ロシア語講座:初級

本格的にロシア語の勉強に入る前に、とりあえず、その場しのぎ的に、「こういう場面ではこう言う」という決まり文句をいくつか覚えておこう。適切な場面で用いれば、これだけでロシア人とそれなりにコミュニケーションできる。

 なお、これ以降、発音の表示にはキリール文字を用いる。IPA を正確に表示できないブラウザがあるようなので。ただし、それも発音が表記と著しく異なる場合のみ。つまりこれ以降は、文字と発音の関係、および発音にかんする規則は身につけているものとして話を進める。

Б01:まずはあいさつから

 人と出会った際に、どんな言葉をかけるだろうか。時間的には、「おはよう/おはようございます」、「こんにちは」、「こんばんは」であろう。くだけた感じになると、「はよ」とか「こんちは」とか発音している人も少なくない。「こんちゃーす」になると若者言葉だろうか。仲のいい相手なら「よう」とか「やあ」。「おっす」とか「ハロー」などと言う人もいる。
 ロシア人はそのような場合、どのような言葉を発しているのだろうか。

相手によって

Здра́вствуйте. /здра́ствуйте/
 ロシア人がもっとも頻繁に、日常的に使うあいさつ言葉。必ず覚えておこう。
 問題は、発音がやたらと難しいこと。母音が入らず子音だけが2つも3つも続くというのはロシア語では日常茶飯事だから、この程度でびびっていてはいけない。なお最初の -в- は発音しないので(黙字のルールに従っている)、実際には /здраствуйте/ と発音される。冒頭の здр-、真ん中の -ств- を、母音を入れずに発音できるように練習しよう。この言葉は、3音節から成っている。しかしたいていの日本人が、7音節ぐらいで発音してしまっている。「待ってた」のリズムで発音すること。ただしイントネーション(音の高低)は、「待ってた」でも「追っかけ」でもかまわない(詳しいイントネーションの法則については別途説明する)。
 ただし、これを使うのは次のような場合のみ。
  • 30代以上の年齢の人が、同年輩、あるいは年上に対して。
  • 20代以下の年齢の人が、年上に対して。
  • 年代と無関係に、複数の相手に対して。
では、次のような場合はどう言うのか。
  1. 30代以上の年齢の人が、単数の年下(特にティーン以下)に対して。
  2. 20代以下の年齢の人が、単数の同年輩、あるいは年下に対して。
Здра́вствуй. /здра́ствуй/
 上記の 1.、つまり「30代以上の年齢の人が、単数の年下(特にティーン以下)に対して」使うあいさつ言葉。単純化して言えば、大人が子供相手に使うあいさつ、と理解しておいていい。
 もっとも、30代以上の年齢の人が、同年輩の親しい友人などに使うこともある。
Приве́т.
 上記の 2.、つまり「20代以下の年齢の人が、単数の同年輩、あるいは年下に対して」使うあいさつ言葉。われわれ日本人に即して言えば、小中高校生・大学生だけが使う、と言ってもいい。若者言葉。とはいえ、近年、20代どころか30代の人でもこの言葉を使う人が増えている。特に女性。女性は永遠に若いのである。

 このように微妙に使い分けが面倒だが、実践的な観点からすると、とりあえず社会人以上は «Здра́вствуйте.»、大学生以下はそれプラス «Приве́т.» を覚えておくこと。
 ここで、相手の立場、相手との関係によってセリフが変わる、という点はしっかり理解しておこう。

相手がひとり相手が複数
こちらの年代相手が年下相手が同年輩相手が年上
ティーン20代
30代以上тыты | вывы
20代тыты | вывы
20代以下тытывы

この表の ты とは何か、вы とは何か、はどうでもいい。大事なのはこの区別である。この区別は、ロシア人と言葉を交わす際には必ずついてまわる問題である。この区別が適切にできないと、ロシア人と円滑な人間関係を築くことは不可能だ。その意味で、繰り返すが、ты や вы の意味はどうでもいいが、どのような場合が ты に、どのような場合が вы に相当するか、はしっかり理解しておくことが必須である。
 вы に相当する相手には «Здра́вствуйте.»、ты に相当する相手には «Здра́вствуй.» か «Приве́т.» を使うのである。
 まず、あなたの年齢を確認しよう。
 あなたがすでに三十歳を過ぎていたら、上の段をしっかり理解しておこう。と言って、難しいことはない。基本的にはロシア人に話しかける場合はすべて同じで、ただ相手がティーンエイジャーの場合だけ異なる、と覚えておけばいい。つまり、相手がティーンエイジャーの場合だけ «Здра́вствуй.»、それ以外は誰に対しても «Здра́вствуйте.» である。
 あなたがまだ二十歳に達していなければ、下の段を理解しておこう。こちらもさほど難しくはあるまい。年上に対してだけ «Здра́вствуйте.»、それ以外は誰に対しても «Приве́т.» である。
 ただし20代は両者の狭間に位置し、微妙なところである。大学生は「20代以下」に準じるが、大学生でない20代は、背伸びして「30代以上」か、あるいは気分的に「20代以下」か、個々人にもよる。
 もうひとつ、相手が複数の場合は、もはやこちらの年齢も相手の年齢も無関係である。
 この区別に、ロシア人はうるさい。ロシア語には敬語が存在しないが、言うならばこの区別がその代わりを務めている、ということだ(部分的に、ではあるが)。

時間帯によって

 ヨーロッパの言語は、基本的に「良い朝」、「良い昼」、「良い晩」といったように、時間ごとにあいさつ言葉を使い分けるのが一般的である。

日本語英語ドイツ語フランス語スペイン語ロシア語
おはようGood morning.Guten Morgen.Bon jour.Buenos días.Доброе утро.
こんにちはGood day. | Good afternoon.Guten Tag.Добрый день.
こんばんはGood evening.Guten Abend.Bon soir.Buenas tardes.Добрый вечер.

たとえば、あなたは「おはよう」と「こんにちは」の境目を何時に置いているだろうか。10:00は「おはよう」だろうか、「こんにちは」だろうか。いかなる言語でもこの区切りは曖昧である。のみならず、時間の区切りは言葉ごとに微妙に違う。ロシア語の場合はどうか。詳しく見ていこう。

До́брое у́тро. /до́брае у́тра/
 「朝」に使うあいさつ。
 ロシア人が「朝」と認識するのは、大雑把に日の出から真昼まで。その意味で、このあいさつは、英語の Good morning、スペイン語の Buenos días などと同じく、午前中に使われるあいさつ。
 ここで注意。このロシア語 «До́брое у́тро.» は、日本語の「おはよう/おはようございます」には相当しない。なぜなら、第一に、上述のように微妙に使用時間帯が異なる。第二に、日本語の「おはよう/おはようございます」は夕方でも夜中でも使うことがあるが、ロシア語 «До́брое у́тро.» にそのような使い方はない。よって、あくまでも「明け方から昼の 12:00 まで」という時間帯にあわせて使うこと。
 ただし現代は真夜中でも平気で起きている人がいるので、まだ太陽が顔を出していない時間帯に «До́брое у́тро.» を使うこともある。
До́брый де́нь.
 「昼」に使うあいさつ。
 ただしロシア人が「昼」と認識するのは、要するに午後である。昼の 12:00 までは «До́брое у́тро.» を使うので、«До́брый де́нь.» を使うのはその後、ということになる。使用の下限は、おおよそ夕刻。大雑把に 17:00 頃と考えておいていい。
До́брый ве́чер.
 「夕方・晩」に使うあいさつ。本来は「夜」ではない。
 «До́брое у́тро.» に続いて、17:00 頃から使い始める。本来であれば寝静まっているはずの真夜中でも、現代では平気でひとが出歩いている。このため «До́брый ве́чер.» の使用時間も伸びに伸び、«До́брое у́тро.» が使われ始める明け方までになった。

 ロシア語には、このように、こちらと相手の年代によって使い分ける «Здра́вствуйте. | Здра́вствуй.»、«Приве́т.» 系と、時間帯によって使い分ける «До́брое у́тро.»、«До́брый де́нь.»、«До́брый ве́чер.» 系との、2系統のあいさつが並存している。別に、どちらがどうという区別はないので、好きな方を好きなように使えばいい。

既知のロシア人と出会った際に

 «Здра́вствуйте.» などの代わりにはならない。それらと併用することになる。

Кого́ я́ ви́жу! /каво́ я́ ви́жу/
 日本語の感覚からすると、「誰かと思ったら!」という感じだろうか。思いがけない人と出会った際に用いる。
Давно́ не ви́делись.
要するに「お久しぶり」である。
Ско́лько ле́т, ско́лько зи́м! /ско́лька ле́т ско́лька зи́м/
 «Давно́ не ви́делись.» と同じく「お久しぶり」だが、こちらはかなり長期にわたって会っていなかった人に再会した際に用いる。本来の意味からすると数年程度ではない。少々大仰な表現なので、逆に会わなかった期間がさほど長期でもない相手に対して用いると、滑稽な感じ、皮肉な感じなど、シチュエーションや相手との関係、言い方(イントネーションなど)にもよるが特殊なニュアンスを持つことになる。

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最終更新日 28 02 2015

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