ロシア学事始ロシア語概説形態論

«シャー» 動詞

возвратные глаголы

ロシア語には、日本語で一般に «ся 動詞» と呼ばれる一群の動詞が存在する。
 ロシア語では «再帰動詞» と呼ばれるが、この文法用語は日本語ではほとんど使われない。と言うのも、再帰の意味を持つ ся 動詞はむしろ少数派だからであろう。

形態

 ся 動詞とは、動詞の末尾が -ся ないし -сь となる動詞のことである。-ся ないし -сь は文法的には接尾辞ではないが、接尾辞のようなもので、動詞の末尾に付加される。ゆえに、ся 動詞は、本来的には -ся ないし -сь が末尾につかない動詞からつくられたものである。
 なお、動詞の末尾に -ся ないし -сь がついて ся 動詞ができているからと言って、無闇やたらにどんな動詞にでも -ся ないし -сь をつけることはできない。

本来の動詞ся 動詞
писатьписаться
хотетьхотеться
учитьучиться
находитьнаходиться
найтинайтись
вестивестись
зажечьзажечься
бояться
смеяться

 бояться や смеяться は、何らかの理由で本来の動詞が使われなくなったか、何らかの理由でもともと本来の動詞など存在しないか、である。

 ся 動詞の変化は、-ся ないし -сь のつかない場合とまったく同じ変化である。ただ単に、語末に -ся ないし -сь がつく、というだけの違いである。

本来の動詞ся 動詞
不定形писатьписаться
現在形単数一人称пишупишусь
現在形単数二人称пишешьпишешься
現在形単数三人称пишетпишется
現在形複数一人称пишемпишемся
現在形複数二人称пишетепишетесь
現在形複数三人称пишутпишутся
過去形単数男性писалписался
過去形単数女性писалаписалась
過去形単数中性писалописалось
過去形複数писалиписались
命令形単数二人称пишипишись
命令形複数二人称пишитепишитесь

 ここからわかるかと思うが、-ся と -сь の違いは、直前が母音か子音かの違いである。直前が子音であれば -ся、直前が母音であれば -сь となる。別の言い方をすれば、-ся が本来の形であり、直前が母音の場合に -сь に変化する。
 なお、副動詞においてもこれに順ずるが、形動詞は例外である。形動詞においては、-сь という形は存在しない。直前に母音が来ても常に -ся である。

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分類・意味・用法

 ся とは себя「自分を」が短縮されたものである。
 ゆえに、ся 動詞のもとになる動詞は他動詞である(例外はある)。  ※他動詞についてはを参照。
 ゆえに、ся 動詞は対格補語(直接目的語)を取れない(例外はない)。

 なお、以下の分類は筆者の恣意である(それなりに文法書を参考にしてはいるが)。だいたい、厳密な分類など不可能である。

再帰動詞

 再帰とは読んで字の如し「再び帰る」という意味だが、これは「自分のした行為が自分に帰る」ということである。「自分が自分を〜する」というのが再帰動詞の意味である。мыть は「洗う」という意味である。これが мыться になると、「自分を洗う」という意味になる。ロシア語は他動詞と言っても英語ほどうるさくないので、мыть が目的語を持たなくても問題はないが、やはり通常は「何を」が気になる。ところが、мыться は「何を」を表すことができない。すでに「自分を」という目的語が内包されているからである。逆に言えば、特に「何を」を言わなくていい場合、言いたくない場合には мыться を使えばいい。О́н мы́лся в ва́нне. は「かれは浴槽で(自分を)洗った」という意味だが、日本語的には「かれは風呂に入った」と訳した方がわかりやすい。ちなみに、О́н мы́л в ва́нне. だと「かれは浴槽で洗った」という意味で、「何を」が示されていない。
 одеть「着せる」 ⇒ одеться「着る」、защитить「守る」 ⇒ защититься「自衛する」、строить「建てる」 ⇒ строиться「(自分の家を)建てる」等々。
 ただし何でもかんでも ся 動詞にすれば再帰の意味になるかと言えばそんなことはないので、ся 動詞にしても再帰の意味を持たない動詞、そもそも ся 動詞を持たない動詞については、素直に себя を補ってやるしかない。

相互動詞

 「互いに〜しあう」という意味の動詞をつくることもある。主語の中に目的語が含まれている、という点では再帰動詞と同じだが、この場合の主語は複数である。обнять「抱く」 ⇒ обняться「抱き合う」、целовать「キスする」 ⇒ целоваться「キスしあう」等々。
 ただし主語は必ず複数とは限らない。Я встретил его.「わたしはかれに会った」 ⇔ Я встретился с ним.「わたしはかれに会った」のように、相互の意味の ся 動詞でも主語が単数という場合はある。この区別は日本語では不可能(?)だが、ロシア語ではニュアンスが違う。あえて単純化して言えば、

  1. 昨日買い物に行って、スーパーでかれを見かけた。そこでかれに近づいて、「よお、久しぶり」と声をかけた。
  2. 昨日買い物に行って、スーパーでかれを見かけた。かれもわたしに気づき、お互いに近寄って「よお、久しぶり」と声をかけあった。

というふたつの状況があったとして、1 が Я встретил его. だとすれば、2 が Я встретился с ним. だと言えるだろう。
 再帰動詞同様、どんな動詞でも ся 動詞にすれば「お互いに」という意味になるわけではない。むしろ通常は、друг друга という相互再帰代名詞を補う。
 ちなみに、動詞の中には ся 動詞にしなくても「お互いに」という意味を内包しているものも少なくない(そのような動詞は通常非他動詞)。

自動詞

 他動詞を自動詞にする場合にも、しばしば -ся が使われる。начать「始める」 ⇒ начаться「始まる」、открыть「開ける」 ⇒ открыться「開く」、улучшить「よくする」 ⇒ улучшиться「よくなる」、строить「建てる」 ⇒ строиться「(家が)建つ」等々。
 使役の他動詞を自動詞に変えるのも、ся 動詞の役割のひとつである。интересовать「興味を持たせる」 ⇒ интересоваться「興味を持つ」、пугать「驚かす」 ⇒ пугаться「驚く」、сердить「怒らせる」 ⇒ сердиться「怒る」等々、特に感情にかかわる動詞に多い。

無人称動詞

 ся 動詞によって無人称動詞になるものは、単純化するとふたつのタイプがある。ひとつは動作主体(与格で示される)の気分を表す動詞をつくる。хотеть「〜したい」 ⇒ хотеться「〜したい」、писать「書く」 ⇒ писаться「書く気がある/書く気が乗る」、говорить「話す」 ⇒ говориться「話したい気分だ」等々。
 もうひとつは、動作主体の気分とは無関係に「〜できる」、「順調にいく」というニュアンスを表す動詞をつくる。любить「愛する」 ⇒ любиться「愛せる」、спать「眠る」 ⇒ спаться「眠れる」、работать「働く」 ⇒ работаться「働ける/はかどる」等々。

不完了体動詞の受動相

 受動相のつくり方は不完了体と完了体で異なるが、不完了体動詞の一部には、ся 動詞にすることで受動相をつくるものがある。строить「建てる」 ⇒ строиться「建てられる」、писать「書く」 ⇒ писаться「書かれる」等々。

その他

 もとの動詞と ся 動詞との関係がよくわからないものも多い。пытать「試す(旧)」 ⇒ пытаться「やってみる」、находить「見つける」 ⇒ находиться「ある」、нести「運ぶ」 ⇒ нестись「疾駆する」等々。

ся 動詞しかないもの

 なぜかは知らないが、ся 動詞しかない、というパターンも少なくない。бояться「怖れる」、смеяться「笑う」、становиться「〜になる」(ただし対応する完了体は стать)等々。

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最終更新日 13 09 2012

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