З19:行く/来る
「行く」、「来る」は普通、当然ながらそういう意味の動詞で表される。
ところがロシア語では、かなりの「Eへ行く・来る」が、「Eにいる」で表現されてしまうのである。これはある意味、日本語訳の問題でもあるのだが、日本語とロシア語のズレとしてしっかり理解しておいた方がいい。
#170 「Eへ行く・来る」の多くが「Eにいる」で表現される。
なお、ロシア語では「行く」と「来る」は区別しない。
- 過去時制
- Eに行った・来た・行っていた・来ていた・行ってきた(過去のある時点でEにいたが、現在はいない)
- Eに行ったことがある・来たことがある(過去Eにいたことがある)
- 未来時制
- Eに行く・来る・行ってくる(未来のある時点でEにいるが、現在はいない)
つまり、これらの表現はすべて「AはEにいた・いるだろう」で表現できるのである。
- Сего́дня я́ бы́л в университе́те. 「今日わたしは大学にいた」=「行った」=「行ってきた」
- Вчера́ я́ бы́л в рестора́не. 「昨夜はレストランにいた」=「行った」=「行ってきた」
- Вчера́ у на́с бы́ли го́сти. 「昨日うちに客がいた」=「来た」=「来ていた」
- Вы́ когда́-нибудь бы́ли в Сиби́ри? 「シベリアにいたことがありますか?」=「行ったことがありますか?」
- Я́ бы́л в Москве́ два́ ра́за. 「わたしはモスクワに二度いた」=「行ったことがある」
- Ле́том я́ бы́л у де́душки. 「夏ぼくはお爺ちゃんのところにいた」=「行った」=「行っていた」=「行ってきた」
- Днём я́ бы́л у дру́га. 「昼間は友人のところにいた」=「行った」=「行っていた」=「行ってきた」
- Тогда́ я́ бы́л на конце́рте. 「その時わたしはコンサートにいた」=「行っていた」
- Вчера́ о́н бы́л у на́с. 「昨日はかれはうち(我が家)にいた」=「来ていた」
- Я́ бы́л в Росси́и два́ го́да. 「わたしは二年間ロシアにいた」=「行っていた」
- Сего́дня ве́чером вы́ бу́дете в Большо́м теа́тре? 「今夜はあなたはボリショイにいますか?」=「ボリショイにいらっしゃいますか?」
- Ле́том у на́с бу́дут вну́ки. 「夏はうちに孫たちがいるだろう」=「やって来る」
- Я́ бу́ду у ва́с. 「お宅にいます」=「お宅にお伺いします」
さらには、現在時制でも「いま〜に来ている」「いま〜に行っている」という意味を表現することができる。
- Я́ сейча́с в Росси́и. 「わたしはいまロシアにいます」=「来ています」
- Му́ж сейча́с на рабо́те. 「夫はいま職場です」=「仕事に行ってます」
なお、これらの文のうちいくつかは「行く」、「来る」という意味の動詞を使った別の文で表現できる。
- Вчера́ у на́с бы́ли го́сти. ≒ Вчера́ к на́м приходи́ли го́сти.
ここで1点注意。
「今日わたしは大学に行った/行ってきた」は «Сегодня я был в университете.» である。目的地を表すのは в|на+対格だが、この文はあくまでも「ある・いる」である。だから в|на+対格ではなく в|на+前置格になる。
「わたしはそこに行った」は、
*Я был туда.
ではなく
Я был там.
である。この点、間違えないように。
Меня не было там. ⇔ Я не был там.
この場合、否定文では注意が必要である。
「AがEにある・いる」が否定文になると、Aは生格になる。ところが上掲のような「行く」、「来る」の意味合いを持つ「AがEにいる」が否定されると、Aは主格のままである。
- Меня́ не́ было та́м.
- Я́ не́ был та́м.
このふたつの例文を比較してみよう。
1) では生格 меня が用いられているので、я の存在が否定されている。つまり単純に「わたしはそこにいなかった」という意味である。
2) では主格 я が用いられているので、я の存在そのものは否定されていない。否定されているのは был であり、この場合は「わたしはそこに行かなかった」という意味になる。
#171 「行かない・来ない」の意味で「Aがいない」を使う場合、Aは生格ではなく主格。
рубе́ж(男性名詞)境界線・ボーダーライン、国境
- Ты́ сего́дня не́ был на рабо́те? 「今日は仕事に行かなかったの?」 ⇔ ×「いなかったの?」
- Я́ никогда́ не́ был за рубежо́м. 「わたしは一度も海外に行ったことがありません(でした)」 ⇔ ×「いませんでした」
- ちなみにロシアは大陸国家なので、ロシア人に «海の外» という感覚はない。「外国」はあくまでも «国境線の向う側»。
- Я́ не́ был в Санкт-Петербу́рге уже́ де́сять ле́т. 「わたしはもう十年もサンクトに行ってない/行ってなかった」 ⇔ ×「いなかった」
- Сего́дня я́ не бу́ду на ле́кции. 「今日わたしは講義に行かない」 ⇔ ×「いない」