数を表す言葉を «数詞» と呼ぶ。中でも、「1」、「2」、「3」、、、を表す数詞を «個数詞» と呼ぶ。ロシア語では、数詞(個数詞)は名詞とも形容詞とも異なる、独立の品詞である。用法もまた独特なので、ここで詳しく見ていこう。
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ロシア語で「1」を意味する単語はいくつかあるが、基本は один である。
один は、何かがひとつある場合に用いる。だから日本語の「1人」、「1軒」、「1両」、「1匹」、「1ケ」、「1枚」、「1冊」、「1滴」等々、すべて один である。逆に言えば、один と名詞が並んでいるロシア語を日本語にどう訳すか、という問題でしかない。
その変化表を見てもらおう。
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 中性 | 女性 | ||
主格 | оди́н | одно́ | одна́ | одни́ |
生格 | одного́ | одно́й | одни́х | |
与格 | одному́ | одно́й | одни́м | |
対格 | ★ | одну́ | ★ | |
造格 | одни́м | одно́й | одни́ми | |
前置格 | одно́м | одно́й | одни́х |
どう見ても形容詞である。実際、ロシア語学者の中には один を数詞ではなく形容詞に分類する人もいる。それも無理はない。один は結合する名詞の性・数・格に従属するからである。その用法は、完全に形容詞のそれである。
#124 「1」 один は、用法は完全に形容詞で、結合する名詞の性・数・格に一致する。
ちょっと考えてみよう。ロシア語の名詞には、単数形と複数形がある。単数形は「1」を、複数形は「2以上」を表す。つまり、名詞の単数形はそれだけで「1」という意味を内包しているのだ。
- У меня́ е́сть до́м. 「わたしには家がある」 = У меня́ е́сть оди́н до́м. 「わたしには家が1軒ある」
- Студе́нтка опозда́ла на ле́кцию. 「女子学生が講義に遅刻した」 = Одна́ студе́нтка опозда́ла на одну́ ле́кцию. 「1人の女子学生が1つの講義に遅刻した」
- Ко́ля обрати́лся к учи́телю с вопро́сом. 「コーリャは先生に質問をした」 = Ко́ля обрати́лся к одному́ учи́телю с одни́м вопро́сом. 「コーリャは1人の先生に1つの質問をした」
いずれの例でも、ロシア語で один、日本語で「1つ」は不要である。
ただし、ロシア語で один が不要なのと、日本語で「1つ」が不要なのは、理由が微妙に異なる。日本語では、そもそも数を明示するということが少ない。
「教室にはまだ学生が残ってます」
の「学生」は何人だろうか。このような場合、ロシア語では студент か студенты かで、ひとりなのか複数なのかがはっきりする。
繰り返すが、ロシア語では名詞が単数形になっていれば、それだけで「1」という意味が示されている。だから один が不要なのである。
それどころか、たとえば風呂で100まで数える場合、あるいは眠れない夜にヒツジを数える場合、ロシア人は один を使わない。раз という、全然別の単語を使う。
#125 「1個のA」と言う場合、Aを単数形にするだけ(один は使わない)。
#126 「1」を数える場合、раз を使う(один は使わない)。
ちなみに、英語の one も同じようにあまり使われない。「わたしには家がある」という場合に
I have one house.
とは言わない。
I have a house.
である。そう考えてみると、ロシア語の один と英語の one は似たような境遇にある、と言ってもいいだろう。
では、なぜ要らない один という単語が存在しているのか。それは、
- 「1」という数を強調するため
- 「1」以外の意味を表すため
詳しくは辞書に譲るが、たとえば次のような場合である。
подня́ть(完) ⇔ поднима́ть(不完)対格を上げる
худо́жник(男性名詞)芸術家・(特に)画家(基本的に性不問)
оста́ться(完) ⇔ остава́ться(不完)残る
холоди́льник(男性名詞)冷蔵庫
- Оди́н из студе́нтов по́днял ру́ку и вы́ступил. 「学生のひとりが手を挙げて発言した」
- 単に「ひとりの学生 один студент」ではなく、「複数いる学生たちの内のひとり один студент из студентов」という言い方。
- Оди́н высо́кий мужчи́на стоя́л у две́ри. 「ひとりの/とある背の高い男がドアのところに立っていた」
- Жи́л-бы́л худо́жник оди́н. 「画家がひとりで/ひとりぼっちで住んでいました」『百万本のバラ』
- жил-был は昔話の決まり文句。日本語で言えば、「昔々あるところに〜が住んでいました」に相当する、と言えよう。
- Мы́ не одни́. 「われわれはひとりではない」
- О́н гуля́ет в одно́й то́нкой руба́шке. 「かれは薄手のシャツ1枚で/薄手のシャツだけでぶらついている」
- Оста́лась одна́ Та́ня. 「残ったのはターニャひとり」
- В холоди́льнике бы́ли одни́ я́йца. 「冷蔵庫の中にはタマゴしかなかった」
- Мы́ с Ли́зой учи́лись в одно́м университе́те. 「わたしとリーザはひとつ大学で/同じ大学で学んだ」
- Мо́й де́душка говори́т одно́ и то́ же. 「うちの祖父はひとつのこと/同じことばかり言っている」
- 形容詞は単数中性形で「〜なこと」を意味する。
- Одни́ чита́ют, дру́гие пи́шут. 「一方は書いており、他方は読んでいる」=「書いている者もいれば読書している者もいる」
- 形容詞は複数形で「〜な人々」を意味する。
日本語の「ひとつ」と共通する使い方をしている例が少なくない。これが один の意味・用法である。だから複数形があるのだ。
#127 多くの場合 один は「1」以外の意味で名詞を修飾する。