ロシア学事始ロシア語概説形態論

形動詞

причастия

形動詞とは、名詞を修飾する際の動詞の特殊な形態のことである。日本語では連体形があるが、英語では分詞がその役割を果たす。ロシア語でこれに相当するのが形動詞である。単純に言えば、「〜している」や「〜された」という意味だが、これは必ず名詞を修飾する。
 名詞を修飾するものであるから、形容詞と同じ変化語尾を持ち、修飾する名詞に応じて性・数・格の変化をする。

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形動詞の種類

 英語の分詞と異なり、ロシア語の形動詞には、相と時制に応じて以下の4通りが存在する。なお、かつては «受動» ではなく «被動» という訳語が用いられていた。

現在過去
能動能動形動詞現在 : 〜している能動形動詞過去 : 〜した
受動受動形動詞現在 : 〜されている受動形動詞過去 : 〜された

 形動詞の表す時制は、基本的に絶対的なものである。つまり、発話時点から見て現在か過去かを言っている。この点、英語のような «時制の一致» とは無縁である(もっともこの点、日本語でもそうだが、さほど厳密ではない)。
 また、能動と受動の区別は日本語では曖昧なため、特に注意が必要である。冒頭の例 сломанные руки だが、日本語では「折れた腕」であるのに対して、英語の break もロシア語の сломать も動詞の語義としては「折る」だから「折られた腕」になる。これを сломавшие руки という能動形動詞過去にしてしまうと、「(何かを)折った腕」という意味になる。

 ひとつの動詞から複数の形動詞(最大で4つ)をつくることができるが、実際にどの形動詞をつくるかは、個々の動詞の体と他動性、そして語義による(他動性についてはを参照)。

他動詞非他動詞
不完了体能動形動詞現在 чита́ющий
能動形動詞過去 чита́вший
受動形動詞現在 чита́емый
受動形動詞過去 чи́танный
能動形動詞現在 выходя́щий
能動形動詞過去 выходи́вший
完了体能動形動詞過去 прочита́вший
受動形動詞過去 прочи́танный
能動形動詞過去 выше́дший

 このように、不完了体動詞は現在・過去どちらもつくることができるが、完了体動詞は過去しかつくれない。また、他動詞は能動・受動どちらもつくることができるが、非他動詞は能動しかつくれない。ただし現実には非他動詞からも受動形動詞をつくることがある。

 -ся 動詞の末尾 -ся は常に -ся で、母音の後でも -сь となることはない(これは形動詞だけの特殊な規則)。начинающаяся、отказавшегося 等々。

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形容詞との違い

 名詞を修飾し、名詞の性・数・格に応じて語尾を変化させるという点で、形動詞は形容詞と同じである。ゆえに語尾は完全に形容詞と同じになっている。しかしもともと動詞からつくられた、という語義的な点から、次のような特徴がある。

 ちなみに、形容詞化した形動詞には、たとえば次のようなものがある。これらはほとんど本来の形動詞としての意味・役割を失い、形容詞として用いられている(特に жареный は、形も形動詞とは違ってしまっている)。なお、別の場所で述べているように、基本的に形動詞は書き言葉であるが、これら形容詞化したものにはそのようなニュアンスはなく、話し言葉でも普通に使われる。

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形動詞のつくり方

能動形動詞現在

 能動形動詞現在は、現在形複数三人称の末尾の -т を -щий に替える。アクセント位置は原則として、I 式では現在形複数三人称と、II 式では不定形と同じ。

 基本的な意味は「〜している」。

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能動形動詞過去

 能動形動詞過去は、過去形単数男性を基にしている。アクセント位置は原則として不定形と同じだが、形動詞になって消えた母音にある場合は、前に移動する。

 基本的な意味は体により微妙に異なり、完了体は「〜してしまった」、不完了体は「〜していた」。

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受動形動詞現在

 受動形動詞現在は、現在形複数一人称の末尾に -ый を付加する。アクセント位置は原則として現在形単数一人称と同じ。

 現在語幹の末尾が硬子音の場合は、現在形複数一人称と異なる形(-ом-)になる場合がある。ただし中にはこんにちでは廃れたものもある。

 受動形動詞は本来は他動詞からしかつくられないはずだが、управлять ⇒ управляемый のように非他動詞からつくられることもあるし、逆に знать という他動詞からはつくられない(знаемый は現在では古語)。
 基本的な意味は「〜されている」。

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受動形動詞過去

 受動形動詞過去のつくり方は複雑だが、単純化すると以下の3パターンに分けられる。

  1. -ать、-ять、-еть : 過去語幹 + -нный : написа́ть ⇒ написа́л ⇒ напи́санный
  2. -ыть、-уть、-оть : 過去語幹 + -тый : откры́ть ⇒ откры́л ⇒ откры́тый
  3. -ить、-сти、-сть、-зти、-зть、-чь : 現在形単数一人称 + -енный : купи́ть ⇒ куплю́ ⇒ ку́пленный

 ただしこれはかなり単純化した話で、例外がゴロゴロ存在する。оде́ть ⇒ оде́тый、награди́ть ⇒ награждённый 等々。

 基本的な意味は「〜された」。
 受動形動詞過去は不完了体動詞からも完了体動詞からもつくることができるが、現実には不完了体動詞からつくられることは少ない。これは、下で述べる短語尾形が、主に完了体しか使われないためである(完了体動詞の受動相は受動形動詞過去短語尾しかないが、不完了体動詞の受動相は -ся 動詞もあり得る)。

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短語尾

 受動形動詞には短語尾が存在する。形態は完全に形容詞に順ずる。述語としてのみ使用され、いわゆる受け身の文(複合受動相)をつくる際に用いられる。
 ただし、現実には受動形動詞現在の短語尾はまれで、もっぱら受動形動詞過去短語尾が用いられる。

 なお、形動詞は基本的に書き言葉的であるが、受動形動詞過去短語尾のみは例外で、口語でも頻繁に使用される(これが使えないとロシア語の受け身表現が極度に弱体化するためである)。

 詳細は、繰り返しになるので、受動相については、短語尾については短語尾を参照のこと。

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統語論的解説

 形動詞とは動詞からつくられるものであるから、動詞と同じく補語や状況語をとり得る。その際、支配する補語の格は基となった動詞と同じである。

 補語や状況語は形動詞を修飾しているため、形動詞の前、あるいはその直後に置かれる。しかし形動詞と名詞との間に余計な言葉が数多く挿入されると、場合によっては両者間の関係がわかりづらくなる。このため、形動詞とそれにともなう補語や状況語(あわせて形動詞句)はしばしば後置され、名詞との間にコンマを挟んだ孤立成分となる。

 文体的に言うと、形動詞は基本的に書き言葉である。上記の例も、関係代名詞を使った文の方が話し言葉としては一般的だろう。

 それを言うなら、関係代名詞すら使わない文もあり得る。

 上から下に行くにつれて、徐々に書き言葉的要素が弱まっていく。逆に言えば、話し言葉的な要素が強まっていく。4番目の文などはふたつの文に切り離してしまっているが、複文よりも単文が好まれる話し言葉では決して珍しいことではない。
 なお、このように、形動詞を使った文と関係代名詞を使った文とは通常対応しているが、その際の形動詞の格と関係代名詞の格とは必ずしも一致しない。形動詞は被定語となっている名詞の格に一致するが、関係代名詞は被定語の格とは無関係に、あくまでも関係代名詞節内での文法的役割によって格が決定されるからである。これは、形動詞と関係代名詞それぞれの文中での役割(形容詞と代名詞)を考えてみればわかるだろう。

 こちらも同じだが、こちらで注意したいのは3番目と4番目の違いである。受動形動詞は受動相であるから、能動相への言い換えが可能な場合がある。特にこのような不定人称文への書き換えは多くの場合において可能である。

 なお、これとは逆に、関係代名詞節がすべて形動詞句に書き換え可能というわけではない。Её якобы друг, с которым она пошла в кино, оказался моим мужем.「彼女が一緒に映画に行った彼女の友達というのは、わたしの夫だった」などという文は、形動詞句に書き換えることはできない。

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最終更新日 23 01 2013

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