有名人かどうかは知らないが。
なお、特にスポーツ関連などでは、ロシア語のわかっていない人が英語表記やフランス語表記から何となくカタカナ化しているらしく、本来のロシア語からするとおかしな日本語訳になっていることが多々ある。トカチェフとかシハルリドゼとかプルシェンコとか。この点は念頭に置いておいていただきたい。
以下、見出しの日本語表記は慣習に従う。
- アシモフ Ази́мов (アジーモフ) 男
- 日本では二足歩行ロボットの名前にもなったアメリカの著名なSF作家アイザック・アシモフは、ロシア生まれのユダヤ人。かれは英語では Asimov と表記し、«アジモフ» と読ませていたが(アシモフという日本語表記は間違い)、本来のロシア語ではアジーモフ Ази́мов ないしオジーモフ Ози́мов。ロシア語の発音はどちらも一緒だが、本来のスペルは後者。男性名オジーム Ози́м (あるいはアジーム Ази́м)に由来する姓だが、このイーミャは元来 зима́ (冬)からつくられたあだ名。おそらく冬に生まれた子に名付けられていたのだろう。
もっともこれには異説もあって、アジーモフ(あるいはアシーモフ Аси́мов)という姓はテュルク(トルコ)系の男性名アシム(ハシム)に由来するとも言われる。実際中央アジア系の人にはアシーモフという姓がある。ユダヤ人のアイザック・アジモフがテュルク系の姓を持っているとも考えにくいが。
女性形はアジーモヴァ。 - アスタホワ Аста́хова (アスターホヴァ) 女
- 男性名エヴスターフィイ Евста́фий、あるいはエヴスターヒイ Евста́хий の崩れた形アスターフ Аста́х から。
男性形はアスターホフ。 - アフマートワ Ахма́това (アフマートヴァ) 女
- 言うまでもなくテュルク系の男性名アフメト Ahmet から。この名には様々なバリエーションがあり、アフマートというのもそのひとつ。ロシアの国民的詩人がテュルク系のイーミャに由来する姓を持っているというのは、ロシアという国の多民族性を象徴しているかのようだ。
男性形はアフマートフ。 - アンドリアーノフ Андриа́нов 男
- 古代ローマの男性名ハドリアヌス Hadrianus が起源。頭の h が落ちてアドリアヌス Adrianus となり、それがロシア語に入ってアドリアーン Адриа́н となり、さらにアンドレーイ等の影響で н が加えられてアンドリアーン Андриа́н という男性名が生まれた。
女性形はアンドリアーノヴァ。 - イシンバエワ Исинба́ева (イシンバーエヴァ) 女
- テュルク系の姓。かつて新体操の選手にカバーエヴァ Каба́ева というのがいたが、このように «〜〜バーエフ»、«〜〜ベコフ» で終わる姓というのはテュルク系に多く、基本的には «バイ(ベイ)»、«ベク» から来たもの。イシンバーエヴァも父はダゲスターン(北カフカーズ)のイスラーム系の出身なので、おそらく元来はイシン・バイとでも名乗っていたのだろう。
なお、バシュキール(ウラル地方)の南部にイシンバイ Ишинбай という小都市がある。綴り(と発音)は若干異なるが、何らかの関係があるのだろうか?
男性形はイシンバーエフ。 - ヴァシレフスキイ Василе́вский (ヴァシレーフスキイ) 男
- 男性名ヴァシーリイ Васи́лий から。ただし一般論で言うと、«〜〜スキイ» で終わりアクセントの位置がお尻にある姓はポーランド起源であることが多い。
女性形はヴァシレーフスカヤ。 - ヴィソツキイ Высо́цкий (ヴィソーツキイ) 男
- высо́кий (高い)から。ただしこれもおそらくはポーランド起源。
女性形はヴィソーツカヤ。 - ウシャコフ Ушако́в (ウシャコーフ) 男
- 男性名ウシャーク Уша́к から。このイーミャの語源は不明で、ロシア語(耳の大きい人)ともテュルク語(小さい人)とも言われている。
女性形はウシャコーヴァ。 - ウラノワ Ула́нова (ウラーノヴァ) 女
- 男性名ウラーン Ула́н から。このイーミャは非キリスト教的で、そのためこんにちでは使われていないが、かつてはかなり一般的なイーミャだったらしい。もともとはテュルク系の言葉。モンゴルのウラン=バートル、ブリャーティヤのウラン=ウデといった地名に見られるが、テュルク系の言葉では «若者» という程度の意味だったらしい。現代ロシア語では «槍騎兵» という意味。
男性形はウラーノフ。 - エセーニン Есе́нин 男
- 男性名エセーニ Есе́нь から。このイーミャは、秋 о́сень が民間で訛ったもの。
女性形はエセーニナ。 - エリセーエフ Елисе́ев 男
- 男性名エリセイ Елисе́й から。
女性形はエリセーエヴァ。 - エリツィン Е́льцын (エーリツィン) 男
- Ел- で始まる男性名から、あるいは еле́ц (コイ科の淡水魚)から。
女性形はエーリツィナ。 - オネーギン Оне́гин 男
- おそらくオネガ河 Оне́га から。創作上の姓。
女性形はオネーギナ。 - オパーリン Опа́рин 男
- опа́ра (発酵した練り粉、そこからつくった酵母)から。
女性形はオパーリナ。 - ガイダール Гайда́р 男・女
- ペンネーム。ただしその子孫にとってはペンネームではなく正式な姓となっている。ソ連時代の将軍、体制転換期の政治家にとっては、ガイダールが本名である。
このペンネームを考え出した作家(将軍の父、政治家の祖父)本人が由来を説明していないので、諸説あるものの、語源は不明である。 - ガガーリン Гага́рин 男
- 15世紀、ミハイール・イヴァーノヴィチ公爵が «ガガーラ Гага́ра (鳥の名)» というあだ名で呼ばれていた。以後、ロシア有数の大貴族の姓として知られている。もっとも、このあだ名は公爵とは何の関係もない人にもつけられていたので、この公爵家とは縁もゆかりもない人もガガーリンという姓を持っている。またこの公爵家の所有していた農奴の中にものちにガガーリンという姓を名乗った者がいる。
人類初の宇宙飛行士も、この公爵家とは何の関係もない。
女性形はガガーリナ。 - カフェリニコフ Ка́фельников (カーフェリニコフ) 男
- ка́фельник (タイル工)から。
女性形はカーフェリニコヴァ。 - ガモフ Га́мов (ガーモフ) 男
- 俗語 га́м (騒々しい)があだ名となり、男性名になったものに由来する。
女性形はガーモヴァ。 - カラシニコフ Кала́шников (カラーシュニコフ) 男
- кала́ч (白パン、特に特殊な形をしたもの)を焼く職人 кала́чник から。
女性形はカラーシュニコヴァ。 - カラマーゾフ Карама́зов 男
- кара- (テュルク語で «黒»)+ маз- (塗る)。創作上の姓。
女性形はカラマーゾヴァ。 - カラムジン Карамзи́н (カラムジーン) 男
- 学者はカラムジーンの家名の由来を、テュルク系の人名カラ・ミルザに求めている。この説に対しては異論もあるものの、カラムジーンという姓がテュルク系の言語に由来する、という点については異論がなさそうだ。
女性形はカラムジナー。 - カルサーヴィナ Карса́вина 女
- 現ラトヴィア東部の都市カルサヴァ Karsava から。
男性形はカルサーヴィン。 - カルプヒナ Карпу́хина (カルプーヒナ) 女
- 男性名カールプ Ка́рп の愛称形カルプーハ Карпу́ха から。カールプという男性名はこんにちではほとんどお目にかかることがないが、ギリシャ語起源の由緒あるキリスト教的男性名である。カールポフ Ка́рпов という姓にもなっている。
男性形はカルプーヒン。 - カンディンスキイ Канди́нский (カンディーンスキイ) 男
- もともとのつづりはコンディーンスキイ Конди́нский(ロシア語では発音は同じ)。古くはコンディーイスキイ Конди́йский とも。「コンダ河の」という意味で、イルトィシュ河の支流コンダ河のことを指している。祖先はあの辺りの出身者だったのだろうか。あそこら辺は15世紀頃までハントィ=マンシ人(フィン系)の居住地だった。
女性形はカンディーンスカヤ。 - キム Ки́м 男・女
- 言うまでもなく朝鮮系の姓「金」。ロシアには古来、極東に多くの朝鮮系住民がいた。また第二次世界大戦の結果、«日本人» としてシベリア抑留の被害を受けた朝鮮系の人も多かった。いまでは二世、三世になって、名前も父称もすっかりロシア人ぽくなっているキムさんが山のようにいる(ただし顔立ちはやはり東洋系)。
1976年のモントリオールで、コマネチの陰に隠れてしまったソ連女子体操のエース、ネリ・キムも朝鮮系。ちなみに «ネリ Не́лли» というイーミャは、英語の Nelly、Nellie。ロシア人のイーミャではない(なお、ロシア語では «ネリー» という発音にはならない)。 - クツーゾフ Куту́зов (クトゥーゾフ) 男
- 大きくふたつの説がある。ひとつはロシア語の куту́з。これは方言で、地方によって意味が様々だが、大雑把に «しまりのない人» という意味であだ名・男性名として使われていたという。もうひとつはテュルク語の qutuz で、«凶暴な、血迷った» といった意味らしい。いずれにせよ、フョードル・アレクサンドロヴィチという人が «クトゥーズ» というあだ名で知られ、これがクトゥーゾフという姓の由来となった、とかの元帥の家系では伝えている。
女性形はクトゥーゾヴァ。 - クリーク Кули́к 男・女
- シギ кули́к (鳥の名)から。もっとも、それがあだ名、さらには男性名に転じたもの。ロシアではシギは否定的に捉えられていたようで、このイーミャも «酔っ払い» とか «愚か者» といった意味合いを持っていたとされる。
なお、よりロシア語っぽい姓としては、クリコーフ。クリークだと、ベラルーシやウクライナにより多く見られる。
男性形・女性形の区別はない。 - グリボエードフ Грибое́дов 男
- грибое́д (虫の名前)から。この虫の名はもともとは гриб (キノコ)+ еда́ (食べること)から。キノコを食べるのだろうか。
女性形はグリボエードヴァ。 - クリモワ Кли́мова (クリーモヴァ) 女
- 男性名クリメーント Климе́нт の俗形のひとつクリーム Кли́м から。
男性形はクリーモフ。 - グリンカ Гли́нка 男・女
- ポーランドからベラルーシ、ロシアにかけて各地にある同名の村落から。かの作曲家はポーランド系。この村落名そのものはハトの意味。
男性形・女性形の区別はない。 - クルニコワ Ку́рникова (クールニコヴァ) 女
- ку́рник (鶏舎、鶏商)から。
男性形はクールニコフ。 - ゴーゴリ Го́голь 男・女
- го́голь (ホオジロガモ)から。ただし、それが転じて «伊達者» という意味で使われていたそうだ。そういう意味のあだ名から姓になったのだろう。もっとも、ゴーゴリはウクライナ人。
男性形・女性形の区別はない。 - コスモデミヤンスカヤ Космодемья́нская (コスモデミヤーンスカヤ) 女
- 聖コスマス & 聖ダミアノスにちなんでつくられた姓。教会関係者の間に見られた。
男性形はコスモデミヤーンスキイ。 - ゴドノフ Годуно́в (ゴドゥノーフ) 男
- あだ名ゴドゥーン Году́н から。これはウクライナやベラルーシでは «養育者» という意味だが、ヤロスラーヴリ(モスクワの北東)では逆に «被養育者» という意味である。同時に、«1年(ゴード)契約で雇われた労働者» も意味した。しかしおそらく、ボリース・ゴドゥノーフの姓の由来となったのは、«無分別な» という意味のテュルク系の言葉(の影響)であろうと言われる。
女性形はゴドゥノーヴァ。 - コーネフ Ко́нев 男
- ко́нь (馬)から。男性名(あだ名)として使用されていたもの。馬を表すロシア語はほかに ло́шадь というのもあるが、конь が «駿馬» や «軍馬» などを指すのに対して、лошадь は馬一般を表し、«馬車馬» や «駄馬» という場合にも使われる。このためだろう、イーミャとして лошадь が使われた例はなく、結果として «ローシャディン» などという姓は存在しない。
女性形はコーネヴァ。 - ゴーリキイ Го́рький 男
- «ペンネーム»。ロシア語の形容詞 го́рький (苦い)そのまま。
女性形はゴーリカヤ。 - コルチャーク Колча́к 男・女
- 起源は複数の説があるようで、必ずしも明確ではない。ロシア語とも、テュルク系の言葉とも、果ては男性名ニコラーイとも言われる。
男性形・女性形の区別はない。 - ゴルバチョフ Горбачёв (ゴルバチョーフ) 男
- горба́ч (せむし)から。
女性形はゴルバチョーヴァ。
同様の由来を持つ姓に、ゴルバートフ Горба́тов、ゴールビン Го́рбин、ゴルブノーフ Горбуно́в などがある。 - ゴロホフスカヤ Горохо́вская (ゴロホーフスカヤ) 女
- горо́х (エンドウ)、あるいはゴローフ Горо́х (おとぎ話の王さま)から。ゴローホフ Горо́хов であればロシア系だが、ゴロホーフスキイとなるとポーランド系。
男性形はゴロホーフスキイ。 - コロリョフ Королёв (コロリョーフ) 男
- коро́ль (王)から。ただしこれは、あだ名、あるいは男性名として使われていたもの。ほかにもツァリョーフ Царёв だのクニャーゼフ Кня́зев だの(ぞれぞれツァーリと公爵から)といった姓もある。農民出身者に多い。アメリカで黒人奴隷がデュークだのプリンスだのと呼ばれていたことを想起させるが、そういう意味合いはまったくない。単純に将来の富貴を願ってつけられたイーミャ(が姓に転じた)。
女性形はコロリョーヴァ。 - ゴンチャロフ Гончаро́в (ゴンチャローフ) 男
- гонча́р (陶工)から。ウクライナ系(?)などには、そのまま «ゴンチャール» という姓もある。
女性形はゴンチャローヴァ。 - コンドラーチエフ Кондра́тьев (コンドラーティエフ) 男
- 男性名コンドラーティイ Кондра́тий から。
女性形はコンドラーティエヴァ。
同様の由来を持つ姓に、コンドラショーフ Кондрашёв、コンドラーシン Кондра́шин がある。どちらも、男性名コンドラーティイの愛称形コンドラーシャ Кондра́ша から。女性形はコンドラーシナ。 - サネーエフ Сане́ев 男
- 男性名アレクサンドル Алекса́ндр の愛称形サーニャ Са́ня が、おそらくさらに崩れた形が基になっているものと思われるが、それがどのような形であったのか再建は難しい(文法的に再建すると «サネーイ Сане́й»)。アレクサンドルというイーミャはロシアでは非常にポピュラーで、特に民間で崩れた形が古い時代には無数に使われていたようだ。その痕跡が、こんにち多くの姓に見られる。
女性形はサネーエヴァ。 - サハロフ Са́харов (サーハロフ) 男
- са́хар (砂糖)から。それが転じてあだ名、あるいは男性名として使われていた(基本的にはいい意味で «優しい人、愛想のいい人、温和な人» 等)。
女性形はサーハロヴァ。 - サーフィン Са́фин 男
- タタール系。意味は知らない。
女性形はサーフィナ。 - サルトィコフ Салтыко́в (サルトィコーフ) 男
- 男性名サルトィク Салты́к から。この名は、おそらくテュルク語起源だが、厳密な意味は不明。1500年前後には、そこそこポピュラーだったらしい。
女性形はサルトィコーヴァ。 - シコルスキイ Сико́рский (シコールスキイ) 男
- ポーランド系。ポーランド語の sikora (シジュウカラ)から。
女性形はシコールスカヤ(ポーランド語ではシコルスカ)。 - シチェドリーン Щедри́н 男
- あだ名シチェドラー Щедра́ から。あばた、特に天然痘によるあばたのある人をこう呼んだらしい。ちなみに、シャトローフ Шатро́в も同じ意味。
女性形はシチェドリナー。 - シャガール Шага́лов 男
- «シャガール» というのは、ユダヤ人の姓 Segal (レヴィ族、転じて聖職者、の補佐)が北東イディッシュで訛ったもの。高名な画家はベラルーシで生まれ、ベラルーシ語では Шагалаÿ。ロシア語では本来シャガーロフとなった。ただしあの画家に限って言えば、シャガールという形が世界的に知られているので、ロシア語でも Шага́л と綴る方が一般的。
男性形・女性形の区別はない。 - シャフライ Шахра́й (シャフラーイ) 男・女
- ウクライナ、ベラルーシ、ポーランドなど、西方系の姓。いずれの言語でも、おおよそ «コソ泥・ペテン師» を意味する。そういうあだ名だったのか、あるいは一種の «魔除け» として付けられたのか。
男性形・女性形の区別はない。 - シャラポワ Шара́пова (シャラーポヴァ) 女
- ? もともとはベラルーシの出身なので、ベラルーシ語か何かだろうか。
男性形はシャラーポフ。 - ジューコフ Жу́ков 男
- жу́к (コガネムシやカブトムシなどの甲虫類)から。ただし、ジュークそのままだとおそらくウクライナ系(かベラルーシ系)、ジュコーフスキイとなるとポーランド系。
女性形はジューコヴァ。 - シュシュノワ Шушуно́ва (シュシュノーヴァ) 女
- шушу́н (農婦の上着)から。
男性形はシュシュノーフ。 - ショスタコーヴィチ Шостако́вич 男・女
- 男性名ショスターク Шоста́к から。このイーミャは本来はシェスターク Шеста́к といい、«6番目の子» を意味した。
男性形・女性形の区別はない。 - スヴェルドロフ Свердло́в (スヴェルドローフ) 男
- あだ名スヴェルドロー Свердло́ から。これはかつては、こんにちの сверло́(錐)を意味したらしい。
女性形はスヴェルドローヴァ。 - スヴォーロフ Суво́ров 男
- суво́р から。この言葉はおそらく суро́вый (峻厳な・陰気な)の方言。これが男性名となった。
女性形はスヴォーロヴァ。 - スクリャービン Скря́бин 男
- あだ名スクリャーバ Скря́ба から。この言葉は «引っ掻く» というような意味だったそうだ。
女性形はスクリャービナ。 - スタニスラフスキイ Станисла́вский (スタニスラーフスキイ) 男
- «ペンネーム»。男性名スタニスラーフ Станисла́в から。
女性形はスタニスラーフスカヤ。 - スターリン Ста́лин 男
- «変名»。ста́ль (鋼鉄)から。
女性形はスターリナ。 - スタルヒン Стару́хин (スタルーヒン) 男
- стару́ха (老婆)から。
女性形はスタルーヒナ。 - ストラヴィンスキイ Страви́нский (ストラヴィーンスキイ) 男
- ポーランド系。おそらくポーランド東部にある小川ストラヴァ Strawa に由来する。
女性形はストラヴィーンスカヤ。 - ストルィピン Столы́пин 男
- あだ名(男性名)ストルィパ Столы́па から。もともとは方言で «ぶらつく» といった意味の動詞だったらしい。
女性形はストルィピナ。 - ストレリツォーフ Стрельцо́в 男
- стреле́ц (銃兵)から。銃兵とは、16世紀に創設され、17世紀には軍の中核となったエリート部隊のこと。ピョートル大帝によって解体された。
女性形はストレリツォーヴァ。 - ストロガノフ Стро́ганов (ストローガノフ) 男
- 男性名ストローガン Стро́ган から。本来はあだ名であるが、その由来は諸説ある。ひとつは стро́ганный (かんなで削られた)。もうひとつは стро́гий (厳格な)。ほかにも説はあるらしい。
女性形はストローガノヴァ。 - ズボナレワ Звонарёва (ズヴォナリョーヴァ) 女
- звона́рь (教会の鐘付き)から。しかしこれが転じて男性名としても使われていたらしい。地方によっては、«耳の聞こえない人» とか «密猟者» といった意味でも使われていたそうだ。
男性形はズヴォナリョーフ。 - スミルノフ Смирно́в (スミルノーフ) 男
- сми́рный (従順な・温和な)から。これが男性名となり、さらに姓となったもの。
2005年9月26日付の『Коммерсантъ власть』によれば、ロシアで最も多い姓らしい。ほんとかどうか知らない。最も多いのはイヴァノーフ、次にクズネツォーフだとどこかで読んだ覚えがあるが。
女性形はスミルノーヴァ。 - スモクトゥノーフスキイ Смоктуно́вский 男
- 俗語 смокта́ть (大雑把に «吸う» という意味)からつくられたあだ名・男性名スモクトゥーン Смокту́н から。
女性形はスモクトゥノーフスカヤ。 - スルツカヤ Слу́цкая (スルーツカヤ) 女
- ベラルーシの都市スルーツク Слу́цк から。ここを領土としたリューリコヴィチの公がスルーツク公 кня́зь Слу́цкий で、その子孫の姓となった。もっとも、リューリコヴィチの子孫に限らず、スルーツクの関係者でこの姓を名乗る者は多い。
男性形はスルーツキイ。 - セミョーノフ Семёнов 男
- 男性名セミョーン Семён から。
女性形はセミョーノヴァ。 - タラソワ Тара́сова (タラーソヴァ) 女
- 男性名タラース Тара́с から。
男性形はタラーソフ。 - タルコフスキイ Тарко́вский (タルコーフスキイ) 男
- ポーランド系。おそらくポーランド東部にある集落タルクフ Tarków に由来する。
女性形はタルコーフスカヤ。 - チェーホフ Че́хов 男
- че́х から。この言葉は、文字通り «チェコ人» を意味したとも、あるいはあだ名(意味不明)だったとも言われている。もっとも、«チェコ人» という意味であったとしても、そういう意味で使われたあだ名である。チェーホフの祖先がチェコ人だった、というわけではない。
女性形はチェーホヴァ。 - チェルカソフ Черка́сов (チェルカーソフ) 男
- черка́с から。この言葉が具体的に何を表すかは少々複雑だが、現在北カフカーズにいる少数民族チェルケース人 черке́с と同語源であることは疑いない(チェルケースという言葉自体、本来は広くカフカーズ北西部に住む山岳民族の総称だった)。チェルカースという言葉はおそらくそれより早くからロシア語に取り入れられていて、広く南ロシアからウクライナにかけて住む «まつろわぬ人々» を指したようで、コサックやウクライナ人もチェルカースと呼ばれたことがある。これがあだ名・男性名に転じ、それが姓となったもの。
女性形はチェルカーソヴァ。 - チェレンコフ Черенко́в (チェレンコーフ) 男
- черено́к (柄・取っ手)から。
女性形はチェレンコーヴァ。 - チャイコフスキイ Чайко́вский (チャイコーフスキイ) 男
- ча́йка (カモメ)から。
かの大作曲家の場合、祖先に Ча́йка というあだ名で呼ばれたコサックがいたことからこの姓になった。
女性形はチャイコーフスカヤ。 - チャパーエフ Чапа́ев 男
- あだ名・男性名チャパーイ Чапа́й から。もともとは方言で «つかむ・動かす» といったような意味で使われていた動詞からつくられたものらしい。どういう意味合いのイーミャだったのかはよくわからない。
女性形はチャパーエヴァ。 - チュカーリン Чука́рин 男
- 方言の чука́вый (機転の利く・悪賢い)からつくられたあだ名・男性名チュカーラ Чука́ра から。
女性形はチュカーリナ。 - ツィオルコフスキイ Циолко́вский (ツィオルコーフスキイ) 男
- ポーランド系。ポーランド語の ciołek (去勢牛)からつくられた Ciołkowski。
女性形はツィオルコーフスカヤ。 - ツベタエワ Цвета́ева (ツヴェターエヴァ) 女
- цве́т (花)を基に、«開花する» とか «繁栄する» といった意味合いで新たにつくられた姓。主に教会関係者によってつけられた。
男性形はツヴェターエフ。 - ツリシチェワ Тури́щева (トゥリーシチェヴァ) 女
- ту́р (現在絶滅したヨーロッパ野牛)からつくられたあだ名トゥリーシチェ Тури́ще から。
男性形はトゥリーシチェフ。 - ツルゲーネフ Турге́нев (トゥルゲーネフ) 男
- モンゴル語の türgen (すばやい)から。15世紀にキプチャク・ハーン国からモスクワに移り住んだレフという人がこのあだ名で呼ばれていたらしい。かの大作家はその子孫。
女性形はトゥルゲーネヴァ。 - ディアギレフ Дя́гилев (デャーギレフ) 男
- дя́гиль (木の名前)か、あるいは дя́глый (強壮な)から。
女性形はデャーギレヴァ。 - ティモシェンコ Тимоше́нко (ティモシェーンコ) 男・女
- ウクライナ系の姓。男性名ティモフェーイ Тимофе́й の愛称形ティモーシャ Тимо́ша から。
男性形・女性形の区別はない。 - デチャーチン Дитя́тин (ディテャーティン) 男
- スモレンスク州の村ディテャーティン Дитя́тин から? いずれにせよ、дитя́ (嬰児)の斜格から。
女性形はディテャーティナ。 - デメンティエワ Деме́нтьева (デメーンティエヴァ) 女
- 男性名デメーンティイ Деме́нтий から。
男性形はデメーンティエフ。 - テルミン Терме́н (テルメーン) 男・女
- フランス語起源とも言われるが、いずれにせよロシア語ではない。本人はフランス語では Theremine と表記していた。日本語のテルミンは、ロシア語でもフランス語でも、英語でもドイツ語でもない。
男性形・女性形の区別はない。 - テレシコワ Терешко́ва (テレシュコーヴァ) 女
- ラテン語の氏族名テレンティウス Terentius から。アクセントの位置が異なるバージョンもある(Тере́шкова)。
男性形はテレシュコーフ。 - トカチェフ Ткачёв (トカチョーフ) 男
- тка́ч (織工)から。ロシア語では本当は «トカチョーフ» だが、日本では Tkachev と表記されたことから誤ってこう発音されている。
女性形はトカチョーヴァ。 - トカレフ То́карев (トーカレフ) 男
- то́карь (旋盤工)から。
女性形はトーカレヴァ。 - ドストエフスキイ Достое́вский (ドストエーフスキイ) 男
- ベラルーシにある村ドストーエヴォ Досто́ево から。本来は «ドストーエフスキイ» と発音されていたようだが、かの有名な作家は «ドストエーフスキイ» と発音する。19世紀にロシア貴族の間に流行したポーランド風の影響である(ポーランド語では最後からふたつ目の母音にアクセントが置かれる)。
女性形はドストエーフスカヤ。 - トルストイ Толсто́й (トルストーイ) 男
- 15世紀にアンドレイ・ハリトーノヴィチという貴族が、時の支配者から то́лстый (太った)というあだ名を頂戴した。たぶんよほどのおでぶちゃんだったのだろう。あの大作家はその子孫。その後、いつの間にかアクセントの位置が変わり、«トルストーイ» となった。と言うよりは、かつてはアクセントの位置がお尻に(も)あった、と言うべきか。形容詞とはアクセントの位置が違ってお尻にある姓が多い(чёрный と Черно́в 等)。
女性形はトルスターヤ。 - トレチャコフ Третьяко́в (トレティヤコーフ) 男
- 男性名トレティヤーク Третья́к から。«3番目の子»の意味。
女性形はトレティヤコーヴァ。 - ナボコフ Набо́ков (ナボーコフ) 男
- 形容詞(から転じたあだ名) набо́кий(からだのひん曲がった)から。
女性形はナボーコヴァ。 - ニジンスキイ Нижи́нский (ニジーンスキイ) 男
- ポーランド人だし、わからない(ポーランド語では Niżyński)。想像で言うなら、ниже (より低い)と関連がある?
女性形はニジーンスカヤ(ポーランド語ではニジンスカ)。 - ヌレーエフ Нури́ев (ヌリーエフ) 男
- わからない。タタール系だし。テュルク系の言葉 nur (光)から? 日本語の «ヌレーエフ» は英語の «Nureyev» から来たものと思われるが、ロシア語では «ヌリーエフ»。
女性形はヌリーエヴァ。 - ネイガウス Нейга́уз 男・女
- ドイツ人の姓ノイハウス Neuhaus をロシア語に写したもの(ちなみに意味は «新居»)。ドイツ語では eu というスペルは «オイ» と発音するが、ロシア語ではこのドイツ語を、スペルと発音の両方に義理だてして、エウ еу でもオイ ой でもなくエイ ей と表記・発音する。
男性形・女性形の区別はない。 - ネモフ Не́мов (ネーモフ) 男
- немо́й (唖の)から。実際に聾唖であるか否かにかかわらず、寡黙な人のあだ名として、ひいては男性名としてネモーイ Немо́й、あるいはネーム Не́м などが使われていた。
女性形はネーモヴァ。 - パヴロフ/パヴロワ Па́влов (パーヴロフ/パーヴロヴァ) 男/女
- 男性名パーヴェル Па́вел から。
- バクーニン Баку́нин 男
- 起源はふたつ考えられる。ひとつは男性名アヴァクーム Авваку́м が崩れた結果。もうひとつは、あだ名バクーニャ Баку́ня、あるいはそれに類したあだ名から。このあだ名は、«おしゃべり» といった程度の意味だったようだ。
女性形はバクーニナ。 - パステルナーク Пастерна́к 男・女
- とある食用の植物(どんなものかよくわからん)の名前(学名 Pastinaca sativa)に由来するそうだ。
男性形・女性形の区別はない。 - パホモワ Пахо́мова (パホーモヴァ) 女
- 男性名パホーミイ Пахо́мий の俗形パホーム Пахо́м から。
男性形はパホーモフ。 - バランシーン Баланчива́дзе (バランチヴァーゼ) 男
- ? グルジア人の姓。バランシーンというのは、この姓をロシア風にしたバランチーン Баланчи́н のフランス語読み Balanchine。
ちなみに、スターリンによれば、«〜〜アーゼ»、«〜〜イーゼ» というのは貴族の姓で、«〜〜シュヴィリ» は庶民の姓だそうだ(スターリン自身の本姓はジュガシュヴィリ)。 - バリシュニコフ Бары́шников (バルィーシュコニフ) 男
- бары́шник (仲買人)から。
女性形はバルィーシュニコヴァ。 - ハルラーモフ Харла́мов 男
- 男性名ハルラームピイ Харла́мпий が崩れた形ハルラーム Харла́м から。この名は、ロシア語に限らずどの言語でも見たことも聞いたこともないイーミャだが、れっきとしたギリシャ語起源の由緒あるイーミャである。
女性形はハルラーモヴァ。 - バロワ Ва́лова (ヴァーロヴァ) 女
- あだ名(が転じた男性名)ва́л (緩慢な人・怠惰な人)から。
男性形はヴァーロフ。 - ピロゴーフ Пирого́в 男
- пиро́г (ピローグ)から。ピローグとはロシアの食べ物のことで、ある種のパイ。
女性形はピロゴーヴァ。 - ビロゼルチェフ Билозе́рчев (ビロゼールチェフ) 男
- モスクワ北方の白湖 Бе́лое о́зеро、あるいはその湖畔にある都市ベロゼールスク Белозе́рск 出身者を表す белозе́рец から。ゆえにベロゼールツェフ Белозе́рцев が本来の形で、ビロゼールチェフはその崩れた形。
女性形はビロゼールチェヴァ。 - フェティーソフ Фети́сов 男
- 男性名フェオクティースト Феокти́ст から。これが崩れたフェティース Фети́с なるイーミャが、おそらくかつては存在したのだろう。もっともこんにちではフェオクティーストにせよフェティースにせよ、使われることはない。
女性形はフェティーソヴァ。 - フォーキン Фо́кин 男
- 男性名フォーカ Фо́ка から。このイーミャはギリシャ語 phoke (あざらし)から。
女性形はフォーキナ。 - フォンヴィージン Фонви́зин 男
- ドイツ語の姓 von Wiesen をロシア語風に変えたもの。18世紀ロシアの偉大な劇作家は、バルト系ドイツ人の子孫である。
女性形はフォンヴィージナ。 - プガチョフ/プガチョワ Пугачёв (プガチョーフ/プガチョーヴァ) 男/女
- пуга́ч (かかし)から。
- ブーキン Бу́кин 男
- 俗語 бу́ка (愛想無し・人間嫌い)があだ名となり、男性名となったものに由来する。
女性形はブーキナ。 - プーシキン Пу́шкин (プーシュキン) 男
- 14世紀の貴族グリゴーリイ・アレクサンドロヴィチが «プーシュカ Пу́шка (大砲)» というあだ名で呼ばれていた。かの大詩人はその子孫。
女性形はプーシュキナ。 - プチャーチン Путя́тин (プテャーティン) 男
- あだ名(あるいは男性名)プテャータ Путя́та から。男性名プティミール Путими́р、プスティスラーフ Пустисла́в、あるいは形容詞 пу́тный (有能な)から来たとされる。
女性形はプテャーティナ。 - プーチン Пу́тин (プーティン) 男
- よくわからない。おそらく путь (道)から来たものと思われるが、上記と関連があるのかもしれない。
女性形はプーティナ。 - プドフキン Пудо́вкин (プドーフキン) 男
- 男性名プード Пу́д から。このイーミャはラテン語 pudeo (恥じる)より。そこから生じた愛称形・俗形のプドーフカ Пудо́вка からつくられた。
女性形はプドーフキナ。 - ブーニン Бу́нин 男
- ウラル地方を中心とした方言の動詞 буни́ть、буне́ть (泣く、鳴く、吼える)から。
女性形はブーニナ。 - プリセツカヤ Плисе́цкая (プリセーツカヤ) 女
- ウクライナにある村プリスキイ Плиски́ から。
男性形はプリセーツキイ。 - ブルガーコフ Булга́ков 男
- あだ名(男性名?)ブルガーク Булга́к から。もともとはテュルク系の булга́ (不安・騒動)が語源らしい。
16世紀の地主ヴァシーリイ・ヤーコヴレヴィチ・ベズソーニエフには、ブルガーク、スエター、ネウストローイ、ストールマという4人の息子がいたという。いずれも同じく «不安・騒動» という意味のイーミャである。何を考えてこんなイーミャを、しかも4人全員につけたのか、よくわからん。
女性形はブルガーコヴァ。 - プルジェヴァリスキイ Пржева́льский (プルジェヴァーリスキイ) 男
- この姓はもともとポーランド語プジェヴァルスキ Przewalski。意味は «倒す»。
女性形はプルジェヴァーリスカヤ。 - プルシェンコ Плю́щенко (プリューシチェンコ) 男・女
- ウクライナ系の姓。плю́щ (キヅタ)から。
男性形・女性形の区別はない。 - フルシチョフ Хрущёв (フルシチョーフ) 男
- хрущ から(辞書には «コフキコガネ» とか書いてあったが、コガネムシの一種)。
女性形はフルシチョーヴァ。 - ブレジネフ Бре́жнев (ブレージュネフ) 男
- 下にある «ベレジュナヤ» が縮まったもの。
女性形はブレージュネヴァ。 - プレハーノフ Плеха́нов 男
- пле́шь (ハゲ)からつくられたあだ名・男性名プレハーンより。
女性形はプレハーノヴァ。 - プロコフィエフ Проко́фьев (プロコーフィエフ) 男
- 男性名プロコーフィイ Проко́фий から。
女性形はプロコーフィエヴァ。 - ベリンスキイ Бели́нский (ベリーンスキイ) 男
- 元来は集落の名ベーリ Бе́ль、ベルィニ Белы́нь などに由来する。19世紀の批評家の姓も本来はベルィニスキイ Белы́ньский であった。
女性形はベリーンスカヤ。 - ベレジュナヤ Бережна́я (ベレジュナーヤ) 女
- бе́режный (思いやりある)から。
男性形はベレジュノーイ。 - ボギンスカヤ Боги́нская (ボギーンスカヤ) 女
- ベラルーシにある湖ボギーンスコエ Боги́нское から。なおこの湖の名そのものは、おそらく боги́ня (女神)から。
男性形はボギーンスキイ。 - ポチョムキン Потёмкин (ポテョームキン) 男
- потёмки (暗闇)から。おそらく深夜に生まれた子供につけられた男性名。
女性形はポテョームキナ。 - ポポフ Попо́в (ポポーフ) 男
- по́п (口語で坊さん)から。別に坊主の子供とは限らない。
女性形はポポーヴァ。 - ボロディン Бороди́н (ボロディーン) 男
- борода́ (ヒゲ)から。
女性形はボロディナー。 - マヤコフスキイ Маяко́вский (マヤコーフスキイ) 男
- мая́к (灯台)から。
女性形はマヤコーフスカヤ。 - マルシャーク Марша́к 男・女
- 「われらが教師たるラビ、シュムエル・ベン・イスラエル・カイダノヴェル」というヘブライ語の頭文字からつくられた、ユダヤ人の姓。シュムエル云々という人は17世紀にポーランド=リトアニアで活躍した聖書学者である。ユダヤ人でありながら «〜〜アーク» というスラヴ系の姓なのは、ポーランド=リトアニアで活躍したためだろう。
男性形・女性形の区別はない。 - ミチューリン Мичу́рин 男
- あだ名ミチューラ Мичу́ра から。このあだ名は、男性名ドミートリイから来たとも言われているようだ。
女性形はミチューリナ。 - ムソルグスキイ Му́соргский (ムーソルグスキイ) 男
- 15世紀にロマーン・モナスティリョーフ公爵という人が «ムソールガ Мусо́рга» というあだ名で呼ばれていた。このあだ名の由来は不明。
本来はムソルグスコーイ Мусоргско́й だったが、かの作曲家はアクセントの位置を頭の у に置いている。
女性形はムーソルグスカヤ。 - メイエルホリド Мейерхо́льд (メイエルホーリド) 男・女
- ドイツ人の姓マイアーホルト Meierhold。ロシア語では本来メイエルゴーリド Мейерго́льд となる。
男性形・女性形の区別はない。 - メドヴェージェフ Медве́дев (メドヴェーデフ) 男
- медве́дь (熊)から。祖先のあだ名、あるいは正式なイーミャだったのだろう。
女性形はメドヴェーデヴァ。 - メンデレーエフ Менделе́ев 男
- イディッシュの男性名メンデレ Mendele から。このイーミャはエマヌエル(ロシア語でエマヌイール)のこと。
女性形はメンデレーエヴァ。 - モイセーワ Моисе́ева (モイセーエヴァ) 女
- 男性名モイセーイ Моисе́й から。
男性形はモイセーエフ。 - モギルニー Моги́льный (モギーリヌィイ) 男
- «墓(моги́ла)の» という意味の形容詞。転じて «陰気な» といった意味にもなる。おそらくあだ名としてつけられたものが定着してしまったのだろう。
女性形はモギーリナヤ。 - モスクビナ Москвина́ (モスクヴィナー) 女
- モスクワ Москва́ から。モスクワはロシア語ではモスクヴァーと発音される。これが姓となってモスクヴィーン。その女性形がモスクヴィナーである。
- モロゾフ Моро́зов (モローゾフ) 男
- моро́з (寒さ)から。これがあだ名・男性名となり、さらに姓となったもの。
女性形はモローゾヴァ。 - モロトフ Мо́лотов (モーロトフ) 男
- «変名»。мо́лот (鎚、ハンマー)から。
女性形はモーロトヴァ。 - ヤーシン Я́шин 男
- 男性名ヤーコフ Я́ков の愛称形ヤーシャ Я́ша から。
女性形はヤーシナ。 - ユスティノフ Усти́нов (ウスティーノフ) 男
- サーの称号までもらったイギリスの俳優は、ロシア貴族の子孫。祖父プラトーンはドイツ貴族となり、父イオーナはイギリスに帰化。その息子ピーターは、ほとんど生まれながらのイギリス人だった。その本来の姓は、ロシア語ではウスティーノフであり、男性名ウスティーン Усти́н から。この名は本来はユスティーン Юсти́н であり、古代ローマの男性名ユスティヌス Justinus が起源である。とはいえ、ロシアにユスティーノフ Юсти́нов なる姓はおそらく存在しない。ウスティーノフなら、ソ連時代末期の国防相など、その姓の持ち主は多い。
女性形はウスティーノヴァ。 - ユスポフ Юсу́пов (ユスーポフ) 男
- テュルク系の男性名ユースフ Yusuf から。
女性形はユスーポヴァ。 - ラスプーチン Распу́тин (ラスプーティン) 男
- распу́тный (放蕩な・自堕落な)からつくられたあだ名・男性名ラスプータ Распу́та から。
女性形はラスプーティナ。 - ラチニナ Латы́нина (ラトィニナ) 女
- латы́нь (ラテン語)から。
男性形はラトィニン。 - ラフマノニフ Рахма́нинов (ラフマーニノフ) 男
- アラブ語の男性名ラフマーン Rahman から。
女性形はラフマーニノヴァ。 - リトヴィノフ Литви́нов (リトヴィーノフ) 男
- литви́н (リトアニア人)から。別にリトヴィーノフ家の祖先がリトアニア人だったわけではない。どういう意味で使われていたのかはわからないが、あだ名(転じて男性名)である。
女性形はリトヴィーノヴァ。 - リヒテル Ри́хтер (リーフテル) 男・女
- ドイツ人の姓リヒテル Richter (ちなみに «裁く人» を意味する)。
男性形・女性形の区別はない。 - リュビーモフ Люби́мов 男
- люби́мый (愛すべき)からつくられたあだ名・男性名リュビーム Люби́м から。
女性形はリュビーモヴァ。 - レオーノフ Лео́нов 男
- 男性名レオーン Лео́н から。
女性形はレオーノヴァ。 - レーピン Ре́пин 男
- ре́па (蕪)から?
女性形はレーピナ。 - レーニン Ле́нин 男
- «変名»。レナ河 Ле́на から。
女性形はレーニナ。 - ロジェストヴェンスキイ Роже́ственский (ロジェーストヴェンスキイ) 男
- Рождество́ (キリストの誕生、クリスマス)から。
ロジュデーストヴェンスキイ Рожде́ственский という形もある。と言うか、こちらが本来の形。«ロジェーストヴェンスキイ» は日露戦争時のバルト海艦隊司令官ぐらいで、それ以外はたいてい «ロジュデーストヴェンスキイ»。
女性形はロジェーストヴェンスカヤ。 - ロストロポーヴィチ Ростропо́вич 男・女
- 意味不明。おそらく祖先のポーランド系ベラルーシ人の姓だと思われる。
男性形・女性形の区別はない。 - ロドニナ Роднина́ (ロドニナー) 女
- родно́й (血縁の)から。
男性形はロドニーン。 - ロバチ Лоба́ч (ロバーチ) 男・女
- ло́б (額)から。«背の高い屈強な人» といった意味のあだ名・男性名として、様々な派生形が使われた。ロバーチはそのひとつ。ただしロシア語の姓としてはロバチョーフ Лобачёв などとなるのが一般的で、ロバーチのまま姓となっている例はウクライナやベラルーシに多いようだ。
ちなみに、ロバーチとロバチョーフの関係に見られるように、«〜〜オフ»・«〜〜エフ» をつけないで、基になった単語をそのまま姓として使用する例は、一般論としてウクライナやベラルーシ、さらにはポーランドなどに多い(ロシア語のコヴァリョーフとウクライナ等のコヴァーリ、ロシア語のメーリニコフとウクライナ等のメーリニク)。
男性形・女性形の区別はない。 - ロバチェフスキイ Лобаче́вский (ロバチェーフスキイ) 男
- 同上。これもどちらかと言うとポーランド語っぽい。
女性形はロバチェーフスカヤ。 - ロモノーソフ Ломоно́сов 男
- лом- (折る)+ но́с (鼻)から。«鼻の折れた・まがった人» というところ。
女性形はロモノーソヴァ。 - ワガノワ Вага́нова (ヴァガーノヴァ) 女
- 北ドヴィナ河の支流にヴァガ河 Вага というのがあるが、そこの住人という意味のあだ名・男性名ヴァガーン Вага́н から。
男性形はヴァガーノフ。 - 〜シュテイン -ште́йн 男・女
- ドイツ人の姓。実際にはロシアでは、ドイツ系ユダヤ人の姓と言っていい。ドイツ語でシュタイン Stein (石)から。なので、エイゼンシュテイン Эйзенште́йн はドイツ語でアイゼンシュタイン Eisenstein (鉄鉱石)、ルビンシュテイン Рубинште́йн はルビンシュタイン Rubinstein (紅玉)。ノルシュテイン Норште́йн はわからない。
男性形・女性形の区別はない。
ついでに、よく聞かれる飛行機の名前。これらはすべて、設計技師の姓だ。
- アントノフ Анто́нов (アントーノフ) 男
- 男性名アントーン Анто́н から。
女性形はアントーノヴァ。 - イリユーシン Илью́шин 男
- 男性名イリヤー Илья́ の愛称形イリユーシャ Илью́ша から。
女性形はイリユーシナ。 - スホーイ Сухо́й 男
- 形容詞 сухо́й (乾いた)そのまま。
女性形はスハーヤ。 - ツポレフ Ту́полев (トゥーポレフ) 男
- ?
女性形はトゥーポレヴァ。 - ミグ МиГ
- これは人名ではなく、ミコヤン Микоя́н とグレーヴィチ Гуре́вич というふたりの設計技師のイニシャルを組み合わせたもの(「&」を意味する и で結んだ。つまり「M & G」という意味)。
ミコヤンはアルメニア人の姓なのでよくわからないが、想像で言うなら、ギリシャ語の男性名ニコラオス Nicholaos から。
グレーヴィチは、男性名グーリイ Гу́рий から。