ロシア学事始ロシア語概説形態論名辞類変化

名詞の語幹変化

名詞型の語尾変化において、重要なのが語幹の変化である。これは、以下のように分類することができる。

  1. 単主・対 ⇔ それ以外
  2. 単主・対 ⇔ 単斜 ⇔ 複
  3. 単 ⇔ 複

 このうち 1 と 2 はそれぞれ限られたものしか存在しない。以下の通りである。

単数複数
主・対語尾斜格語幹語幹主・生・造語尾
1III-ер'--и, -е́й, -ьми́до́чь
-и, -е́й, -я́мима́ть
2-мя-мен'--мен--а́, -ø, -а́мибре́мя, вре́мя, вы́мя, и́мя, пла́мя, пле́мя
се́мя, стре́мя, те́мя  ※複生のみ語幹が -мя́н
-мён--а, -ø, -амизна́мя
дит-я́дит-я́т'дет'--и, -е́й, -ьми́дитя́

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 単数と複数とで語幹の交替する 3 のタイプは、以下のように分類できる。なお、古形などはだいぶ端折った。

タイプ単数語幹複数語幹複主/生
1交替I後舌音口蓋化-и, -ейо́ко  ※-к- ⇔ -ч-
у́хо  ※-х- ⇔ -ш-
2硬音軟音сосе́д, чёрт
★коле́но
3-о́нок--а́т--а, -ø以下を除く -ёнок, -о́нок
  ※-о́нок- ⇔ -а́т-,
    -ёнок- ⇔ -я́т-
-ок--я́т-бесёнок, чертёнок
★щено́к
4-ин--ев-хозя́ин
5-ин--/j/--ья́, -ьёв★шу́рин
6削除I-'ин--ø--е, -øсемьяни́н を除く -янин,
-анин,
боя́рин
-е/-ы, -øба́рин
-ы, -øболга́рин, тата́рин
-а́, -øгосподи́н
7-ок--ы́, -о́вцвето́к
8-н--а́, -о́всу́дно
9II-иц--ы, -ø★ку́рица
10追加I-ø--/j/--ья́, -е́йде́верь, кня́зь, му́ж
дру́г  ※-г- ⇔ -з-
-ья, -ьевбра́т, бру́с, кли́н, ко́лос,
ко́м, о́бод, по́лоз, пру́т,
собра́т, стру́п, сту́л
★зу́б, ко́л, ли́ст, лоску́т, по́вод
★кло́к, крю́к, су́к
  ※-к- ⇔ -ч-
де́рево, дно́, звено́, крыло́,
перо́, помело́, ши́ло
★коле́но
III★гро́здь(女)
I-ья́, -ьёвзя́ть
-ов'-ку́м
-ья́, -е́й★сы́н
11-ес--а́, -øне́бо, чу́до
★語幹変化なしも可(その場合は通常変化をし、子音交替もなし)

 動詞では子音の音韻交替は頻繁に見られるが、名詞においては逆にまれで、

だけしかない。なお、古語や古い変化形は無視している。
 око「目」と ухо「耳」はそれだけでなく、中性名詞のくせに複数主格が -а ではなく -и となる点でも変則である。
 この点は、колено も同様である。ただし колено には3通りの語尾変化があり得る。単純化すると、「膝」という意味では 2 型 колени、коленей、、、。「屈折部」という意味では 10 型 коленья、коленьев、、、。「(音楽の)一節」「親等」という意味では語幹変化なし колена、колен、、、。

 「子供」を意味する -ёнок、-онок という接尾辞は、複数になると -ят-、-ат- となる。бесёнок と чертёнок も、いずれも бес「悪霊」と чёрт「悪魔」の子供を意味する単語であるから同じ変化をするはずだが、なぜか -ёнок 全体ではなく -ок だけが -ят- となる。

 -ин という語幹末を持つ単語は必ずしも人を表すものばかりではないが、そういうのが多いのは確かである。これは大きく、4つのグループに分けられる。
 第一のグループは語幹変化のないもので、грузин「グルジア人」や хазарин「ハザール人」など、数も多い。
 第二のグループが 4 型の хозяин「主人」で、特殊な語幹交替をする。
 第三のグループの шурин「妻の兄弟」も特殊と言えば特殊な語幹交替をする。変化語尾を見れば 10 型だが、6 型の影響も受けている。結果として、-ин が消えて -/j/- が加わるという交替タイプになっている。
 第四のグループはひとまとめにして 6 型としておいたが、これは単数語幹末尾の -ин が消えるタイプである。ただし複数主格の変化語尾が3パターンあるのでややこしい。なお、厳密に音韻論的に言えば、末尾の -ин が消えるだけでなく、その直前の子音が軟音から硬音に変化する。

 цветок、судно、курица はいずれもこれらの単語だけの特殊な語幹変化である。

 10 型は、ここではこのように分類したが、違う基準で分類することも可能である。たとえば

 もっとも、こうすると複数生格の変化語尾がごちゃごちゃになってしまう。
 なお、この分類に従えば、第2の -ø から、および第3の -о から変化した複数語幹では、語幹末尾の子音が軟音化することがはっきりしよう。ちなみに厳密に言うと муж 末尾の ж は常に硬音なので、мужья となっても発音上は硬音のままである。
 10 型には、意味によって語幹変化の有無が異なる単語がある。表中で「※語幹変化なしも可」と注記した単語は、原則として、いずれも意味によって使い分けられていると言える。

 複数語幹に -ес- が出現する中性名詞は、このほかにも слово「言葉」、тело「物体」などもある。しかし словеса はまだしも、телеса はあまりに古過ぎておそらく辞書にも載っていまい。しかし телесный「物体の」という形容詞は、この複数古形からつくられている。

 ちなみに語義上は、「単数語幹と複数語幹で語源が異なる」というパターンもある。典型が человек ⇔ люди である。ただしそれは語彙論の問題であり、形態論を論じるここでは無視する(形態論的には человек にも человеки という複数形が存在する。люди にも люд という単数形がかつては存在した。ちなみにこれは「硬音」⇔「軟音」の 2 型)。

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最終更新日 01 01 2013

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