З20:特殊変化の動詞
動詞の不規則変化について、まとめておくと、
- 現在形・命令形
- I 式 : 非常に不規則で、パターンも多様
- II 式 : 規則的かつワンパターン
- 過去形 : ごく一部のみ
という感じだが、あらゆる動詞の中で4つだけ、どのパターンにも属さない変化をする、本当の意味で特殊な動詞がある。
そのひとつが бежать である。現在形・命令形で、I 式と II 式が混在していた。
残る3つが、下記のものである。бежать 以上に変な変化をする。
хоте́ть(不完) ⇔ ―(完)
- 対格・生格を欲している・望んでいる
- 動詞不定形したい
※хо́ть(接続詞)とはいえ、せめて、(小詞)せめて
※хотя́(接続詞)とはいえ
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | хочу́ | хоте́л | |
女 | хоте́ла | |||
ты | 男 | хо́чешь | хоте́л | хоти́ |
女 | хоте́ла | |||
он | 男性名詞 | хо́чет | хоте́л | ||
она | 女性名詞 | хоте́ла | |||
оно | 中性名詞 | хоте́ло | |||
мы | хоти́м | хоте́ли | ||
вы | хоти́те | хоти́те | ||
они | 名詞の複数形 | хотя́т |
изменя́ть(不完) ⇔ измени́ть(完)与格を裏切る
- Что́ ты́ хо́чешь? 「きみは何が欲しいんだ?(きみは何がしたいんだ?)」
- Что́ ты́ хо́чешь от меня́? 「おれにどうして欲しいの?」
- Я́ хочу́ воды́. 「水が欲しい」
- Все́ хотя́т ми́ра. 「誰もが平和を望んでいる」
- Ле́на хоте́ла но́вую маши́ну. 「レーナは新車を欲しがっていた」
- Я́ не хоте́л тако́го отве́та. 「そんな答えは欲しくなかった」
- Я́ хочу́ спа́ть. 「眠りたい」
- О́н хо́чет е́сть. 「かれは食べたがっている」
- Я́ хочу́ поговори́ть с Ле́ной. 「レーナとちょっと話がしたいんだけど」
- Я́ хочу́ ста́ть учи́телем. 「ぼくは教師になりたい」
- Сего́дня я́ хоте́л прочита́ть э́тот рома́н, но не успе́л. 「今日はこの小説を読んでしまいたかったのだが、時間がなかった」
- Са́ша не хоте́л ему́ изменя́ть. 「サーシャはかれを裏切りたくなかった」
- Что́ ты́ хо́чешь сказа́ть? 「何が言いたいの?」
- Е́сли ты́ хо́чешь, возьму́ тебя́ в Па́рк Го́рького. 「もし行きたければゴーリキイ公園連れてくけど?」
- 日本語ではゴーリキイ公園とかゴーリキイ・パークとか呼ばれるが、正式名称は Центральный парк культуры и отдыха имени Горького「ゴーリキイ記念中央文化・休憩公園」(略称 ЦПКиО)。当然、こんな正式名称が日常会話で使われることはない。かと言って略称も、一単語として読むことができないので、やはり日常会話で使われることはない(文字で書かれる場合のみ使われる)。日常会話では、例文で挙げた Парк Горького が一般的(Парк культуры が使われることもある?)。なおロシア語的には *Горький парк はあり得ない。なぜならゴーリキイは形容詞ではなく名詞だから。
- Е́сли хо́чешь, она́ не краси́вая, но прия́тная. 「もしそう言いたければ(=確かに)、あの子は美人ではないかもしれないが、しかし魅力的だよ」
- Сде́лай, ка́к хо́чешь. 「したいようにすれば」
- Ка́к хо́чешь, я́ э́того не люблю́. 「君がどう思おうと(=君の意見にかかわらず)、ぼくはこれが嫌いだ」
- Бери́те что́ хоти́те. 「好きなもの持っていってください」
- Пригласи́ кого́ хо́чешь. 「好きな人を招待しなさい」
- Мо́й сы́н встаёт когда́ хо́чет. 「うちの息子は好きな時間に起きる」
е́сть(不完)
- 対格を食べる
※еда́(女性名詞)食べること・食事、食べ物
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | е́м | е́л | |
女 | е́ла | |||
ты | 男 | е́шь | е́л | е́шь |
女 | е́ла | |||
он | 男性名詞 | е́ст | е́л | ||
она | 女性名詞 | е́ла | |||
оно | 中性名詞 | е́ло | |||
мы | еди́м | е́ли | ||
вы | еди́те | е́шьте | ||
они | 名詞の複数形 | едя́т |
съе́сть(完)
съеда́ть(不完) ※変化形式は I 式規則変化
この3つの動詞の関係はいささか複雑だが、単純化して言うと以下のようになろう。
есть は、最も普通に使われる不完了体動詞である。
съесть はその完了体であるが、特に「一定量の料理を食べきる」というニュアンスがある。そのため、基本的に目的語が必須である(есть は目的語なしでも使える)。しかもその目的語はある一定量を表すから、「単位」か、あるいは食材であれば生格になる。
съедать は、「一定量の料理を食べきる」の反復を表す不完了体動詞である。
ри́с(男性名詞)稲・米
живьём(副詞)生きたまま(口語)
- Моя́ жена́ е́ст ма́ло. 「うちの家内は小食です」
- Уже́ пя́ть ме́сяцев не е́м ри́са. 「もう5ヶ月も米を食べてない」
- Я́ не е́м сла́дкого. 「わたしは甘いものは食べません」
- Во́лк во́лка не е́ст, а челове́к челове́ка живьём съеда́ет. 「オオカミはオオカミを食ったりしない。ところが人間てやつは人間を生きたまま喰らうんだ」
- Ле́на съе́ла кусо́к сы́ру. 「レーナはチーズを1切れ食べた」
- Ди́ма съе́л всё. 「ディーマはすべて平らげた」
- Кто́ не рабо́тает, то́т не е́ст. 「働かざる者食うべからず」
- この文には、文法用語で言うところの «関係代名詞» が用いられている。関係代名詞の用法については後述。
- Я́ е́м всё, кро̀ме «натто́». 「わたしは納豆以外は何でも食べます」
- 言うまでもないが、ロシアには納豆など存在しないし、ロシア語には «納豆» という名詞も存在しない。事細かく説明するしかない。
- Зна́ет ко́шка, чьё мя́со съе́ла. 「誰の肉を食べたかネコはわかっている」
- ネコを飼ったことのある人ならわかるだろうが、ネコは怒られるようなことをした時には、飼い主の顔色を窺う(ように見える)。そこからきた成句で、自分の罪を自覚している人について言う。
да́ть(完)
⇔ дава́ть(不完)
- 対格を与える ※ロシア語は「あげる」と「貸す」を区別しない。
- 与格に動詞不定形させてあげる
※дава́й|дава́йте(本来的には動詞命令形だが、ほとんど小詞・間投詞)さあ・ほら
※да́нные(複数名詞)データ、素質・才能
現在形では、дать が特異な語尾をとるだけでなく、давать も -авать の一種として不規則な変化をする。このため、現在形を間違える人が後を絶たない。
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
дать | ||||
я | 男 | да́м | да́л | не́ дал | |
女 | дала́ | не дала́ | |||
ты | 男 | да́шь | да́л | не́ дал | да́й |
女 | дала́ | не дала́ | |||
он | 男性名詞 | да́ст | да́л | не́ дал | ||
она | 女性名詞 | дала́ | не дала́ | |||
оно | 中性名詞 | да́ло́ | не́ дало | |||
мы | дади́м | да́ли | не́ дали | ||
вы | дади́те | да́йте | ||
они | 名詞の複数形 | даду́т | |||
давать | ||||
я | 男 | даю́ | дава́л | |
女 | дава́ла | |||
ты | 男 | даёшь | дава́л | дава́й |
女 | дава́ла | |||
он | 男性名詞 | даёт | дава́л | ||
она | 女性名詞 | дава́ла | |||
оно | 中性名詞 | дава́ло | |||
мы | даём | дава́ли | ||
вы | даёте | дава́йте | ||
они | 名詞の複数形 | даю́т |
меню́(中性名詞)メニュー(語尾変化なし)
конфе́та(女性名詞)お菓子(キャンディ・チョコ・飴など、一口サイズのお菓子)
※日本語の「金平糖」と同語源
образова́ние(中性名詞)教育
- Да́й мне́ слова́рь. 「辞書をくれ」
- ロシア語でも日本語でも、これだけでは何を言っているのかわからない。
- 「辞書を売ってくれ」
- 「お前の辞書をくれ」
- 「お前の辞書を貸してくれ」
- 「おれの辞書を寄越せ」
- 「誰のでもいいから、神さま、おれに辞書をくれ」
- ロシア語でも日本語でも、これだけでは何を言っているのかわからない。
- Да́й мне́ де́ньги. 「金をくれ」
- «Дай мне словарь.» とまったく同じ文であるにもかかわらず、словарь が деньги に代わっただけで意味がかなり限定されている。上の分類に従うと、1) はあり得ないし、4) も常識的ではない。神に祈っている独り言という可能性もあるが、あなたがロシア人からこう言われたとしたら、おそらくたいていは 2) か 3) であろう。どちらにせよ、「お前の金を寄越せ」と言われているのである。
ただし、金というのは使えばなくなる。なくなれば返せない。「一時的に」とか「あとで返すから」とかいう余計な情報がない限りは、返ってこないものと思おう。
- «Дай мне словарь.» とまったく同じ文であるにもかかわらず、словарь が деньги に代わっただけで意味がかなり限定されている。上の分類に従うと、1) はあり得ないし、4) も常識的ではない。神に祈っている独り言という可能性もあるが、あなたがロシア人からこう言われたとしたら、おそらくたいていは 2) か 3) であろう。どちらにせよ、「お前の金を寄越せ」と言われているのである。
- Да́йте на́м меню́. 「メニューください」
- この場合、дать は明確に「あげる」ではなく「貸す」という意味で使われている。このように、実は「あげる」と「貸す」の区別が厳密にできなくても、たいていは問題にならない。
- Да́йте мне́ воды́. 「お水をください」
- воды は生格で、「ある一定量」を表している。このような場合、«Дайте мне воду.» だとやはりおかしい。
- Я́ даю́ ва́м конфе́ты. 「きみたちにお菓子をあげよう」
- Тогда́ я́ да́м ему́ полови́ну. 「じゃああいつには半分くれてやるとするか」
- Са́ша дала́ мне́ кни́гу почита́ть. 「サーシャはぼくに本を貸してくれた」
- この場合の почитать は「ちょっと読むために」という程度の目的を表している。だから言外に「読み終えたら返す」ことを示唆している。
- Да́йте мне́ де́нь поду́мать об э́том. 「これについて考えるのに一日ください」
- Алексе́й Петро́вич да́ст Пе́те хоро́шее образова́ние. 「アレクセイ・ペトローヴィチは(なら)ペーテャにいい教育を与えてくれる(はずだ)」
- Но э́ти слёзы на глаза́х ви́деть ва́м я́ не да́м. 「だけどこの目の涙はきみには見せてやらない」『Я за тебя умру』
- Но я не дам вам видеть эти слёзы на глазах. という語順にした方がわかりやすいだろう。
- Они́ мне́ не́ дали говори́ть. 「かれらはぼくに話させてくれなかった」
- Да́йте мне́ посмотре́ть на э́то. 「それ見せてください」
- Дава́йте посмотре́ть на э́то. 「それ見てみましょう」
- 「〜しましょう」という勧誘の表現。あとで詳しく学ぶ。
зада́ть(完) ⇔ задава́ть(不完) ※不完は I 式不規則
- 対格を課す
за́дал |
задала́ |
за́дало |
за́дали |
※зада́ча(女性名詞)課題・任務、(数学の)問題
※зада́ние(中性名詞)課題
- Она́ задаёт на́м сли́шком мно́го рабо́ты. 「彼女はわたしたちにあまりに多くの仕事を課しすぎる」
- Ва́ня всегда́ задаёт глу́пые вопро́сы. 「ヴァーニャはいつも馬鹿げた質問をする」
отда́ть(完) ⇔ отдава́ть(不完) ※不完は I 式不規則
- 対格を返す・手放す・譲渡する
о́тдал |
отдала́ |
о́тдало |
о́тдали |
- Когда́ ты́ отда́шь мне́ де́ньги? 「いつお金返してくれる?」
- Я́ никогда́ не отдава́л ему́ словаря́. 「わたしはかれに辞書をあげたことなんかない」
- Я́ ещё не о́тдал ему́ слова́рь. 「わたしはまだかれに辞書を返して/渡していない」
- 体の違いは、過去時制の否定でいささか特殊なニュアンスの違いを生み出すことがある。
不完了体が持つ意義のひとつに事実確認があるから、過去時制の否定では行為そのものの否定「一度もしたことがない」を表すことができる。
完了体はあくまでも行為の完結、特に目的の達成を表すから、過去時制の否定では未達成・未完「やったけど失敗した」、「やり始めたけど最後までやらなかった」、「やるべきことをやっていない」等々、いずれにせよ「期待された結果が得られなかった/得られていない」を表すことができる。
逆に言えば、これを逆転させてはならない。「渡すべき辞書をいまだに渡していない」という意味で не отдавал とは言えないし、「渡したことなんかない」という意味で не отдал と言ってはいけない。 - словарь が生格になっていない(対格のまま)点に注意。これは細かい文法だから、中級レベル以上で身につければいいのだが、一応説明しておく。
対格を要求する動詞 отдать が否定されているのだから、словарь は生格になるはずだ。ところがこのような場合に、生格ではなく対格のままでもいい(対格のままであるべき)という例外規定がある。それは、具体的なものを指している場合である。あえて言うならば、「わたしはまだかれにいま目の前にあるこの辞書、あるいは『研究社露和辞典』という辞書、あるいはかれに渡すと約束した辞書を渡していない」という場合だ。
このような、否定の場合の生格と対格の使い分けは、すでに述べたように中級レベル以上なので、いずれ改めて学んでいこう。
- 体の違いは、過去時制の否定でいささか特殊なニュアンスの違いを生み出すことがある。
переда́ть(完) ⇔ передава́ть(不完) ※不完は I 式不規則
- 対格を渡す・譲渡する
- 対格を伝える・報道する・放送する
пе́редал |
передала́ |
пе́редало |
пе́редали |
※переда́ча(女性名詞)渡すこと、放送・放映
приве́т(男性名詞)あいさつ
- Переда́й со́ль. 「塩とって」
- Са́ша пе́редал Ка́те пода́рок от Воло́ди. 「サーシャはヴォローデャからのプレゼントをカーテャに渡した」
- По телеви́дению передава́ли, что за́втра бу́дет до́ждь. 「TVの言うには、明日は雨だ」
- по+与格は手段を表す。つまり直訳をすると、「TVを使って(誰かが)報道した」。
- телевизор と телевидение と、厄介だが区別できないとならない。телевизор はテレビ受像機。つまりはモノを指す。これに対して телевидение は、テレビ放送を指す(その技術であったり、電波・番組など)。
- То́ля не пе́редал жене́ слова́ от меня́. 「トーリャは奥さんにわたしの言葉を伝えてくれなかった」
- Переда́й приве́т Ли́зе. 「リーザによろしく」
- Переда́йте ва́шему отцу́ приве́т от меня́. 「お父さんにわたしからよろしくお伝えください」
прода́ть(完) ⇔ продава́ть(不完) ※不完は I 式不規則
- 対格を売る
про́дал |
продала́ |
про́дало |
про́дали |
※прода́жа(女性名詞)販売
※продаве́ц(男性名詞)売り子・店員・セールスマン(性不問)
- Прода́йте мне́ биле́т. 「わたしにチケットを売ってください」
- Ми́ша про́дал Ко́ле карти́ну за две́сти рубле́й. 「ミーシャはコーリャに絵を200ルーブリで売った」
- Та́м продаю́т дёшево. 「あそこでは安く売っている」=「あそこはものが安い」
- Где́ продаю́т иностра́нные кни́ги? 「外国の本ってどこで売ってる?」
разда́ть(完) ⇔ раздава́ть(不完) ※不完は I 式不規則
- 対格を分配する
разда́л |
раздала́ |
разда́ло |
разда́ли |
- О́н разда́л колле́гам бума́ги. 「かれは同僚たちに書類を配布した」
уда́ться(完) ⇔ удава́ться(不完) ※不完は I 式不規則
- 主格が成功する ※主格は人ではない。
- (無人称動詞)動詞不定形することに成功する
уда́лся |
удала́сь |
удало́сь |
удали́сь |
※уда́ча(女性名詞)成功
※уда́чный(形容詞)成功した
※уда́чно(副詞)成功裏に
попы́тка(女性名詞)試み・挑戦・トライ
- Попы́тка удала́сь. 「試みはうまくいった」
- Бо́рщ не уда́лся. 「ボルシチは失敗した」
- Моя́ жи́знь не удаётся. 「ぼくの人生はうまくいっていない」
- Ему́ всё удаётся. 「かれは何をやってもうまくいく」
- Э́то уда́стся. 「これはうまくいく(はずだ)」