З21:AはBだ/Aがある・いる
動詞の用法を学んだところで、改めて「AはBだ」と「Aがある・いる」を、動詞を用いて表現してみよう。
別に動詞を使わなくても、これらの表現はできる。すでに見たとおりである。しかし動詞を使うことで、その動詞に固有の特殊なニュアンスを文に付加することになるのだ。
#172 「AはBだ」や「Aがある・いる」で動詞を使うことで、微妙なニュアンスを加えることができる。
「AはBだ」の言い方
- быть
- 現在時制では以下の3通りがあるが、過去時制・未来時制では共通(быть の過去形・未来形を用いる)。
- Bは、現在時制では主格、過去時制・未来時制では造格。
- 何も使わない : «Он студент.»
- 最も平易な言い方。
- ─ : «Мой брат ─ студент.»
- 同上。1 との違いは、文法的なもの(A・Bいずれも名詞の場合)。
- есть :
- 学術的な定義文に用いられる。
- 動詞
- いずれも文体的には文語的。動詞それぞれの意味・ニュアンスの違いにより使い分けられる。
- いずれも不完了体。対応する完了体を持たない(違う意味では完了体があるものもある)。
- являться +造格
- представлять собой +対格
- служить +造格
- состоять +в+前置格 ※特に в том, что...
- заключаться +в+前置格 ※特に в том, что...
- その他
「Aが(Eに)ある・いる」の言い方
- быть
- 現在時制では以下の2通りがあるが、過去時制・未来時制では共通(быть の過去形・未来形を用いる)。
- есть : «Там есть собака.»
- 「ある・いる」が言いたい文ではこちら。
- 何も使わない : «Собака там.»
- 「Eに」が言いたい文ではこちら。
- 動詞
- 文体的にはニュートラル。文語でも口語でもOK(иметься を除く)。
- いずれも不完了体。対応する完了体を持たない(違う意味では完了体があるものもある)。
- находиться (「Eに」は必須)
- стоять 「立って」 (「Eに」がないと「立っている」が強調される。「ある・いる」というニュアンスを持たせたい場合は「Eに」が必須)
- лежать 「横たわって」 (「Eに」がないと「寝ている」が強調される。「ある・いる」というニュアンスを持たせたい場合は「Eに」が必須)
- сидеть 「座って」 (「Eに」がないと「座っている」が強調される。「ある・いる」というニュアンスを持たせたい場合は「Eに」が必須)
- существовать 「存在する」 (「Eに」は不要)
- иметься (文語) (「Eに」は不要)
- 形容詞
- 文体的には文語的。
- расположенный
造格の用法
「AはBだ」を表す言い方の多くに共通するのが、Bが造格になる、という点である。造格の用法ということで言うと、つまり英語文法の補語(「AはBだ」のB)は造格で示される、ということである。
これは、動詞を使わない言い方にもあてはまる。以前「AはBだ」の過去時制・未来時制を学んだ際に、「AはBだ」を過去時制・未来時制にするには多少の考慮が必要になる、と述べた。もうお忘れかもしれないが、この「多少の考慮」というのが、Bを主格にするか造格にするか、という判断なのである。
動詞を使わない場合、Bを主格にするか造格にするかの判断には微妙なところがある。しかしいまの段階では、とりあえず次のように覚えておこう。
- 現在時制 : 主格
- 過去時制・未来時制 : 造格
つまり、単純化するとこうだ。
過去時制 | Он | был | студентом | . |
現在時制 | студент | |||
未来時制 | будет | студентом |
実際には、現在時制で造格、過去時制・未来時制で主格が用いられる場合もある。しかしその使い分けは中級・上級レベルの話で、いまはこれで十分だ。
#173 「AはBだ」のBは、過去時制・未来時制では造格が基本。
явля́ться(不完)
- 現れる・来る ⇔ яви́ться(完)
- 造格である ⇔ ―(完)
基本的に文語と考えておいていい。硬い言い回しになるので、日常会話で使うことはあまりない。逆に、新聞・雑誌を含め書き言葉では多用される。
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | явля́юсь | явля́лся | |
女 | явля́лась | |||
ты | 男 | явля́ешься | явля́лся | явля́йся |
女 | явля́лась | |||
он | 男性名詞 | явля́ется | явля́лся | ||
она | 女性名詞 | явля́лась | |||
оно | 中性名詞 | явля́лось | |||
мы | явля́емся | явля́лись | ||
вы | явля́етесь | явля́йтесь | ||
они | 名詞の複数形 | явля́ются |
- Столи́цей Росси́и явля́ется Москва́. 「ロシアの首都はモスクワである」
- «*Столица России является Москвой.» とは言わない。これは他の表現にも通じる考え方だが、ロシア語では «単語の表す概念の広さ» がこのような場合の判断において決定的な役割を果たす。
「モスクワ」という単語が表す概念は、モスクワ市、モスクワ州、モスクワ川、等々である。場合によってはロシア政府を意味することもある。とはいえ単純に「モスクワ」と言った場合には、常識的にはモスクワ市のことである。当然、「首都」という単語が表す概念は、モスクワ市を含む。なぜなら「首都」には、モスクワ市のほかに、東京やロンドン、NY、パリ、北京なども含まれるからである。
このような場合、主格になるのはより概念の狭い名詞であり、造格になるのはより概念の広い名詞である。
- «*Столица России является Москвой.» とは言わない。これは他の表現にも通じる考え方だが、ロシア語では «単語の表す概念の広さ» がこのような場合の判断において決定的な役割を果たす。
- Ру́сский язы́к явля́ется госуда́рственным языко́м РФ. 「ロシア語はロシアの公用語である」
- «Государственным языком РФ является русский язык.» 「ロシアの公用語はロシア語である」も可。ただし、«*Государственный язык РФ является русским языком.» と «*Русским языком является государственный язык РФ.» は不可。理由は上述のとおり。
- Сейча́с твое́й гла́вной зада́чей явля́ется изуче́ние ру́сского языка́. 「いまお前にとって一番大事なのはロシア語の勉強だ」
- «*Сейчас твоя главная задача является изучением русского языка.» は不可。
- А. С. Пу́шкин явля́ется вели́ким ру́сским поэ́том. 「プーシュキンは偉大なロシアの詩人である」
- ロシア語では、イニシャルというのは文字で書く場合にのみ用いられる、言わば特殊な書き方である。口頭で発する場合には、「アー、エス、プーシュキン」などとは言わない。Александр Сергеевич Пушкин、Александр Пушкин、あるいは単に Пушкин と言う。書いてある文を音読するような場合は、無視しても構わない。
оказа́ться(完) ⇔ ока́зываться(不完)
※変化形式は、完了体動詞は I 式不規則、不完了体動詞は I 式規則変化
- (場所を示す語句とともに)いる・ある(ということがわかる)
- 造格・従属文だとわかる
оказаться | оказываться は、基本的に「AはEにある・いる」および「AはBである」を表す動詞である。ただしそれに、「気づいてみたら〜だった」、「調べてみたら〜だとわかった」というニュアンスを加えるのである。
事実関係だけを見れば、多くの文が、оказаться | оказываться の有無にかかわらず意味は同じである。
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | окажу́сь | оказа́лся | |
女 | оказа́лась | |||
ты | 男 | ока́жешься | оказа́лся | ― |
女 | оказа́лась | |||
он | 男性名詞 | ока́жется | оказа́лся | ||
она | 女性名詞 | оказа́лась | |||
оно | 中性名詞 | оказа́лось | |||
мы | ока́жемся | оказа́лись | ||
вы | ока́жетесь | ― | ||
они | 名詞の複数形 | ока́жутся |
- Его́ бра́т оказа́лся врачо́м. 「かれの兄/弟は医者だった(ということがわかった)」 ⇔ Его́ бра́т бы́л врачо́м. 「かれの兄/弟は医者だった」
- Но́вая ма́ть оказа́лась до́брым челове́ком. 「新しい母親は優しい人だった(ということがわかった)」 ⇔ Но́вая ма́ть была́ до́брым челове́ком. 「新しい母親は優しい人だった」
- До́м ока́зался пусты́м. 「(その)家は空き家だった(ということがわかった)」 ⇔ До́м бы́л пусты́м. 「(その)家は空き家だった」
- К сожале́нию, у меня́ с собо́й не оказа́лось де́нег. 「(探してみたが)あいにく手持ちがなかった」 ⇔ К сожале́нию, у меня́ с собо́й не́ было де́нег. 「あいにく手持ちがなかった」
- Я́ оказа́лся на незнако́мой у́лице. 「(気がつくと)わたしは見知らぬ通りに来ていた」 ⇔ Я́ бы́л на незнако́мой у́лице. 「わたしは見知らぬ通りにいた」
- Ю́ра ча́сто ока́зывается в неприя́тных ситуа́циях. 「ユーラはしょっちゅう不愉快なシチュエーションに陥る」
Ю́ра(男性名詞)男性名 Ю́рий の省略形
находи́ться(不完) ⇔ ―(完)
- ある・いる
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | нахожу́сь | находи́лся | |
女 | находи́лась | |||
ты | 男 | нахо́дишься | находи́лся | находи́сь |
女 | находи́лась | |||
он | 男性名詞 | нахо́дится | находи́лся | ||
она | 女性名詞 | находи́лась | |||
оно | 中性名詞 | находи́лось | |||
мы | нахо́димся | находи́лись | ||
вы | нахо́дитесь | находи́тесь | ||
они | 名詞の複数形 | нахо́дятся |
- Где́ вы́ сейча́с нахо́дитесь? 「いまどちらにいらっしゃいますか?」
- Лёша находи́лся у дру́га. 「リョーシャは友人のところにいた」
- Сле́ва нахо́дится До́м кни́ги. 「左手にドーム・クニーギがあります」
- ロシアには、«屋号» というものがない。だから店名は、基本的に扱っている商品そのまま。靴屋であれば «Обувь»、家具屋であれば «Мебель»、本屋であれば «Книга» といった具合である。«Дом книги» というのは、直訳すると「本の家」だが、モスクワ最大の本屋である。もっとも、この名の本屋はモスクワ以外にもある。
- Импера́торский дворе́ц нахо́дится в це́нтре То́кио. 「皇居は東京の中心部にあります」
- Где́ нахо́дится туале́т? 「トイレはどこですか?」
- Музе́й и́мени Пу́шкина нахо́дится о̀коло Хра́ма Хри́ста спаси́теля. 「プーシュキン美術館は救世主キリスト大聖堂の近くにあります」
- На проспе́кте Верна́дского нахо́дится Большо́й ци́рк. 「ヴェルナーツキイ大通りにはボリショイ・サーカスがあります」