日付は名の日。
最後に載せたのは俚諺。多くは単なる言葉遊びで、まじめに意味を考えても無駄。口に出して発音してみなければ始まらない。
ロシアにおいて、女性名は、他のヨーロッパの国々・言語と同じく、男性名からつくられたものが大半を占める。しかし現実には、男性名も女性名も同じように使われるのは、アレクサーンドル/アレクサーンドラやオレーグ/オーリガなどごく少数を除いては稀だと言ってもいい。とりあえず以下、男性名からつくられた女性名も記載しておいた。
- アナスタシーヤ Анастаси́я
- 古代ギリシャ人の男性名アナスタシオス Anastasios から。語源は古代ギリシャ語の anastasis(復活)。
ロシア語以外ではほとんどお目にかかることのないイーミャだが、皇女アナスタシーヤのミステリにより世界中に広まった。現代英語ではステイシー Stacy などと、独立したイーミャになってしまっている。ただし «皇女アナスタシーヤ» はロシアではさほど有名ではない。むしろ、個人的な印象として、ロシア人がアナスタシーヤで連想するのはアナスタシーヤ・ロマーノヴナ、イヴァン雷帝の最初の妃であろうと思う。
男性形アナスターシイ Анаста́сий は稀。
愛称形のナスターシャ Наста́ся は『白痴』のヒロインの呼び名で知られている。一般的にはむしろドイツ系ハリウッド女優のイーミャと言った方がいいだろうか(本名ではない)。ほかにナースチャ На́стя、ナーシャ На́ся というのもある。スターシャ Ста́ся となると、個人的には『宇宙戦艦ヤマト』を思い出してしまう。
1/4, 3/23, 4/28, 5/28, 6/1, 6/9, 11/11, 11/12, 12/26。
「Настя-Настенька ― шубейка красненька, сама черноброва, опушка боброва.」
「Хватились Насти, когда ворота настежь.」
「Пришли на Настю горе и напасти.」 - アーラ А́лла
- 語源不詳。ギリシャ語だとの説もあれば、古代アラブの神の名だとする説もある。
どちらにせよ、聖書起源のイーミャでもなく、これといった聖者が名乗ったイーミャでもないのに、なぜかこんにちまで生き残っている。ちなみに、他のヨーロッパ諸国にも対応するイーミャは存在しない。
言うまでもなく、アーラ・プガチョーヴァで一躍ポピュラーになった。当然それ以前から普通に使われていたが、あんまりお目にかかれるイーミャではなかった。
愛称形はアーラ А́ла、アリューニャ Алю́ня、アリューシャ Алю́ся。
4/8。 - アリーサ Али́са
- フランス人の女性名アリス Alice から。このイーミャは中世ゲルマン人の女性名が崩れたものだが、それがどんな形だったのかよくわからない。現代ドイツ語ではアーデルハイト Adelheid、フランス語ではアデライード Adélaïde、英語ではアデレイド Adelaide などとなっている。語源は古ゲルマン語の adal(高貴な)+ heid(地位)。
言うまでもなく『不思議の国のアリス』。ロシア人にとっては外来のイーミャである。長いことこんなイーミャのロシア人はいなかったが、近年おそらく欧米の影響で広まっているのだろう。ゲルマン語起源でありながら名の日を持つ、ロシアでも珍しい例である。
もちろん男性形はない。
愛称形はアリースカ Али́ска、アーリャ А́ля など。
12/16。 - アリーナ Али́на
- フランス人の女性名アリーヌ Aline から。このイーミャはアデリーヌ Adéline の省略形であり、アデリーヌはアデール Aèle の愛称形である。アデールの語源は古ゲルマン語の adal(高貴な)。つまりアリーナは、アリーサと同じく、ゲルマン語起源でありながら名の日を持つ、ロシアでも非常に珍しいイーミャであるということになる。もっとも、たぶんロシア人はそんなことを考えず、音の可愛らしさで使っているのだろうと思う。実際、西欧でもこの名の持ち主はあまりいないのでは?
カバーエヴァで有名になった。
当然男性形はない。
愛称形はアリーンカ Али́нка、アーリャ А́ля、リーナ Ли́на。
10/20。 - アレクサーンドラ Алекса́ндра
- 男性名アレクサーンドルの女性形。
男性形と同様に、ロシアでは非常にポピュラーである。と言うか、おそらく西欧以上にポピュラーであると言っていいだろう。
愛称形はアレクサーンドルと共通。
4/2, 5/6, 5/31, 11/19。
「Сашки-канашки, Машки-букашки, Маринушки-разинюшки.」 - アンゲリーナ Ангели́на
- 語源は古代ギリシャ語の angelos(使い)。
言うまでもなく天使のことで、女性名としてはヨーロッパでかなり頻繁にお目にかかるイーミャである。なぜかどの言語でも男性形はないか、あってもほとんど使われない。聖書で天使と言えば男(?)ばっかりなのに(少なくとも天使のイーミャはミカエル、ガブリエル、ラファエル等どれも男性名だ)。ご多分に漏れず、ロシア語でも同様だ。
アンジェリーカ Анжели́ка という(おそらくフランス語起源の)形も最近はある。
愛称形には、ゲーリャ Ге́ля、エーリャ Е́ля、リーナ Ли́на などがある。
7/14, 12/23。 - アーンナ А́нна
- 古代ユダヤ人の女性名アンナ Annah、ハンナ Hannah から。語源は古代ヘブライ語の hannah(恵み深さ)。
聖母マリアの母のイーミャでもあり、アン Ann(英語)、アンヌ Anne(フランス語)、アンネ Anne(ドイツ語)など、ヨーロッパで最もポピュラーな女性名のひとつ。アニータ Anita(スペイン語)、アネット Annette(フランス語)、ナンシー Nancy(英語)などの愛称形(から自立したイーミャ)も含めれば、このイーミャの所有者はかなりの割合になるのではないだろうか。特に、マリアがプロテスタントから嫌われているのに対して、アンナはカトリック、プロテスタント(さらには正教徒)を問わず好まれていることも、このイーミャが全欧的にポピュラーな要因となっている。
男性形はない。
愛称形としてはアーニャ А́ня が一番一般的だろう。また、ニューシャ Ню́ша、ニューニャ Ню́ня、ニューラ Ню́ра、アニュータ Аню́та、アニューシャ Аню́ша、ヌーシャ Ну́ся、アーシャ А́ся などがある。
2/16, 2/23, 4/8, 4/13, 6/25, 6/26, 7/18, 8/5, 8/7, 9/10, 9/22, 10/15, 11/4, 11/10, 11/11, 11/16, 12/3, 12/22。
「Хороша дочка Аннушка, хвалит мать да бабушка.」
「Анна ― затычка банна.」 - イリーナ Ири́на
- 古代ギリシャ人の女性名エイレーネー Eirene から。語源は古代ギリシャ語 eirene(平和)。
後述のエレーナと混同している人が専門家にも時々見受けられるが、全然違うイーミャであることは言うまでもない。
ローマ帝国(ビザンティン帝国)最初の女帝エイレーネーが知られている。英語ではアイリーン Irene。
男性形はなし。
俗形としてアリーナ Ари́на、オリーナ Ори́на などがある。特にアリーナは近年やたらと流行っており、モスクワ市に限ると新生児に与えられるイーミャとしては本来のイリーナ以上の人気がある。
愛称形としては、イーラ И́ра が最も一般的だろう。ほかにもイリーンカ Ири́нка、リーナ Ри́на、イリーシャ Ири́ша、イルーニャ Иру́ня、イルーシャ Иру́ша/Иру́ся、レーナ Ре́на、アリーシャ Ари́ша など。
1/12, 1/16, 4/29, 5/18, 5/26, 8/10, 8/17, 8/22, 8/26, 10/1。
「Тётка Арина надвое говорила.」
「Сидит Арина рот разиня.」
「Игнат не виноват, и Ирина невинна; только изба виновата, что пустила в ночь Игната.」 - イーンガ И́нга
- ドイツ・北欧系の女性名インガ Inga から。語源は古ゲルマンの豊穣の神 Ing より。北欧では、インギゲルト Ingigerd、インゲボルク Ingeborg、イングリット Ingrid など(すべてドイツ語読み)主に女性のイーミャに使われる神様だが、特にスウェーデンの人名によく用いられているような気がする。イングリットというイーミャの最も有名な持ち主もスウェーデン人だったし、イングマールという男性名を持つ映画監督もスウェーデン人だった。イーゴリ(の基となったイングヴァール)にも使われているが、リューリク王朝もスウェーデン出身とも考えられる。
ロシアでは、イーンガというイーミャは外来のものだ。いやもちろん、アレクサーンドルにせよミハイールにせよ外来のイーミャではあるが、少なくともイーンガは教会暦には出てこない。つまり教会暦がつくられた後にロシアに輸入されたイーミャということになる。なので、名の日はない。愛称形も、わたしの聞いていた限りでは耳にしたことがない。 - イーンナ И́нна
- 起源は知らない。元来は男性名だったが、現在では女性名として使われている。
このまま呼ぶのが一般的だろうが、一応愛称形もあるにはある。イーナ И́на、イヌーシャ Ину́ся、イニュータ Иню́та など。
2/2, 7/3。 - ヴァシリーサ Васили́са
- 古代ギリシャ語 basilissa(王妃・女王)から。男性名ヴァシーリイの女性形と言うよりは、独自のイーミャと言うべきか。
ヴァシーリイ以上に、ロシア語以外の言語ではお目にかかることのないイーミャである。ただし、ロシアでもこんにちではあまり見かけることはないだろう。語源は高貴だが、実際にはむしろ上流階級では使われてこなかった。特に、民話に登場する «麗しのヴァシリーサ Васили́са Прекра́сная»(Прему́драя とも)のイメージが強すぎる。お姫様はお姫様だが、民話に登場するお姫様のイーミャでは、貴族が子供につけるイーミャとしてはあまりおもしろくない。
愛称形は原則的にヴァシーリイと共通。
1/21, 2/18, 3/23, 4/4, 4/28, 4/29, 9/16。
「У тётушки Василисы дыбом волосы свилися.」 - ヴァルヴァーラ Варва́ра
- 古代ギリシャ語 barbaros(異邦人)から。つまりは «よそ者» という意味で使われていたと思われる。
それがあだ名ならともかく、なぜイーミャとして使用されるようになったかはよくわからないが、いずれにせよ聖バルバラの影響で、女性名として使われるようになった。英語にもバーバラ Barbara、その変化形バーブラ Barbra などがある(もっともほかの言語ではあまり見かけないが)。
ロシア語にも男性形はあるが、まったく使われていないと言っていいだろう。
愛称形としてはヴァーリャ Ва́ря、ヴァリューニャ Варю́ня、ヴァリューシャ Варю́ся/Варю́ша、ヴァリュータ Варю́та、ヴァリューハ Варю́ха、アーラ А́ра、ヴァーヴァ Ва́ва などがある。
12/17。
「Не кланяюсь бабушке Варваре, своё есть в кармане.」
「Пошёл бы по хлеб к Варваре, да нашёл у себя в амбаре.」
「Любопытной Варваре нос оторвали.」 - ヴァレーリヤ Вале́рия
- 男性名ヴァレーリイの女性形。
ロシアでは男性形の方が一般的なように思われるが、西欧では逆に女性形の方が普通だろう。ヴァレリー Valérie (フランス語 → 英語)というイーミャの女性にはたまに遭遇する。
愛称形はヴァレーリイと共通だが、女性形特有の愛称形としてレーカ Ле́ка というのもある。
3/22, 11/20。 - ヴァレンティーナ Валенти́на
- 男性名ヴァレンティーンの女性形。
愛称形はヴァレンティーンと共通。
4/27, 5/7, 7/19, 8/12, 10/11。 - ヴィクトーリヤ Викто́рия
- 男性名ヴィークトルの女性形。と言うよりは、形成過程から考えるとむしろこちらの方がオリジナルと言うべきか(男性名ヴィークトルを参照のこと)。
愛称形はヴィークトルと共通。
3/12, 9/12, 12/23。 - ヴェーラ Ве́ра
- ロシア語 ве́ра(信)から。
ロシア語では、男性名は父称にも姓にも使われるので融通が利かないが、女性名であれば普通名詞をそのままイーミャにしてしまう、ということが見られる。ヴェーラもそのひとつ。このように普通名詞をイーミャ化してしまうという例は、おそらくロシア語と英語ぐらいではないだろうか(どちらも女性名)。
愛称形にはヴェールカ Ве́рка、ルーシャ Ру́ся、ヴェラーニャ Вера́ня、ヴェルーシャ Веру́ся/Веру́ша などいろいろあるが、このまま呼ぶのが普通だったように思う。
9/30, 10/14。 - ヴェロニーカ Верони́ка
- 古代ギリシャ人の女性名ベレニケー Berenike から。語源は古代ギリシャ語の phero(運ぶ)+ nike(勝利)。
もっとも語源には異論もあり、ラテン語の vera icon(正しい像)とする説もあるようだ。その場合はベレニケーとは関係ないことになる。英語でも、ヴェロニカ Veronica とバーニス Bernice と別扱いするのが一般的なように思われる。
いずれにせよ、聖書にも登場し、初期に殉教の聖女(多分に伝説的だが)もいて、ヨーロッパに定着した。とはいえ、その割にはいまいちポピュラリティに欠ける気もする。
ロシアでは男性形もあったが、使われている例を見たことがない。
愛称形にはヴェーラ Ве́ра やニーカ Ни́ка などのほか、ヴィーカ Ви́ка、ローニャ Ро́ня、ヴェローニャ Веро́ня、ニクーシャ Нику́ша などがある。
7/25, 10/17。 - エヴゲーニヤ Евге́ния
- 男性名エヴゲーニイの女性形。
女性形の方のポピュラリティは地域・言語によって若干差があるようで、フランス語(から来た英語)では比較的一般的なように思われる。ウジェニー Eugénie と言えばナポレオン3世のお妃のイーミャとして著名だ。ロシアでも、普通に使われるイーミャである。
愛称形はエヴゲーニイと共通。
1/6。 - エカテリーナ Екатери́на
- 古代ギリシャ語の女性名アイカテリネ Aikaterine から。ただし、語源は諸説あるが不明。
いずれにせよ、聖アイカテリネが聖母マリアに次ぐ崇拝を集めた影響で、西ヨーロッパでは非常にポピュラーなイーミャとなった。キャサリン Catherine(英語)、カトリーヌ Catherine(フランス語)、カタリーナ Katharina・カテリーネ Katherine(ドイツ語)等々、といった具合だ。頭の Ai- が落ちて -t- が -th- と綴られるようになったのは(プラス、真ん中の母音がしばしば e ではなく a になるのは)、ギリシャ語 katharsis(浄化)が語源と考えられた影響である。
ロシア語では Ai- が Е- と変化しているが、これは日本語でもあるように(「したい」が「してー」)、世界中でよく見られる音韻交替である。なお崩れた形としてカテリーナ Катери́на というのもある。
男性形はない。
愛称形カーテャ Ка́тя、カテューシャ Катю́ша は日本でもよく知られている。特に後者はもう女の子の髪飾りとして普通名詞化している。言うまでもなく日本だけの話で、ロシア語にはそんな普通名詞は存在しない。ロシア語で普通名詞としてカテューシャと言えば、第二次大戦で使われた兵器のことだ。ほかにこんな愛称形もある。カテューハ Катю́ха、カテューニャ Катю́на、カテューラ Катю́ра、カテューリャ Катю́ля、カテャーシャ Катя́ша、エカテリーンカ Екатери́нка。
12/7。
「Катя-Катерина ― ножка голубина. エカテリーナ、ハトの脚」
「У нашей Катерины и свадьба, и крестины. うちのエカテリーナに結婚式も洗礼式も」
「Княгине ― княжа, кошке ― котя, а Катерине своё дитя. 公妃には公子が、雌猫には仔猫が、エカテリーナには自分の乳呑み児が」
「Князю ― княгина, боярину ― Марина, а всякому ― своя Катерина. 公爵には公妃が、貴族にはマリーナが、みんなにはそれぞれのエカテリーナが」 - エリザヴェータ Елизаве́та
- 古代ユダヤ人の女性名エリシェバ Elisheba から。語源は古代ヘブライ語の el(神)+ shebha(誓い)。ちなみにお尻に t という音が加えられたのは、shabbath(サバト)と関連づけられたためとも言われる。
洗礼者ヨハネの母のイーミャとしてポピュラーになった。英語のエリザベス Elizabeth、フランス語のエリザベート Élisabeth、ドイツ語のエリーザベト Elisabeth である。派生形イサベル Isabel(スペイン語)も含めると、あるいはアンナやマリアと肩を並べるくらい人気があるかもしれない。ちなみに Elisabeth がなぜ Isabel になったかと言うと、語頭の El- がスペイン語の定冠詞 el と混同されて落ち、語末の -th が発音の似た -l に置き換えられたわけだ。
男性形はない。
愛称形はリーザ Ли́за が最も一般的だろうが、またヴェータ Ве́та、リーリャ Ли́ля、リズーニャ Лизу́ня、リズーシャ Лизу́ша、リズーラ Лизу́ра といった形もある。
5/7, 9/5, 9/18, 11/4, 12/31。 - エレーナ Еле́на
- 古代ギリシャ人の女性名ヘレネー Helene から。語源は諸説あるが不明(普通は «光» とか «輝く» と解されることが多い)。
トロイア戦争の引き金となった美女のイーミャとして、聖書起源ではないにもかかわらず、ヨーロッパでは人気がある。おそらくローマ皇帝コンスタンティヌス大帝の母親のイーミャでもあったからだろう(彼女は聖十字架を発見したことでも有名な聖女)。また、ロシア人にとっては、ロシア最初のキリスト教徒聖オーリガの洗礼名であったことも、ポピュラリティの要因となっているだろう。しかしおそらくこんにちの一般的なロシア人にとっては、これら伝説上・歴史上の女性のイーミャよりも、民話に登場する «麗しのエレーナ» の方が馴染み深いだろう。
俗形はアリョーナ Алё́на。ただし近年では、少なくとも統計上、本来のエレーナと同程度、あるいはそれ以上に人気があるようだ。
男性形はない。
愛称形は単純にレーナ Ле́на とする場合が多いように思うが、辞書にはほかにもエレーニャ Еле́ня、エーリャ Е́ля、レーシャ Ле́ся、エリューシャ Елю́ша/Елю́ся、レヌーシャ Лену́ша/Лену́ся、リョーナ Лё́на、リョーシャ Лё́ся、リョーリャ Лё́ля といった形も載っている。
1/28, 6/3, 6/8, 7/24, 11/12。
「Эх ты, Олёна-разварёна.」
「Хвали, Олёнка, свою поварёнку.」
「Олёнка в пелёнках, Никитка у титьки.」 - オーリガ О́льга
- 男性名オレーグの女性形。
キエフ・ルーシ最初のキリスト教徒となった聖オーリガのポピュラリティとあいまって人気がある。おそらく欧米では、オレーグよりもこのオーリガの方が知られたイーミャだろう。このままの形で英語にも取り入れられている(一般的ではないが)。
愛称形の中では特にオーリャ О́ля がオレーグ、オーリガ共通でポピュラーだが、ほかの愛称形にはオレーグと異なるものも多い。リョーナ Лё́на、リョーリャ Лё́ля、リャーリャ Ля́ля、オリューリャ Олю́ля、リューリャ Лю́ля、オリューシャ Олю́ся、リューシャ Лю́ся、オリューニャ Олю́ня、リューニャ Лю́ня など。
7/24。 - カリーナ Кари́на
- 語源は微妙にわからない。すなわち、ラテン語の carina(船のキール)とする説がロシアでは一般的だが、たとえば英語などでは既存の女性名カラ Cara やカレン Karen からつくられたとされている。ドイツなどでは完全にカレンからつくられた愛称形と認識されているようだ。
英語やドイツ語のカリーナはあるいはそういう由来を持つのかもしれないが、たぶんロシア語のカリーナは起源が全然別ではないだろうか。でないと、ロシアで名の日があることが説明できない。かと言って «船のキール» が語源だとすると、なぜそれが女性名として使われるようになったのかわからない。
男性形はない。
愛称形はカリーンカ Кари́нка、カーラ Ка́ра、イーナ И́на、リーナ Ри́на。
11/25。 - ガリーナ Гали́на
- 必ずしも語源がはっきりしないが、おそらく古代ギリシャ語の galene(静謐)から来たものと考えられる。
男性形はなし。
ガーリャ Га́ля が最もポピュラーな愛称形だろう。
2/23, 3/23, 4/29。 - キーラ Ки́ра
- 古代ペルシャ人の男性名クール Kur から。語源はわたしは知らない。
古代ギリシャ語に入ってキュロス Kyros と翻訳された。アケメネス朝のキュロス大王は旧約聖書の中で、ユダヤ人をバビロン虜囚から解放した賢王として最大限の賛辞を贈られている。
これがロシア語に入りキール Ки́р となった。キーラはその女性形。キールはいまやほとんど使われていないと思う。ロシア語以外では、かつてアメリカにサイラス・ヴァンス Cyrus Vance という国務長官がいたが、それ以外に使われている例を見たことがない。
男性形についてはキリールを参照のこと。
愛称形は特別ないと思う。
3/13。 - クセーニヤ Ксе́ния
- 語源ははっきりしないが、古代ギリシャ語であることはまず間違いないそうだ。おそらく、xenia(もてなしの良さ)、あるいは xenos(見知らぬ・他人の)から来たものと思われる。
しかし、そもそもロシア語以外ではこのイーミャは使われていないのではないだろうか。
男性形はない。
愛称形は種々あるが、セーニャ Се́ня あたりが適当だろうか。
しかし、あるいはこのクセーニヤという形以上にポピュラーかと思われるのが、オクサーナ Окса́на である。これは、ウクライナ語に訛った、しかも俗な形である。これに比べるとクセーニヤにはペダンティックな印象があるように思われる。ロシアでも普通にオクサーナが使われている。
1/31, 2/6, 8/26。
「Какова Аксинья, такова у неё и ботвинья. クセーニヤによってスープも違う」 - クラーヴディヤ Кла́вдия
- ローマの氏族名クラウディウス Claudius から。語源はラテン語の claudus(足の悪い)。
ネロなどを輩出した初期ローマ皇帝家として有名だ。聖書にも登場する由緒あるイーミャだが、クロード Claude(フランス語・英語)、クラウディオ Claudio(イタリア語・スペイン語)など、ラテン語圏にその使用は集中しているように思われる。女性名としてはクローディア Claudia、クローデット Claudette、クローディーヌ Claudine(いずれもフランス語・英語)などがある。クラウディア Claudia(イタリア語・スペイン語)というイーミャの女優もいた。
ロシアでは、クラーヴディイ Кла́вдйи という男性名はほとんど使われていないように思う。
愛称形は数種あるが、特にどれが一般的と言うようなものはないかと思う。クラーヴァ Кла́ва、クラーシャ Кла́ся、Кла́ша、アーヴァ А́ва など。
クラーヴディー:2/13, 2/16, 3/22, 3/23, 4/1, 6/16, 6/20, 8/24, 11/11, 12/31。
クラーヴディヤ:1/6, 4/2, 5/31, 11/19。
「Хороша Клава, да плоха про неё слава. クラーヴディヤはいい娘、でも評判は悪い」 - クリスティーナ Кристи́на
- 言うまでもなく、古代ギリシャ語クリストス khristos(救世主)から派生した様々なイーミャのうちのひとつ。ところがなぜか、ロシア語にはフリスティアーン Христиа́н、フリスティアーナ Христиа́на、フリスティーナ Христи́на、フリストフォール Христофо́р という4つの形が入ってきたが、いずれもほとんど使われることがなかった。その中で唯一の例外が、フリスティーナの崩れた形として広まったクリスティーナである。あるいは西欧の影響か?
ちなみにギリシャ語の χ (kh)は、ロシア語ではそのまま х (kh)に写され、そのため発音は「ク」ではなく「フ」となる。
2/19, 3/26, 5/31, 6/13, 8/6, 8/18。 - ジナイーダ Зинаи́да
- 語源はギリシャ語 Zenais(ゼウスから)。
初期の聖者が名乗っていたと言われるが、それにしてもなぜこんなイーミャが生き残っているのかよくわからない。ヨーロッパでもこのイーミャが一般的に使用されたのはおそらくロシアだけ。
男性形はない。
愛称形はジナイートカ Зинаи́дка、ジーナ Зи́на、ジナーハ Зина́ха、ジナーシャ Зина́ша、ジヌーハ Зину́ха、ジヌーシャ Зину́ша、ジヌーリャ Зину́ля、ジヌーラ Зину́ра、ジヌーシャ Зину́ся、ジーニャ Зи́ня、ジーシャ Зи́ша、イーナ И́на、イーダ И́да。
6/20, 10/24。 - スヴェトラーナ Светла́на
- ロシア語 светл-(光)から。
本来は男性形スヴェトラーン Светла́н があったが、いまではこんなイーミャは使われていない。一方女性形の方は、名の日もないようなイーミャであるにもかかわらず、現在けっこうポピュラーである。スターリンも娘にスヴェトラーナと名付けていた。
愛称形はスヴェータ Све́та。 - ソーフィヤ Со́фья
- 古代ギリシャ語 sophia(智慧)を語源とする。Hagia Sophia で «神の智慧» を意味した。ところが、hagia は «聖なる» という意味で、しかも sophia が女性名詞であったことから、この言葉が «聖女ソフィア» という女性のイーミャだと間違われ、女性のイーミャとして使われるようになった。
ヨーロッパでも比較的東欧、北欧でポピュラーなように思われる。もっとも、最もポピュラーなこのイーミャの持ち主と言えばイタリアの女優だろうが。その次はフランスの女優だろうか。あるいは、初代ウルトラマンのお兄さんもなかなかポピュラーかもしれない。
ロシアではソーフィヤと言えば、パレオローグかアレクセーエヴナか、あるいはコヴァレーフスカヤか。もちろん、マルメラードヴァというのも有名だろう。
男性形はない。ソフィーヤ Софи́я という形もあるが、古形(もっともこんにち復古趣味的にこれを使う人もいるようだ)。
ソーニャ Со́ня というのは本来ソーフィヤの愛称形である。ところが19世紀末にこの言葉が西欧で独り歩きをし、ソニア Sonia などという形で広まってしまった。もちろんこれはロシアには関係のない話で、ロシアではいまでもソーニャというのはソーフィヤの愛称形である。
6/4, 6/17, 9/30, 10/1, 12/29, 12/31。
「Старица Софья о всём мире сохнет, никто о ней не вздохнет.」
「Швея Софья на печи засохла. 裁縫師ソーフィヤはペーチカで萎れる」 - ゾーヤ Зо́я
- 古代ギリシャ人の女性名ゾエ Zoe から。語源はギリシャ語 zoe(命)。
言うまでもなくエヴァ(イヴ)と同義であり、そのためビザンティン帝国の皇族には好まれたイーミャだった。最後のビザンティン皇帝の姪ゾエ・パライオロギナは、モスクワ大公イヴァン3世と結婚し、ソーフィヤ・パレオローグと呼ばれた。
あるいはそれもあってか、西欧ではめったにお目にかかることのないこのイーミャも、ロシアでは昔から比較的ポピュラーである。特にソ連時代には、コスモデミヤーンスカヤが喧伝され、よく知られていた。
男性形は存在しない。
愛称形はゾーイカ Зо́йка、ゾユーニャ Зою́ня、ゾユーハ Зою́ха、ゾユーシャ Зою́ша、ゾーハ Зо́ха、ゾーシャ Зо́ша、ゾーシャ Зо́ся、ザーヤ За́я。
2/26, 5/15, 12/31。 - タティヤーナ Татья́на
- 起源はわかっていない。ローマの氏族名タティウス Tatius から来たとか、古代ギリシャ語 tatto(整える)から来たとか言われたりしている。
3世紀に聖タティアナというローマの殉教者がいたと言われるが、のちの時代の «創作» とも言われている。聖タティアナがそもそも東方教会でのみ知られた存在であったようだ。いずれにせよ、ロシア以外でこのイーミャが使われた例を、個人的には見たことがない。
『真夏の夜の夢』のティターニア(タイタニア)Titania は、これが訛った形だとも言われている。ちょうどイヴァーン雷帝とエリザベス1世との間で英露交流が盛んになった時期でもあるので、そんなこともあるかもしれない。
『エヴゲーニイ・オネーギン』のヒロインのイーミャとして広く知られ、ニコラーイ2世の次女は彼女にちなんで名づけられたらしい。
こんにち «タティヤーナの日 Татья́нин де́нь» と言えば、ロシアの学生の祝日である(1月25日)。
男性形はなし。
愛称形はターニャ Та́ня が特に著名だが、これが西欧(特に英語圏)に入って、ターニア Tanya、Tania などとして独立のイーミャとして使われることがある。
1/25, 10/3。
「Охнула Татьяна, напоив мужа пьяна. タティヤーナはため息をついた、夫を飲ませて酔わせて」 - タマーラ Тама́ра
- 古代ユダヤ人の女性名タマル Tamar から。語源は古代ヘブライ語 tamar(椰子)。
旧約聖書に出てくる由緒あるイーミャであるにもかかわらず、なぜかロシア(とグルジアなど)以外では使われていない。カルサーヴィナやマカーロヴァの活躍で西欧でも広く知られるようになった。
男性形はない。
愛称形にはターマ Та́ма、マーラ Ма́ра など。
5/14。 - ダーリヤ Да́рья
- 古代ペルシャ人の男性名ダーラヤヴァウ Darayavau から。語源は古代ペルシャ語の daraya(保持)+ vahu(良い)。これが古代ギリシャ語に訳されてダレイオス Dareios となり、それがラテン語に訳されてダリウス Darius となった。
言うまでもなくアケメネス朝最盛期のペルシャ皇帝のイーミャだし、初期のキリスト教の聖者にこのイーミャの持ち主がいたのだが、ヨーロッパで使われる例(少なくとも現在でも)というとイタリア語(ダリオ Dario)ぐらいだろうか。
これに対して女性名としては、もう少し(あくまでも比較しての話だが)ポピュラーな気がする。ロシアでも男性形ダーリイ Да́рий は聞いたことがないが、ダーリヤは非常に人気があるイーミャである。
愛称形はダーシャ Да́ша が最も一般的だろう。
4/1, 4/4, 8/17。
「У растяпы Дарьи каждый день аварьи.」 - ディアーナ Диа́на
- ローマの女神 Diana から。語源は不明。
英語ではダイアナ Diana だが、フランス語でもディアーヌ Diane など、いくつかの言語でこれが女性名として使われている。言うまでもなくダイアナ妃のイーミャとして有名だが、ロシア語ではこれはあくまでも外来のイーミャ。とはいえ名の日まであるし、特に最近では非常に人気が高いようだ。
男性形はない。
愛称形はディアーンカ Диа́нка、ディーナ Ди́на、ディーヤ Ди́я、アーナ А́на、アーニャ А́ня。
6/9。 - ナターリヤ Ната́лия
- ローマ人の女性名ナタリア Natalia から。語源はラテン語の natalis(誕生)。dies natalis で誕生日という意味だが、要するに «主イエスの誕生日»(クリスマス)を意味した。そこからイーミャとなったもの。
聖ナタリアというキリスト教の聖者もいたにもかかわらず、なぜかこのイーミャはロシア以外では使われなかった。19世紀末以降、西ヨーロッパでこのイーミャが多少使われるようになったのも、«ロシア風のエキゾティックなイーミャ» としてだ。いまでは、ナタリー Natalie(英語・フランス語)として使われている。そういう芸名の女優がハリウッドにもいた。
ちなみに、20世紀初頭に西ヨーロッパでロシア名が一般化したのに最も力があったのは、言うまでもなくデャーギレフの «バレエ・リュッス» である。これにより、ナタリー、ナディア、ソニア、ターニャ、オルガ等が西欧人のイーミャとして一般的に使われるようになった(«バレエ・リュッス» がパリを本拠地としたため、どれもフランス語風のスペルで広まった)。
男性形もあるが、使われることはないだろう。
愛称形は種々あるが、ナターシャ Ната́ша が最もポピュラーだろう。時々ナターシャ Natasha というイーミャのアメリカ人も見かける。
9/8。
「У злой Натальи все люди канальи. ひねくれたナターリヤにはすべての人が悪党」 - ナデージュダ Наде́жда
- ロシア語 наде́жда(希望)。ヴェーラと同じく、普通名詞が女性名化したものだ。
愛称形で最も一般的なのはナーデャ На́дя だろう。これは19世紀末以降、西ヨーロッパに渡り、ナディア Nadia となって一般化した(コマネチが有名だ)。さらにはナディーヌ Nadine(フランス語)などという派生形まで生まれている。言うまでもなく、ナディアだのナディーヌだの、ロシアでは使われない。
9/30。 - ニーナ Ни́на
- 起源は古代オリエントの神の名だが、それが古代ギリシャ語に入り(セミラミスの夫でニネヴェの建設者が古代ギリシャ語でニノスといった)、ロシアにはグルジアを経由して入ってきたと言われているようだ。よってグルジアでは一般的な女性名である(バレリーナのアナニアシュヴィリもグルジア人だ)。
もっとも、単純にアントニーナ等の省略形と解する説もある(もっともそれだと名の日がある事実が説明できない)。
男性形はない。
特にこれといった愛称形はないように思う。
1/27。 - ノンナ Но́нна
- 語源はラテン語 nonus(9番目の)。当然、9番目の子供を意味する。たとえば英語でもノナ Nona というイーミャがある。
男性形ノン Но́нн は使われない。
愛称形はノンヌーシュカ Нонну́шка、ノーナ Но́на、ノーニャ Но́ня、ノヌーシャ Нону́ся、ノンネータ Нонне́та。
8/18。 - ポリーナ Поли́на
- もともとはアポリナーリヤ Аполлина́рия の愛称形だったものが、独立のイーミャとして認知されたもの。英語のポーリーン Pauline、フランス語のポーリーヌ Pauline などとはスペルも語源も違い、まったく関係ない(こちらはポール=パーヴェルの女性形)。
ラテン語の男性名アポリナリス Apollinaris から。語源はギリシャの光明の神アポロン。«アポロンの» という意味。男性形アポリナーリイ Аполлина́рий もあるが、男性形・女性形ともに現在ではほとんどお目にかからないと思う。
愛称形としてはポーリャ По́ля が一番単純。 - マリアーンナ Мариа́нна
- 言うまでもなく聖母マリアとその母アンナを組み合わせたイーミャである。俗形としてマリヤーナ Марья́на というのもある。マリアーナ Мариа́на は語源的にはマリアーンナとは全然違うイーミャ(ローマ人名マリアヌス Marianus から)。
愛称形としてはマーリャ Ма́ря、マーラ Ма́ра などがある。
4/27, 5/26。 - マリーナ Мали́на
- 語源不明。ロシア語で普通名詞としてマリーナ малина と言えば、「エゾイチゴ(の実)」という意味である。
ロシアでは古い時代にまれに女性名として見られたらしいが、ペンギン・ブックスの名前辞典には男性名マルカム Malcolm のまれに見られる女性形と載っていたし、ドイツの名前辞典にはロシア語のマグダリーナ Магдали́на からつくられた愛称形(からつくられたイーミャ)と書かれていた。
ところが近年、ロシアでは女性名としてこのイーミャがかなりポピュラーである。個人的には上述の「エゾイチゴ」という意味よりも、次のマリーナ(日本語では区別不可)との関連で広まったのではないかと思っている。
男性形はない。
愛称形は知らない。 - マリーナ Мари́на
- ローマ人の男性名マリヌス Marinus から。このイーミャはもともとは同じ男性名マリウス Marius(«軍神マルス Mars の»)からつくられたイーミャだった。しかしラテン語 marinus(«海 mar の»)と同形であったため、むしろこちらが語源と考えられることが多いようだ。
いずれにせよ、男性形マリーン Мари́н は聞いたことがない。
西ヨーロッパではあまり耳にすることがない。かつてフランスにこのイーミャを持った女優がいたが、彼女は亡命ロシア人の子である。
愛称形として一般的なのがどれか、よくわからない。あるいはマリヤと同じマーシャ Ма́ша だろうか。
3/13, 7/30。
「Марья-Марина, очи голубины. マーリヤにマリーナ、ハトの目」
「Марина ― не малина, в одно лето не опадёт. マリーナはマリーナ(エゾイチゴ)ではない、ひと夏で実が落ちたりしない」
「Как Марина заварила, так и расхлёбывай.」 - マリーヤ Мари́я
- 古代ユダヤ人の女性名ミリヤム Miryam から。語源は不明。古代ヘブライ語の mara(拒絶する)と結びつけられたり、«望まれた子» だとか «満ちた» だとか解釈されたりしてきたし、エジプト起源などとも言われるが、本当のところははっきりしない。いずれにせよ、古代ギリシャ語に翻訳された際にマリア Maria となり、その形でヨーロッパに広まった。
聖母のイーミャとして、特に聖母信仰の篤いカトリック圏では非常にポピュラーなイーミャである。ハプスブルク家のマリーア・テレージア Maria Theresia の娘11人全員のファーストネームがマリーアだったり、フランスでは男性にもセカンドネームとしてマリー Marie とつけたり。逆にプロテスタント圏では敬遠されがち。
ロシアでも聖母は богоматерь、богородица (どちらも «神の母» といった意味)などと呼ばれて尊崇を集めた(ちなみにロシア語には «ノートルダム» とか «マドンナ» といったような呼び方はない)。
俗形マーリヤ Ма́рья という形もあるが、稀。男性形は存在しない。
愛称形はマーシャ Ма́ша が最も一般的だろう。
2/8, 2/19, 2/25, 4/2, 4/14, 5/17, 6/5, 6/11, 6/15, 6/17, 6/20, 6/22, 6/24, 7/2, 7/25, 8/4, 8/22, 8/24, 9/28, 11/11。
「Марья-краса, длинная коса. 美女マリーヤ、長いお下げ髪」
「Не у всякого жена Мария ― кому Бог даст. 神の与え給う者みんなにマリーヤという妻がいるわけではない。」
「Хороша Маша, да не наша. マリーヤはいい娘だ。うちのじゃないが」
「Полетел от Машки вверх тормашки.」 - マルガリータ Маргари́та
- ローマ人の女性名マルガリタ Margarita から。語源は諸説あるが、最も一般的なのは古代ギリシャ語 margaron(真珠)。
聖マルガリタの人気もあって、ヨーロッパ各国で使われた。ただ、ロシアではそれほどポピュラーではなかったように思われる。むしろ『巨匠とマルガリータ』によって一般化したと言ってもいい?
男性形はない。
愛称形はリータ Ри́та など。
7/30。 - ヤーナ Я́на
- ポーランド語など西スラヴ系の女性名ヤナ Jana から。これは男性名ヤン Jan からつくられた女性形である(ヤンはロシア語のイヴァーン)。
つまりはヨハネがヤンとなる言語でなら、どこででも見られる女性名である。ポーランドやチェコだけでなく、ドイツ(特に低地ドイツ語)、オランダ、スウェーデンなどでも見られる。旧ソ連圏ではバルト諸国でも使われていた。ただし、一部ではユリアナなどの愛称形と理解されているところもある。
ロシア語にはヤーン Я́н という男性形は存在しない(そういうイーミャの男性がいたら、それは親が非ロシア人か、それともわざと外国風のイーミャをつけたか)。なので、ヤーナは完全に外来のイーミャである。
愛称形はヤーンカ Я́нка、ヤヌーシャ Яну́ся/Яну́ша、ヤーニャ Я́ня、ヤニーカ Яни́ка、ヤーノチカ Я́ночка、ヤヌーリャ Яну́ля、ヤヌーシュカ Яну́шка、ヤニューシャ Яню́ша。 - ユリアーナ Юлиа́на
- ローマ人の男性名ユリアヌス Julianus から。«ユリウスの» の意。
西欧では、ジュリアン Julian(英)・Julien(仏)を筆頭にかなり人気のあるイーミャだが、ロシアでは男性形ユリアーン Юлиа́н にはあまりお目にかかることはない。それでもウリヤーノフ Улья́нов という姓が比較的ポピュラーなのは、かつてはこのイーミャにも人気があったということなのだろうか(ウリヤーン Улья́н はユリアーンの崩れた形)。
これに対して女性形ユリアーナは結構目にする。また、ユリアーニヤ Юлиа́ния という形もある。愛称形はユーリャ Ю́ля やアーナ А́на など。
ユリアーン:1/21, 2/11, 2/19, 3/1, 3/12, 3/19, 3/29, 5/31, 6/16, 6/25, 7/4, 8/10, 8/22, 9/15, 9/17, 9/25, 9/26, 10/20, 10/31, 11/12, 12/9。
ユリアーニヤ:1/3, 1/15, 3/17, 4/2, 6/15, 7/5, 7/19, 8/30, 8/31, 10/11, 11/14, 12/17。 - ユーリヤ Ю́лия
- ローマ人の氏族名ユリウス Julius から。語源は諸説あって定かではない。
カエサルとその養子オクタウィアヌスの活躍で、このイーミャは非常にポピュラーになった。ジュリアス Julius(英語)、ジュール Jules(フランス語)、ジューリオ Giulio(イタリア語)、フリオ Julio(スペイン語)などがあるが、さらに派生形として上記ジュリアン、ジュリエット Juliet(イタリア語起源の英語)、ジル Jill(英語)等々。
ロシア語にもユーリイ Ю́лий という男性形があるが、あるいはもうひとつのユーリイ Ю́рий の人気に押されたのか、ほとんど聞かない。これに対して、女性形ユーリヤは非常にポピュラーで、逆にもうひとつのユーリヤ Ю́рия の方にはまずお目にかかることはない。このため、一般的には男性名ユーリイと女性名ユーリヤは、何の関係もないまったく別のイーミャである(そもそもスペルも違うが、日本語では区別不可能)。
愛称形にはユーリャ Ю́ля などがある。
5/31, 7/29。 - ライーサ Раи́са
- 語源はギリシャ語 rhadia(易い)。との説が一般的だが、厳密には不明とする向きもある。オクスフォードの人名事典(英語)では «天国» の意味だとされていた。確かにロシア語で天国はラーイ ра́й だが……(だいたいほかの国ではこのイーミャは使われていない)。
わたし的にはライーサと言えばゴルバチョーフの奥さん。
男性形はない。
愛称形はライースカ Раи́ска、ラーヤ Ра́я、ラユーシャ Раю́ся/Раю́шя、ラーシャ Ра́ша、イーサ И́са。
9/18。 - ラリーサ Лари́са
- 語源は不詳。一般的に語源とされるのは古代ギリシャの都市ラリッサ Larissa だが、ほかに laris(かもめ)だとか、あるいはラテン語だとかとも言われる。英語表記では Larissa が一般的だが、ロシア語では Лари́сса は稀。
言うまでもなく、ドクトル・ジヴァゴの恋人のイーミャとして世界的に知られている。もっとも、ラーラという愛称形の方が有名かもしれない。ロシアではまたレイスネルも有名。
男性形はない。
愛称形はラーラ Ла́ра のほかに、ラルーシャ Лару́ся、ラルーニャ Лару́ня、ラリースカ Лари́ска などがある。
4/8。 - リアーナ Лиа́на
- 外来語。ユリアーナを筆頭に -liana で終わる女性名の愛称形であったものが、やがて独立のイーミャとして認知されたもの。ロシアでも最近のイーミャである。
愛称形はリーナ Ли́на など。 - リーディヤ Ли́дия
- 語源はリディア Lydia。小アジアにあった地名で、そこの出身者を示すイーミャになった。
聖書にも登場する由緒あるイーミャで、ヨーロッパでは決してポピュラーではないが、中世以来その使用が途絶えることはなかった。ロシアでも同様である。
男性形は存在しない。
愛称形は、リーダ Ли́да、リーデャ Ли́дя、リーニャ Ли́ня、リーナ Ли́на、リーリャ Ли́ля、リーカ Ли́ка、リドーニャ Лидо́ня、リドゥーリャ Лиду́ля、リドゥーニャ Лиду́ня、リドゥーハ Лиду́ха、リドゥーシャ Лиду́ся/Лиду́ша。
4/5。 - リュドミーラ Людми́ла
- 古スラヴ語 люд-(人々)+ мил-(親愛)から。
男性形リュドミール Людми́л は現在では使われることはまずない。ほぼ女性だけのイーミャになっていると言っていい。もともと文献上も、このイーミャが最初に使われたのはボヘミア最初のキリスト教徒、王妃ルドミラ Ludmilla。あるいは本来チェコで使われていたこのイーミャがロシアに入ってきたのかもしれない。
『ルスラーンとリュドミーラ』のヒロインのイーミャとして有名。もっともそれだけに、どうやら少々 «古い» とか «野暮ったい» といった否定的なイメージを持たれているような気がする。よくわからんけど。
愛称形はミーラ Ми́ла など。
9/29。 - リュボーフィ Любо́вь
- ロシア語 любо́вь(愛)から。
リューバ Лю́баがおそらく最も一般的な愛称形だろう。
9/30。 - リーリヤ Ли́лия
- ロシア語 ли́лия(百合)から。
と言っても、そもそもラテン語で百合をリリウム lilium といった。英語でもリリー lily である。百合は純潔、無垢の象徴として、特に聖母マリアと関連づけられる。そして19世紀以降、特に英語で女性名として使われるようになった。ちなみに英語では19世紀、バラ rose、雛菊 daisy、菖蒲 iris、スミレ violet など花の名が女性名として使われるのは普通のことだった。ロシア語のリーリヤは、この慣習が20世紀に入って輸入されたもの。
なお、これと関連すると思われるリリアーナ Liliana(イタリア語)はすでに16世紀には現れている。
男性形はない。
愛称形はリーリャ Ли́ля、リーラ Ли́ла、リーヤ Ли́я、リリューニャ Лилю́ня、リリューシャ Лилю́ся/Лилю́ша、リリューハ Лилю́ха。