наклонение
法の定義は面倒なので置いておくとして、法とは動詞を変化させる文法カテゴリのひとつである。ところがロシア語では、法は必ずしも形態論的に示されるものではなく(必ずしも動詞が変化するわけではなく)、統語論的に示される(他の単語との組み合わせで示される)ことが多い。よって、フランス語やドイツ語と違い、ロシア語では法など知らなくても問題ない。
ロシア語には直説法、仮定法、命令法の3つがある。
直説法
直説法とは、«普通の» 動詞変化と考えておいていい。特に言うべきことはない。
仮定法
仮定法とは、現実に反する仮定を示す法である。現実には雨が降っているのに「もし雨が降っていなかったら」、現実にはサッカーをしていないのに「サッカーをしているのに」と言うのが仮定法である。前者を特に条件法と呼ぶことがあるが、ロシア語では区別されない。
本来はフランス語やドイツ語の接続法と同じ起源にあるが、使い方はまったく異なる。教科書・文法書によっては仮定法ではなく接続法とか条件法とか呼ぶものもある。
ロシア語の仮定法は、英語の仮定法とほぼ同じ使い方をする。
ロシア語において、仮定法は бы という小詞を挿入して述語を過去時制にする(時に動詞の不定形が使われることもある)。чтобы もまた бы である。これ以外に何もする必要がない(してはいけない)。すなわち、上述のように、ロシア語の仮定法は動詞の変化とは無関係である。特殊な仮定法の変化があるわけではなく、直説法過去の変化を流用しているだけだ。ただ、それだけでは直説法と仮定法の区別がつかないため、бы という小詞を挿入するのである。
仮定法では常に動詞は過去形になる。このため、時制の区別が存在しない。
- (昨日)雨が降らなかったらサッカーをしたのに(雨が降ったのでしなかった)
- (いま)雨が降っていなかったらサッカーをしているのに(雨が降っているのでしていない)
- (明日)雨が降らなかったらサッカーをするのに(雨が降る予報なのでしないことにした)
上記三時制は、ロシア語ではすべて Е́сли бы не шёл до́ждь, мы́ игра́ли бы в футбо́л. である。
ではどのように時制を区別するかと言うと、状況語を使う。すなわち、昨日やいま、明日といった言葉を補うことで、時制を間接的に表現する。
бы という小詞は、直前にある単語を仮定する。特に条件を示す従属文で使われる если бы は事実上熟語のようになっているが、やはり通常は接続詞や動詞の後に置かれる。
- Я́ пошёл бы сего́дня в теа́тр, е́сли бы у меня́ бы́ло вре́мя. 「時間があったらきょう劇場に行く(行った)んだけどなぁ」
- Без тебя́ мы́ проигра́ли бы. 「君がいなけりゃおれたち負けてる(負けてた)よ」
- Е́сли бы у меня́ бы́ли кры́лья! 「もしぼくに翼があったらなぁ」
- Хо́ть бы она́ прие́хала на два́ дня́. 「せめて2日の予定で彼女が来る(来た)のなら良い(良かった)のに」
- То́лько бы о́н не простуди́лся! 「あいつが風邪引きさえしなけりゃ」
- Улете́ть бы пти́цей! 「鳥になって飛び去りたい!」
- Ещё ра́з уви́деть бы её. 「もう一度彼女に会いたい(会いたかった)」
- Я́ бы не сказа́ла ему́ об э́том. 「わたしだったらかれにあのこと言わない(言わなかった)のに」
- Ты́ бы не сказа́ла ему́ об э́том. 「君がかれにあのこと言わなければ良い(良かった)のに」
- Что́ бы ни случи́лось, я́ бу́ду с тобо́й. 「何が起ころうと、ぼくは君と一緒だ」
- Вы́ могли́ бы мне́ помо́чь? 「手伝ってくれます?」
- О́н говори́л ме́дленно, чтобы бы́ло поня́тно все́м. 「みんなにわかるように、かれはゆっくり話した」
- Я́ вста́л пора́ньше, чтобы не опозда́ть на ле́кцию. 「授業に遅れないよう、わたしは早めに起きた」
- Она́ сказа́ла, чтобы я́ взяла́ с собо́й зо́нтик. 「傘を持っていくよう彼女はわたしに言った」
命令法
命令法のうち、一人称と三人称は、これまた形態論的なものではない。動詞が特殊な変化をして命令法であることを示すのは、二人称だけである。
命令法一人称・三人称は形態論的なものではなく、必ずしも決まった形があるわけではないが、直説法の «普通の» 文の頭に以下の単語を付加することで示される。それぞれの使い分けは、完全にそれぞれの単語の語義により決定される。
- пусть : 使役・許可・放任・願望など
- Пу́сть я расскажу́. 「ぼくが話すよ」
- Пу́сть о́н придёт. 「かれを来させなさい」
- Пу́сть говоря́т, что́ хотя́т. 「言いたいことを言わせておけ」
- пускай : пусть の口語形
- дай(-те) : 促し・決意(動詞 дать の命令形であり、ゆえに相手が単数では дай、複数では дайте となる)
- Да́й я́ э́то сде́лаю. 「おれがやるよ/おれがやるとするか」
- Да́йте я́ ва́м помогу́. 「お手伝いします」
- давай(-те) : 促し(文法学者によっては文の一部ではなく間投詞で、ゆえにコンマで区切られる)
- да : 願望(三人称のみ) 文語でのみ使用され、そのため語順も倒置になる。
- Да здра́вствует Сове́тский Сою́з! 「ソヴィエト連邦万歳!」
- Да живёт о́н мно́гие го́ды! 「かれが長生きしますように」
- Да скро́ется тьма́! 「闇よ消えよ」
命令法一人称複数は、「〜しよう」という意味では特殊な形を用いる。動詞の体により異なるが、図式化すると以下のとおり。
- давай(-те) : 不完了体動詞の不定形とともに。
- Дава́й писа́ть. 「書こう」
- Дава́й рабо́тать. 「働こう」
- давай(-те) : 動詞の直説法未来一人称複数とともに。
- Дава́й погуля́ем. 「ちょっと歩こう」(完)
- Дава́й бу́дем рабо́тать. 「働こう」(不完)
- 直説法未来一人称複数 : 事実上、主語 мы を省略しただけ。
- Ку́пим. 「買おう」(完)
- Бу́дем писа́ть. 「書こう」(不完:まれ)
- 直説法現在一人称複数 : 定方向動詞のみ。
- Идём! 「行こう」
- Лети́м! 「飛ぼう」
- 直説法過去複数 : 一部動詞のみ。主に開始の意味を持つ動詞。日本語の「さあ、行った行った」に近い感覚。
- Пошли́! 「行くぞ」
- На́чали! 「始めよう」
命令法二人称は、いわゆる «普通の» 命令文で用いられる動詞の形(命令形)である。ロシア語の法において、直説法を除くとこれのみが形態論的に示される。命令形については別ページにて詳述する。
なお、命令形を用いない命令法二人称、および命令の意味ではない命令法二人称はここでは省略する(それは形態論ではなく統語論の話である)。