Г04:助動詞的な述語副詞
ロシア語には、英語で言うところの助動詞が存在しない。しかしある種の述語副詞は、動詞の不定形とともに用いられて、助動詞のような役割を果たす。
#50 述語副詞の中には、動詞の不定形を伴い、助動詞的な役割を果たすものがある。
- мо́жно : 〜できる、〜してよい = 状況が許す
- нельзя́ : 〜できない、〜してはならない = 状況が許さない
- возмо́жно : 〜できる、〜かもしれない = 可能性
- невозмо́жно : 〜できない = 不可能
- на́до : 〜すべきだ = 必要
- не на́до : 〜しなくていい =不必要
- ну́жно : 〜する必要がある = 必要
- не ну́жно : 〜する必要がない = 不必要
- необходи́мо /неапхади́ма/ : 〜しなければならない = 不可避
- пора́ : 〜する時だ ※副詞ではなく名詞
これらの述語副詞は、述語副詞としてしか使えない。普通の副詞としての用法、すなわち、動詞(や形容詞)を修飾することができない。それは意味を考えてみれば何の不思議もないだろうが、文法的にはその点、非常に特殊な副詞である。
あえて否定も挙げたのは、не で否定することのできない(否定文がつくれない)述語副詞が多いからである。ここで не で否定されていない述語副詞は、「не で否定できない」と覚えておこう。だから *не мо́жно というロシア語はあり得ない。
#51 не で否定できない述語副詞がある。
たとえば входи́ть 「外から中に入る」という動詞を使ってみよう。
- Мо́жно входи́ть. 「入ることができる/入ってもよい」
- Мо́жно не входи́ть. 「入らなくてもよい」
- Нельзя́ входи́ть. 「入ってはいけない」
- Возмо́жно входи́ть. 「入ることができる」
- Невозмо́жно входи́ть. 「入ることができない」
- На́до входи́ть. 「入るべきだ」
- Не на́до входи́ть. 「入らなくていい」 ※むしろ「入るな」
- Ну́жно входи́ть. 「入る必要がある」
- Не ну́жно входи́ть. 「入る必要はない」 ※むしろ「入るな」
- Необходи́мо входи́ть. 「 入らなければならない」
- Пора́ входи́ть. 「入るべき時だ」
語順について、細かいことは言わないが、述語副詞+動詞不定形という順番が一般的である。しかしこれは文法的に決まっているわけではないので、«Входи́ть мо́жно.» のように動詞不定形+述語副詞という語順も可。
疑問、および時制の表現については、これまで述べてきたことをそのまま応用するだけである。
- Мо́жно входи́ть? 「入ってもいいですか?」
- На́до бы́ло входи́ть. 「入るべきだった」
これらは述語副詞であるから、単独で使用することが可能だ。動詞の不定形がわからなくても、前後の文脈から明らかであれば、あるいはジェスチャーその他で補うことができれば、何の問題もない。タバコを取り出しながら «Мо́жно?» と聞けば、「タバコを吸ってもいいですか?」という意味なのは明白だ。レストランや劇場で空いた席を示しながら、その隣に座っている人に «Мо́жно?» と聞けば、「この席は座ってもいいですか」という意味だと誰でもわかる。もっとも後者のような場合は、«Свобо́дно?» でもいい(「ここ空いていますか?」)。
なお、以下、本来は辞書のすべきことだが、戸惑う人が多いので。
1. на́до と ну́жно の違いについて。
たとえば日本語でも、
- きみは今晩中に手紙を書いてしまうべきだ。
- きみは今晩中に手紙を書く必要がある。
- きみは今晩中に手紙を書かなければならない。
の区別がつく人がどれだけいるだろうか。それと同じことで、на́до と ну́жно の違いはわからなくていい。
2. не на́до や не ну́жно の使用について。
日本語でも「〜するな」の意味で「〜しなくていい」と言う人がいる。
「あんたの部屋きったないわねぇ。片付けといてあげるわよ」
「しなくていいよ」
この場合の「しなくていい」は、まず間違いなく「するな」の意味である。本来「しなくていい」は「不必要」を表すはずだから、「するな」、すなわち「禁止」とは意味が違う。だからと言って、「『しなくていい』ということは『してもいい』ということだ」と理解して片付けてしまうと、怒られる。もっともこれは、「片付けといてあげる」という言い草からしておかしいから、お互い様だ。ちなみにロシア語には、このような押し付けがましい言い方は存在しない。
ロシア語の не на́до や не ну́жно も、これと全く同じだ。語義的には「しなくていい」、「する必要がない」を意味するが、多くの場合、「してはいけない」、「ダメ」、「するな」の意味である(特に、動詞の不定形を伴わず、強勢で «Не на́до!» という感じで発せられた場合)。
「しなくていい」(不必要)の意味を明確にしたい場合(「するな」という禁止の意味を持たせたくない場合)は、мо́жно を使う。上で例文で挙げたとおりである。