ロシア文学が苦手、という人の挙げる理由のひとつに、ロシア人の名前がややこしい、というのがあるように思う。
確かにロシア人の名前はややこしい。ただでさえ発音しづらいカタカナであるのに加え、やたらと長ったらしい。
«ポルフィーリイ・ペトローヴィチ»、«アカーキイ・アカーキエヴィチ»、«リザヴェータ・イヴァーノヴナ»、«アンナ・セルゲーエヴナ»……。
翻訳する人のセンスやポリシーにもよるが、こんなのばかりがずらずら並んでいては、翻訳もの好きならともかく、それだけでめげてしまっても責めることなどできそうもない。
「カタカナ名前が苦手」というのは、もう慣れるしかない。
しかしロシア人の名前の持つ独特の «仕組み» やそれに込められた «意味» がわかると、多少はとっつきやすくなるのではないだろうか。
ということで、どれだけ意味のあることかわからないが、ロシア人の名前について、その仕組みや意味をご説明しよう。
ロシア人の名前は、必ず3つの要素から成っている。
- 名 : イーミャ имя/imya
- 父称 : オーッチェストヴォ отчество/otchestvo
- 姓 : ファミーリヤ фамилия/familiya
イーミャは普通に名前(下の名前)、ファミーリヤは普通に姓、苗字だ(「ファミリー」という意味ではない)。オーッチェストヴォというのは日本人にはない。
なお、名・名前だと日本語では姓・苗字も含む場合があるので、ここではファーストネームを指す場合にはロシア語の «イーミャ» を使う。名・名前といった場合、ファーストネームに限定せず広く姓名や名称、呼び名を示すことにする。
ということで、以下、それぞれについて簡単にご説明しよう。
さらに応用編。
- ロシア人への呼びかけ方
- 有名人の姓は何を意味するか?
- イーミャの語源をいくつか:男性/女性
- 外国の名前がロシアではどうなるか
- 名の日について
なお、断っておくが、ここで説明しているのはあくまでも語学的にロシア語に基づく名前である。«ロシア人» には、実際にはウクライナ系、ドイツ系、カフカーズ系、テュルク系等々の多数の «非ロシア人» が含まれる。かれらの名前については、ここでは触れない(主に筆者の能力的に)。
種本は、イーミャについては Н. А. Петровский. Словарь русских личных имен. (6-е изд.) М., 2000。初版は1966年だからいかにも古いが、最近よく出ている「新生児にどんなイーミャをつけるか」の手引書といった趣のイーミャ辞典は、占星術的な意味とかばかりを記述していて、あまり役に立たない。
姓については、И. М. Ганжина. Словарь современных русских фамилий. М., 2001 その他。
ただし、これらはあくまでも情報源として使っただけ。イーミャと姓も含めて、基本的にはわたしの個人的な考えや感想で書いている。