ロシア語講座:初級

Ж10:数量を表す生格

数量を表す生格の用法は、かなり特殊で、レベル的には初級ではない。とはいえ、日常会話も含めて頻出するので、ここでとりあえず説明しておく。いますぐ身につける必要はないので、これから徐々に理解し、使えるようになっていこう。

数量を意味する名詞・数詞との結合

 生格は、そもそも、個数詞と結合して数を表す格である。

個数詞名詞
два、три、четыре単数生格
それ以外の個数詞複数生格

といった具合である。
 個数詞だけでなく、数量を表すそれ以外の品詞と結合するのも生格である。

 文法的に言うならば、これは生格という格が数量を表現している、ということである。пиво とか молоко とか、数を数えることのできない名詞でも、生格で数量を表す。このような生格の用法を、«数量生格» および «部分生格» と呼ぶ。このふたつは違うものだが、とりあえず無視しておこう。と言うか、そもそもこの文法用語はいますぐ忘れていい。

#147 生格は数量を表す(ことがある)。

第二生格の用法

 このように数量を表す名詞と結合する場合、より厳密に言えば、数量を表す場合、-у|-ю という不規則語尾を持つ男性名詞では、不規則語尾が使われることが多い。

 -у|-ю という不規則語尾は、すでに見たように、存在を否定された場合や特定の前置詞との結合で用いられるが、数量を表す場合にも用いられるということだ。

  1. 存在が否定された場合
  2. 特定の前置詞と結合する場合
  3. 数量を表す場合

 改めて確認しておくと、生格の本来の役割は所有・所属先の提示であるが、数量を表現することもできる。そしてその場合、-у|-ю という不規則語尾を持つ男性名詞では、不規則語尾が使われることが多い。この点を念頭に、次の例を考えてみよう。

  1. грузови́к песка́
  2. грузови́к песку́

 このふたつ、意味が全然違うので要注意である。なお、грузовик は「トラック」、песок は「砂」を意味する。
 1) は言うまでもなく、「砂のトラック」である。よくわからないが、あるいは材質を示しているのかもしれない。とすれば、「砂でできたトラック」ということであろう。
 2) では不規則語尾が使われている。となるとこの場合の песку は「数量」を表現しているということになる。ではどれだけの量なのか。それを示しているのが грузовик である。つまりこちらは、「トラック一台分の砂」という意味なのである。
 もっとも、現実には「砂のトラック」というのはまずあり得ない表現だから、грузовик песка でも「トラック一台分の砂」という意味になるのだろう。とはいえ、「トラック一台分の砂」という場合は грузовик песка とは言わない。結果として、そもそも грузовик песка とは言わない。

  1. мешо́к са́хара
  2. мешо́к са́хару

も同様だ。мешок は「袋」を意味するから、1) は「砂糖の袋」(「砂糖でできた袋」?)、2) は「一袋分の砂糖」という意味である。とはいえ現実には「砂糖の袋」というのはよくわからない表現だから、мешок сахара とは言わない。

#148 生格が数量を表す場合は不規則語尾 -у|-ю が使われる(不規則語尾を持つ名詞では)。

動詞の目的語として

  1. Я́ купи́л мя́со.
  2. Я́ купи́л мя́са.

 このふたつの文の違いが的確に理解できるだろうか。
 мясо「肉」は数えられない。数えるのは「キロ」とかの単位か、あるいは「一塊」とかである。「肉」そのものを数えることはできない(ただし、「レバー」と「タン」など、種類を数えることはできる)。ということは、мяса は複数対格ではない。単数生格である。
 すなわちこのふたつの文の違いは、目的語が対格か生格か、にある。
 купить「買う」という動詞は対格を支配する。生格と結合することはない。ということはこの場合の мяса という生格は、купить という動詞の支配を受けて生格になっているわけではなく、独自の理由に基づいて生格になっているということだ。抽象的な言い方をしたが、要するに、この生格は「数量を表す生格」ということである。
 これにより、2) は、「ある特定量の肉を」というニュアンスが表現されているのである。文脈次第ではあるが、おそらく「料理に必要な量」ということだろう。

 日本語では表現できないが、これらはいずれも「一定量の水」、「一定量の紅茶」等々を意味している。それは具体的には、たとえば「コップ一杯の水」であったり、「カップ一杯の紅茶」であったりする。もちろん、「カップ二杯の紅茶」かもしれないし、「カップ三杯の紅茶」かもしれない(それは明示されていない)。
 逆に言えば、これらの文で生格ではなく対格を使えば、「ある特定の量」というニュアンスが消失する。では対格を使ってもいいのか、と言うと、いまの段階では「いい」。しかし、

*О́н вы́пил ча́й.

は、少なくともロシア語の感覚からすると明らかにおかしい。なぜなら выпить という動詞は漠然と「飲む」ではなく、「目の前にあるこれだけのものを飲み干す」という意味だから、目的語は必ず「ある一定量の」ものでなければならない。つまり、выпить という動詞は必然的に生格を要求するのである(ただし実際には対格と結合する場合も多々ある。これは生格と対格の使い分け、あるいはそもそも「数量を表す生格」の用法の問題である)
 このおかしなロシア語も、初級レベルのいまならまだ笑って済ませられるが、中級、ましてや上級レベルになると、笑いごとでは済まなくなる。ということで、徐々に、でかまわないので、数量を表す生格の用法をしっかり身につけていこう。

 ここで、傾向性として次の2点が指摘できる。あくまでも「傾向性」であって、絶対的な法則ではない。

  1. 生格になるのは、物質名詞・抽象名詞(数えられない名詞)。
  2. 動詞は完了体。

 上で挙げた例は、すべてこのふたつの条件を満たしている。
 日常生活においては、特に купить、выпить の目的語となる食品・飲料が生格になる傾向が強い(ロシア語では食品・飲料の多くが物質名詞で、数えられない)。

#149 対格を支配する動詞が生格と結合した場合、数えられない名詞(単数生格)であればそれは「ある一定量」を意味する。

 数えられる名詞が、生格になって量を示す場合もある。その場合は、通常、「大量に」というニュアンスを表現する。

 もっとも、通常は много などを補うので、この言い方は必ずしも一般的ではない(«Митя купил много тетрадей.»)。

#150 対格を支配する動詞が生格と結合した場合、数えられる名詞(複数生格)であればそれは「大量」を意味する。

たくさん!

 数えられる名詞・数えられない名詞にかかわらず、生格が「大量に」というニュアンスを表現することが、特に感嘆文などでよく見られる。

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最終更新日 31 07 2015

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