В04:性
日本語で「性」と言った場合、セックス(♂ ♀ の違い)の意味が筆頭に挙げられるが、ロシア語でも英語でも、文法における «性» は、男女の違いを意味する単語とは別の言葉である。
♂ ♀ の違い | 文法上の性 | |
---|---|---|
英語 | sex | gender |
ロシア語 | пол | род |
なお、言うまでもないが、英語やロシア語でどう言うかなど覚える必要はない。
ということで注意をしていただきたいが、文法上の «性» と、男女の違いという意味での「性」とは、ズレることがある。少なくとも、まったくのイコールではない。
それ以上に問題なのが、人間や動物以外の名詞にも「性」による区別がある、ということ。しかも、男性と女性だけでなく «中性» という性まである、ということである。
すべての名詞は、男性名詞、女性名詞、中性名詞のいずれかに区別される。これはヨーロッパの言語には、性の区別が廃れた英語を除いて、共通して見られる文法である。
#10 名詞は、男性・女性・中性のいずれかに分類される。
たとえばフランス語で「海」は mer と言うが、これは女性名詞である。シャンソンの名曲に「ラ・メール」というのがあったが、「海は生命の母だから女性名詞なんだ」と納得しても無駄である。これがドイツ語に入ると、Meer は中性名詞となってしまう。なおドイツ語では同じく「海」を意味する See が女性名詞である。
「川」は、フランス語では rivière、これまた女性名詞である。ところがドイツ語では Fluß、男性名詞である。
「空気」は、フランス語では air、エール・フランスのエールだが、男性名詞だ。ドイツ語では Luft、ルフトハンザのルフトだが、こちらは女性名詞である。
「城」は、フランス語では château、男性名詞。ドイツ語では Schloß、中性名詞である。
こんな風に挙げていけばキリがない。要するに、ある名詞が男性名詞なのか、女性名詞なのか、中性名詞なのか、規則性が存在しないのである。だからフランス語やドイツ語を学ぶ人は、これに悩まされる。名詞の性によって、冠詞、形容詞、その他も微妙に形を変えるので、個々の名詞ごとにその性を暗記しておかなければならないからだ。
たとえばフランス語の形容詞だと、
- 「新しい」
- art nouveau (アールヌーボー) : art は男性名詞
- nouvelle vague (ヌーベルバーグ) : vague は女性名詞
- 「白い」
- Mont Blanc (モンブラン) : mont は男性名詞
- Maison Blanche (ホワイトハウス) : maison は女性名詞
というように、まず「mont という名詞は男性」、「maison という名詞は女性」ということを暗記し、それに応じて形容詞を変えてやる必要があるのだ。
と、他人事のように言っているが、ロシア語ではそうではないのか、と言うと、実は「名詞の性を暗記」の部分が、フランス語やドイツ語と違い、必要ないのだ。
まず、フランス語やドイツ語と共通の規則から確認しておく。
- 人や動物を表す名詞は、基本的に、男性名詞か女性名詞のどちらかになる。
- 人を表す名詞は、実際の ♂ ♀ により、男性名詞か女性名詞か区別される。
- 動物を表す名詞は、男性名詞・女性名詞の区別と実際の ♂ ♀ とは無関係であることが多い。
- それ以外の名詞は、男性名詞、女性名詞、中性名詞のいずれでもあり得る。
#11 人を表す名詞の性ジェンダーは、性セックス(♂ ♀)に基づき決定される。
詳しくは後で確認するが、要するに人を表す名詞は ♂ ♀ に忠実だ、ということだ。
他方、動物は ♂ ♀ とは無関係であることが多い。同じネコでも、フランス語では chat と chatte で ♂ ♀ を区別できるが、おしなべて chat と呼んでしまうことが多い。と言うのも、見た目から ♂ と ♀ を区別することが不可能だからだ。つまりフランス人の感覚からすると、ノラネコはすべて ♂ ネコだ、ということだ。他方、ドイツ語も Kater と Katze で ♂ ♀ を区別できるが、こちらは何でもかんでも Katze と呼ぶのが一般的だろう。つまりドイツ人にとっては、ノラネコはすべて ♀ ネコだ、ということになる。
以上の規則は、ロシア語でも同様である。