Ж10:数量を表す生格
数量を表す生格の用法は、かなり特殊で、レベル的には初級ではない。とはいえ、日常会話も含めて頻出するので、ここでとりあえず説明しておく。いますぐ身につける必要はないので、これから徐々に理解し、使えるようになっていこう。
数量を意味する名詞・数詞との結合
生格は、そもそも、個数詞と結合して数を表す格である。
個数詞 | 名詞 |
---|---|
два、три、четыре | 単数生格 |
それ以外の個数詞 | 複数生格 |
- два́ го́да 「二年」
- три́ кни́ги 「三冊の本」
- четы́ре сло́ва 「四つの単語」
- пя́ть карандаше́й 「五本の鉛筆」
- ше́сть ме́тров 「六メートル」
- се́мь самура́ев 「七人の侍」
- сто́ друзе́й 「友だち百人」
といった具合である。
個数詞だけでなく、数量を表すそれ以外の品詞と結合するのも生格である。
- 不定数詞
- мно́го кни́г 「たくさんの本」
- не́сколько дне́й 「数日」
- 単位
- дю́жина яи́ц 「タマゴ一ダース」
- ли́тр молока́ 「一リットルの牛乳」
- 普通名詞
- большинство́ студе́нтов 「多数派の学生/大多数の学生/学生の大部分」
- стака́н пи́ва 「一杯のビール」
文法的に言うならば、これは生格という格が数量を表現している、ということである。пиво とか молоко とか、数を数えることのできない名詞でも、生格で数量を表す。このような生格の用法を、«数量生格» および «部分生格» と呼ぶ。このふたつは違うものだが、とりあえず無視しておこう。と言うか、そもそもこの文法用語はいますぐ忘れていい。
#147 生格は数量を表す(ことがある)。
第二生格の用法
このように数量を表す名詞と結合する場合、より厳密に言えば、数量を表す場合、-у|-ю という不規則語尾を持つ男性名詞では、不規則語尾が使われることが多い。
- *мно́го сне́га ⇒ мно́го сне́гу 「大量の雪」
- *килогра́мм са́хара ⇒ килогра́мм са́хару 「一キロの砂糖」
- *ча́шка ча́я ⇒ ча́шка ча́ю 「一杯の紅茶」
- пли́тка шокола́да ⇔ пли́тка шокола́ду 「一枚の板チョコ」
-у|-ю という不規則語尾は、すでに見たように、存在を否定された場合や特定の前置詞との結合で用いられるが、数量を表す場合にも用いられるということだ。
- 存在が否定された場合
- 特定の前置詞と結合する場合
- 数量を表す場合
改めて確認しておくと、生格の本来の役割は所有・所属先の提示であるが、数量を表現することもできる。そしてその場合、-у|-ю という不規則語尾を持つ男性名詞では、不規則語尾が使われることが多い。この点を念頭に、次の例を考えてみよう。
- грузови́к песка́
- грузови́к песку́
このふたつ、意味が全然違うので要注意である。なお、грузовик は「トラック」、песок は「砂」を意味する。
1) は言うまでもなく、「砂のトラック」である。よくわからないが、あるいは材質を示しているのかもしれない。とすれば、「砂でできたトラック」ということであろう。
2) では不規則語尾が使われている。となるとこの場合の песку は「数量」を表現しているということになる。ではどれだけの量なのか。それを示しているのが грузовик である。つまりこちらは、「トラック一台分の砂」という意味なのである。
もっとも、現実には「砂のトラック」というのはまずあり得ない表現だから、грузовик песка でも「トラック一台分の砂」という意味になるのだろう。とはいえ、「トラック一台分の砂」という場合は грузовик песка とは言わない。結果として、そもそも грузовик песка とは言わない。
- мешо́к са́хара
- мешо́к са́хару
も同様だ。мешок は「袋」を意味するから、1) は「砂糖の袋」(「砂糖でできた袋」?)、2) は「一袋分の砂糖」という意味である。とはいえ現実には「砂糖の袋」というのはよくわからない表現だから、мешок сахара とは言わない。
#148 生格が数量を表す場合は不規則語尾 -у|-ю が使われる(不規則語尾を持つ名詞では)。
動詞の目的語として
- Я́ купи́л мя́со.
- Я́ купи́л мя́са.
このふたつの文の違いが的確に理解できるだろうか。
мясо「肉」は数えられない。数えるのは「キロ」とかの単位か、あるいは「一塊」とかである。「肉」そのものを数えることはできない(ただし、「レバー」と「タン」など、種類を数えることはできる)。ということは、мяса は複数対格ではない。単数生格である。
すなわちこのふたつの文の違いは、目的語が対格か生格か、にある。
купить「買う」という動詞は対格を支配する。生格と結合することはない。ということはこの場合の мяса という生格は、купить という動詞の支配を受けて生格になっているわけではなく、独自の理由に基づいて生格になっているということだ。抽象的な言い方をしたが、要するに、この生格は「数量を表す生格」ということである。
これにより、2) は、「ある特定量の肉を」というニュアンスが表現されているのである。文脈次第ではあるが、おそらく「料理に必要な量」ということだろう。
- Да́йте воды́. 「水をください」
- О́н вы́пил ча́ю. 「かれは紅茶を飲んだ」
- О́н нали́л е́й вина́. 「かれは彼女にワインを注いでやった」
日本語では表現できないが、これらはいずれも「一定量の水」、「一定量の紅茶」等々を意味している。それは具体的には、たとえば「コップ一杯の水」であったり、「カップ一杯の紅茶」であったりする。もちろん、「カップ二杯の紅茶」かもしれないし、「カップ三杯の紅茶」かもしれない(それは明示されていない)。
逆に言えば、これらの文で生格ではなく対格を使えば、「ある特定の量」というニュアンスが消失する。では対格を使ってもいいのか、と言うと、いまの段階では「いい」。しかし、
*О́н вы́пил ча́й.
は、少なくともロシア語の感覚からすると明らかにおかしい。なぜなら выпить という動詞は漠然と「飲む」ではなく、「目の前にあるこれだけのものを飲み干す」という意味だから、目的語は必ず「ある一定量の」ものでなければならない。つまり、выпить という動詞は必然的に生格を要求するのである(ただし実際には対格と結合する場合も多々ある。これは生格と対格の使い分け、あるいはそもそも「数量を表す生格」の用法の問題である)。
このおかしなロシア語も、初級レベルのいまならまだ笑って済ませられるが、中級、ましてや上級レベルになると、笑いごとでは済まなくなる。ということで、徐々に、でかまわないので、数量を表す生格の用法をしっかり身につけていこう。
ここで、傾向性として次の2点が指摘できる。あくまでも「傾向性」であって、絶対的な法則ではない。
- 生格になるのは、物質名詞・抽象名詞(数えられない名詞)。
- 動詞は完了体。
上で挙げた例は、すべてこのふたつの条件を満たしている。
日常生活においては、特に купить、выпить の目的語となる食品・飲料が生格になる傾向が強い(ロシア語では食品・飲料の多くが物質名詞で、数えられない)。
#149 対格を支配する動詞が生格と結合した場合、数えられない名詞(単数生格)であればそれは「ある一定量」を意味する。
数えられる名詞が、生格になって量を示す場合もある。その場合は、通常、「大量に」というニュアンスを表現する。
- Ми́тя купи́л тетра́дь. (単数対格) 「ミーテャはノートを(一冊)買った」
- Ми́тя купи́л тетра́ди. (複数対格) 「ミーテャはノートを(複数)買った」
- Ми́тя купи́л тетра́дей. (複数生格) 「ミーテャはノートを(大量に)買った」
もっとも、通常は много などを補うので、この言い方は必ずしも一般的ではない(«Митя купил много тетрадей.»)。
#150 対格を支配する動詞が生格と結合した場合、数えられる名詞(複数生格)であればそれは「大量」を意味する。
たくさん!
数えられる名詞・数えられない名詞にかかわらず、生格が「大量に」というニュアンスを表現することが、特に感嘆文などでよく見られる。
- Ну и наро́ду! 「何て人出/人だかりだ」
- Шу́му! 「ひどい騒ぎ/騒音だ」
- И́шь, кни́г-то, кни́г! 「おやおや、本があることあること」