これまで見てきた動詞はすべて不定形の語末が「母音+-ть」という動詞であった。
ロシア語には、不定形の語末が別パターンの動詞もある。
- 子音+-ть
- 子音+-ти
- 母音+-чь
の3つである。
ここでは 1) と 2) は区別しない。単にアクセントの位置がどこにあるか、の違いでしかないからである。
З14:I 式 子音+-ть
кла́сть(不完)
⇔ положи́ть(完) 変化形式は II 式
- 対格を(寝かせて)置く
※положе́ние(中性名詞)姿勢、状態・情勢・状況
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
кла́сть | ||||
я | 男 | кладу́ | кла́л | |
女 | кла́ла | |||
ты | 男 | кладёшь | кла́л | клади́ |
女 | кла́ла | |||
он | 男性名詞 | кладёт | кла́л | ||
она | 女性名詞 | кла́ла | |||
оно | 中性名詞 | кла́ло | |||
мы | кладём | кла́ли | ||
вы | кладёте | клади́те | ||
они | 名詞の複数形 | кладу́т | |||
положи́ть | ||||
я | 男 | положу́ | положи́л | |
女 | положи́ла | |||
ты | 男 | поло́жишь | положи́л | положи́ |
女 | положи́ла | |||
он | 男性名詞 | поло́жит | положи́л | ||
она | 女性名詞 | положи́ла | |||
оно | 中性名詞 | положи́ло | |||
мы | поло́жим | положи́ли | ||
вы | поло́жите | положи́те | ||
они | 名詞の複数形 | поло́жат |
- Ми́ша положи́л кни́гу на сто́л. 「ミーシャは本をテーブル・机の上に(寝かせて)置いた」
- Ку́да положи́ла де́ньги? 「お金どこにしまったの?」
- Положи́те ве́щи сюда́. 「荷物はこちらに置いてください」
- Ма́ма всегда́ кладёт мно́го са́хару в ча́й. 「ママはいつも紅茶に砂糖を入れすぎる」
- сахару は生格(不規則語尾)。
- Мо́й знако́мый кладёт де́ньги не в ба́нк, а в шка́ф. 「わたしの知り合いはお金を、銀行に預けずにタンスにしまっている」
- Сейча́с я положу́ ребёнка спа́ть. 「いま子供を寝かしつけてしまいますから」
упа́сть(完)
⇔ па́дать(不完) 変化形式は I 式規則変化
- 落ちる
※паде́ние(中性名詞)落下
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | упаду́ | упа́л | |
女 | упа́ла | |||
ты | 男 | упадёшь | упа́л | упади́ |
女 | упа́ла | |||
он | 男性名詞 | упадёт | упа́л | ||
она | 女性名詞 | упа́ла | |||
оно | 中性名詞 | упа́ло | |||
мы | упадём | упа́ли | ||
вы | упадёте | упади́те | ||
они | 名詞の複数形 | упаду́т |
- Ко́шка упа́ла с кры́ши. 「ネコが屋根から落ちた」
- Я́блоко от я́блони недалеко́ па́дает. 「リンゴはリンゴの木の近くに落ちる」=「この親にしてこの子あり」「カエルの子はカエル」
- Ли́за упа́ла на сту́л. 「リーザは椅子に倒れこんだ/崩れるようにすわった」
- Мо́й му́ж упа́л на ле́стнице и слома́л но́гу. 「夫は階段で転んで足を折った」
- на лестнице だからあくまでも「階段の上で」。「階段から転げ落ちた」だったら с лестницы。
я́блоня(女性名詞)リンゴの木
слома́ть(完) ⇔ лома́ть(不完)壊す・割る・砕く・折る・破る
попа́сть(完) ⇔ попада́ть(不完) 変化形式は I 式規則変化
- 命中する・当たる
- 造格を命中させる・当てる
- (偶然・たまたま)来る
- (探していたものを)見つける ※ただし目的語は取れない
- Ка́мень попа́л в окно́. 「石が窓に当たった」
- Ма́льчик попа́л ка́мнем в окно́. 「男の子は石を窓に当てた」
- Я́ попа́ла ключо́м в замо́к. 「わたしはロックにキーを差し込んだ」
- Сюда́ я́ попа́л впервы́е. 「こんなところに来たのは初めてだ」
- Ко́ля не попа́л в теа́тр. 「コーリャは劇場を見つけられなかった」
- О́н ча́сто попада́ет под до́ждь. 「かれはしょっちゅう雨にあっている」
- Туда́ не попа́ли. (間違い電話に対して)「かけ間違いですよ」
замо́к(男性名詞)錠前・ロック
впервы́е(副詞)初めて
се́сть(完)
⇔ сади́ться(不完) 変化形式は II 式
- すわる
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
се́сть | ||||
я | 男 | ся́ду | се́л | |
女 | се́ла | |||
ты | 男 | ся́дешь | се́л | ся́дь |
女 | се́ла | |||
он | 男性名詞 | ся́дет | се́л | ||
она | 女性名詞 | се́ла | |||
оно | 中性名詞 | се́ло | |||
мы | ся́дем | се́ли | ||
вы | ся́дете | ся́дьте | ||
они | 名詞の複数形 | ся́дут | |||
сади́ться | ||||
я | 男 | сажу́сь | сади́лся | |
女 | сади́лась | |||
ты | 男 | сади́шься | сади́лся | сади́сь |
女 | сади́лась | |||
он | 男性名詞 | сади́тся | сади́лся | ||
она | 女性名詞 | сади́лась | |||
оно | 中性名詞 | сади́лось | |||
мы | сади́мся | сади́лись | ||
вы | сади́тесь | сади́тесь | ||
они | 名詞の複数形 | садя́тся |
- Сади́тесь, пожа́луйста, сюда́. 「どうぞこちらにおすわりください」
- 純粋に文法上は сядьте もあり得るが、おそらくあなたが現実に耳にする機会は、少なくとも日常生活ではほとんどないだろう。だから「座る」の命令は садись|садитесь だけ覚えておけば十分。
- Сади́сь пря́мо. 「ちゃんとすわれ」
- Ма́ша се́ла на сту́л. 「マーシャは椅子にすわった」
- Ма́ша се́ла в кре́сло. 「マーシャは安楽椅子にすわった」
- 「座る」という動作は方向性を持っているから、「どこそこへ」という場合は в|на+対格になる。в と на の使い分けはすでに学んだ通り。ただし「座る」というのは基本的に表面上に座るのだから、на が多い。кресло「安楽椅子」というのは、座ってみればわかるが、からだがズボリと入り込むような感覚なので на ではなく в を使っているのだ(と思う)。
- Ма́ша се́ла за сто́л. 「マーシャは席についた」
- за+対格は「〜の向こう側へ」というのが本来の意味だが、これが転じて、主に сесть|садиться とともに用いられて「〜に向かって」という意味になる。за книгу「本に向かって」=「読書するために」、за рояль「グランドピアノに向かって」=「ピアノを弾くために」、за компьютер「PCに向かって」、за руль「ハンドル・操縦桿に向かって」=「運転席・操縦席に」、等々。
стол にはいくつかの意味があるから、これだけでは文意は決定できない。たとえば「デスク」という意味だったら、「デスクについて仕事に取りかかった」という意味になろう。学生であれば「勉強に」である。他方「テーブル」という意味だったら、「テーブルについた」ということだろう。しかし сесть за стол はほぼ成句と化しており、普通は次のような意味で用いられる。
- за+対格は「〜の向こう側へ」というのが本来の意味だが、これが転じて、主に сесть|садиться とともに用いられて「〜に向かって」という意味になる。за книгу「本に向かって」=「読書するために」、за рояль「グランドピアノに向かって」=「ピアノを弾くために」、за компьютер「PCに向かって」、за руль「ハンドル・操縦桿に向かって」=「運転席・操縦席に」、等々。
- Все́ се́ли за сто́л. 「みなが食卓についた」
- По̀сле у́жина я́ ся́ду за рабо́ту. 「夕食が済んだら仕事に取りかかる」
- Са́ша се́л в такси́. 「サーシャはタクシーに乗った」
расти́(不完) ⇔ вы́расти(完)
- 育つ
※расте́ние(中性名詞)植物
主語 | 現在形 | 過去形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|
я | 男 | расту́ | ро́с | |
女 | росла́ | |||
ты | 男 | растёшь | ро́с | расти́ |
女 | росла́ | |||
он | 男性名詞 | растёт | ро́с | ||
она | 女性名詞 | росла́ | |||
оно | 中性名詞 | росло́ | |||
мы | растём | росли́ | ||
вы | растёте | расти́те | ||
они | 名詞の複数形 | расту́т |
- Де́ти расту́т бы́стро. 「子供の成長ってのは早いもんだ」
- Я́ роди́лся и вы́рос в Сиби́ри. 「わたしは生まれも育ちもシベリアだ」
- А́ня росла́ у де́да. 「アーニャは祖父のもとで育った/祖父の手で育てられた」
- У на́с в саду́ растёт ви́шня большо́й. 「うちの庭では桜の木が一本大きく育っている」
- 文末の большой は何だろう。その性・数・格を考えてみると、男性単数主格ではあり得ない。なぜなら 1) 主格は主語か述語であり、2) 文中唯一の男性名詞 сад は前置格になっている。これは вишня と関連しており、ゆえに女性単数造格なのである。
問題はなぜ造格なのか、だが、以前少し触れたが、これは «様態» を表す造格。「こんな風に・こういう状態で」ということだが、この場合、日本語的には副詞に相当する。造格の用法として覚えておく必要がある。
- 文末の большой は何だろう。その性・数・格を考えてみると、男性単数主格ではあり得ない。なぜなら 1) 主格は主語か述語であり、2) 文中唯一の男性名詞 сад は前置格になっている。これは вишня と関連しており、ゆえに女性単数造格なのである。
- Она́ вы́росла ге́нием. 「彼女は成長して天才になった」
- こちらでも гений が造格になっている。これも «様態» を表す造格だが、「天才として成長した」と理解してもいい。「〜として」も造格の用法のひとつである。
- выросла は完了体動詞だから、「天才としての成長が完了した」、だから「天才になった」を意味する。まだ成長が完了していなかったり(過程・経過)、成長は完了したものの天才にはなれなかったりしたら(未達成)、どちらも行為は完結していないことになるので、不完了体動詞 расти を使う。
ви́шня(女性名詞)サクラ(もっともロシアで вишня と言えば、普通はサクランボの生る木)
ге́ний(男性名詞)天才(性不問)