ロシア学事始

ロシアの地理

最も高い地点はエリブルース山(カラチャイ=チェルケース共和国)で、5 633 m。最も低い地点はカスピ海面で、-28 m。モスクワですら、標高は 120 m。モスクワ川からオカー川、さらにヴォルガ川を下って河口まで 2 500 km 近くあるにもかかわらず、である。いかにロシアが平坦な国かがわかろう。山らしい山はウラル山脈のほかには、カフカーズ、モンゴル国境のアルタイ山脈・モンゴル高原、そして極東にしかない。
 ウラル山脈の最高峰はナロードナヤ山で、1 895 m でしかない。

 ソ連時代の歌『母国行進曲』には次のような一節がある。

Широка страна моя родная.
Много в ней лесов, полей и рек,
(広大なるかな我が母国)
(そこには多くの森、草原、川がある)

 ここには山はない。少なくともロシア人のイメージとして、ロシアとは、森と草原、川と湖の国である。

森林面積

 森林面積は 8 708 000 km²。国土の 50.9 % を占める。この数字は異常に高い気もするが、考えてみれば国土の半分以上を占めるシベリアには広大なタイガ(針葉樹林の森)が広がっているのである。
 ヨーロッパ・ロシアではこの数字は低くなると思うが、32 600 km² のコミの原生林(世界遺産)は、ヨーロッパ最大の手つかずの原生林である。

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水面積

 ロシア連邦の領土における水の面積は 2 250 000 km²。全体の 13.2 % に達する。

河川

 川というのは、複数の川が合流していたりするので、数字を出したり比較したりするのが難しい。

名称総延長/ロシア領全長流域面積源流流入先
1オビ ≪ イルトィシュ5 410 km/3 050 km2 990 000 km²中国領アルタイ山脈カラ海(北極海)
5オビ ≪ チュルィム ≪ ベールィイ・イユス4 565 kmハカーシヤ共和国
8オビ ≪ カトゥニ4 338 kmアルタイ共和国
14オビ3 650 kmカトゥニとビイの合流
2エニセイ ≪アンガラー≪バイカル≪セレンガ≪イデル5 075 km/4 460 km2 580 000 km²モンゴルカラ海(北極海)
9エニセイ ≪ カー=ヘム4 287 km/3 930 kmモンゴル
12エニセイ ≪ ビイ=ヘム4 123 kmトィヴァ共和国
17エニセイ3 487 kmトィヴァ共和国
3アムール ≪ アルグニ ≪ ケルレン5 052 km/4 133 km1 855 000 km²モンゴルオホーツク海
6アムール ≪ アルグニ ≪ ハイラル4 444 km/4 133 km中国
10アムール ≪ シルカ ≪ オノン4 279 km/3 981 kmモンゴル
19アムール2 824 kmアルグニとシルカの合流
4レーナ ≪ ヴィティム ≪ ヴィティムカン4 692 km2 490 000 km²ブリャーティヤ共和国ラプテフ海(北極海)
7レーナ4 400 kmバイカル湖付近
11イルトィシュ4 248 km/1 900 km1 643 000 km²中国領アルタイ山脈オビ河
13ヴォルガ ≪ オカー3 731 km1 360 000 km²オリョール州カスピ海
15ヴォルガ ≪ カーマ3 560 kmウドムルト共和国
16ヴォルガ3 531 kmトヴェーリ州
18ニージュニャヤ・トゥングースカ2 989 km473 000 km²イルクーツク州エニセイ河
20ヴィリュイ2 650 km454 000 km²クラスノヤルスク地方レーナ河
21コルィマー ≪ クル2 513 km643 000 km²ハバロフスク州東シベリア海(北極海)
27コルィマー2 129 kmクルとアヤン=ユリャフの合流
23ウラル2 428 km/1 550 km237 000 km²ウラル南部カスピ海
24オレニョーク2 292 km219 000 km²クラスノヤルスク地方ラプテフ海(北極海)
25アルダン2 273 km729 000 km²サハとアムール州の境レーナ河
26ドニェプル2 201 km/485 km504 000 km²トヴェーリ州黒海
30ドン1 870 km422 000 km²トゥーラ州アゾーフ海
31ポドカーメンナヤ・トゥングースカ(カタンガ)1 865 km240 000 km²イルクーツク州エニセイ河
33北ドヴィナー ≪ ヴィチェグダ1 803 km357 000 km²コミ共和国バレンツ海(北極海)
34ペチョーラ1 809 km322 000 km²コミとスヴェルドロフスクの境バレンツ海(北極海)
35カーマ1 805 km507 000 km²ウドムルト共和国ヴォルガ河
37アンガラー1 779 km1 040 000 km²バイカル湖エニセイ河
44オカー1 500 km245 000 km²オリョール州ヴォルガ河
62デスナー1 130 km/555 km89 000 km²スモレンスク州ドニェプル河
ネヴァー74 km281 000 km²ラードガ湖フィンランド湾(バルト海)
アマゾン6 300 km7 050 000 km²流域面積は世界最大
ドナウ2 860 km817 000 km²ヨーロッパ第2位
利根川322 km16 840 km²日本最大
信濃川367 km11 900 km²日本最長

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 シベリア・極東で北極海に注ぐ河川は、東からコルィマー、レーナ、エニセイ、オビが代表的なものである。シベリア・極東ではほかにアンガラー、イルトィシュ、アムールが知られているが、アンガラーはエニセイの支流、イルトィシュはオビの支流であり、アムールのみは太平洋に注いでいる。オレニョークは知られていないが、レーナの西隣を流れている。

 ヨーロッパ・ロシアで北極海に注ぐ河川と言えば、ペチョーラと北ドヴィナーであろう。
 しかしヨーロッパ・ロシアの河川と言えば、やはり南下するヴォルガ、ドニェプル、ドンの方が著名であろう。このうちドンは『静かなるドン』でも有名なドン・コサックが下流域を本拠としたが、数値的にはロシアのベスト10には入れない。またドニェプルも、ドニェプルに加えてデスナー、セイムなどの支流もすべてロシアを源流としているが、いずれもすぐにベラルーシ・ウクライナに流れ去り、あまり «ロシアの川» という感じではない(ロシア領に属するドニェプルの長さも流域面積もベスト20にも入らない)。
 ヴォルガは «母なるヴォルガ» と呼ばれるが、まさにロシアの川である。もっとも、もともとヴォルガ流域は非ロシア系民族の居住地だった。下流域は遊牧民族の地(キプチャク・ハーン国の本拠地)だし、中流域には現在でもタタール人をはじめとする多数の少数民族が住んでいるし、上流域すらかつてはウラル系の言語を話す人々の土地であった。ヴォルガにはオカーとカーマが注ぎこむが、オカーにはさらにウグラ、モスクワ、クリャージマという支流が、カーマにはヴャートカ、ウファーという支流が注ぐ。その広大な水系は、ヨーロッパ・ロシア北部一帯に広がっている。
 なお、ロシア人にとってはこのほかに、サンクト・ペテルブルグを流れるネヴァー河も著名。ラードガ湖からフィンランド湾まで、わずか 74 km の長さしかないが、ラードガ湖から流れ出す唯一の川であるため、水量は豊富で、流域面積もウラルやオレニョークよりも大きい。

 ヴォルガは長さ・流域面積ともにヨーロッパ最大である。
 長さでアジア最長、ユーラシア最長は言うまでもなく長江。しかし流域面積ではイルトィシュ ≫ オビ、あるいはセレンガ ≫ アンガラー ≫ エニセイ(出典によって流域面積の数字が異なる)。
 長さで世界最長はナイル。しかしナイル、アマゾン、長江、ミシシピに次ぐ第5位に、イルトィシュ ≫ オビ、あるいはセレンガ ≫ アンガラー ≫ エニセイが来る(これまた、出典によって後者の総延長が 500 km ほど異なる)。
 流域面積で世界最大はアマゾン。コンゴ、ナイル、ミシシピ、ラプラタと続き、イルトィシュ ≫ オビ、あるいはセレンガ ≫ アンガラー ≫ エニセイは世界第6位。

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 ロシアは湖と川の国である。特にフィンランドに隣接する北西部には、無数の湖が点在する。ラードガ、オネーガ、チューディなどはその一部でしかない。
 それにしても、日本最大の琵琶湖も海のようだが、ロシア第9位のベーロエ湖ですらその2倍。琵琶湖より大きい湖が全部で15もあるというのは、さすがに日本の45倍の領土を誇るロシアである。
 なお、日本の面積は 377 708 km²。カスピ海はほぼ日本がすっぽり入る大きさということである。また北海道(83 517 km²)を別格とすると、もっとも広い都府県は岩手県で 15 278 km²。バイカル湖はその2倍の広さを誇る。もっとも狭い都府県は大阪府で 1 864 km²。かろうじてベーロエ湖には勝った。

名称面積最大深度
1カスピ海376 000 km²1 025 mロシア領は一部
2バイカル湖31 500 km²1 620 mイルクーツク州・ブリャーティヤ共和国
3ラードガ湖17 700 km²230 mレニングラード州・カレリア共和国
4オネーガ湖9 690 km²127 mレニングラード州・カレリア共和国・ヴォーログダ州
5タイムィル湖4 560 km²26 mクラスノヤルスク地方
6ハンカ湖4 190 km²11 mプリモーリエ地方と中国
7チューディ湖3 550 km²15 mプスコーフ州とエストニア
8チャヌィ湖1 708 - 2 269最大 10ノヴォシビルスク州
9ベーロエ湖(白湖)1 290 km²6 mヴォーログダ州
10トポーゼロ986 km²56 mカレリア共和国
スペリオール82 400 km²406 m面積世界第2位
タンガニーカ32 900 km²1 435 m最大深度世界第2位
琵琶湖673 km²104 m面積日本第1位
田沢湖26 km²423 m最大深度日本第1位

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 なお、カスピ海は表面積、周囲の総延長、容積で世界第1位。桁はずれに大きいので当然だろう。
 他方、バイカル湖は最大深度、貯水量、透明度で世界第1位。また淡水湖としては表面積で世界第2位。世界の淡水の 20 % がここにあると言われる。
 また、ラードガとオネーガは面積と最大深度でそれぞれヨーロッパの1位と2位。

 ロシアは大きくふたつに分けることができるだろう。ヨーロッパ・ロシアと西シベリア、そして東シベリア・極東である。
 前者はウラルとカフカーズを除けば平地で、他方で後者は山地で覆われている。

 ヨーロッパ・ロシアの平原(ロシア平原・東ヨーロッパ平原)は言わばパリから北ドイツ・ポーランドを経由して続く平原につらなり、最も標高の高いところでも 400 m に満たない。ウラルも山脈とはいえ、ほとんど «自然の境界» の体をなしていない。最高峰こそ 1 895 m あるものの、ほとんどが 1 000 m 前後でしかなく、横断してもそれと気づかないかもしれない。特にペルミからエカテリンブルグへと至る経路は «間隙» になっており、ゆえに道路も鉄道もここに集中している。
 西シベリアの平原はさらに起伏に乏しく、最南部でようやく標高 200 m に達する程度である。
 エニセイとレナにはさまれた東シベリアの中央シベリア高原は、高原とは言うものの、標高はたいてい数百メートルである。少なくとも日本人がイメージする «高原» ではない。

 結局、ロシアにあって山地らしい山地は南部国境沿いと極東にしか存在しない。ヨーロッパ・ロシアの南にはカフカーズ、シベリアの南にはアルタイ、極東にはカムチャートカがある。
 これ以外にも、バイカル湖の西(サヤーン)と東、オホーツク海沿岸部と日本海沿岸にも山脈がつらなるが、これらはせいぜい 2 000 m 級(一部例外的に 3 000 m を超す山もあるが)。だいたい、これらの山脈の名はロシア人も知らない。日本海沿岸のシホテ=アリニはあるいは知っているかも(世界遺産だし)。

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最終更新日 17 01 2013

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