В16:AはBか?
すでにイントネーションで確認した。
#4 疑問文のイントネーションは、聞きたい単語の有力点母音で音を上げる。
つまりこういうことだ。
Э́то ко́шка.
という文があったとする。これは音からすると、/э́та ко́шка/ である。これを、
高 | ||||
中 | э́ | та | ||
低 | ко́ш | ка |
という感じで、ко́ш- の部分で急激に音を下げると、ロシア人の耳には平叙文「これはネコだ」として聞こえる。
これに対して、
高 | ко́ш | |||
中 | э́ | та | ||
低 | ка |
という感じで、ко́ш- の部分を特に高く発し、続く -ка で音を下げると、ロシア人の耳には疑問文「これはネコか?」に聞こえるのである。
これだけだ。
疑問文は、ロシア語では次のふたつの方法で表現される。
- 口頭では、特殊なイントネーションで発音する。
- 文字では、文末を「 . 」や「 ! 」ではなく「 ? 」にする。
#31 疑問文を文字で書くと、文末を「 ? 」にするだけ。
日本語や英語と比べてみよう。
日本語ではこうなる。
平叙文 | これ | は | ネコ | です | 。 | |
疑問文 | これ | は | ネコ | です | か | ? |
もっとも、「か」なしに「これはネコです?」という疑問文もあり得る。
英語ではこうだ。
平叙文 | This | is | a | cat | . |
疑問文 | Is | this | a | cat | ? |
主語 this と述語 is を入れ替える。
ところがロシア語では、
平叙文 | Э́то | ко́шка | . |
疑問文 | Э́то | ко́шка | ? |
繰り返すが、文末の「 . 」を「 ? 」に置き換えるだけである。
ということはつまり、これまでに学んだロシア語の文は、すべて文末の「 . 」を「 ? 」に機械的に置き換えるだけで疑問文になってしまうのだ(意味的に少々無理のある文もあるが)。
口頭でも、ロシア語は特異である。日本語や英語では、疑問文は通常「尻上がり」のイントネーションで発せられる。しかしロシア語の疑問文のイントネーションは上述のとおり。
ちなみにロシア語における「尻上がり」のイントネーションは、基本的には「まだ文が続きますよ」という合図である。つまり、/э́та ко́шка/ を尻上がりで発音すると、「これはネコだが……(他方、こちらは……)」というようにロシア人の耳には聞こえる。文字で書くと、«Э́то ко́шка...» という感じだ。だから、疑問のつもりで尻上がりで発音すると、ロシア人の方は答えてくれるどころか、逆にこちらが続けて何を言うか待ってしまう。TVやラジオのロシア語講座で、発音練習の際に、ロシア人の講師が
кошка↗ кошка↗ кошка↘
という感じで発音することがあるが、これはつまりそういうことである。
なお、少し先走るが、まだ学んでいない文法を使った文ではどうなるかも確認しておきたい。
平叙文 | He | knows | John | . | かれはジョンを知っている。 | |
疑問文 | Does | he | know | John | ? | かれはジョンを知っているのか? |
動詞を使った文では、英語ではこのように does や do といった助動詞が必要になる。
平叙文 | О́н | зна́ет | Ива́на | . | かれはイヴァンを知っている。 |
疑問文 | О́н | зна́ет | Ива́на | ? | かれはイヴァンを知っているのか? |
ところがロシア語では、このように、やはり文末の「 . 」を「 ? 」と入れ替えるだけである。
再確認するが、ロシア語の疑問文は、イントネーションと疑問符「 ? 」だけで示される。
なお、いわゆる疑問詞「何」、「誰」、「どこ」、「いつ」などを使った疑問文では、基本は同じだが、微妙に話が違ってくる。
疑問詞
疑問詞とは、それ自体が疑問を意味を持つ単語である。とりあえずここまでで扱った例文にかかわるものだけを確認しておこう。
- 「AはBだ」のAないしBを訊く 「何が?」「何だ?」「誰が?」「誰だ?」
- что́
- кто́
- AないしBの修飾語を訊く 「どんな?」
- како́й | кака́я | како́е | каки́е
- 所有者を訊く 「誰の?」
- че́й | чья́ | чьё | чьи́
како́й | кака́я | како́е | каки́е と че́й | чья́ | чьё | чьи́ は、どちらも名詞を修飾する。そのため、形容詞や所有代名詞と同じく、修飾する名詞の性・数に応じて語尾変化する。
#32 疑問詞は文頭に置かれる。
ヨーロッパの言語では、基本的に、疑問詞は文頭に置かれる。ロシア語も例外ではない。
- Что́ э́то? 「これ何?」「これは何だ?」「これは何ですか?」
- Кто́ э́то? 「これ誰?」「これは誰だ?」「これは誰ですか?」「どちら様ですか?」(電話で)
- Кто́ о́н? 「かれは誰?」 ⇒ 名前、続柄
- Что́ о́н? 「かれは何者?」 ⇒ 続柄、職業、身分 ※ただし人に что を使うのはいささかぶしつけと言うか失礼なので、使わない方が無難。
- Кто́ тво́й оте́ц? 「きみのお父さんは誰(どれ)/何者(どういう人)?」
- Что́ тво́й оте́ц? 「きみのお父さんは何者(どういう人)?」
- Како́й тво́й оте́ц? 「きみのお父さんはどんな?」 ※この日本語もかなり変だが、同じようにこのロシア語も変。この感覚は日本語だろうとロシア語だろうと同じである。
- Како́й Москва́ го́род? 「モスクワはどんな都市?」
- Кака́я э́то маши́на? 「これはどんな車?」
- Каки́е они́ лю́ди? 「かれらはどんな人たち?」
- Чья́ э́то кни́га? 「これは誰の本?」
- Чьё я́блоко? 「誰のリンゴ?」
- Чьи́ они́ роди́тели? 「かれらは誰の両親?」
како́й や че́й を用いた文では、語順がおかしくなる点、注意。つまり、このように、「修飾語(疑問詞)+主語(代名詞)+被修飾語(名詞)」という語順になる。
「これは誰の本?」は、英語では Whose book is this? となる。日本語でも英語でも、修飾語「誰の whose」と被修飾語「本 book」とは並べられる。ところがロシア語では、「誰の чья́」と「本 кни́га」の間に「これは э́то」が挟み込まれる形になる。これは、文法と言うよりはロシア語のクセである。文法上は «Чья́ кни́га э́то?» という語順でも必ずしも間違いとは言えないし、ロシア人はわかってくれる。しかしロシア人がこの語順にすることはおそらく100%ないだろう。理屈ではない。そういうものなのである。
言うまでもないことながら、како́й に対する答えは形容詞とは限らないし、че́й に対する答えも所有代名詞とは限らない。