Д05:「AはBだ」と есть
ここで話が大きく逸れる。以下、一応知識としてあった方がいいと思うから説明するだけである。読み流しても結構。
先ず、少々文法的な話をする。この話は、別に理解していなくても何の問題もない。
есть というのは、本来的には быть という動詞の変化形である。быть は英語の be に相当し、「ある・いる」、「〜である」という意味を持つ。だから「AはBである」でも「Aはある・いる」でも、過去時制・未来時制では быть の過去形・未来形を使うのである。当然、もともとは現在形も存在し、е́смь、еси́、е́сть、есмы́、есте́、су́ть などと変化した。ところがこれら быть の現在形はいつの間にか廃れてしまい、唯一残存しているのが単数三人称の есть なのである。
だから есть は、「Aはある・いる」、「AはEにある・いる」だけでなく、「AはBだ」でも用いることがある。
ただし現在、есть には本来の単数三人称という使い方はなく、一人称でも二人称でも、複数でも、形を変えない。
さて本題だ。
「AはBだ」は、AとBをただポンポンと並べてやるだけでいい。
- Зна́ние ─ си́ла. 「知識は力だ」
このような文で、есть を挿入することがある。
- Зна́ние е́сть си́ла.
- Зна́ние бы́ло си́ла.
- Зна́ние бу́дет си́ла.
このように過去時制・未来時制と並べてみると、есть の役割もよりはっきりするだろう。
есть の挿入は、単純に言うと、強調を示す。
すでに見たように、「AはEにある・いる」では、есть を挿入することで「ある・いる」という意味合いを強調した感じになる。同様に、「AはBである」に есть を挿入すると、「〜である」を強調した感じになる。
ただし現実問題としては、「AはBである」で есть を使うのは、かなり硬い文の場合だけである。具体的には、公文書であったり学術論文であったりにおいて、本質を定義するような文で用いられる。たとえば、あえてロシア語には訳さないが、
- 地球は太陽系の第三惑星である。
- 直線とは、二点間を結ぶ最短距離である。
といった類の文である。そういう意味では、現段階のわれわれが、少なくとも日常会話で使うことはない。なので、読んだ時、聞いた時に理解できれば、それで十分である。だから
- Я́ е́сть студе́нт.
はほとんど冗談である。でなければ、よほど「ぼくは大学生なんだよ」と強調したい場合か。いずれにせよ、聞いている・読んでいるロシア人は変な顔をすることだろう。
一応使い方を説明しておくと、есть は
- 現在時制。
- 主語によって形を変えることはない。
#86 硬い文体の定義文では「AはBだ」に есть を挿入することがある。
Э́то е́сть на́ш после́дний 「これは我らが最後にして
И реши́тельный бо́й. 決定的な戦いである」 『インターナショナル』