ロシア学事始ロシア語講座初級

ロシア語講座:初級

В05:名詞の性の区別

性の区別の法則

 性の区別は、以下の方法でなされる。

 少々面倒だが、後々のことを睨んで、次のように «硬変化» と «軟変化» とに分けて覚えておこう。

男性名詞女性名詞中性名詞
硬変化子音字 *ао
軟変化й / ья / ье / ё

子音字のうち、ч,щ は軟音。しかし面倒なので、ここではこう分類する。

#12 人以外を意味する名詞の性ジェンダーは、末尾の文字で決定される。

▲ページのトップにもどる▲

 具体的に、それぞれ挙げてみよう。

見ての通りである。

 性が語末の文字に基づかない名詞は、次のとおり。

つまり「人を表す名詞の性は、♂ ♀ の意味に基づき決定される」と述べたが、現実には ♀ を表す名詞はすべて語尾が а か я で終わる。ゆえに、а か я で終わる ♂ を表す名詞のみ注意する必要があるが、それ以外は語尾の文字で名詞の性が区別できるということだ。
 結局は、人だろうがモノだろうが、語末の文字で性がわかると考えておいていい。

▲ページのトップにもどる▲

外来語

 ただし、この規則は外来語には必ずしも適用されない。
 たとえば Chaplin はロシア語では Чаплин となるが、これが Charles の場合は男性名詞、Geraldine の場合は女性名詞として扱われる。мадам も、ロシア語には存在しない у で終わる фрау も、ともに女性名詞だ。これは当然で、前者はフランス語の madame、後者はドイツ語の Frau であり、どちらも「ミセス」に相当する言葉だからである。кофе 「コーヒー」は е で終わっているが男性名詞である。
 このように外来語は、多くが上述の規則とは無関係である。
 とはいえ、たとえば「テニス」 теннис は男性名詞、「アリーナ」 арена は女性名詞、「フォト」 фото は中性名詞である。いずれも、語末の文字に基づく性の分類に従っている。
 日本語で金平糖やカルタ、バイトが日本語化しているように(ロシア語起源だとイクラ、インテリ、ノルマ、コンビナートなど)、ロシア語でもかなりの外来語がロシア語化してしまっている。そもそも論で言えば、「お金」や「連邦」、多くのネット用語なども外来語である。ネット用語はともかく、ロシア人のほとんどが「お金」を外来語などと認識していない。
 結果として、外来語の性の分類については、厳密に見ていくと非常に微妙であるが、基本的には上述の「語末の文字に基づく分類」が適用されると考えていていい。少なくとも、ロシア語には存在しない у、ю、э で終わる名詞、およびロシア語では複数形にのみ使われる и と ы で終わる名詞を例外として、それ以外の文字で終わる外来語は、ロシア語と同じく語末の文字に基づいて性に分類される。
 ただしその場合でも、繰り返すが、人を表す名詞は実際の ♂ ♀ の区別が優先される。だからチャールズ・チャプリンは男性名詞、ジェラルディン・チャプリンは女性名詞なのである。

▲ページのトップにもどる▲

♂ と ♀

 さて、そうなると、「わたしは日本人だ」はロシア語ではどうなるだろうか。

  1. Я́ япо́нец.
  2. Я́ япо́нка.

「わたし」が男か女かで、どちらになるかが決まる。逆に言えば、♂ が «Я́ япо́нка.» と言ったり、♀ が «Я́ япо́нец.» と言おうものなら、「見た目は男っぽいけどこの人女だったのか」とか「この男は女装しているのか」とか勘違いされてしまう。
 相手が男か女かにも注意する必要がある。

  1. Ты́ япо́нец.
  2. Ты́ япо́нка.

のように、相手の性によって使うべき名詞が違う。

 その一方で、「あの人は医者だ」はロシア語では次のようになる。

  1. О́н вра́ч.
  2. Она́ вра́ч.

「あの人」が男か女かで、人称代名詞が変わる。ところが「医者」という意味の名詞は、врач ひとつしかない。末尾が子音だから男性名詞だが、♀ の医者を意味する名詞はロシア語には存在しないのである。ということは、

を日本語に訳そうと思っても、「おれは医者だ」なのか「わたしは医者よ」なのか、これだけでは判断ができない、ということになる。
 このように、人を表す名詞には3種類ある。

  1. ♂ ♀ の区別が明確で、必ず性別に応じて使い分ける。 ⇒ 「男」、「女」、家族の名称
  2. ♂ ♀ の区別はあるが、無差別に言う場合には ♂ を表す名詞を使う。♀ を表す名詞には「女流〜」といった微妙なニュアンスがある。 ⇒ 親族の名称、民族、一部の肩書き・職種
  3. ♂ ♀ の区別がなく、あるのは ♂ を表す名詞のみ。 ⇒ 肩書き・職種、人の類型

これらの細かい使い方については、個々の単語ごとに異なる場合があるので、極論すればひとつひとつ辞書で確認するしかない。
 たとえば、ソ連時代を代表する女流詩人アンナ・アフマートヴァは、彼女のことを поэтесса と呼ぶ人に対しては、毅然として «Я поэт.» と答えたらしい。поэт も поэтесса も詩人を意味するが、поэтесса は「女性の詩人」である。その意味からは、確かにアフマートヴァは поэтесса であるし、これは文法的にも正しい。しかし彼女は、文法とか辞書的な意味とかから離れて、поэтесса という単語が言わば言外に含むニュアンスに我慢がならなかったのだろう。この辺りになると、もはや上級と言うか、超上級と言うべきか。
 日本語でも、「俳優」と「女優」、「医師」と「女医」、「教師」と「女教師」、「作家」と「女流作家」、「棋士」と「女流棋士」など。同じことである。

 他方、動物を表す名詞には次の3種類がある。

  1. ♂ ♀ の区別があり、総称としては ♀ を表す名詞を使う。♂ を表す名詞も頻繁に使われる。 ⇒ 家畜(乳や卵を産する ♀ が重視された) : イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ
  2. ♂ ♀ の区別があり、総称としては ♂ を表す名詞を使う。♀ を表す名詞を使うのはまれ。 ⇒ 人類に身近な動物 : オオカミ、クマ、ライオン
  3. ♂ ♀ の区別がなく、♂ ♀ とは無関係に語末の文字により性を区別する。 ⇒ ♂ ♀ の区別が人類にとって意味を持たなかった動物 : 人類に身近であっても、ウサギやネズミなどの小動物、およびなぜかウマはこれに属する。

 ただしこちらもまた、もはや単語の意味や用法の話である。いちいち辞書で確認すべきである。

▲ページのトップにもどる▲

最終更新日 28 02 2015

Copyright © Подгорный (Podgornyy). Все права защищены с 7 11 2008 г.

inserted by FC2 system