ロシア学事始ロシア語講座初級

ロシア語講座:初級

З23:無人称動詞

まず、少々小難しい話から入る。これを完全に理解するのは中級になってからでもいいが、一応漠然とでも理解しておかないと話が先に進まないので、とりあえず目を通すだけは通しておいていただきたい。

 ロシア語には「主語があってはならない文」というのが存在する。すでに学んだ不定人称文普遍人称文であるが、ほかにも «無人称文» というものがある。

 人称文と不定人称文、人称文と普遍人称文を区別するポイントは、単純化すると以下のようになる。

つまり、

ということになる。
 ただし、「誰が」がどうでもよくても人称文にもできるし、「人というものは」という場合に人称文にすることも可能である。極論すれば、不定人称文・普遍人称文にするかどうかは話者・筆者の好き勝手、と言ってもいい。
 また、主語がなく、動詞が複数三人称、あるいは単数二人称でも、不定人称文・普遍人称文ではないこともある。それどころか、単数二人称でない普遍人称文というのも存在する。
 この辺り、基本的な話はすでにしたし、より詳しいことは中級・上級になって学んでいけばいい。

 今回、本題となるのは、もうひとつの「主語のない文」無人称文である。
 無人称文は、その一部をすでに学んでいる。述語副詞を使った文である。どのような場合に述語副詞を使うか、すでに述べたことだがもう一度確認しておく。それは、「ロシア人が述語副詞を使う場合に述語副詞を使う」である。
 無人称文は、このように、「どのような場合に使うか」が不定人称文や普遍人称文ほど明確ではない。その一方で、述語副詞が使われていれば、それは必ず無人称文である。
 ここで学ぶ «無人称動詞» もまた無人称文をつくる動詞だが、これまた「ロシア人が無人称動詞を使う場合に無人称動詞を使う」と理解しておくほかない(少なくともいまの段階では)。

 無人称動詞の特徴は、述語副詞とほぼ同じである。いちおう列挙しよう。

 不定人称文や普遍人称文で使われる動詞は、普通の動詞である。それが文意に応じて不定人称文や普遍人称文でも使われるのである。
 無人称文で使われる動詞(無人称動詞)は、普通の動詞ではない。たとえば хотеться という動詞は無人称動詞である。この動詞は、無人称動詞としてしか使われない。つまり、この動詞を使った文は、必ず無人称文になる。
 しかし、無人称動詞は、普通の動詞と別に存在しているわけではない。たとえば удаться という動詞は、「ロケットの打ち上げが成功した」と言う場合には、「打ち上げ」を主語とする普通の動詞である。ところが「われわれはロケットの打ち上げに成功した」と言う場合には、主語のない無人称動詞となる。「われわれ」は主語ではないので、与格で示される。
 つまり、動詞は

  1. 無人称動詞としてしか使えない動詞
  2. 無人称動詞としても使える動詞

のふたつに分けられる。「無人称動詞としても使える動詞」は、その意味や用法に応じて普通の動詞として使ったり、無人称動詞として使ったりすることになる。ゆえに、どんな動詞が、どんな意味・用法の場合に無人称動詞として使われるのか、辞書でいちいち確認する必要がある。

 無人称動詞、まして無人称文は非常に複雑な話になるので、中級・上級で改めて学んでいくことにして、ここではとりあえず以下の動詞を、無人称文をつくる無人称動詞として(あるいは、無人称動詞にもなる動詞として)覚えよう。

#176 «無人称動詞» とは、«無人称文» をつくる動詞である。

#177 «無人称文» とは、主語があってはならない文のひとつ。述語副詞や無人称動詞を使った文のこと。

#178 一部の動詞は無人称動詞としても使うことができる。一部の動詞は無人称動詞としてしか使えない。

#179 無人称動詞は無人称文をつくるから、語尾変化は単数三人称中性しか存在しない。動作主体は与格で示される。

#180 無人称動詞を使うかどうか(無人称文になるかどうか)は、単語(動詞)・単語の意味・文の意味・表現・状況ごとに異なる。

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па́хнуть(不完) ⇔ ─(完)

  1. 造格の匂い・臭いがする
主語現在形過去形命令形
па́хнуть
япа́хнупа́х | па́хнул
па́хнула
тыпа́хнешьпа́х | па́хнулпа́хни
па́хнула
он | 男性名詞па́хнетпа́х | па́хнул
она | 女性名詞па́хнула
оно | 中性名詞па́хнуло
мыпа́хнемпа́хнули
выпа́хнетепа́хните
они | 名詞の複数形па́хнут

лека́рство(中性名詞)薬
горе́лый(形容詞)焦げた・半焼けの(全焼してはいない)
духи́(複数名詞)香水 ⇐ ду́х(男性名詞)精神・魂・心

 人称文にするか無人称文にするか、間違われることの多い動詞。普通の動詞としても無人称動詞としても使うことができ、しかもどちらで使っても意味が同じなので厄介である。
 次の例を考えてみよう。

  1. 「この香水バラの匂いがする」
  2. 「お前バラの匂いがする」
  3. 「この部屋バラの匂いがする」

この3つ、「バラの匂いがする」は同じである。違いは「香水」、「お前」、「部屋」である。問題は、これが動作主体なのかどうか、である。
 まず「香水」は、誰がどう考えても動作主体である。もっとも、人ではないので動作主体にはなじまないが、それはここではおいておく。いずれにせよ、「香水」が動作主体であれば、「香水」を主語とした人称文になる。

 「部屋」は動作主体ではない。よくよく考えてみれば、匂いを発しているのは部屋そのものではなく、部屋の中にある何かだからである。だからこれは主語のない無人称文になる。

なお、部屋の中に実際にバラがあれば、通常の人称文になる。

細かいことを言うと、「部屋」を主語とした人称文 «Комната пахнет розой.» もあり得る。しかしここでは話がややこしくなるので、こちらは忘れておいた方がいいだろう。«В комнате пахнет розой.» との違いは、中級になり、無人称文について詳しく学ぶ際に考えることにしよう。

 そして問題が「お前」だ。「お前自身が匂いを発している」と捉えるか、「お前の身につけている何かが匂いを発している」と捉えるか、によって人称文になるか無人称文になるかが決まるのである。

 しかし、このように話者・筆者の意図次第で無人称動詞として使うかどうか決めることができる動詞というのは、実は例外的である(初級レベルでは)。大部分は、個々の動詞の意味によって画然と区別される。

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уда́ться(完) ⇔ удава́ться(不完)

  1. 成功する
  2. (無人称)動詞不定形(完了体)することに成功する(できる)

 以下、例文はすべて無人称文。

 すでに述べたことだが改めて確認しておくと、удаться | удаваться の主語となり得るのは成功した物事であって、人ではない。「(人)が成功する」と言いたい場合には、無人称動詞となる。つまり、удаться | удаваться には一人称・二人称があり得ない。

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каза́ться(不完) ⇔ показа́ться(完)

  1. 造格に見える(見た目は造格だ)
  2. (無人称)与格には従属文と思われる

 以下、例文はすべて無人称文。

 最後の例は、кажется を挿入語として使っている。厳密に文法的に言うと異なる用法だが、実際には «Мне кажется, что ...» と «Кажется, ...» と、同じような感覚で使っていて問題ない。

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сто́ить(不完) ⇔ ─(完)

  1. 主格の値段が対格する
  2. 主格は生格の値打ちがある・に値する・ふさわしい
  3. (無人称)動詞不定形する価値・意味がある・すべきだ

 以下、例文はすべて無人称文。

ве́щь(女性名詞)物・品物・(漠然と)もの
жале́ть(不完了体動詞) ⇔ по-(完了体動詞)対格を憐れむ、о+前置格を惜しむ

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прийти́сь(完) ⇔ приходи́ться(不完)

  1. (ちょうどの位置に)当たる
  2. (時期・好みが)合う・一致する
  3. (無人称)動詞不定形しなければならない状況になる

 変化は прийти ⇔ приходить に同じ。

主語現在形過去形命令形
прийти́сь
яприду́сьпришёлся
пришла́сь
тыпридёшьсяпришёлсяприди́сь
пришла́сь
он | 男性名詞придётсяпришёлся
она | 女性名詞пришла́сь
оно | 中性名詞пришло́сь
мыпридёмсяпришли́сь
выпридётесьприди́тесь
они | 名詞の複数形приду́тся

мя́ч(男性名詞)ボール・まり・玉
напро́тив(副詞)向かいに、(前置詞)生格に向かい合って
потому́ что(接続詞)〜だから・なので、なぜなら〜

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случи́ться(完) ⇔ случа́ться(不完)

  1. たまたま(偶然に)起こる
  2. (無人称)たまたま(偶然に)動詞不定形する機会がある・訪れる

 ※слу́чай(男性名詞)出来事・事件、場合・ケース、好機・チャンス、偶然
 ※случа́йно(副詞)偶然に・たまたま
 ※случа́йность(女性名詞)偶然性、偶然の出来事
 ※случа́йный(形容詞)偶然の・たまたまの、思いがけない

 不完 случаться は I 式規則変化。

主語現在形過去形命令形
случи́ться
он | 男性名詞случи́тсяслучи́лся
она | 女性名詞случи́лась
оно | 中性名詞случи́лось
они | 名詞の複数形случа́тсяслучи́лись

пожа́р(男性名詞)火事
неприя́тность(女性名詞)不愉快なこと・出来事

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сле́довать(不完) ⇔ ─(完)

  1. за+造格の後についていく・追う
  2. за+造格の後にある・来る
  3. 与格を見習う・手本とする
  4. из+生格の結果として出てくる
  5. (無人称)動詞不定形すべきである・従属文が必要だ

 変化は I 式不規則(-овать型)。

 ※сле́д(男性名詞)足跡、痕跡
 ※следи́ть(不完) ⇔ ─ (完)за+造格を目で追う・見守る・監督する・配慮する
 ※сле́дующий(形容詞)次の
 ※после́дний(形容詞)最後の

Мурзи́к(男性名詞)イヌやネコによくつけられる名前
Ка́тенька(女性名詞)女性名 Екатери́на の指小形

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хоте́ться(不完) ⇔ ─(完)

  1. (無人称)生格が欲しい
  2. (無人称)動詞不定形したい
  3. (無人称)従属文であって欲しい

 変化は хотеть に同じ。ただし無人称動詞としてしか使われないので、実際には単数三人称中性のみ。

 хотеть との使い分けが微妙だが、あえて単純化すると、хотеть が「したい・欲しい」という直接的な意志を表明するのに対して、хотеться は気分を表す。強いて言うならば、もう疲れた、さっさとベッドに入って眠りたい、という場合には «Я хочу спать.» だが、まだまだ夜更かしして遊んでいたいのに、まぶたが重くて耐えられない、という場合には «Мне хочется спать.» である。

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везти́(不完) ⇔ повезти́(完)

  1. (無人称)与格はついている・運がいい

 変化は везти に同じ。ただし無人称動詞としてしか使われないので、実際には単数三人称中性のみ。

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хвати́ть(完) ⇔ хвата́ть(不完)

  1. (無人称)生格が・で足りる・十分だ
  2. (無人称)生格・動詞不定形はもうたくさんだ(からやめろ)

 不完 хватать は I 式規則変化。

主語現在形過去形命令形
хвати́ть
хва́титхвати́ло

вы́говор(男性名詞)発音、叱責・小言、戒告処分
болта́ть(不完了体動詞) ⇔ болтну́ть (完了体動詞)ムダ話をする、ペラペラしゃべる

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最終更新日 07 11 2017

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