生格は、6つの格の中で最も不規則語尾が多い。特に、以下の不規則は個数詞と結合することが多い。
- 男性名詞の複数生格で語尾なし («ゼロ語尾»)
- 男性名詞の単数生格で -у|-ю ⇒ «第二生格»
- час と утро の単数生格で、アクセントの位置が移動 ⇒ 「時間の言い方」を学ぶ際に確認する
- год の複数生格が、変 ⇒ 「時間の言い方」を学ぶ際に確認する
Ж08:男性生格の不規則1
まず、男性複数生格の «ゼロ語尾» という不規則変化を確認しておこう。こんな用語は覚える必要はない。そもそも、どうでもいいことだが、この場合 «ゼロ語尾» という用語の使い方は間違っているのだが、気にしない。
具体例を見てみる。
単数 | 複数 | |
---|---|---|
主格 | гла́з | глаза́ |
生格 | гла́за | гла́з |
与格 | гла́зу | глаза́м |
対格 | гла́з | глаза́ |
造格 | гла́зом | глаза́ми |
前置格 | гла́зе | глаза́х |
実は глаз は、単数生格、単数前置格にも不規則語尾があり得るのだが、とりあえずそれは置いておく。
このように、本来、複数生格であるから -ов がつくはずなのに、何の変化語尾もつかない。
結果として、単数主格と同じ形になっている。ただしこれは単なる偶然で、この手の不規則変化をする場合に常に単数主格と同じ形になるとは限らない。
大事なのは、複数生格に -ов がつかない、と言うか、変化語尾が何もつかない、という点である。
この手の男性名詞には、顕著な傾向性が見られる。以下、かっこの中が複数生格である(単数主格と異なる場合のみ示す)。
- во́лос 髪(воло́с)
- ペア(単数だと「片方」という意味)
- боти́нок 短靴・シューズ・革靴、ва́ленок 防寒用の長靴、гла́з 目、носо́к 靴下(俗語)、сапо́г 長靴・ブーツ、чуло́к ストッキング、...
- 単位(個数詞とともに)
- ампе́р アンペア、ва́тт ワット、во́льт ボルト、гекта́р ヘクタール、ге́рц ヘルツ、гра́мм グラム、килогра́мм キログラム、...
- 特に口語(日常会話)において。規則変化 -ов も用いられるものもある。
- ただし、これはむしろ例外。ме́тр メートル(ме́тров)、ли́тр リットル(ли́тров)など、基本的には規則変化。
- ра́з 〜回、челове́к 〜人
- ампе́р アンペア、ва́тт ワット、во́льт ボルト、гекта́р ヘクタール、ге́рц ヘルツ、гра́мм グラム、килогра́мм キログラム、...
- 野菜・果物(俗語であり、文法上正しくは規則変化 -ов)
- абрико́с アンズ、апельси́н オレンジ、бана́н バナナ、мандари́н ミカン、помидо́р トマト、...
- 人
- солда́т 兵士、партиза́н パルチザン、...
- грузи́н グルジア人、румы́н ルーマニア人、ту́рок トルコ人、цыга́н ロマ(ジプシー)、...
- そもそも複数形が単数形と異なる名詞
- хозя́ин 主人(хозя́ев)
- болга́рин ブルガリア人(болга́р)、господи́н 〜殿(госпо́д)、тата́рин タタール人(тата́р)、...
- -янин, -анин : англича́нин イギリス人(англича́н)、армяни́н アルメニア人(армя́н)、граждани́н 市民(гра́ждан)、датча́нин デンマーク人(датча́н)、дворяни́н 貴族(дворя́н)、крестья́нин 農民(крестья́н)、мусульма́нин イスラム教徒(мусульма́н)、россия́нин ロシア人・国民(россия́н)、славяни́н スラヴ人(славя́н)、христиани́н キリスト教徒(христиа́н)、...
- -ёнок : ребёнок 幼児(ребя́т)、котёнок 子猫(котя́т)...
残念ながら、この不規則語尾をとる男性名詞はほかにも山ほどある。が、とりあえずはここに挙げたものだけ覚えておけばいいだろう。
この一覧から、ある程度の傾向性が読み取られると思うので、わたしからはくだくだしく説明しない。
- сто́ килогра́ммов помидо́ров ⇔ сто́ килогра́мм помидо́р 「トマト100キロ」
- ローゼンターリという言語学者が、隣人に «всего пять килограммов четыреста граммов помидоров» と言ったら笑われた、というエピソードを語っている。文法上はこれで正しいが、日常会話では «всего пять килограмм четыреста грамм помидор» が一般的である。
- пя́ть ра́з 「5回」
- де́сять челове́к 「(人が)10人」
- человек の複数は、意味上は люди であり、形態上は存在しない。しかし «単位» として用いられる場合に限り、複数形が存在する。
- подде́ржка крестья́н 「農民(たち)の支持」
#144 男性名詞には、複数生格で変化語尾のないものがある(多くは単数主格とまったく同じ形になる)。
余談。5-2 цыган も、もともとは 5-3-3 の仲間だった(*цыганин)。-анин を筆頭に、-ин という接尾辞は人を表す名詞をつくる。ところがこの接尾辞は、複数形では消滅する傾向がある。しかも、複数主格が変な語尾になることが多い。
- 規則変化
- во́ин ⇒ во́ины, во́инов, во́инам,...
- 不規則変化(複数生格のみ)
- грузи́н ⇒ грузи́ны, грузи́н, грузи́нам,...
- 不規則変化(-ин が消滅)
- хозя́ин ⇒ хозя́ева, хозя́ев, хозя́евам,...
- господи́н ⇒ господа́, госпо́д, господа́м,...
- болга́рин ⇒ болга́ры, болга́р, болга́рам,...、тата́рин ⇒ тата́ры, тата́р, тата́рам,...
- цыга́н ⇒ цыга́не, цыга́н, цыга́нам,...、-анин ⇒ -ане, -ан, -анам,...
ついでなので、覚えておこう。