テュルク語族、モンゴル語族、トゥングース語族の総称。
本来テュルク語族、モンゴル語族、トゥングース語族それぞれの話者は、かつてはモンゴル高原とその周辺に隣接して居住していたものと想像される。3グループの類似性も、このような接触を通じて培われたものであり、3グループが本来共通の祖先を持つわけではない、とする主張もある。少なくとも現在までのところ、3グループをひとつにまとめた «アルタイ語族» という仮説は、一般の認知を得るにいたっていない。ゆえにむしろ «アルタイ諸語» と呼ぶべきであろう。少なくともこんにちではこの3グループは別々に論じられることが多いように思われる。
ウラル語族とも結びつけて «ウラル=アルタイ語族» という大グループが想定されたこともあったが、«アルタイ諸語» 自体の類縁性が立証されていない以上、仮説の上に立てられた仮説でしかなく、こんにち省みられることは少ない。
また、日本語と朝鮮語もアルタイ諸語に含められることが多い。
テュルク語族
広い意味での «トルコ語»。こんにち «トルコ語» と言うと、トルコ共和国の公用語と考えられるが、トルコ共和国という国名自体、«トルコ» という言葉を狭く使用した例である。しかし «トルコ» という言葉がトルコ共和国と密接に結びついてしまったため、広い意味での «トルコ» は «テュルク» と呼んで、狭い意味での «トルコ» と呼び分けるのが一般的になっている。これはロシア語の慣例を借用したものと思われる(ロシア語では、«トルコ人» は турки、«テュルク人» は тюрки)。ここでも «トルコ» は狭い意味で使い(トルコ共和国)、広い意味では «テュルク» という言葉を使う。
おそらく古くはモンゴル高原からシベリアにかけて分布していたと考えられる。その後、インド=ヨーロッパ語族を駆逐して中央アジアに広がり、そこからさらにペルシャ、中東、トルコ、南ロシア、バルカン半島へと活動の舞台を広げた。最も西の人々が «トルコ» を自称しているが、中央アジアもかれらにちなんで «トゥルケスターン» と呼ばれており、さらにシベリア各地にも多数の話者が散在していて、その分布範囲の広大さはインド=ヨーロッパ語族(旧植民地を除く)、ニジェール=コルドファン語族にも匹敵する。
しかもこれだけ広大な地域に広がっているにもかかわらず、各言語間の差異が小さく、ほとんどの言語の話者は互いの意思疎通が可能だと言われる。
あるいはそれもあってか、その分類は、特にこまかい部分で異論が多いようだ。下記の一覧も、あくまでも目安でしかない。
- オグル語派
- チュヴァシュ語、ハザール語、ブルガール語、フン語
- オグズ語派
- ペチェネーグ語
- トルコ語、ガガウズ語、アゼルバイジャン語、トゥルクメン語、ホラサン語
- キプチャク語派
- キプチャク語
- クムィク語、カラチャイ=バルカール語、クリミア・タタール語、クルィムチャーク語、ポーロヴェツ語、カライム語
- タタール語、バシュキール語、シベリア・タタール語&バラバ語
- カザフ語、カラカルパク語、ノガイ語、アストラハン=ノガイ語、アラブガト=タタール語、ユルタ=タタール語
- ウイグル語派
- ウズベク語、ウイグル語、チャガタイ語
- アルタイ語派
- アルタイ語、キルギス語、クマンディ語、チェルカン語、テレウート語、トゥバラル語
- シベリア語派
- ヤクート語、ドルガーン語
- トィヴァ語/ソヨト語、トファラル語
- ハカス語、ショル語、チュルィム語
このうち、オグル語派、アルタイ語派、シベリア語派の3つは、キルギス語を除く話者のほとんどがロシアに居住する。残る3語派にしても、ロシア国内に多くの話者人口を擁する。
ちなみに、ロシアにおけるテュルク語族は、そのほとんどがシベリアに分布している(ロシア語を除くシベリアの最大グループ)。もっとも、話者人口から言えば、タタール語、バシュキール語、チュヴァシュ語の3大言語が分布するヴォルガ中流域が最大の拠点ということになろう。また北カフカーズにも多いし、中央アジア系の人々はモスクワなどの大都市に «外国人労働者» として滞在している場合も多い。
話者総人口は、数え方にもよるが、全世界で 160 000 000人とも言われる。ロシアにあっては、2002年の国勢調査によれば 11 467 010人。これは総人口の 7.89% にあたる。
言語名 | 話者数 | 民族名 | 民族人口 | |
---|---|---|---|---|
1 | タタール語 | 5 347 706 | タタール人 | 5 522 096 |
2 | バシュキール語 | 1 379 727 | バシュキール人 | 1 673 389 |
3 | チュヴァシュ語 | 1 325 382 | チュヴァシュ人 | 1 637 094 |
4 | アゼルバイジャン語 | 669 757 | アゼルバイジャン人 | 621 840 |
5 | カザフ語 | 563 749 | カザフ人 | 653 962 |
6 | クムィク語 | 458 121 | クムィク人 | 422 409 |
7 | ヤクート語 | 456 288 | ヤクート人 | 443 852 |
8 | カラチャイ=バルカール語 | 302 748 | カラチャイ人 バルカール人 | 192 182 108 426 |
9 | トィヴァ語 | 242 754 | トィヴァ人 ソヨト人 | 247 884 2 769 |
10 | ウズベク語 | 238 831 | ウズベク人 | 122 916 |
11 | トルコ語 | 161 319 | トルコ人 | 92 415 |
12 | ノガイ語 | 90 020 | ノガイ人 | 90 666 |
13 | アルタイ語 | 65 534 | アルタイ人 | 67 239 |
14 | ハカス語 | 52 217 | ハカス人 | 75 622 |
15 | キルギス語 | 46 319 | キルギス人 | 31 808 |
16 | トゥルクメン語 | 38 533 | トゥルクメン人 | 33 053 |
17 | ガガウズ語 | 7 597 | ガガウズ人 | 12 210 |
18 | ショル語 | 6 210 | ショル人 | 13 975 |
19 | ドルガーン語 | 4 865 | ドルガーン人 | 7 261 |
20 | ウイグル語 | 1 932 | ウイグル人 | 2 867 |
21 | テレウート語 | 1 892 | テレウート人 | 2 650 |
22 | カラカルパク語 | 1 561 | カラカルパク人 | 1 609 |
23 | クリミア・タタール語 | 1 069 | クリミア・タタール人 | 4 131 |
24 | クマンディ語 | 1 044 | クマンディ人 | 3 114 |
25 | チェルカン語 | 539 | チェルカン人 | 855 |
26 | トゥバラル語 | 436 | トゥバラル人 | 1 565 |
27 | トファラル語 | 378 | トファラル人 | 837 |
28 | チュルィム=テュルク語 | 270 | チュルィム人 | 656 |
29 | カライム語 | 88 | カライム人 | 366 |
30 | アストラハン・ノガイ語 | 55 | ||
31 | クルィムチャーク語 | 29 | クルィムチャーク人 | 157 |
32 | ユルタ=タタール語 | 22 | ||
33 | アラブガト・タタール語 | 10 | ||
34 | バラバ語 | 8 |
モンゴル語族
広い意味での «モンゴル語»。こんにち «モンゴル語» と言うと、モンゴル共和国の公用語と考えられるが、これは厳密にはハルハ=モンゴル語(あるいはハルハ方言)と呼ばれるべきである。
モンゴル語族の言語については分類も必ずしも明確ではないようだが、それもこれも、モンゴル語族に属する諸言語が互いに非常に似通っていることが一因にある。このためそれぞれの言語も、「〜〜語」ではなく「〜〜方言」と呼ばれることがある。
世界的に見た話者総数は 6 500 000 から 7 500 000 ぐらいか。ロシアにおいては 533 907人で、総人口に占める割合は 0.37% でしかない。
分布はモンゴル高原とその周辺がほとんどで、少し離れたところで新疆ウイグル自治区にいる程度である。例外がアフガニスタン(ただし現存するかどうかは不明)とロシア南部(カルムィク語)である。
このほかに、トィヴァ人も1940年までは古典モンゴル語を文章語として使用していた。
言語名 | 話者数 | 民族名 | 民族人口 | |
---|---|---|---|---|
1 | ブリャート語 | 368 807 | ブリャート人 | 445 175 |
2 | カルムィク語 | 153 602 | カルムィク人 | 173 996 |
3 | モンゴル語 | 11 498 | モンゴル人 | 2 656 |
トゥングース語族
ロシア極東南部と中国東北部を中心に話し手が散在する。この地域では、古来、孤立言語のニヴフ語やアイヌ語と混在していた。
ただし、エヴェンク人やエヴェン人はかなり広くロシア極東部に散在しており、こんにち大多数は極北のサハ共和国に住んでいる。
トゥングース系の民族として最大の人口を誇るのは、言うまでもなく満洲人(満族)で、10 000 000人にのぼる。これが桁はずれで、続いてエヴェンク人、エヴェン人、ナナイ人(赫哲族)が万の単位で、それ以外は3桁から4桁である。合計では、10 130 000人ほどとなり、トゥングース系諸民族の 99% が満洲人という計算になる。
ただしこれは民族であり、言語の話者という観点からすると、満洲人はすでに満洲語を失って漢語化している。本来モンゴル系のシボ人(錫伯族、鮮卑の末裔)のうち 40 000人ほどが満洲語を話しており、これが最大勢力となっている。トゥングース語族の言語の話者は、全体で多くても 100 000人程度と見なされている。ロシアにおける話者総数は 20 065人、総人口の 0.01% でしかない。しかもロシア領ではロシア語が、中国領では中国語が浸透していて、実際には話者人口ははるかに少ないとも考えられ、いずれの言語も «絶滅» の危機に瀕している。
言語名 | 話者数 | 民族名 | 民族人口 | |
---|---|---|---|---|
1 | エヴェンク語 | 7 584 | エヴェンク人 | 35 527 |
2 | エヴェン語 | 7 168 | エヴェン人 | 19 071 |
3 | ナナイ語 | 3 886 | ナナイ人 | 12 160 |
4 | ウリチ語 | 732 | ウリチ人 | 2 913 |
5 | オロチ語 | 257 | オロチ人 | 686 |
6 | ウデヘ語 | 227 | ウデヘ人 | 1 657 |
7 | ネギダール語 | 147 | ネギダール人 | 567 |
8 | オロク語 | 64 | オロク人 | 346 |