ロシア学事始ロシア・ソ連のシンボルロシア・ソ連の国旗

帝政崩壊後の国旗

三色旗のその後

 帝政を襲った臨時政府は帝国政府を踏襲して白青赤の三色旗を流用することを決めた。いちおう臨時政府治下の共和制ロシアの国旗と言っていいだろう。
 ただし、これは立法化されてはいない。臨時政府は、あくまでも憲法制定会議が開催され、そこで制定される憲法に基づいて新たな政府が樹立されるまでの暫定的政府であるとの立場から、三色旗の使用についても一時的なものであるとの姿勢を貫いたのである。

 一方、二月革命の前後を通じて、首都ペトログラードに林立したのは白青赤の三色旗でも黒黄白の三色旗でもなく、赤旗だった。1870年、パリ・コミューンで初めて掲げられたという赤旗は、以後労働運動の旗として定着しており、革命の主体となったペトログラード市民たちは赤旗を自身のシンボルとしたのである。
 臨時政府が三色旗を使用することを決定しても、ペトログラード市民は誰も従わず、その直後のメーデーには赤旗がペトログラードを覆った。前線に赴く兵士たちが掲げていたのも赤旗である。しかもすでに鎌と鎚を描いた赤旗が現れていた。

 十月革命後、特に1918年に入って反革命の動きが白衛軍として具体化すると、赤軍が赤旗、白衛軍が白青赤の三色旗をそれぞれシンボルとして使用するようになる。以後、ソ連においては白青赤の三色旗は «封印» された。
 その後も白青赤の三色旗は反ボリシェヴィキーのシンボルとして生き残る。白衛軍の敗北後も亡命ロシア人組織は三色旗を使い続けたし、大祖国戦争中にはナチス・ドイツにより組織された РОА、РОНА などが使用していた。

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赤旗の変遷

 上述のように、すでに二月革命の前後から、ペトログラードの市民は事あるごとに赤旗を掲げていた。
 十月革命後、権力を握ったボリシェヴィキーは新たなソヴィエト権力の象徴として赤旗を国旗とすることを決定。ところが、これにどのような «模様» を加えるかで二転三転することになる。
 当初は、«万国の労働者、団結せよ! Пролетарии всех стран, соединяйтесь! (Proletarii vsekh stran, soedinyaytes')» の頭文字である «П.В.С.С. (P.V.S.S.)» が提案されたりもしたが、結局は1918年憲法において、

ロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国の商用・船舶用・軍用の旗は赤旗で、竿側の左隅上方に金文字で «Р. С. Ф. С. Р.»、あるいは «Российская Социалистическая Федеративная Советская Республика» と記す。
Торговый, морской и военный флаг Р. С. Ф. С. Р. состоит из полотнища красного (алого) цвета, в левом углу которого, у древка, наверху, помещены золотые буквы Р. С. Ф. С. Р. или надпись: Российская Социалистическа Федеративная Советская Республика.

 

と定められた。«Р.С.Ф.С.Р. (RSFSR)» とは、«ロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国 Российская Социалистическая Федеративная Советская Республика (Rossiyskaya Sovetskaya Federativnaya Sotsialisticheskaya Respublika)» の略である。
 具体的には赤旗の左上に、金枠で РСФСР という金文字を囲う(С は小さく、むしろ РсФсР と描かれる)。
 このデザインに落ち着くまでは、Ф を中心にふたつの Р とふたつの С がその上下左右を囲むバージョンも存在している。

 

 1922年12月30日、ソヴィエト社会主義共和国連邦の成立が宣言された。その後、特別委員会がソヴィエト・ロシアの国旗とは別にソ連の国旗の制定に乗り出したが、これがなかなかに難航した。
 1923年7月6日に制定されたソ連憲法(基本法)では、第70条にて

ソ連国旗は、紋章を伴う赤い布から成る。
Государственный флаг Союза ССР состоит из красного или алого полотнища с государственным гербом.

と定められた。国旗に紋章を描くのはヨーロッパでは珍しくもないが、最終的に断念される。1923年11月12日、憲法第70条は早速改正された。

ソ連国旗は、赤い布から成り、その竿側の上隅に金の鎌と鎚、その上に金の縁取りをした赤い五芒星を有する。
Государственный флаг Союза ССР состоит из красного или алого полотнища, с изображением на его верхнем углу у древка золотых серпа и молота и над ними красной пятиконечной звезды, обрамленной золотой каймой.

 

 こうして基本が完成し、あとは細部が決められ、あるいは修正されていった。

 1936年の憲法でも、第144条にて次のように規定されている。

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国旗は、赤い直角の布から成る。その竿側上部の角には金の鎌と鎚、そしてその上に、金の縁取りのされた赤い五芒星が描かれる。高さと横幅との比率は1:2である。
Государственный флаг Союза Советских Социалистических Республик состоит из красного прямоугольного полотнища с изображением на его верхнем углу у древка золотых серпа и молота и над ними красной пятиконечной звезды, обрамленной золотой каймой. Отношение ширины к длине 1:2.

 2:1という比率には根拠がある。ソ連領の東西の長さと南北の長さとが、ほぼその比率なのである。

 1955年、最高会議幹部会令により、上記条文に以下が加えられた。

鎌と鎚は正方形に内接する。正方形の一辺は旗の高さの4分の1に等しい。鎌の尖端は正方形の上辺の中央に位置し、鎌と鎚の握りは正方形の底辺の左右の角に踏ん張っている。鎚の長さは握りを含んで、正方形の対角線の4分の3となる。五芒星は、旗の高さの8分の1の直径の円に内接し、正方形の上辺に接する。旗竿から星・鎌・鎚の垂直軸までの距離は、旗の高さの3分の1に等しい。旗の上端から星の中心までの距離は、旗の高さの8分の1である。
Серп и молот вписываются в квадрат, сторона которого равна 1/4 ширины флага. Острый конец серпа приходится посередине верхней стороны квадрата, рукоятки серпа и молота упираются в нижние углы квадрата. Длина молота с рукояткой составляет 3/4 диагонали квадрата. Пятиконечная звезда вписывается в окружность диаметром в 1/8 ширины флага, касающуюся верхней стороны квадрата. Расстояние вертикальной оси звезды, серпа и молота от древка равняется 1/3 ширины флага. Расстояние от верхней кромки флага до центра звезды ― 1/8 ширины флага.

 なお、ソヴィエト・ロシア(ロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国)の国旗は、ソ連の国旗とは別物である。1924年にソ連の国旗が制定されたのを受けて、1925年にロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国の新憲法が制定された際に、1918年に制定された国旗が踏襲された。
 この時点では、すでに様々なバリエーションは姿を消し、Р.С.Ф.С.Р. と横書きされているものだけが残っていた。以後、ソ連国旗とは別に、この旗がソヴィエト・ロシアの国旗として存続した。

 

 1947年、ソ連最高会議幹部会は各構成共和国に対して、ソ連の国旗を基にしたデザインにそれぞれの国旗を変更するよう要請した。ロシアがこれに応えたのは1954年。以下のように制定された。

赤い長方形の旗で、明るい青の帯が竿側にある(縦は旗いっぱい、横は全体の8分の1)。赤旗の左上方には金の鎌と鎚、その上方には金の縁取りがされた赤い五芒星がある。旗の縦横の比率は1:2。
красное прямоугольное полотнище со светло-синей полосой у древка во всю ширину флага, которая составляет одну восьмую длины флага. В левом верхнем углу красного полотнища изображены золотые серп и молот и над ними красная пятиконечная звезда, обрамлённая золотой каймой. Отношение ширины флага к его длине ― 1:2.

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三色旗の復活

 1980年代後半、ペレストロイカの進展に伴い、反共産主義のシンボルとしての白青赤の三色旗が復活した。赤旗が共産主義のシンボルである以上、共産主義体制の崩壊とともに赤旗の国旗としての役割は終わるのが当然であったと言えるだろう。

 

 1991年の «八月プッチ» 以降、事実上帝政ロシア国旗がロシアの国旗となる。法的には1991年11月1日に確定。白、紺 лазоревый (lazorevyy)、真紅 алый (alyy) の縦の三色で、縦横の比率は1:2。
 このように、色合いは若干帝政時代の三色旗とは異なる。

 1993年12月11日、大統領令により最終的に1953年のロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国最高会議幹部会令が廃止され、ロシア連邦の国旗が確定。白、青 синий (siniy)、赤 красный (krasnyy) の縦の三色で、縦横の比率は2:3。

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最終更新日 17 01 2013

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