ロシア語講座:初級

З16:運動の動詞1

«運動の動詞» とは、«移動の動詞» と呼ばれることもあるが、特殊な用法を持つ一握りの動詞を指す。独特の文法的特性を備えた動詞のみを指す文法用語であり、移動や運動を意味する動詞全般を漠然と指す言葉ではない。

«運動の動詞» の基本

 以下が、現時点で覚えておくべき運動の動詞である。

定動詞不定動詞
идти́ходи́ть徒歩による移動 「行く」、「来る」、「歩く」
е́хатье́здить乗り物に乗った移動 「行く」、「来る」、「乗る」
лете́тьлета́ть空を飛ぶ移動 「行く」、「来る」、「飛ぶ」
плы́тьпла́вать水を行く移動 「行く」、「来る」、「泳ぐ」
бежа́тьбе́гать「(走って)行く」、「(走って)来る)」、「走る」
вести́води́ть「導く」
везти́вози́ть何らかの手段で物を運ぶ行為
нести́носи́ть物を身につけて・持ち歩く行為

 運動の動詞とされるものはこれ以外にも6ペアほど存在する。それらはいずれ学ぶだろうが、現段階では上掲8ペアだけで十分。これ以外は、たとえ移動の意味を表しても «運動の動詞» ではない。

#164 移動を表す15ペアほどの動詞を «運動の動詞» と呼ぶ。

 これらの動詞には、次のような共通の特徴がある。

 「特定方向への移動」を表すものを «定動詞(定方向動詞)»、「不特定方向への移動」を表すものを «不定動詞(不定方向動詞)» と呼ぶ。

#165 運動の動詞は、定動詞と不定動詞でペアになる。

 くどいようだが、すべて不完了体動詞であり、対応する完了体動詞を持たない。多くの日本人が、

を混同し、正確に区別できていない。

#166 運動の動詞はすべて不完了体。

 ロシア語では、「行く」と「来る」を区別しない。こちらに向かって来るか、こちらから離れて行くか、方向が異なるだけで、やっている行動は同じだからである。
 ロシア語が重視するのは、「行く」、「来る」の «手段» である。そこで、運動の動詞を意味の上から次のように分類してみる。

運動の動詞の用法

1. 定動詞は目的地への移動、不定動詞は目的地を持たない移動

 本来、定動詞は「特定方向への移動」、不定動詞は「不特定方向への移動」を示す。

  1. На у́лице бежи́т ма́льчик.(定)
  2. На у́лице бе́гает ма́льчик.(不定)

 どちらも不完了体だから、「通りを男の子が走っている」という日本語は同じである。ただし、「いま現在」の話なのか、「毎朝」なのか、その辺りは不明。不完了体は「現在進行形」も表すが、「反復」も意味するからである。
 1. は定動詞だから、文面上は明示されていないが、この男の子がどこか目的地に向かって走っていることになる。それを筆者は知らないか、知っていても言わないだけか。いずれにせよ、男の子の「走る軌跡」は一直線であるはずだ。「通りを男の子が走っていく」という日本語のニュアンスを表現するのはこちらである。
 これに対して 2. は不定動詞だから、目的地などない。もちろん、可能性としては目的地があって往復を表しているのかもしれないが(その用法は次で説明する)、目的地が明示されていない以上、それは憶測の領域に属する。それより一般的には「通りを男の子が走り回っている」であろう。目的地がないから、走る軌跡も一直線ではない。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、という運動を表す。

2. 定動詞は目的地への片道の移動(過程)、不定動詞は目的地との往復(反復)

 不定動詞も、目的地を示すことがある。その場合の定動詞との違いは、次の通り。

  1. Я́ шла́ в университе́т.(定)
  2. Я́ ходи́ла в университе́т.(不定)

 「大学へ行く」という日本語は、さまざまな場面で使い得る。朝自宅を出て大学へと歩いていく。大学に到着し、そこで勉強した後、帰宅する。これが何日も繰り返される。これらすべてを日本語では「大学へ行く」と表現することが可能だ。

ロシア語ではこうはいかない。
 例文の 1. は、朝自宅を出て大学へと歩いていく。これだけである。«運動の動詞» は不完了体動詞であるから、「歩いて行く」という行為の結果は達成されていない。ゆえに、まだ大学に到着していない。1. は言わば過去進行形であり、「わたしは大学へと歩いていた」、「行く途中だった」という意味になる。
 これに対して、反復を表すのが 2. である。つまり、「大学へと歩いて往復する」ことが何度も繰り返されることを意味している。「わたしは大学に通っていた」というところだろう。
 では、「今日1回だけ大学に行って帰ってきた」という、1回の往復を示す場合にはどう言うか。不定動詞でも表現できるが、現段階では быть を使う、と覚えておこう。詳細は後述

まとめ

 不完了体は、過程・状態、反復などさまざまな意味で用いられるが、乱暴に図式化すると、定動詞と不定動詞で次のように分担している。

過程・継続反復その他
定動詞目的地あり目的地への片道 1
不定動詞目的地なし目的地との往復事実確認、能力

 1) 現実問題として、目的地への片道移動の反復、などというのは基本的に存在しない。

  1. Ла́сточка лети́т.(定)
  2. Ла́сточка лета́ет.(不定)

 1. は「ツバメが飛んでいく」。明示されていないものの、定動詞が使われているから、どこかの目的地に向かって一直線に飛んでいくのであろう。しかも現在進行形である。いま現在、話者・筆者の目の前でツバメが飛んでいる。
 2. は、前後の文脈次第。場合によっては、目的地を持たずに「飛び回っている」という意味かもしれない。そうであるとすれば、これは 1. と同じく現在進行形になろう。ただし、場合によっては、どこかの目的地との間を「飛んで往復している」という意味かもしれない。場合によっては、「ツバメというものは飛ぶものだ」と言いたいのかもしれないし、あるいは「あのツバメは飛べる」と能力の有無を問題にしているのかもしれない。不定動詞は、これらすべてを表現し得る。

#167 定動詞は目的地への片道の移動、しかもその過程(進行形)。

#168 不定動詞は、目的地のない運動、あるいは目的地との往復(その反復)、事実確認、能力。

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最終更新日 31 08 2015

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