ロシア学事始ロシア語概説形態論

動詞変化

спряжение

動詞は、法、相、時制、さらに主語の性や数、人称によって、以下のように変化する。なお、ここでは不完了体動詞と完了体動詞とを並べたが、不完了体動詞から完了体動詞へ、あるいは完了体動詞から不完了体動詞へと変化することはないので念のため。両者は独立したまったく別の単語である。

不完了体完了体
能動相受動相能動相受動相
不定形де́латьде́латьсясде́лать
人称変化
(活用)
直説法現在単数1人称де́лаюде́лаюсьсде́лан(-а/-о)
2人称де́лаешьде́лаешься
3人称де́лаетде́лается
複数1人称де́лаемде́лаемсясде́ланы
2人称де́лаетеде́лаетесь
3人称де́лаютде́лаются
過去単数男性де́лалде́лалсясде́лалбыл сде́лан
女性де́лаладе́лаласьсде́лалабыла́ сде́лана
中性де́лалоде́лалосьсде́лалобы́ло сде́лано
複数де́лалиде́лалисьсде́лалибы́ли сде́ланы
未来単数1人称бу́ду де́латьбу́ду де́латьсясде́лаюбу́ду сде́лан(-а/-о)
2人称бу́дешь де́латьбу́дешь де́латьсясде́лаешьбу́дешь сде́лан(-а/-о)
3人称бу́дет де́латьбу́дет де́латьсясде́лаетбу́дет сде́лан(-а/-о)
複数1人称бу́дем де́латьбу́дем де́латьсясде́лаембу́дем сде́ланы
2人称бу́дете де́латьбу́дете де́латьсясде́лаетебу́дете сде́ланы
3人称бу́дут де́латьбу́дут де́латьсясде́лаютбу́дут сде́ланы
仮定法単数男性де́лал быде́лался бысде́лал быбы́л бы сде́лан
女性де́лала быде́лалась бысде́лала быбыла́ бы сде́лана
中性де́лало быде́лалось бысде́лало быбы́ло бы сде́лано
複数де́лали быде́лались бысде́лали быбы́ли бы сде́ланы
命令法単数2人称де́лайсде́лай
複数де́лайтесде́лайте
準動詞形動詞現在де́лающийде́лаемый
過去де́лавшийде́ланныйсде́лавшийсде́ланный
副動詞де́лаясде́лав

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不定形語尾の種類

 派生語は省略。

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語幹 основа

 語幹とは、単語の中で形態変化をしない部分を指す。чита́ть という動詞は、чита́ю、чита́ешь、чита́л、чита́я、чита́йте、чита́ющий、чита́вший、чи́танный などと変化するが、чита- という部分は決して変化しない。ゆえに чита- がこの動詞の語幹である(アクセント位置の移動は無視)。しかし идти́ という動詞は、иду́、идёшь、шёл、шла́、иди́、иду́щий、ше́дший、идя́ などと変化する。変化しない部分が存在しない。このため、同じ動詞の語幹も複数に分類する。その際、基本となるのが不定形語幹である。

 ロシア語の動詞の不定形は、元来は語幹+-ти である。
 母音で終わる語幹+-ти は、語幹にアクセントがあるため、アクセントのない語尾の -и はやがて発音されなくなり消えた。その名残りが -ь であり、こうして -ть という語尾が生まれた。
 子音で終わる語幹+-ти でも、語幹にアクセントがある場合には同じことが生じた。この場合、-сть と -зть はそのまま残ったが、-кть と -гть は -чь と変化した。
 語尾にアクセントがある場合には、-ти がそのまま残っている。
 こうして動詞不定形の語尾には -ть、-ти、-чь という3種類が生じたが、不定形からこれらの語尾を除いたものを «不定形語幹» と呼ぶ。
 なお、語形変化を考える上では -чь は -кть ないし -гть と考えた方がいいため、ここでは -чь は -кть ないし -гть として扱う。ゆえにこれらの動詞の不定形語幹は -к ないし -г で終わる、と見なす(これはあくまでもここだけの話)。

 вести́ の不定形語幹は вес- である。しかし現実には、この動詞は現在形では веду́、ведёшь、ведёт、ведём、ведёте、веду́т と、過去形では вёл、вела́、вело́、вели́ と変化する。この場合、現在形に共通する вед- を «現在語幹»、過去形に共通する ве- を «過去語幹» と呼ぶ(-е- と -ё- はアクセントがあるかないかの違いでしかない)。

 多くの動詞において、不定形語幹 = 過去語幹、という等式が成り立つ。しかし現在語幹の形成パターンは多種多様であり、このため通常、動詞は現在語幹の形成パターンによって分類される。

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現在語幹 основа настоящего времени

 現在語幹とは、厳密には、直説法現在複数三人称の語形から語尾の -ут ないし -ат を除いたもの。現在形において語幹そのものが変化することも珍しくないが、現在語幹とはあくまでも複数三人称における語幹を指す(語幹そのものの変化については別途詳述)。

 ただしここでは、ここまで厳密な形では求めない。よって、現在語幹の定義を以下のように書き換える。すなわち、「直説法現在複数三人称の語形から語尾の -ут / -ют ないし -ат / -ят を除いたもの」。ゆえに、чита-、откро-、пь-、шл-、встрет-、сп- を現在語幹として扱う。

 動詞は現在語幹に基づいて、以下の諸形に変化をする。

 現在語幹に基づく変化における変化語尾には、ふたつのパターンが見られる。一般的にこれらをそれぞれ «一式»、«二式» と呼ぶ。この分類は変化語尾にのみ関するもので、現在語幹そのもの、あるいは過去語幹に基づく変化とは無関係である。
 一式、二式それぞれ基本は以下の通り。なお正書法に基づく揺らぎは無視した(正書法に基づき -у- ⇔ -ю-、-а- ⇔ -я-)。

一式二式
単数複数単数複数
現在形1人称-у (-сь)-ем (-ся)-у (-сь)-им (-ся)
2人称-ешь (-ся)-ете (-сь)-ишь (-ся)-ите (-сь)
3人称-ет (-ся)-ут (-ся)-ит (-ся)-ат (-ся)
命令形-й (-ся)-йте (-сь)-и (-сь)-ите (-сь)
形動詞能動現在-ущий (-ся)-ащий (-ся)
受動現在-емый (-ся)-имый (-ся)
受動過去-енный (-ся)
副動詞不完了体-я (-сь)-я (-сь)

 先行する子音の硬軟によって、現在形単数一人称 -ю、現在形複数三人称 -ют / -ят、能動形動詞現在 -ющий / -ящий の表記もある。しかしこれ以外の変化語尾 -е-、-и-、-я は、すべて先行する子音を軟音化する(軟音の存在しない一部子音は別である)。
 また -е- は、アクセントがあると -е́- にはならずに -ё- となる(-ёшь、-ёт、-ём、-ёте、-ёмый、-ённый)。

 現在単数と現在複数とで現在語幹を2種類持つ да́ть、е́сть、хоте́ть、これに加えて бежа́ть の4つ(およびそれらの派生語)を除くすべての動詞は、一式か二式のいずれかのパターンに従い語尾を変化させる。
 なお、хоте́ть と бежа́ть は一式と二式の混交、да́ть と е́сть も複数では二式ないし一式・二式混交の変化をするから、純粋に一式・二式いずれとも無関係な変化は、да́ть と е́сть の単数のみである(бы́ть の現在形は単複ともに一式・二式いずれにも属さないが、現在では使われない)。

 現在語幹からつくられる命令形については、少々問題が複雑なので、別のページで詳述する。

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過去語幹 основа прошедшего времени

 過去語幹とは、直説法過去単数女性の語形から語尾の -ла を除いたもの。過去語幹そのものが変化することがあるためだが、そのパターンはひとつだけ。

  1. 単数男性のみ特殊(母音が出現)

 すなわち、же́чь ⇒ жёг ⇒ жгла́、идти́ ⇒ шёл ⇒ шла́、толо́чь ⇒ толо́к ⇒ толкла́、че́сть ⇒ чёл ⇒ чла́ において出没母音が出現する現象である。過去語幹はあくまでも女性形を基にした жг-、ш-、толк-、ч- である。

 動詞は過去語幹に基づいて、以下の諸形に変化する。

 過去語幹に基づく変化における変化語尾には、ふたつのパターンが見られる。一般的には分類されないが、一方は過去語幹が母音で終わる場合、他方は過去語幹が子音で終わる場合である。

末尾が母音末尾が子音
単数複数単数複数
過去形男性-л (-ся)-ли (-сь)-ø (-ся)-ли (-сь)
女性-ла (-сь)-ла (-сь)
中性-ло (-сь)-ло (-сь)
形動詞能動過去-вший (-ся)-ший (-ся)
受動過去-нный / -тый (-ся)
副動詞完了体-в (-шись)-ши (-сь)

 多くの動詞において、不定形語幹と過去語幹は共通である。
 と言うのも、もともと過去形とは、不定形語幹を基につくられた分詞だからである。もともとは «コピュラ»(be 動詞) と組み合わされて現在完了を形成したこの分詞は、スラヴ系の言語が体を発展させていく中で完了の意味を失い、単なる過去の意味で使われるようになった(フランス語やドイツ語でも完了形が過去形を駆逐しつつある)。
 もともとが分詞であるから、過去形は現在形のような人称に基づいた変化をせず、形容詞と同じ性・数による語尾変化をする。
 仮定法で過去形が流用されているのも、このためである(英語でも仮定法は完了形を流用している)。

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変化に基づく動詞の分類

 現在語幹および過去語幹の形成方法、およびそれらに基づく変化形式により動詞を分類すると、以下の通り(ただしこれはこの場限りの分類である。ほかでは通用しない)。
 現在語幹と過去語幹は、基本的に相互に無関係に形成される。そのため、通常は現在語幹と過去語幹とを組み合わせて動詞を分類するということはない(以下のように分類が複雑になるため)。

現在命令過去
語幹形成三人称複数語幹形成男性
A 不定形語幹 = 過去語幹 = 現在語幹
1不定形語幹I : 母音 + ют現 + й不定形語幹-ать のほとんど
子音 + -ять のほとんど
-еть の多く
-нуть 以外の -уть (ду́ть、обу́ть、разу́ть)
гни́ть、почи́ть
2I : 子音 + ут現 + ивезти́、гры́зть、нести́、пасти́、ползти́、трясти́
一部子音交替 -к- ⇔ -ч- : вле́чь、воло́чь、пе́чь、-ре́чь、се́чь、те́чь
一部子音交替 -г- ⇔ -ж- : бере́чь、мо́чь、-пря́чь、стере́чь、-стри́чь
3現 + ьле́зть
B 不定形語幹 = 過去語幹 ≠ 現在語幹
4母音交替I : 子音 + ут特異不定形語幹一部子音交替 -г- ⇔ -ж- : ле́чь
5I : 母音 + ют現 + йпе́ть、вы́ть、кры́ть、мы́ть、ны́ть、ры́ть、бри́ть
6母音削除母音 + -ять (II の боя́ться、стоя́ть は例外)
7I : 子音 + ьют-ейби́ть、ви́ть、ли́ть、пи́ть、ши́ть
8I : 子音 + ют現 + иборо́ться、коло́ть、поло́ть、поро́ть
母音交替 : моло́ть
子音交替 : дрема́ть、зы́биться、колеба́ть、сла́ть、трепа́ть
 1 も可 : -има́ть(単語によっては今は 1)*1、клепа́ть、кра́пать、щепа́ть
 II も可 : сы́пать、щипа́ть
9I : 子音 + утжда́ть ほか*2
一部子音交替 -г- ⇔ -ж- : лга́ть
母音付加 : бра́ть、дра́ть、зва́ть
10現 + и
現 + ь
-нуть (一部は 27)*3
子音交替 : е́хать、иска́ть、-каза́ть、писа́ть、пла́кать、ре́зать ほか*4
11II : 子音 + ят-ить のほとんど、-еть のうち40語ほど、спа́ть、гна́ть ※一部動詞で一部子音交替
12II : 子音 + атж/ч/ш/щ で終わる -ить / -еть / -ать
13II : 母音 + ят現 + й母音 + -ить (一部で命:現 + и́)、боя́ться、стоя́ть
14I II 混交現 + и一部子音交替 -г- ⇔ -ж- : бежа́ть (I II 混交)
15子音交替 хоте́ть (単:I、複:II)
16削除型I : 母音 + ют不 + й-ва́- ⇒ -ø- : дава́ть、-знава́ть、-става́ть
17交替型現 + й-ова́- ⇒ -у́- / -ева́- ⇒ -ю́- (一部例外は 1)
18I : 子音 + ут現 + и-ня́ть (при-、до-、за-、на-、пере-、по-、про-、у-、в-、об-、от-、под-、раз-、с-)
-а/я- ⇒ -н- : жа́ть、мя́ть、нача́ть、распя́ть
-а- ⇒ -м- : жа́ть、взя́ть (現:母音付加)
19子音付加+ в : жи́ть、плы́ть、слы́ть
20現 + ь+ н : де́ть、ста́ть、сты́ть、-стря́ть
21特異бы́ть (現在ではなく未来)
22特異不 + йда́ть (単:古形、複:I II 混交)
C 不定形語幹 = 現在語幹 ≠ 過去語幹
23不定形語幹I : 子音 + ут現 + и別語源идти́ (派生語は 32)
D 不定形語幹 ≠ 過去語幹 = 現在語幹
24母音削除I : 子音 + ут現 + и母音削除-шиби́ть
一部子音交替 : же́чь (-г- ⇔ -ж-)、толо́чь (-к- ⇔ -ч-)
25子音交替子音交替-с- ⇒ -б- : грести́、скрести́
E 不定形語幹 ≠ 過去語幹 ≠ 現在語幹
26母音削除I : 子音 + ут現 + и母音削除мере́ть、пере́ть、тере́ть
27-ну-削除-нуть (一部は 10)*5 (ただし過去形は男性のみ -нул になる場合がある)
28現 + ьвя́нуть、сты́нуть
29子音交替子音削除-с- ⇒ -д- : се́сть (現:母音交替)
30現 + и-с- ⇒ -д- : блюсти́、брести́、вести́、кла́сть、кра́сть、па́сть、пря́сть、грясти́
-с- ⇒ -т- : гнести́、мести́、обрести́、плести́、цвести́、че́сть (母音削除)
-с- ⇒ -н- : кля́сть
31母音交替-с- ⇒ -ст- : расти́
32子音付加別語源+ д : -йти́
33特異特異子音削除е́сть (単:古形、複:II)

*1 внима́ть、изыма́ть、подыма́ть

*2 вра́ть、жа́ждать、жда́ть、жра́ть、ора́ть、попра́ть、рва́ть、ржа́ть、соса́ть、стона́ть、тка́ть、реве́ть

*3 命:-и : бу́хнуть、верну́ть、во́лгнуть、вспы́хнуть、всхли́пнуть、вы́вихнуть、гну́ть、дохну́ть、дро́гнуть、дря́хнуть、запну́ться、кольну́ть、льну́ть、мину́ть、пихну́ть、пры́гнуть、резану́ть、свихну́ть、оберну́ть、обману́ть、очну́ться、-пахну́ть、поперхну́ться、прикорну́ть、рехну́ться、ру́хнуть、скли́знуть、-стегну́ть、тону́ть、тяну́ть、улепетну́ть、шелохну́ть
 命:-ь : вы́нуть、-ги́нуть、гря́нуть、дви́нуть、ка́нуть、пря́нуть、ри́нуть、хлы́нуть

*4 命:-и : алка́ть(1 も可)、бормота́ть、бреха́ть、бры́згать(意味により 1)、воркота́ть、вяза́ть、глода́ть、гогота́ть、грохота́ть、дви́гать、е́хать、иска́ть、-каза́ть、квохта́ть、клевета́ть、клекота́ть、клокота́ть、клохта́ть、куда́хтать、лепета́ть、лиза́ть、лопота́ть、маха́ть(1 も可)、мета́ть、низа́ть、обяза́ть、паха́ть、писа́ть、плеска́ть(1 も可)、пляса́ть、полоска́ть(1 も可)、регота́ть、рокота́ть、ропта́ть、ры́скать(1 も可)、свиста́ть(II も可)、скака́ть、скрежета́ть、сниска́ть、стрекота́ть、теса́ть、топота́ть、топта́ть、трепета́ть、хлеста́ть、хлопота́ть、хлыста́ть、хохота́ть、цокота́ть、чеса́ть、шепта́ть、щебета́ть、щекота́ть
 命:-ь : кли́кать、колыха́ть(1 も可)、курлы́кать(1 も可)、ма́зать、мурлы́кать(1 も可)、пла́кать、-поя́сать、пря́тать、пы́хать(1 も可)、ре́зать、турлы́кать(1 も可)、ты́кать、хны́кать(1 も可)

*5 -бе́гнуть、блёкнуть、брю́згнуть、бу́хнуть、-ве́ргнуть、ви́снуть、воскре́снуть、-вы́кнуть、вя́знуть、га́снуть、ги́бнуть、гло́хнуть、го́ркнуть、гру́знуть、-гря́знуть、-дви́гнуть、дро́гнуть、дры́хнуть、дря́бнуть、жу́хнуть、заскору́знуть、зя́бнуть、исся́кнуть、исче́знуть、ки́снуть、кре́пнуть、ли́пнуть、мёрзнуть、ме́ркнуть、мо́кнуть、мо́лкнуть、мя́кнуть、ни́кнуть、обры́днуть、па́хнуть、пу́хнуть、разве́рзнуть、си́пнуть、сла́бнуть、сле́пнуть、со́хнуть、-сти́гнуть、ти́хнуть、-то́ргнуть、ту́скнуть、ту́хнуть、хри́пнуть、ча́хнуть

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語幹変化と不定形語尾との関係

母音 + ть子音 + ть
-ать-ять-еть-ить-ыть-уть-оть-чь-ти-ть
A 不定形語幹 = 過去語幹 = 現在語幹
1гни́ть
почи́ть
ду́ть
обу́ть
разу́ть
211+5+гры́зть
3ле́зть
B 不定形語幹 = 過去語幹 ≠ 現在語幹
4ле́чь
5пе́тьбри́ть5+
6
75+
8зы́биться5+
9реве́ть
10-нуть
11спа́ть
гна́ть
12
13боя́ться
стоя́ть
14бежа́ть
15хоте́ть
16-ва́ть
17-овать
18нача́ть
жа́ть
взя́ть
-ня́ть 他
19жи́тьплы́ть
слы́ть
20ста́ть-стря́тьде́тьсты́ть
21бы́ть
22да́ть
C 不定形語幹 = 現在語幹 ≠ 過去語幹
23идти́
D 不定形語幹 ≠ 過去語幹 = 現在語幹
24-шиби́тьже́чь
толо́чь
25грести́
скрести́
E 不定形語幹 ≠ 過去語幹 ≠ 現在語幹
26мере́ть
пере́ть
тере́ть
27-нуть
28вя́нуть
сты́нуть
29се́сть
309+6+
31расти́
32-йти́
33е́сть

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動詞変化の «揺らぎ»

 上記の表を見てもわかると思うが、動詞の変化形式は複雑である。厳密に言えば、変化語尾のパターンは3種類しかないが(I 式、II 式、古式)、語幹形成のパターンが多種多様なのである。そして、これだけ多種多様だと、ロシア人でもすべてを覚えているわけではない。使用頻度の高い動詞はともかく、滅多に使われないような動詞だと、何となく I 式の典型的な形にしてしまったり(上記の 1)、II 式にしてしまったりしている。
 маха́ть という動詞は、不定形語幹から語幹末の母音を削除して現在語幹をつくる。すなわち мах- である。しかしロシア人は -ху、-хешь、-хет と発音したがらないので、-х- を -ш- に音韻交替させてしまう。こうして машу́、ма́шешь、ма́шет という現在変化が得られる。この動詞は「振る」という意味で、「さよならと手を振った」とか「犬が嬉しげに尾を振っている」とか「沿道の人々は日の丸を振って見送った」などといった文でよく使われるにもかかわらず、この変化を覚えられないロシア人が多いのか、маха́ю、маха́ешь、маха́ет と変化させられることが少なくない。
 このような «揺らぎ» には、次のようなパターンがある。

 上記分類の 10 に属する動詞、あるいは 8 のうち子音交替する動詞に、この手の揺らぎがよく見受けられる。おそらく、不定形語幹から現在語幹を形成するに際して、母音を削除してさらに子音を交替させるという二重の手間が面倒に感じられるのだろう。もちろん、е́хать や писа́ть といった使用頻度が高く派生語も数多い動詞には、そのような揺らぎは見られない。
 「意味上の使い分け」がされる動詞としては、次の4つを挙げておく。бры́згать という動詞は、бры́зжу、бры́зжешь... と変化した場合には「しぶきなどをひっかける、飛び散らせる」という意味(比喩的な意味も含めて)である。бры́згаю、бры́згаешь... と変化すると、何を、何に、という対象を明示する必要がある。また、比喩的な意味で用いられることもなくなる。дви́гать という動詞は、дви́гаю、дви́гаешь... と変化した場合には普通に「動かす」という意味だが、дви́жу、дви́жешь... となると「前進・発展させる」、あるいは「(モノが)動かす」という意味になる。ка́пать という動詞は、ка́паю、ка́паешь... と変化すると「したたり落ちる・落とす」という意味だが、ка́плю、ка́плешь... では「漏る(雨漏りがする)」という意味になる。мета́ть という動詞は、мечу́、ме́чешь... と変化すると「四方に散らす・投げる」という意味だが、мета́ю、мета́ешь... はスポーツ関連で使われる形である。ただしこれらもまた時代とともに変化するものであるから(この項で参考にしたのは1990年代の文法書)、2010年代のこんにちでも該当するか否かは保証の限りではない。
 「古語と現代語」の違いについては、実例は上記にはない。古い変化形式を覚えても仕方がないので、載せなかったためである。10 と 27 の -нуть は、過去形においては徐々に -нуть 全体を削除する傾向にある(つまり 10 に属する動詞が 27 に移動しつつある)。возни́кнул、га́снул、исче́знул、па́хнул、со́хнул、сти́хнул など、辞書によっては載せているものもあるが、いずれも20世紀後半には使用されなくなっていった形である。ただし文語ではいまでも見られることがあるし、接頭辞の着かないものは、形動詞においては -ну- が保全されている(га́снувший、па́хнувший、со́хнувший)。さらに、男性形のみ -нул となるが、女性形以下では -ну- が削除される、というパターンも見られる。
 動詞変化の揺らぎの大部分は「文体上の違い」を示す。これは、単純に言えば «本来の変化» が文語的であったり標準語的であったりするのに対して、I 式正則や II 式の変化をするものが会話的、俗語的、方言的な使われ方をしていることを指す。単純に言ってしまえば、«本来の変化» を多くのロシア人が間違えているからこのような揺らぎが生じる。ゆえに «本来の変化» は文語的、標準語的であり、«間違った変化» は会話的、俗語的、方言的ということになる。маха́ть の場合、машу́、ма́шешь... が文語的であるのに対して、маха́ю、маха́ешь... は会話的である。他方で、たとえば плеска́ть の場合、плещу́、пле́щешь... が標準語的であるのに対して、плеска́ю、плеска́ешь... は俗語的(文法的に崩れた形)なニュアンスを持つ。もっともこれは微妙な点であり、また時代とともにすぐに変化し得るものでもあるので、可能であれば両方の変化形式を覚えておくことが望ましい。

 чти́ть という動詞はおかしな動詞で、II 式の変化をするのだが、三人称複数のみは чтя́т と чту́т というふたつの形を持つ。
 стла́ть は特異な現在語幹を持ち、стелю́、сте́лешь... と変化する。このためロシア人は間違えて、стели́ть という不定形をつくりだしてしまった。同じように、зы́биться という動詞は зы́блюсь、зы́блешься... と変化するので、間違えてつくりだした不定形が зы́блиться である。もっとも зы́блиться はすでに19世紀には廃れており、こんにちでは文学作品でしかお目にかかれない(しかも過去形のみ)。
 вы́здоровеют の代わりに вы́здоровят、опосты́леют の代わりに опосты́лят という形にお目にかかることがある。これらはいずれも I 式の変化をするので、前者が正しい。しかし間違えるロシア人が多かったのか、II 式に則った後者の形がかつては見られた。アクセントが変化語尾にはないので、耳で聞いている限りでは一人称、二人称、三人称単数では I 式と II 式の区別がつけづらいというのもあったろう(-еет と -ит など)。

 このような揺らぎは、究極的には個々の動詞について辞書で確認するほかはない。идти́ という基本中の基本の動詞にすら、その副動詞に идя́ と и́дучи という揺らぎがあるのだから。

 なお、とりあえず上掲の分類においては、こんにち使用されている変化形式を、複数ある場合でもそのすべてを取り上げるようにしている(もちろん見落としや勘違いその他あるかもしれない)。

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不完全動詞

 «不完全動詞» とは、一部の現在人称変化が存在しないか使われない動詞である。

 第1のグループは、語義上1人称と2人称があり得ない動詞である。ただし擬人化やレトリックとしてなら1人称や2人称で用いられることもある。отпочкова́ться「(植物が出芽によって、下等生物が分裂によって)繁殖する」、ржа́веть「錆びる」、сквози́ть「(隙間から風が)吹き込む、(隙間から光が)漏れる」、тели́ться「(牛や鹿が)仔を産む)」、те́чь「流れる」等々。«Я́ теку́.» などという文は、たしかに、川を擬人化した場合にしか用いられないだろう。

 第2のグループは、音韻論上単数1人称が発音できない動詞である。бузи́ть、очути́ться、ощути́ть?、победи́ть、убеди́ть、чуди́ть 等々。
 бузи́ть という動詞から厳密に規則に則って単数1人称をつくると *бузю となるが、ロシア人は зю と発音したがらない。おそらく純ロシア語起源の単語の中に зю という発音は存在しない。そのため音韻交替の規則に従うと бужу́ となるが、これはすでに буди́ть という動詞の単数1人称として «使用済み» である。
 победи́ть という動詞から厳密に規則に則って単数1人称をつくると *победю となるが、дю という発音はロシア人が嫌うところである。それなら *побежу ないし *побежду にすればいいところだが(もっとも動詞の語形変化において -д- ⇔ -жд- という音韻交替はない)、過去千年の歴史の中でロシア人が「победи́ть の単数1人称は発音できない」と結論づけてしまったのだから仕方がない。ゆえにロシア人は「わたしは勝利する」とは言えないのである。
 どうしても単数一人称が使いたければ、суме́ю、хочу́、могу́、наде́юсь、стремлю́сь、попыта́юсь、до́лжен といった助動詞的な単語を不定形に添えるか、不完了体であれば буду́ とともに未来形にするかであろう。

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最終更新日 14 08 2012

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