ロシア語概説:不定数詞

неопределенно-количественное имя числительное

 たとえば「車が1台、2台、3台、、、」と数えるのが個数詞(および集合数詞)である。これに対して、「多い много」、「少ない мало」、「これだけ столько」、「どれだけ сколько」というのが不定数詞である。さらにこの派生語として、「少し немного」、「少なくない немало」、「いくらか несколько」、「いくらか сколько-нибудь」がある。
 このように、具体的な数を示さないから不定数詞と呼ぶが、ロシア語文法上数詞であることに違いはない。ゆえに、名詞や形容詞とはまったく異なる用法を持つ。その場合、科学アカデミー版『ロシア語文法』が不定数詞を個数詞に含めているように、個数詞の用法に順ずる。
 それにしても、「1」が形容詞で「多くの」が数詞とは、ロシア語文法とは不思議である。

形容詞・名詞との結合

 個数詞というのはその性質上、加算名詞としか結合しない。日本語でも「本が1冊、2冊、3冊、、、」とは言うが、砂糖は数えられない。せいぜい「スプーン1杯、2杯、3杯、、、」か「1キロ、2キロ、3キロ、、、」等々、単位を数えることしかできない。
 これに対して不定数詞は、その特質上、不加算名詞とも結合することができる。これは意味を考えてみればわれわれにも理解しやすい。「砂糖がたくさん」、「砂糖が少し」、「砂糖がこれだけ」、「砂糖がどれだけ」は、日本語でも普通の言い方である。すなわち、不定数詞との結合において、加算名詞は複数生格、不加算名詞は単数生格となる(形容詞も同様で、個数詞と異なり形容詞と名詞で単複がズレるということはない)。
 なお、について説明したように、ロシア語には加算名詞・不加算名詞の概念そのものが存在しない。ゆえに厳密に言えば、単数形しか持たない名詞、複数形しか持たない名詞と区別すべきである。さらに言えば、単数形しか持たないはずの名詞(物質名詞や固有名詞)も複数形を持ち得る。ゆえに究極のところは、意味的に単数形を使うべき名詞は単数生格、意味的に複数形を使うべき名詞は複数生格、と言うしかない。

 斜格においては、個数詞との結合と同じで、不定数詞と名詞(+形容詞)は同じ格をとる。なお不定数詞は有生性の区別を持つので、不定数詞+動物名詞の対格は生格に等しく、不定数詞+非動物名詞の対格は主格に等しい。

格変化

 много、мало に斜格は存在しない。このため、

 сколько、столько には斜格が存在する。しかしこちらも、斜格の使用はさほど一般的ではない。

 不定数詞に斜格が存在しないか、あるいはあまり使われない、ということは、別の観点からすると、不定数詞は主語か述語になるのが一般的だ、ということである(上掲 мало の例文参照)。
 сколько、столько は、主格と同形の対格で用いられることも多い。«Сколько это стоит?» がその典型であろう。

個々の不定数詞について一言

 これは辞書が果たすべき役割であるが。

 мало は否定的なニュアンスを持つ。すなわち、мало детей は「少しの子供」ということだが、実際のニュアンスとしては「子供が少ししかいない」である。ゆえに、мало を含む文は、肯定文であっても意味上は否定文となる。逆に言えば、мало を含む否定文(мало を否定する文)は存在しない(英語でも little は否定文では使われない)。ただし мало と否定の小詞 не とは同一の文中に同居し得る。
 「少しとはいえある」という肯定的なニュアンスを表現するのが немного である。ゆえに、мало детей ≠ немного детей(むしろニュアンス的には「少ししかいない」と「少しはいる」で真逆)。
 なお、много と немало とにはこのような対応関係は存在しない。много студентов と немало студентов は同じ意味である(日本語の「多くの学生」と「少なからぬ学生」の関係と同じ)。

 不定代名詞をつくる -либо、-нибудь、-то は、不定数詞 столько、сколько にも接続する。ただし意味的に столько が -либо、-нибудь と結合することはないので、*столько-либо、*столько-нибудь などという単語は存在しない。ちなみに、*сколько-либо も存在しない。
 -нибудь は、たとえば что と結合して что-нибудь になると「(何でもいいからとにかく)何か」、кто-нибудь であれば「(誰でもいいからとにかく)誰か」を意味する。сколько-нибудь も同様で、「(いくつでもいいからとにかく)いくつか」を意味する。すなわち、«Дай мне сколько-нибудь денег.» と言った場合、文字通り「いくらでもいいからとにかく金をくれ」と言っている。
 -то は、たとえば что と結合して что-то になると「(何であるかはあえて示さない・示せないが特定の)何か」、кто-то であれば「(誰であるかはあえて示さない・示せないが特定の)誰か」を意味する。сколько-то も同様で、「(いくつであるかはあえて示さない・示せないが特定の)いくつか」を意味する。すなわち、«Он дал мне сколько-то денег.» と言った場合、かれがわたしにくれた金額は数えてみればわかるはずである。ゆえにこの場合の сколько-то は個数詞で示すことのできる数量である。それをあえて具体的な数量を隠して「なにがしかの金」と言いたいので сколько-то を使っている。
 ゆえに、сколько-нибудь と сколько-то の違いはいいだろう。«Дай мне сколько-нибудь денег.» と «Он дал мне сколько-то денег.» で、-нибудь と -то を入れ替えることはできない。
 столько-то も同様であるが、意味は事実上 сколько-то と同じである。微妙なニュアンスの違いは日本語で説明しづらい。
 とはいえ、現実には сколько-то であれ столько-то であれほとんど使われない。сколько-нибудь はまだ使われる方だが、それでも決して頻繁と言うほどではない。これらの代わりに、圧倒的に多くの場合に несколько が用いられるからである。несколько は、「いくらでもいいからとにかくいくらか」なのか、「いくらかは明確で個数詞で示すこともできるはずだが、あえて示さない・自分には示せない」だけなのか、の区別に頓着せずに用いられる(本来的には後者、つまり сколько-то。ゆえに сколько-нибудь はまだしも使われている)。
 ちなみに нисколько は数詞ではない。

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最終更新日 23 05 2013

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