ロシア語講座:初級

Г06:動詞の体

すでに動詞を使った文をいくつか見てきたが、実際に動詞を使う場合には、体の区別・用法が理解できていないとどうにもならない。

 «体(たい)» とは、ロシア語の動詞を体系づける基本的な文法概念である。
 ロシア語のすべての動詞は、«完了体» か «不完了体» のいずれかに分類される。つまり、名詞が性で分類されるように、動詞は体で分類されるのである。

#53 動詞は、完了体と不完了体に分類される。

 完了体動詞と不完了体動詞は、意味的にペアをつくる。別の言い方をすると、ロシア語には意味の同じ動詞がふたつある、と言ってもいい。

#54 完了体動詞と不完了体動詞とで、意味上のペアをつくる。

 以下、具体例を挙げてみよう。

不完了体動詞完了体動詞
ある・いる・〜であるбы́ть-
忘れるзабыва́тьзабы́ть
到着するприбыва́тьприбы́ть
する・作るде́латьсде́лать
言う・話すговори́тьсказа́ть
おしゃべりをするразгова́ривать-
語るрасска́зыватьрассказа́ть
見る lookсмотре́тьпосмотре́ть
見る seeви́детьуви́деть
聞く listenслу́шатьпослу́шать
聞く hearслы́шатьуслы́шать
読むчита́тьпрочита́ть
書くписа́тьнаписа́ть
大事にしておくбере́чь-
心配するбеспоко́итьсяобеспоко́иться
ぶつ・打つби́тьпоби́ть
感謝するблагодари́тьпоблагодари́ть
病んでいる・痛いболе́ть-
病気になるзаболева́тьзаболе́ть
戦うборо́ться-
怖れているбоя́ться-
取るбра́тьвзя́ть
選ぶвыбира́тьвы́брать
集めるсобира́тьсобра́ть
集まるсобира́тьсясобра́ться
よくあるбыва́ть-
信じているве́рить-
戻す-верну́ть
戻る-верну́ться
重さが〜あるве́сить-
ぶら下げるве́шатьпове́сить
ぶら下がっているвисе́ть-
返すвозвраща́тьвозврати́ть
返るвозвраща́тьсявозврати́ться
会うвстреча́тьвстре́тить
会うвстреча́тьсявстре́титься
誇っているгорди́ться-
用意するгото́витьпригото́вить
準備をするподгота́вливать|подготовля́тьподгото́вить
歩く・散歩するгуля́ть-
与えるдава́тьда́ть
課するзадава́тьзада́ть
出版するиздава́тьизда́ть
返すотдава́тьотда́ть
渡す・伝えるпередава́тьпереда́ть
売るпродава́тьпрода́ть
成功するудава́тьсяуда́ться
プレゼントするдари́тьподари́ть
動かすдви́гатьдви́нуть
服を着るодева́тьсяоде́ться
服を脱ぐ(裸になる)раздева́тьсяразде́ться
分けるдели́тьраздели́ть|подели́ть
キープしているдержа́ть-
支えるподде́рживатьподдержа́ть
考える・思うду́матьподу́мать
吹くду́тьду́нуть
呼吸するдыша́ть-
食べるе́стьсъе́сть
съеда́ть
憐れむжале́тьпожале́ть
待っているжда́ть-
待つ-подожда́ть
望むжела́тьпожела́ть
燃やすже́чьсже́чь
生きている・住んでいるжи́ть-
生きるпрожива́тьпрожи́ть
朝食・軽食をとるза́втракатьпоза́втракать
呼ぶзва́тьпозва́ть
名付けるназыва́тьназва́ть
名乗るназыва́тьсяназва́ться
電話をかけるзвони́тьпозвони́ть
紹介するзнако́митьпознако́мить
知り合いになるзнако́митьсяпознако́миться
知っているзна́ть-
認めるпризнава́тьпризна́ть
知るузнава́тьузна́ть
意味しているзна́чить-
プレイするигра́тьсыгра́ть
許すизвиня́тьизвини́ть
謝るизвиня́тьсяизвини́ться
所有しているиме́ть-
興味を持つинтересова́тьсяпоинтересова́ться
探す・探しているиска́ть-
〜に見える・思われるказа́ться-
注文するзака́зыватьзаказа́ть
〜にいる・〜であるока́зыватьсяоказа́ться
断るотка́зыватьотказа́ть
断るотка́зыватьсяотказа́ться
見せるпока́зыватьпоказа́ть
触れるкаса́тьсякосну́ться
入れるвключа́тьвключи́ть
スイッチを切るвыключа́тьвы́ключить
込められているзаключа́ться-
除くисключа́тьисключи́ть
終えるконча́тько́нчить
終わるконча́тьсяко́нчиться
(最後まで)終えるзака́нчиватьзако́нчить
卒業するока́нчиватьоко́нчить
閉めるзакрыва́тьзакры́ть
閉まるзакрыва́тьсязакры́ться
開けるоткрыва́тьоткры́ть
開くоткрыва́тьсяоткры́ться
買うпокупа́тькупи́ть
喫煙するкури́ть-
嘘をつくлга́тьсолга́ть
横たわっているлежа́ть-
横たわるложи́тьсяле́чь
横たえるкла́стьположи́ть
提案するпредлага́тьпредложи́ть
壊す・割るлома́тьслома́ть
愛しているлюби́ть-
交換するменя́ть-
変更する・裏切るизменя́тьизмени́ть
測る・計るме́ритьизме́рить
邪魔するмеша́ть-
黙っているмолча́ть-
できるмо́чьсмо́чь
洗うмы́тьвы́мыть
期待しているнаде́яться-
始めるначина́тьнача́ть
始まるначина́тьсянача́ться
気に入るнра́витьсяпонра́виться
占めるзанима́тьзаня́ть
従事するзанима́тьсязаня́ться
持ち上げるподнима́тьподня́ть
登るподнима́тьсяподня́ться
理解するпонима́тьпоня́ть
受領するпринима́тьприня́ть
昼食・晩餐をとるобе́датьпообе́дать
約束するобеща́ть
向けるобраща́тьобрати́ть
向くобраща́тьсяобрати́ться
説明するобъясня́тьобъясни́ть
遅れるопа́здыватьопозда́ть
組織するорганизова́ть
自由にするосвобожда́тьосвободи́ть
答えるотвеча́тьотве́тить
休むотдыха́тьотдохну́ть
間違うошиба́тьсяошиби́ться
落ちるпа́датьупа́сть
匂いがするпа́хнуть-
歌うпе́тьспе́ть
焼くпе́чьиспе́чь
飲むпи́тьвы́пить
泣くпла́кать-
払うплати́тьзаплати́ть
勝つпобежда́тьпобеди́ть
繰り返すповторя́тьповтори́ть
疑うподозрева́ть-
祝うпоздравля́тьпоздра́вить
受け取るполуча́тьполучи́ть
利用するпо́льзоватьсявоспо́льзоваться
覚えているпо́мнить-
思い出すвспомина́тьвспо́мнить
覚えるзапомина́тьзапо́мнить
思い出させるнапомина́тьнапо́мнить
手伝うпомога́тьпомо́чь
慣れるпривыка́тьпривы́кнуть
招くприглаша́тьпригласи́ть
属しているпринадлежа́ть-
試すпро́боватьпопро́бовать
続けるпродолжа́тьпродо́лжить
求めるпроси́тьпопроси́ть
尋ねるспра́шиватьспроси́ть
許すпроща́тьпрости́ть
驚く・怯えるпуга́тьсяиспуга́ться
〜しようとするпыта́тьсяпопыта́ться
働くрабо́тать-
喜ぶра́доватьсяобра́доваться
育つрасти́вы́расти
引き裂く・破るрва́тьразорва́ть
切るре́затьразре́зать
決める・解くреша́тьреши́ть
描くрисова́тьнарисова́ть
生まれるроди́ться
座るсади́тьсясе́сть
怒るсерди́тьсярассерди́ться
座っているсиде́ть-
笑うсмея́ться-
勧めるсове́товатьпосове́товать
相談するсове́товатьсяпосове́товаться
疑うсомнева́ться-
知らせるсообща́тьсообщи́ть
救うспаса́тьспасти́
眠る・眠っているспа́ть-
急ぐспеши́тьпоспеши́ть
立てて置くста́витьпоста́вить
置いてくるоставля́тьоста́вить
立つ・なるстанови́тьсяста́ть
止めるостана́вливатьостанови́ть
止まるостана́вливатьсяостанови́ться
起きるвстава́тьвста́ть
残るостава́тьсяоста́ться
取り残される・遅れるотстава́тьотста́ть
疲れるустава́тьуста́ть
洗濯するстира́тьвы́стирать
値段が〜するсто́ить-
立っているстоя́ть-
建てるстро́итьпостро́ить
踏み入るвступа́тьвступи́ть
発言・出演するвыступа́тьвы́ступить
振舞うпоступа́тьпоступи́ть
数える・見なすсчита́тьсосчита́ть|посчита́ть
踊るтанцева́тьстанцева́ть
溶けるта́ятьраста́ять
失くすтеря́тьпотеря́ть
流れているте́чь-
要求するтре́боватьпотре́бовать
夕食・夜食をとるу́жинатьпоу́жинать
微笑むулыба́тьсяулыбну́ться
能力を持っているуме́ть-
死ぬумира́тьумере́ть
(時間的に)できるуспева́тьуспе́ть
教えるучи́тьвы́учить|научи́ть
学ぶучи́тьсявы́учиться|научи́ться
学習するизуча́тьизучи́ть
欲っしているхоте́ть-
欲っしているхоте́ться-
キスをするцелова́тьпоцелова́ть
感じるчу́вствоватьпочу́вствовать
〜であるявля́ться-

 上掲の一覧表をじっくり検討するだけでロシア語の動詞について種々のことがわかるが、ここでは体の問題に絞って見ていこう。

 たとえば、сказа́ть も говори́ть も、どちらも「言う、話す」を意味する(英語で言えば say や speak)。意味は同じである。このふたつの動詞を、状況に応じて使い分けるのである。
 われわれ日本人には、この違いがわからない。「どちらも『言う』『話す』という意味だから」と、無頓着に使って、結果、完了体動詞 сказа́ть を使うべき場面で不完了体動詞 говори́ть を使ってしまったり、逆に不完了体動詞 говори́ть を使わなければならない状況で完了体動詞 сказа́ть を使ってしまったり、ということがある。ところがそんなことをすると、場合によっては相手に意味が通じないどころか、違う意味で受け止められてしまうこともある。

  1. 完了体動詞 : О́н откры́л две́рь.
  2. 不完了体動詞 : О́н открыва́л две́рь.

このふたつの文は、どちらも「かれはドアを開けた」という意味である。ところが、完了体動詞を使った 1. は「だからいまでもドアは開いている」という意味だが、不完了体動詞を使った 2. は「しかしいまではドアは閉まっている」となる。「かれはドアを開けた」という意味はまったく同じであるにもかかわらず、いま現在ドアがどうなっているか、まったく逆の情報を伝えているのである。
 この違いは、使っている動詞が完了体動詞か不完了体動詞か、による。

体の違い

 上の表にも散見されるが、完了体と不完了体とでペアをつくらない動詞もある。その多くが、不完了体だけの動詞である。いくつか改めて抜き出してみよう。

 これらの動詞の意味が、不完了体というものの本質の一面を示している。つまり不完了体は状態を表すのである。逆に言えば、完了体は状態を表すことができない。
 сидеть という動詞が表すのは、「いま現在座っている」(現在)か、「その時座っていた」(過去)か、「その時点で座っているだろう」(未来)かのいずれかである。「立っている状態から椅子に腰をかける」という意味での「座る」を表すことはできない。
 「座る」を意味するのは、

である。ではこの場合の不完了体動詞 садиться は、状態ではなく何を表しているのだろうか。この場合の不完了体は反復を表す。これに対して完了体は一回の動作を表すのである。
 例えば、

  1. かれはいつもこの席に座った
  2. かれは今日この席に座った

のふたつの「座った」は、われわれ日本人には同じに思える。ところがロシア人は、このふたつを全然別のものと認識するのだ。1. は「いつも」という状況語が示しているとおり、過去に何度も繰り返された行為である。ゆえにロシア人はこちらでは不完了体動詞 садиться を使う。ところが 2. は、「今日」と言っているように、今日一回限りの行為を示している。いつもどこに座るかは問題としていない。ゆえにこの場合、ロシア人は完了体動詞 сесть を使う。
 そして本質的なポイントとして、完了体は行為の完了を表す。強いて言うなら、「〜してしまう/してしまった」というニュアンスである。だからこそ「完了体」というのだ。逆に不完了体は、行為が完了したかどうかとは無関係である(多くの場合、完了していない行為を表す)。だからこそ、最初に述べたように、不完了体は状態を表すことができるのだ。

#55 完了体動詞は行為の完了、不完了体動詞は状態を示す。

#56 完了体動詞は一回の動作、不完了体動詞は反復を示す。

 ちなみに、ロシア語には英語の進行形や完了が存在しない。それをも完了体と不完了体の使い分けで示すのである。ただし、どちらがどちらと、単純に対応しているわけではない。

 体の使い分けは、ある意味ロシア語文法で最も難しい部分であると言える。いまここで詳しく学ぶよりは、様々な具体的用例を見る中で、徐々に理解していこう。

述語副詞と体

 述語副詞と結合する動詞が、完了体動詞か不完了体動詞か、述語副詞によって決まっているものもあるが、基本的には体本来の意義により決まる。

 たとえば、

  1. 完了体動詞 : На́до написа́ть.
  2. 不完了体動詞 : На́до писа́ть.

の場合、完了体動詞 написать は動作の完了を表すから、「書く」という行為の完了をしなければならない、ということになる。それはつまり、「書き上げなければならない」ということだ。
 一方、不完了体動詞 писать は動作の完了を表さない。むしろ動作そのものを示すので、この場合は単純に「書かなければならない」である。「書き上げるかどうか」は二の次、と言うより念頭にない。
 だから「今晩中に作文を書かなければならない」という場合に、不完了体動詞 писать を使ってしまうと、そういう意味にならない。この日本語は、あくまでも「今晩中に作文を完成させて、明日提出しなければならない」というニュアンスであろう。ゆえにここは完了体動詞 написать を使う場面である。
 逆に、たとえば夏休みの課題として出されたので「読書感想文を書かなければならない」と言う場合は、一般的には不完了体動詞 писать を使う。夏休み中に書き上げなければならない、というニュアンス(完了体動詞 написать が表す)よりも、そもそも書かなければならない、というニュアンス(不完了体動詞 писать が表す)の方が強い。

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最終更新日 20 03 2015

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