Е02:動詞の変化の基本
ロシア語の動詞の変化には、
- 現在形
- 過去形
- 命令形
の3種類がある。そしてそれぞれが、主語に応じて語尾を変える。細かい話は後回しにして、どのような変化なのかを見てみよう。
#101 動詞には現在形、過去形、命令形の3種類の変化がある。
#102 それぞれ主語の人称・性・数に応じて、異なる変化語尾をとる。
変化語尾
ロシア語の動詞の変化の基本は、変化しない部分(«語幹»)に、以下のような変化語尾を加える。
主語 | 語尾 | ||
---|---|---|---|
不定形 | -ть | ||
現在形 | 単数 | 一人称 | -ю |
二人称 | -ешь | ||
三人称 | -ет | ||
複数 | 一人称 | -ем | |
二人称 | -ете | ||
三人称 | -ют | ||
過去形 | 単数 | 男性 | -л |
女性 | -ла | ||
中性 | -ло | ||
複数 | -ли | ||
命令形 | 単数 | 二人称 | -й |
複数 | -йте |
このように、動詞の変化は、
- 不定形から語末の -ть を削る。 ⇒ 残ったものが «語幹»。
- 代わりに、時制と主語に応じて適切な変化語尾をつけてやる。
という法則である。その限りでは単純だ。ただし、
- 現在形と過去形で、主語の何に応じて変化するか、その基準が異なる(現在形は人称、過去形は性)。
- 命令形とは「君(たち)」、「お前(ら)」、「あなた(方)」に対するものだから、二人称しか存在しない。
- 単数を意味する вы でも、変化語尾は複数。
では実際のところを、думать 「思う・考える」を例に見てみよう。
- 現在形
- Я́ ду́маю. 「わたしは考える」「我思う」(どうでもいい話だが、「我思う、故に我在り」はロシア語では Я думаю. とは訳さない)
- Ты́ ду́маешь. 「君・お前・あんたは考える」
- Мы́ ду́маем.
- Вы́ ду́маете. 「あなたは考える」「君たち・お前ら・あんた方・あなた方は考える」
- 以上、一人称と二人称は、必ず代名詞を主語とする。だから上記以外の組み合わせはあり得ない。
しかし以下、三人称はそうはいかない。三人称の主語は、代名詞のほか、すべての名詞にその可能性がある。 - О́н ду́мает.
- Она́ ду́мает.
- Оно́ ду́мает.
- Президе́нт ду́мает.
- Моя́ сестра́ ду́мает.
- Они́ ду́мают.
- Студе́нты ду́мают.
- Мои́ сёстры ду́мают.
- 過去形
- Я́ ду́мал. 「オレは考える」
- Я́ ду́мала. 「あたしは考える」
- Ты́ ду́мал.
- Ты́ ду́мала.
- 以上、一人称と二人称の単数では、男か女かによって語尾が違う点に注意。これを間違えると、男装・女装趣味でもあるのかと思われてしまう。
- О́н ду́мал.
- Она́ ду́мала.
- Оно́ ду́мало.
- Президе́нт ду́мал.
- Моя́ сестра́ ду́мала.
- 以下、複数では性の区別は消える。
- Мы́ ду́мали.
- Вы́ ду́мали. 「あなたは考えた」「君たち・お前ら・あんた方・あなた方は考えた」
- Они́ ду́мали.
- Студе́нты ду́мали.
- 命令形
- Ду́май. 「考えろ」「考えてくれ」 ※ты に対する命令
- Ду́майте. 「(お前ら)考えろ」「(あなた)考えて」「(あなた方)考えて」 ※вы に対する命令
#103 現在形の一人称・二人称は、必ず代名詞を主語とする。
#104 現在形の三人称、および過去形は、あらゆる名詞を主語とし得る。
#105 過去形は、性により語尾が異なる。ゆえに一人称・二人称では注意。
#106 主語が вы の場合、意味が単数か複数かにかかわらず複数の語尾になる。
問題は、名詞の格変化以上に不規則変化が多いことである。不規則変化は、徐々に学んでいこう。どの動詞が規則変化をし、どの動詞が不規則変化をするか、明確な基準はない。名詞と同じく、ひとつひとつ覚えるしかないのである。
命令形
命令形は、二人称に対する命令文をつくる。
ロシア語は、日本語やスペイン語などと違い、主語を省略しないのが基本である。それでも、現在形では я、ты、мы、вы が省略されることも(特に日常会話では)ある。それは動詞の語尾が一対一で対応しているからである。
これに対して、命令形はそもそも ты か вы に対するものである。ты か вы のどちらかは、語尾を見てみれば一目瞭然である。このため、命令形を使った命令文では、主語は省略するのが一般的である。逆に、命令形を使った命令文に主語を入れるのは、「きみ」とか「お前」とか「あなた」という意味合いをいささか強調するニュアンスになる。
- Ду́май.
- Ты́ ду́май.
このふたつの文は、言っていることはまったく一緒である。しかし 2) には ты という主語が入っているから、「お前が」を強調したニュアンスの文になっている。具体的には、たとえば、「おれが実行するからお前は考えろ」というように「おれ」と「お前」を対比させているとか、そのような場合である。
逆に言えば、そのような特別なニュアンスを出さない時は、主語はいらない。
#107 命令形を使った文では、主語は不要。
もうひとつ、いささか細かい話を。
日本人は «命令形» という名前から、「〜しろ」というニュアンスを想像してしまうようで、時々おかしな使い方をする人がいる。
命令形というのは、端的に言うと、相手にある行動を取ってもらうための表現である。だから、上から目線の命令も命令形で表すが、下から目線の嘆願もまた命令形を使う。
- 教師が生徒に「5時に職員室に来なさい」
- 知り合いに「今度我が家に遊びにおいでください」
- 役所の窓口で「明日取りにきてください」
- ケンカ相手に「こっち来い」
- よちよち歩きの赤ん坊や愛犬に「おいで、おいで」
- 招待状で「ご来駕賜りますようお願い申し上げます」
このすべて、さらにその他のさまざまなニュアンスを、ロシア語では命令形で表現する(し得る)。
話者・筆者の意図を表明するよりも相手の反応を重視する、つまり相手に不快な印象を与えまいとする日本語は、命令形を使いたがらない(上掲の例では、純粋な命令形はケンカ相手に対する「来い」だけ)。ところがロシア語では、話者・筆者の意図が優先される。だから、日本語のニュアンスを表現しようなどとは考えず、自分の意図が何かをもとにロシア語を考えるクセをつけよう。そうすれば自然と命令形が使えるはずだ。
もうひとつ、より丁寧なニュアンスを出そうとでもいうのか、普段は ты で会話をしている相手に対して -те をつけた命令形を使う人がいる。語末に -те をつけた命令形は、вы に対する命令形である。これは文法的な区別であって、ニュアンスの問題ではない。語末の -те には、いかなるニュアンスもない。
否定・疑問
否定と疑問については、これまで学んだことがそのまま当てはまる。
#4 疑問文のイントネーションは、聞きたい単語の有力点母音で音を上げる。
#31 疑問文を文字で書くと、文末を「?」にするだけ。
#32 疑問詞は文頭に置かれる。
#33 否定文にするには не を加えるだけ。
#35 не は、否定したい単語の前に入れる。
具体例はこれから見ていくとして、とりあえず次のようになる。
- Ты́ ду́маешь? 疑問文 : 文字で書く時は文末を「?」にするだけ。口頭で発する時は ду- を高く発するだけ。
- Я́ не ду́маю. 否定文 : 否定したい単語(通常は動詞)の前に не を加えるだけ。
ся 動詞
ся 動詞の変化は単純だ。
- 普通の変化の後に -ся を付け加えるだけ。
- その場合、子音の後では -ся、母音の後では -сь。
これだけだ。
#49 子音の後で -ся、母音の後で -сь。