ロシア学事始ロシア語概説形態論

所有形容詞

притяжательное имя прилагательное

«所有形容詞» とは形容詞の一種。人や動物への所属を示す。すなわち、文法的には чей? という疑問に答える役割を果たす(ほかの形容詞は какой? という疑問に答える)。
 かつては «物主形容詞» という訳語もあったが、こんにちでは所有形容詞が一般化している。

 所有形容詞は、形態上、またその用法上、以下のように分類することができる。

 形態論的には、所有形容詞には比較級も短語尾もない。また統語論的には、述語にはならず常に定語(修飾語)である。

 一般的に、所有形容詞はもはや本来の役割を喪失し(所有を表すには名詞の生格が用いられる)、成句・慣用句で用いられるばかりである。

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タイプA

 このタイプは、生物の種を表す名詞からつくられる。意味は「(その種)の」である。辞書的には、通常は一般的な形容詞として扱われている(見出し語になっている)。

1 : -ий

 第一のパターンは、語尾に -ий を加えることでつくられる(軟音にするため、時々音韻交替が起こる)。格変化の形式は順序数詞 третий と同じである。

名詞所有形容詞
コサックказа́кказа́чий
狩人охо́тникохо́тничий
乙女деви́цаде́вичий
бо́гбо́жий
イヌсоба́касоба́чий
ネコко́шкакоша́чий
クマмедве́дьмедве́жий
オオカミво́лкво́лчий
キツネлиса́ли́сий
雄ウシбы́кбы́чий
雌ウシкоро́вакоро́вий
ヤギкоза́ко́зий
ヒツジовца́ове́чий
雄ヒツジбара́нбара́ний
シカоле́ньоле́ний
ウサギза́яцза́ячий
пти́цапти́чий
タカсо́колсоко́лий
甲虫жу́кжу́чий

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2 : -иный

 第二のパターンは、語尾に -и́ный ないし -о́вый を加えることでつくられる。格変化の形式は、通常の形容詞の硬音変化である。

名詞所有形容詞
ウマло́шадьлошади́ный
ライオンле́вльви́ный
ネズミмы́шьмыши́ный
ヘビзме́язмеи́ный
白鳥ле́бедьлебеди́ный
スズメворобе́йворобьи́ный
ワシорёлорли́ный
アリмураве́ймуравьи́ный
ハエму́хамуши́ный
кома́ркомари́ный
クジラки́ткито́вый
ゾウсло́нслоно́вый

 特殊な例としては、свинья́ (ブタ)が свино́й になる。

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用法

 用法としては、このタイプはこんにちでは名詞の生格に取って代わられている。
 代わって、これらの所有形容詞は性質形容詞として使われることが多い。よって、冒頭に述べた所有形容詞の文法的な定義「чей? という疑問に答える」という役割を果たさず、「какой? という疑問に答える」という性質形容詞・関係形容詞の役割を果たしている。すなわち、たとえば собо́лий は、本来であれば「со́боль(クロテン)の」を意味したが、こんにちでは「со́боль(クロテン)の毛皮でつくられた」という意味に転化している。余談だが、со́боль は собо́лий のほかに соболи́ный も持つ珍しい単語である。
 さらに、性質形容詞としての使用例のほとんどが、成句や熟語としてである。лебеди́ная пе́сня は「白鳥の歌」だが、これは「最後の仕事・言葉」という意味の熟語となっている。соба́чья сме́рть は「犬の死」から派生して「犬死」という意味になっており、「(この)犬の死」と言いたい場合には сме́рть соба́ки と言わなければならない。

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タイプB

 このタイプは、固有名詞を含む人を表す名詞からつくられる。意味は「(その個人)の」である。タイプAと異なり、好き勝手につくることができる。

1 : -ов

 第一のパターンは、子音および -ь で終わる、人を表す男性名詞からつくられる。末尾の子音が硬音であれば -ов、軟音であれば -ев、軟音でアクセントがあれば -ёв となる。格変化の形式は特殊である。

名詞所有形容詞
де́дде́дов
оте́цотцо́в
Ива́нИва́нов
Ма́рсМа́рсов
учи́тельучи́телев
ца́рьцарёв
Никола́йНикола́ев
Се́ргийСе́ргиев

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2 : -ин

 第二のパターンは、-а および -я で終わる、人を表す名詞からつくられる。末尾の子音が ц の場合は -ын となるが、それ以外では -ин である。格変化の形式は、主格を除けば通常の形容詞の硬音変化である(主格のみは短語尾に等しい)。

名詞所有形容詞
ма́мама́мин
до́чкадо́чкин
па́папа́пин
дя́дядя́дин
Ма́шаМа́шин
Ми́шаМи́шин
Мари́яМари́ин
Ната́льяНата́льин

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用法

 文体論から言うと、このタイプは口語(話し言葉)でのみ用いられる。が、多分に古語的ニュアンスを持つ。
 用法としては、これらの所有形容詞もまた名詞の生格に取って代わられつつある。それでも口語においては、タイプAよりは使われる頻度は高い。

-ов-ин
普通名詞成句あり
固有名詞(姓)擬古調
固有名詞(名)ありあり

 単純に図式化すると上図のようになろうが、実際には単語による使用頻度の違いも見られる。

 姓からつくられるパターン Ма́рксов «Капита́л» 「マルクスの『資本論』」などというのはかなり擬古的な言い方であり、こんにちでは使われることはない。⇒ «Капита́л» Ма́ркса

 名からつくられるパターン Ива́нов や Никола́ев はこんにちでも使われないことはないが、やはり一般的ではない。なぜなら、これらは口語(話し言葉)で用いられるが、口語(話し言葉)では Ива́н は Ва́ня、Никола́й は Ко́ля という愛称形で呼ばれるからである。ゆえに、Ива́нов ではなく Ва́нин、Никола́ев ではなく Ко́лин の方がまだしも使用頻度が高い。
 この故に、-ов のパターンよりも -ин のパターンの方が使用頻度が高いことになる。
 -ов のパターンは、主に成句などで見られる。ада́мово я́блоко「喉仏」、ахилле́сова пята́「アキレスのかかと」

 このタイプには、-ский という接尾辞を付加した形が見られることがある。

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最終更新日 17 01 2013

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