В01:これはAだ
今でもそうなのかどうか知らないが、かつて学校英語は "This is a pen." みたいな文から始まったものだ。ここでもそれにならって、「これは〜です」から始めよう。
ちなみに、ロシア語には「〜です」と「〜だ」の違いはない。
「これは本だ」を、日本語、英語、ロシア語で比べてみよう。
日本語 | これは本だ。 | これは雑誌だ。 | これが親父だ。 |
英語 | This is a book. | This is a magazine. | This is the father. |
ロシア語 | Это книга. | Это журнал. | Это отец. |
こうして並べてみると、気づく点もあるのではないだろうか。
日本語 | これ | は | 本 | だ | |
英語 | This | a | book | is | |
ロシア語 | Это | книга |
最大の違いは、ロシア語には「〜だ」に相当する単語、英語で言う be 動詞が存在しない、という点である。「これ это」と「本 книга」を並べただけで、ロシア語の文が成立してしまっているのだ。言わば、「これ本」がそのまま「これは本です」になるのである。これはカタコトではない。立派なロシア語の文だ。
#1 ロシア語で「これはAだ/です」と言う場合、「〜だ/です」に相当する単語が不要。「это」と「A」をふたつ並べるだけ。
もうひとつ、英語と違って、冠詞が存在しない、というのも大きい。ロシア語には、a だの the だのといった冠詞なるものが存在しない。これは特にフランス語などで冠詞に悩まされた人には福音だろう。
#2 ロシア語には «冠詞» が存在しない。
何と楽なことか。和露辞典で単語を調べて、それをそのまま это の後に置いてやれば、ただそれだけで「これは〜だ」という文が出来上がってしまうのである。
ちなみに言っておくが、文字で書く場合にはそれだけではダメ。文頭の文字は大文字にしなければいけないし、文末にはピリオド「 . 」を打たなければならない。
というわけで、思いつくままに和露辞典で単語を調べて「これは〜だ」という文をつくってみよう。
- Э́то до́м. 「これは家だ」
- Э́то ко́шка. 「これはネコだ」
- Э́то слова́рь. 「これは辞書だ」
- Э́то река́. 「これは川だ」
- Э́то Росси́я. 「これはロシアだ」
- Э́то я́. 「これはぼくだ」
イントネーション
さて、しゃべる場合には、これだけでは不十分である。イントネーションを確認しておこう。
わたしたちはすでに学んだ。
#3 平叙文のイントネーションは、最重要の単語(普通は文末)の有力点母音で音を下げる。
#4 疑問文のイントネーションは、聞きたい単語の有力点母音で音を上げる。
もちろん、厳密には、音を上げるイントネーションは疑問のほかに強調の場合もある。しかしとりあえずそれは置いておこう。
Э́то кни́га.
に即して見てみよう。この文はふたつの単語から構成されているが、言いたいポイントはどちらの単語だろうか。言うまでもなく、Это 「これ」ではなく книга 「本」である。книга という単語のアクセントは、и́ という母音にある。つまり、ここで音を急激に下げる。あえて言えば、/этакнига/ という音の連なりにおいて、まず /этак/ は通常の高さで発音する。続く /ни/ で一気に低音へ。最後の /га/ はどうでもいい。そのまま低音で流してもいいし、再び通常の高さに戻ってもいい。重要なのは、/ни/ で音が高(あるいは中) ⇒ 低と変化していることである。
ここで、上述の内容を確認する。ロシア語では、文のポイントとなる単語の、アクセントのある母音で、音を下げる。ということは、/этакнига/ という音の連なりで、もし冒頭の /э/ においていきなり高 ⇒ 低という音の変化が起こったとしたら、その場合は Это がこの文のポイントになる、ということである。その後の /такнига/ がどう発音されようと、聞いているロシア人にとってはどうでもいいことである。すでにかれには、「Это がこの文のポイントだ」という情報がインプットされてしまっているからだ。
さて、そのようなイントネーションで発せられたとしたら、/ни/ で高 ⇒ 低という音の変化が起こる文とどう違うのだろうか。簡単である。「Это がこの文のポイント」である以上、日本語のニュアンス的には「これは本だ」ではなく、「これが本だ」であろう。
英語やほかの言語ではほとんど問題にならないイントネーションだが、ロシア語では、イントネーションひとつでニュアンスが、場合によっては意味合いが大きく変わってしまう。残念ながら当サイトでは音声教材を提供できないので、この問題にはこれ以上深入りしないしできないが、イントネーションの重要性だけはしっかり認識しておいていただきたい。