Е01:動詞の基本
動詞を使った文の基本
ロシア語の文は、動詞を述語として使うのが基本である。
ここまで、述語に動詞を使わない文を学んできた。
- AはBである。
- (環境・気分・行為が)Cだ。 ※述語副詞を使った文
- Aがある・いる。
の3パターンは、述語として動詞を使わなかった。それでも過去時制・未来時制では быть という動詞を使った。
単純に言うと、上掲3パターンの現在時制以外の文はすべて動詞を述語として使う。
ロシア語における述語動詞(述語として使われた動詞)の使い方の基本は、次の通り。
- 時制を表現するのは動詞である。つまり動詞を語尾変化させることで、現在時制・過去時制・未来時制を表現する。
- 主語にあわせて語尾を変える。つまり主語が何かによって、自動的に動詞の語尾は決まる。
- 動詞の置かれる場所(語順)は自由である。
こうして、ロシア語の動詞はかなり複雑な語尾変化をすることになる。実は日本語でも同じようなことをやっているのだが、ネイティブであるわれわれは意識していない。意識せずにできるからこそネイティブなのだが。
語尾変化は覚えるしかないのだが、それと同じくらい重要なのが、完了体・不完了体の区別である。動詞を使う場合には、どんな使い方をするにせよ、常に完了体・不完了体の区別を意識するようにしよう。
動詞を使った文の語順
語順の原則については、すでに確認した。動詞を使った文にも、それは適用される。
#81 語順の原則は、主題(既知の情報)が文頭、言いたいこと(未知の情報)が文末。
#82 語順はコンテキスト(前の文)により決定される。
ロシア語も、英語やフランス語などのヨーロッパ系の言語であるから、根本の部分では同じである。それはつまり、語順としては
SVO = 主語 + 述語動詞 + 目的語その他
が基本ということだ。
たとえば「サーシャは本を読んでいる」という文は、前後のコンテキストを完全に無視すると、次のような語順になる。
- Саша читает книгу.
一応確認しておくと、Саша が主語「サーシャは」、читает が述語動詞「読んでいる」、книгу が目的語「本を」である。
しかしロシア語では、どの単語がSで、どの単語がVで、どの単語がOなのか、語順ではなく語尾が示す。そのため、英語と違って語順は自由である。その結果、次のような語順もあり得る。
- SOV = Саша книгу читает.
- VSO = Читает Саша книгу.
- VOS = Читает книгу Саша.
- OSV = Книгу Саша читает.
- OVS = Книгу читает Саша.
と言うよりむしろ、前後のコンテキスト次第では、こちらの語順の方が相応しいこともある。たとえば «Кто читает книгу?»「誰が本を読んでいるのか?」という質問に対する答えとしては、«Книгу читает Саша.»、すなわちOVSの語順が相応しい、否、正しい。なぜなら答えとして最も言いたいポイントは「サーシャが」だからである。
これに、громко「大声で」、под деревом「木の下で」、等々といった情報が加わると、語順はさらに混乱する。
ここではこれ以上、語順の問題に深入りしないが、ごく大雑把に次のようなことが原則として挙げられよう。
- SVOが基本。
- 動詞を説明する状況語は動詞+目的語の間か後。
- ただし動詞を説明する副詞は動詞の前。
- 文全体を説明する状況語はSVOの外(その前か後)。
動詞の格支配
動詞と名詞の結合には、複雑な関係がある。
しかし学習という観点からすると、次の場合だけ覚えておけばいい。
- 格の意味が日本語の助詞と対応しない場合。
- 動詞が意味により複数の格を要求する場合。
1) については、すでに格の基本的な意味・用法を学んだ。
- 主格 : 主語を示す。
- 生格 : 所有者・所属先を示す。
- 与格 : 間接目的語を示す。
- 対格 : 直接目的語を示す。
- 造格 : 手段・方法を示す。
たとえば платить「支払う」という動詞を挙げてみる。
- платить + 対格 ⇒ 対格は直接目的語を表す ⇒ 〜を支払う плати́ть сто́ рубле́й 「100ルーブリ支払う」
- платить + 与格 ⇒ 与格は間接目的語を表す ⇒ 〜に支払う плати́ть дру́гу 「友人に支払う」
- платить + 造格 ⇒ 造格は手段・方法を現す ⇒ 〜で支払う плати́ть нали́чными 「現金で支払う」
- платить за + 対格 ⇒ за + 対格は対価を表す ⇒ 〜の対価を支払う плати́ть за кни́гу 「本の代金を支払う」
これを組み合わせて «платить сто рублей другу наличными за книгу» も(語順はいささかおかしいが)可能だ。
このように、格がそれぞれ本来の意味・用法で使われている場合、それぞれの格の用法として覚えておけば十分である。
ところが、格の意味が日本語の助詞と対応しない例が多々ある。
- избега́ть опа́сности 「危険を避ける」 ※опасности は生格なのに「〜を」。
- ве́рить отцу́ 「父を信じる」 ※отцу は与格なのに「〜を」。
- тро́гать плечо́ 「肩にさわる」 ※плечо は対格なのに「〜に」。
- владе́ть ру́сским языко́м 「ロシア語を操る」 ※русским языком は造格なのに「〜を」。
- учи́ть дете́й ру́сскому языку́ 「子供たちにロシア語を教える」 ※детей が対格なのに「〜に」、русскому языку が与格なのに「〜を」。
- поли́ть цветы́ водо́й 「花に水をやる」 ※цветы が対格なのに「〜に」、водой が造格なのに「〜を」。
- отказа́ть дру́гу в про́сьбе 「友人の頼みを断る」 ※другу в просьбе で「友人の頼みを」。
- взя́ть де́вушку за руко́й 「女の子の手を取る」 ※девушку за рукой で「女の子の手を」。
これらはひとつには訳語の問題でもあるが、それぞれ「この動詞はこの格を支配する」と覚えておこう。
また 2) の例として、смотреть を挙げてみる。
- смотреть + 対格 : 鑑賞する смотреть кино 「映画を観る」
- смотреть на + 対格 : 見る смотреть на часы 「時計を見る」
- смотреть за + 造格 : 見守る смотреть за ребёнком 「子供を看る」
だから、
- смотреть телевизор
- смотреть на телевизор
では、意味が全然違う。
念のために確認しておくと、日本語で「テレビを見る」と言ったら、それは「テレビ番組を見る」ということであり、「テレビ番組を鑑賞する」という意味である。だから、日本語の「テレビを見る」に相当するのは 1) の方である。
では 2) はどういう意味かというと、「テレビというモノを見る」という意味になる。画面を見るのかもしれないが、その画面には何も映っていないかもしれない。裏面を見るのかもしれない。分解して中を覗くのかもしれない。いずれにせよ、「テレビ受像機という物体に視線を向ける」という意味なのである。
「わたしは昨夜テレビを見た」と言った場合、普通は 1) であろう。他方、「廃品業者は、壊れて使い物にならないテレビを見た」と言った場合は、どう考えても 2) である。
このような場合、きちんとひとつひとつ覚えておかなければならない。