З22:Dしよう
すでに出てきた表現だが、「Dしよう・しましょう」という表現を確認しておこう。
たとえば相手を映画に誘いたい場合、日本語でどう表現するか。
- 映画を観よう。
- 映画を観ない?
- 映画を観る?
もちろん、ほかの表現もあり得るだろう。
日本語文法的に言えば 1) も 2) も動詞の未然形を用いるわけだが、助詞が違うから形態も全然違ってくる。1) は直接的な勧誘・お誘いの表現であり、2) は否定疑問である。これに対して 3) は必ずしも勧誘・お誘いの表現ではない。相手の意図を尋ねているだけなので、「勧誘・お誘いの意味でも用い得る」と言うべきだろう。形式的には動詞の終止形ということになる。
自分の意思を表現することよりも相手の意向を優先する日本人は、1) よりも 2) や 3) の方をよく使うだろうか。
勧誘・お誘いの表現は、ロシア語でも複数あり得る。ここでは基本となる形を確認する。
「Dしろ」という命令は、話し相手がする行為だから、二人称である。これに対して「Dしよう・しない?」という勧誘・お誘いは、話し手が聞き手に対して「一緒にやろう」と勧誘するものだから、一人称複数である。
また、これからする行為であるから、当然未来時制である。
- Мы́ бу́дем смотре́ть кино́.
- Мы́ посмо́трим кино́.
しかしこれでは、「わたしたちは見るつもりだ・見ようと思う・見る予定だ・見ることになっている・見るだろう」という普通の未来時制と区別がつかない。そこで、命令文と同じように、主語を省略してしまう。
- Бу́дем смотре́ть кино́.
- Посмо́трим кино́.
これでOKだ。
- Исключи́м его́ из гру́ппы? 「かれをグループから外そうか?」
- На э́том зако́нчим заня́тия. 「これで授業を終わりにします」
- Сейча́с вернёмся к те́ме. 「さて、テーマに戻りましょう」
- Отдохнём? 「一休みする?」
- Возьмём его́ приме́р. 「かれの例を取り上げてみよう」
- Ну́, начнём перегово́ры. 「さて、交渉を始めようか」
- С чего́ начнём? 「何から始めようか?」
ただしこれだと、ただ単にめんど臭いから主語 мы を省略しただけの文と区別できない。前後の文脈から何となく言いたいことはわかるはずだが、「Dしよう」という勧誘の意味合いを明確にするためには、文頭に давай|давайте を入れる。
- Дава́й|-те бу́дем смотре́ть кино́.
- Дава́й|-те посмо́трим кино́.
なお、不完了体動詞のみは давай|давайте+不定形という形も認められている。
- Дава́й|-те смотре́ть кино́.
以上を整理すると、以下のようになる。
未来時制 | давай|-те+未来時制 | давай|-те+不定形 | |
---|---|---|---|
完了体 | Сделаем. | Давайте сделаем. | ─ |
不完了体 | Будем делать. | Давайте будем делать. | Давайте делать. |
とはいえ、これでは面倒なので、とりあえず現段階では
完了体 | давай|-те | + | 未来時制(現在形) |
不完了体 | 不定形 |
を覚えておこう。つまり、
- Дава́й|-те посмо́трим кино́. ※ただし давай|давайте なしで、«Посмо́трим кино́.» でもOK。
- Дава́й|-те смотре́ть кино́.
少なくとも不完了体動詞では、未来時制を使った2つの表現は日常会話レベルではかなり使用頻度が低いからである。上でも再確認した例文がすべて完了体動詞を使ったものであるのも、そのためだ。
#174 「Dしよう」は、完了体では (давай|-те +) 未来時制(現在形)。
#175 「Dしよう」は、不完了体では давай|-те + 不定形。
なお、完了体動詞を使うか不完了体動詞を使うか、それは完了体と不完了体の体の使い分けの問題であり、「Dしよう」という表現に固有の問題ではない。
- Дава́й писа́ть письмо́. 「手紙を書こう」 ⇔ Дава́й напи́шем письмо́. 「手紙を書き上げちゃおう」
- Дава́й реша́ть зада́ния. 「宿題をやろう」 ⇔ Дава́й реши́м зада́ния. 「宿題を解いちゃおう」
日常会話では「ちょっと」という意味合いを付加する接頭辞 по-(完了体動詞をつくる)を使った表現が多い。
- (Дава́й|-те) поговори́м. 「少しお話しよう」
- (Дава́й|-те) погуля́ем. 「ちょっと歩こうか」
- (Дава́й|-те) посиди́м. 「ちょっと腰を下ろ(して〜)しませんか」
同じく、日常会話で頻出する特殊な表現。
- Пошли́! 「行こう」≒「出発しよう」
- Пое́хали! 「(乗り物で)行こう」≒「出発しよう」
- どうでもいいことだが、ヴォストーク1号の打ち上げに際してガガーリンが叫んだ言葉としても有名。
過去形なのに「Dしよう」なのはなぜか、とか考えてはいけない。この2つに固有の表現として覚えておこう。
答え方
と言っても、決まりきった表現などない。
日本語でも、
映画観に行こう
と誘われて、「うん」、「はい」、「ああ」といった素っ気ない返事から、「いいよ」とか「OK」とか「わかった」とか、「Dしよう」という表現以上に様々な返事があり得る。ロシア語でも同じことである。
とりあえず単純なのは «Да.» ないし «Нет.»。これで十分とも言える。
とはいえ、これだけではいかに何でも素っ気なさすぎる。かと言って、では何と言うかは人間関係や個性の問題であって、語学の問題ではない。一応、
- 賛同
- Дава́й|-те. 「(そう)しよう」
- Да́, с удово́льствием. 「喜んで」
- 拒否
- Не́т, к сожале́нию, не могу́|хочу́. 「できない/したくない」
- Не́т. К сожале́нию, я́ за́нят|занята́. 「忙しい」
- Не́т. К сожале́нию, у меня́ не́т вре́мени. 「時間がない」
といった言い回しを暗記しておくといい。