мне́ нужна́. 「ぼくには彼女が必要だ」
*Она́ мне́ ну́жная. - Стака́н по́лон воды́. 「(この)コップは水で一杯だ」
*Стака́н по́лный воды́. - О́н похо́ж на ло́шадь. 「かれは馬に似ている」
*О́н похо́жий на ло́шадь. - Ра́д ва́с ви́деть. 「あなたにお会いできて嬉しい」=「はじめまして」「ようこそ」、、、
*Ра́дый ва́с ви́деть. - Я́ с ва́ми согла́сна. 「わたしはあなたに同意します/賛成です」
*Я́ с ва́ми согла́сная. - Они́ бы́ли сча́стливы. 「かれらは幸せだった」
*Они́ бы́ли счастли́вые. - Она́ не уве́рена в свои́х си́лах. 「彼女は自分の力に自信がない」
*Она́ не уве́ренная в свои́х си́лах.
なお、言うまでもないが念のため。上掲の形容詞を短語尾でしか使わないのはあくまでも述語としてだけであり、修飾語としては普通に長語尾でを使う。
- гото́вый обе́д 「準備のできた昼食」
- за́нятый туале́т 「使用中のトイレ」(清掃中かもしれない)
- изве́стный поэ́т 「有名な詩人」
- по́лный стака́н 「満杯のコップ」
- счастли́вые лю́ди 「幸せな人たち」
以上、これらの形容詞は、いずれも、長語尾を述語とすることはない。ゆえに、これらの形容詞は
- 修飾語 ⇒ 長語尾
- 述語 ⇒ 短語尾
という区別を覚えておこう。
とりあえず、これらの形容詞が長語尾で使われていたら、どこかの名詞を修飾していると思っていい。
анги́на(女性名詞)扁桃炎
сдава́ть /здавать/(不完了体動詞) ⇔ сда́ть /здать/(完了体動詞)
対格を手渡す・引き継ぐ・返却する、(試験を)受ける・合格する
※試験を目的語とした場合、不完了体は「受ける」、完了体は「合格する」を意味する(場合が多い)。
сро́чно(副詞)至急・緊急に
приготовле́ние(中性名詞)準備
карти́на(女性名詞)絵
пра́вда(女性名詞)真実
зри́тель(男性名詞)観客
хара́ктер(男性名詞)性格 ※日本語のキャラクターとは発音も意味も違う。
посеще́ние(中性名詞)訪問、見舞い、出席
награ́да(女性名詞)褒美・褒賞
- То́ня была́ больна́ анги́ной. 「トーニャは扁桃炎にかかっていた」
- Вы́ гото́вы сдава́ть экза́мены? 「みんな試験を受ける準備はいいかな?」
- Бу́дь гото́в ко всему́. 「すべてに対して準備しておけ」=「何が起きてもいいように準備しておけ」
- Гото́в к труду́ и оборо́не 「労働と防衛の準備ができている」
- ソ連時代に導入された国民体力検定の合格者に与えられるメダルに記された銘文。それに伴い体力検定それ自体も ГТО と呼ばれる。
- Ты́ че́м-то недово́льна? 「何か不満があるの?」
- Ты́ до́лжен сро́чно позвони́ть домо́й. 「すぐに家に電話しなさい」
- Я́ о́чень занята́ приготовле́нием у́жина. 「わたしは夕食の準備でとても忙しい」
- Его́ телефо́н всё вре́мя за́нят. 「かれの電話はいつも話し中だ」
- Э́то ме́сто за́нято? 「この場所はもうふさがってますか?/この席は誰か来ますか?」
- Ива́н Крамско́й изве́стен всему́ ми́ру карти́ной «Неизве́стная». 「イヴァン・クラムスコーイは、絵画『見知らぬ女性』で全世界に知られている」
- 全世界かどうかはともかく、クラムスコーイという画家は、少なくともロシアでは誰ひとり知らない人のいないほど有名な画家であり、『見知らぬ女性』はロシア人なら一目でわかるほど有名な作品である。
- картиной が造格になっているのは、言わば「手段・方法」を表す造格の用法。「絵で知られている」ということである。
- ここで «Неизвестная» が形容詞の単数女性主格になっているのは、
- 人を表す名詞として扱っている。
- 格変化していないのは、«付語» という特殊な文法のため。これは中級レベルで学ぼう。とりあえずここでは、直前にある картина「絵」という名詞を修飾して「『見知らぬ女性』というタイトルの絵」という意味を表している、と理解しておこう。
- Кому́ нужна́ ва́ша пра́вда, е́сли она́ меша́ет на́м жи́ть? 「あなた方の言う真実とやらが誰にとって必要だと言うのですか? それがわれわれの生きていく邪魔をするなら」(ソ連軍政治総本部長アレクセイ・エーピシェフ)
- ソ連軍の政治総本部とは、ソ連軍を共産党に従属させておくために思想統制を管轄する部局。このセリフは、1980年代末にペレストロイカによって情報公開、思想の自由が拡大した時期、改革派の批判に対して体制派のエーピシェフが放ったものである。
- За́л по́лон зри́телей. 「ホールは観客で満席だ」
- О́н бы́л по́лон си́л. 「かれは力で満ち溢れていた」
- Андрю́ша похо́ж на ма́ть по хара́ктеру. 「アンドリューシャは母親に性格が似ている」
- по+与格にはさまざまな意味があるが、この場合は「分野・範囲」を意味する。すなわち、характер「性格」という面においては、ということである。
- Они́ лицо́м о́чень похо́жи. 「かれらは顔立ちがとてもよく似ている」
- лицом が造格になっているのは、造格の特殊な用法のひとつ。詳しくは中級レベルで学ぼう。
このように、「○○が似ている」と言う場合、造格にしたり по+与格を使ったり、複数の表現方法がある。いまの段階では、辞書などで例文を確認するようにしよう。
- лицом が造格になっているのは、造格の特殊な用法のひとつ。詳しくは中級レベルで学ぼう。
- Я́ бу́ду о́чень ра́да ва́шему посеще́нию. 「あなたのお越しでわたしはとても嬉しく思うでしょう」=「あなたのお越しを楽しみにしております」
- рад という形容詞は、喜びの原因を与格で表す。
- Ты́ мне́ не ра́д? 「きみはぼくが(ぼくに会えて)嬉しくないの?」
- Я́ всегда́ ра́д ва́м помо́чь. 「いつでも喜んでお手伝いしますよ」
- ここでの вам は、рад と結びついて喜びの原因を示しているわけではなく、помочь と結びついてその目的語となっている。
- Я́ ра́д за тебя́. 「きみのために嬉しく思う」=「良かったね」
- Я́ не согла́сна, что о́н сто́ит награ́ды. 「わたしはかれが褒賞に相応しいとは思いません」
- согласен は、что に導かれる従属節とも結合することができる。この場合の従属節は、同意する・しない内容を示す。つまり「«かれは褒賞に相応しい» という(あなたの・みんなの)意見には同意できない」ということである。
- Я́ сча́стлив ви́деть ва́с в Москве́. 「あなたにモスクワでお会いできて嬉しく思います」
- О́н бы́л уве́рен в побе́де. 「かれは勝利を確信していた」
- Вы́ мо́жете бы́ть уве́рены в э́том. 「これについてはご心配なく」
- Бу́дьте уве́рены. 「ご安心ください」
- Я́ уве́рен, что тебя́ ждёт большо́й успе́х. 「きみを大成功が待っていると確信している」=「きっときみは大成功するよ」
- уверен は、что に導かれる従属節とも結合することができる。
- Ты́ то́чно уве́рен, что хо́чешь пое́хать с на́ми? 「ほんとうにぼくたちと一緒に来たいの?」
#185 述語になる時は常に短語尾という形容詞がある。そのような形容詞の長語尾は常に修飾語。
Все́ счастли́вые се́мьи похо́жи дру́г на дру́га, ка́ждая несчастли́вая семья́ несча́стлива по-сво́ему. 「幸せな家族というのはどれも似たり寄ったりだが、不幸な家族の不幸なさまはそれぞれだ」(『アンナ・カレーニナ』)