Г08:動詞を修飾する副詞
すでに述べたように、述語として使われる述語副詞の用法というのは、副詞としてはいささか邪道な用法だ。
副詞の本来的な用法というのは、動詞(場合によっては形容詞その他)を修飾することにある。
主語 | 副詞 | 述語(動詞) | |
---|---|---|---|
日本語 | 彼女は | 美しく | 歌う |
英語 | She | beautifully | sings |
ロシア語 | Она | красиво | поёт |
このように、付随情報の中でも、動詞を修飾する「どんな風に」を表すのは基本的に副詞の役割となる。
ただし、
- 「(動詞)するように」
- 「(名詞)のように」
を筆頭に、副詞以外の品詞が用いられることも多い。結局は個々の副詞を覚えるのが正解である。
#59 副詞の基本的用法は、動詞を修飾すること。
ここで、少々文法的な話になるが、動詞を修飾する副詞の役割と述語副詞としての役割とについて、確認をしておきたい。
単純に言って、ロシア語の副詞には、基本的にふたつの用法がある。
- 動詞を修飾する(副詞によっては形容詞その他を修飾することも)。
- 述語副詞として述語になる(ただし一部の副詞のみ)。
日本語だとこのふたつは違う言い回しになるが、ロシア語ではまったく同じ単語が用いられる。
動詞の修飾 | 述語副詞 | |
---|---|---|
хо́лодно | 寒そうに(震えている) | 寒い |
чи́сто | きれいに(洗う) | きれいだ |
интере́сно | おもしろく(語る) | おもしろい |
пло́хо | 下手くそに(歌う) | ダメだ |
свобо́дно | 自由に(操る) | ゆったりしている |
この関係は、言うならば形容詞と同じである。形容詞もまた、名詞の修飾語としての用法と、述語としての用法とのふたつを持っている。
ただし、
- すべての副詞が述語副詞としても使えるわけではない。 ⇒ 動詞の修飾しかできない副詞がある。
- そもそも動詞の修飾すらできない副詞もある。 ⇒ 動詞の修飾もできず、述語副詞としても使えない副詞がある。
たとえば ве́село は、「陽気に歌う」という、動詞を修飾する用法を持つと同時に、「ぼくは楽しい・陽気な気分だ」という述語副詞としての使い方もする。他方、сча́стливо は「幸せに暮らす」という動詞の修飾語としてしか使えない。述語副詞として使って「ぼくは幸せだ」と言おうとしてもそれができない。「ぼくは幸せだ」と言いたい場合には сча́стливо は使えないのである。
どの副詞が述語副詞としても使うことができるか(できないか)、個々の副詞ごとに辞書で確認すべきである。
数は決して多くはないが、動詞を修飾することもできず、述語副詞としても使えない副詞も存在する。
たとえば сли́шком は、形容詞や副詞を修飾して「あまりに〜すぎる」という意味になる。動詞を修飾して「〜しすぎる」という意味になることもないではないが、あまりに稀である。まして述語副詞になることはない。
- Зде́сь сли́шком хо́лодно. 「ここは寒すぎる」
動詞を修飾する用法と述語副詞としての用法の区別
形容詞の場合、修飾語なのか述語なのか、その区別は基本的に語順でわかる。しかし副詞の場合はそうはいかない。
副詞は、動詞の前に置いても後に置いてもいい。どちらかと言うと前に置く方が多いが、文法的に決まっているわけではない。ゆえに、語順で何かを判断するわけにはいかないのである。
- ра́но вста́ть = вста́ть ра́но
- вста́ть は「立ち上がる・起きる」を意味する完了体動詞。
と言った場合、ふたつの意味があり得る。
- 「起きるには早すぎる」 ⇒ ра́но は述語副詞。
- 「朝早く起きる」 ⇒ ра́но は動詞を修飾する。
もっとも、現実にはこの区別がつかないという場面はあまりない。「朝早く起きる」は、実際には「わたしは」、「かれは」といった主語を伴い、文として表現されるからである。
- О́н ра́но вста́л. = О́н вста́л ра́но. 「かれは朝早く起きた」
この文で先ず目につくのは、О́н という主語がある点。述語副詞を使った文には、主語があってはならなかった。先ずこの点で、この文の ра́но が述語副詞ではない、ということがわかる。第二に、вста́ть という動詞の語尾が違っている。вста́л というのは過去形だが、このように語尾変化した動詞は、述語である。基本的に、ひとつの文に述語はひとつである(быть の変化形は例外)。ゆえにここからも、ра́но が述語副詞ではない、ということがわかる。
このように、動詞を修飾する副詞と述語副詞の違いは、文法的にふたつの点から明らかである。
動詞を修飾 | 述語副詞 | |
---|---|---|
主語があるか | ある/ない | ない |
動詞が語尾変化するか | する/しない | しない |
#60 副詞が動詞を修飾しているのか述語副詞になっているか、区別する目安は、主語の有無と動詞の語尾変化である。
ゆえに、
- Ра́но вста́ть.
という文では、まず間違いなく ра́но は述語副詞であり、よってこの文は「起きるには早すぎる」という意味になる。
ただし述語副詞はふたつ重ねることができない。ひとつの文に述語はひとつだけだから、これは当然のことだ。よって、
- На́до ра́но вста́ть.
という文では、ра́но は動詞を修飾しており、ゆえに「朝早く起きなければならない」という意味である。
形容詞からつくられる副詞
どの言語でも、多くの副詞が形容詞からつくられる。
- 美しい beautiful ⇒ 美しく beautifully
- 賢い wise ⇒ 賢く wisely
ロシア語も例外ではない。
形容詞からつくられる副詞は、大きく、次の3種類に分けることができる。
- 述語副詞として使われないもの ⇒ 動詞の修飾のみ
- 述語副詞として使われるもの
- 述語副詞としてしか使われないもの ⇒ 動詞は修飾しない
この区別は厳密なものではない。ゆえに、以下、例を挙げるが、それもまた便宜的なものでしかない。
- 普通は動詞の修飾のみ
- бли́зкий 近い ⇒ бли́зко 近くに
- бы́стрый 速い ⇒ бы́стро 速く
- вку́сный 美味しい ⇒ вку́сно 美味しそうに
- высо́кий 高い ⇒ высоко́ | высо́ко 高く・高いところに
- глубо́кий 深い ⇒ глубоко́ | глубо́ко 深く・深いところに
- гро́мкий 大声の ⇒ гро́мко 大声で
- дешёвый 安い ⇒ дёшево 安く
- до́лгий 長期の ⇒ до́лго 長期間
- дорого́й 高価な ⇒ до́рого 高値で
- коро́ткий 短い ⇒ ко́ротко 短く
- кре́пкий 堅い ⇒ кре́пко 固く
- ме́дленный ゆっくりした ⇒ ме́дленно ゆっくり
- мя́гкий /мя́хкий/ 柔らかい ⇒ мя́гко /мя́хка/ 柔らかく・そっと
- ни́зкий 低い ⇒ ни́зко 低く
- по́лный 一杯の ⇒ по́лно 一杯に
- прямо́й 直線の ⇒ пря́мо まっすぐ
- серьёзный 真剣な ⇒ серьёзно 真剣に
- свобо́дный 自由な ⇒ свобо́дно 自由に
- си́льный 強い ⇒ си́льно 強く
- сла́бый 弱い ⇒ сла́бо 弱く
- споко́йный 穏やかな ⇒ споко́йно 穏やかに
- стро́гий 厳しい ⇒ стро́го 厳しく
- счастли́вый /щасли́вый/ 幸せな ⇒ сча́стливо | счастли́во 幸せに
- твёрдый 硬い ⇒ твёрдо 固く
- то́нкий 薄い ⇒ то́нко 薄く・細く
- у́мный 賢明な ⇒ у́мно 賢明に
- широ́кий 広い ⇒ широко́ | широ́ко 広く
- 動詞の修飾/述語副詞どちらも
- весёлый 陽気な ⇒ ве́село 陽気に/楽しい・陽気な気分だ
- вре́дный 有害な ⇒ вре́дно 有害に/〜することは有害だ
- вы́годный 有利な・儲かる ⇒ вы́годно 有利に/〜する方が有利・得だ
- гру́стный /гру́сный/ 悲しげな・寂しげな ⇒ гру́стно /гру́сна/ 悲しい・寂しい/〜することが・したことが悲しい
- далёкий 遠い ⇒ далеко́ 遠くに/遠い
- дово́льный 満足している ⇒ дово́льно 満足げに・満足して/十分だ、もうたくさんだ
- доста́точный 十分な・豊富な ⇒ доста́точно 十分・かなり/十分だ・足りている
- ду́шный むんむんする・行き詰る・蒸し暑い ⇒ ду́шно むっと/暑苦しい・蒸し蒸しする・(わたしは)息苦しい
- интере́сный 興味深い ⇒ интере́сно 興味深げに/興味深い
- лёгкий /лёхкий/ 軽い ⇒ легко́ /лехко́/ 軽々と/簡単だ・気が楽だ・〜するのは容易だ
- плохо́й 悪い ⇒ пло́хо 悪く・下手くそに/(状況・具合が)悪い
- по́здний /по́зний/ 遅い ⇒ по́здно /по́зно/ 遅く/(時刻が)遅い・手遅れだ・〜するには遅すぎる・〜しても手遅れだ
- просто́й 単純な ⇒ про́сто 単純に/〜することは簡単だ
- пра́вильный 正しい ⇒ пра́вильно 正しく/正しい
- ра́нний 早い ⇒ ра́но 早く/(時刻が)早い・時期尚早だ・〜するには早すぎる・時期尚早だ
- све́тлый 明るい ⇒ светло́ 明るく/(周囲が)明るい・(心が)明るい
- стра́нный 奇妙な ⇒ стра́нно 奇妙に/奇妙だ(わたしは不思議に思っている)
- стра́шный 怖しい ⇒ стра́шно 怖ろしく/怖い
- тёплый 暖かい ⇒ тепло́ 暖かく/(気温が)暖かい・(わたしは)暖かく感じる
- те́сный 狭い ⇒ те́сно ぎっしりと/(空間が)狭苦しい・(心理的に)窮屈だ
- ти́хий 静かな ⇒ ти́хо 静かに/(周囲が)静かだ(音がしない)
- тру́дный 困難な ⇒ тру́дно 困難な状況下で/難しい・大変だ・苦しい・辛い・〜するのは難しい・大変だ
- тяжёлый 重い ⇒ тяжело́ 重く/重い・苦しい・辛い
- удо́бный 便利な ⇒ удо́бно 具合よく/具合・都合がいい・〜するのは具合・都合がいい
- холо́дный 冷たい・寒い ⇒ холо́дно 冷たく・寒そうに/(気温が)寒い・(わたしは)寒く感じる
- хоро́ший 良い ⇒ хорошо́ 良く・上手に/(状況・天気・気分が)良い・〜するのは気分が良い
- чи́стый 清潔な ⇒ чи́сто 清潔に/きれいだ・清潔だ・すがすがしい(気分だ)
- шу́мный 騒がしい ⇒ шу́мно 騒がしく/騒がしい
- 普通は述語副詞のみ
- ва́жный 大事な ⇒ ва́жно 〜することが大事だ
- опа́сный 危険な ⇒ опа́сно 〜するのは危険だ
- поле́зный 有益な ⇒ поле́зно 〜することは有益だ・為になる(多くは身体にとって)
- пу́стый 空っぽの ⇒ пу́сто 空っぽだ・誰もいない・(わたしの気分が)虚ろだ
- тёмный 暗い ⇒ темно́ (周囲が)暗い・(心が)暗い
- そもそも副詞が存在せず形容詞のみ
- большо́й 大きい
- до́брый 親切な
- но́вый 新しい
このように、形容詞からつくられた副詞は、そのほとんどが
語末が -о
という共通点を持つ。
#61 形容詞からつくられた副詞は、基本的に語末が -о。
留意すべき点として、第一に、少数ながら形が違うものがある。それ以上に、アクセントの位置が変わるものがある。特に высоко のように、высо́ко でも высоко́ でもどちらでもいいというものも少なくない。
第二に、形容詞と副詞で(主な)意味が異なるものもある。
- ре́дкий 稀な ⇒ ре́дко めったに〜しない ※肯定文で否定の意味
- ско́рый 速い ⇒ ско́ро もうすぐ
- ча́стый 密な ⇒ ча́сто しょっちゅう
- я́сный 晴れた ⇒ я́сно はっきり
いずれにせよ、ひとつひとつ辞書で確認するしかない。
- Пора́ серьёзно заня́ться. 「真剣に取り組むべき時だ」
- Невозмо́жно бы́ло жи́ть споко́йно. 「静かに暮らすことは不可能だった」
- На́до говори́ть про́сто и я́сно. 「簡潔かつ明瞭に言わなければならない」 ※и は「そして」、「〜と〜」を表す接続詞。