ロシア語概説:副動詞

деепричастия

文法的にはややこしいが、実践的には副動詞とは、「〜する時に」や「〜しながら」、「〜した後で」などを接続詞+動詞ではなく動詞の変化形ひとつで表現するものである。英語でいう分詞構文と同じと考えていい。

 この3つの文は、ニュアンスや文体の違いこそあれ、意味はまったく同じである。
 2つ目の文では3つ、3つ目の文では実に5つもの単語で表現されている意味が、1つ目の文ではたった一単語で済んでしまっている。これが副動詞の最大のメリットである。
 デメリットは、わざわざ特殊な変化形を覚えなければならないという点にある。このため、特に口語においては、動詞によって使用頻度に違いが見られる。

 副動詞が使える条件は、意味を別とすればひとつだけ。すなわち、主文と従属文との主語が同じ場合だけである(上掲例文で言えば、どちらも он)。

 副動詞は、通常、基となる動詞の体に応じて完了体副動詞と不完了体副動詞とに分けられる。ただし体のあらゆる意義を表現するわけではない。当然、時制、法、人称などを表現することはできないし、相を表現することもまれである。

副動詞の形成

 副動詞には、次の3つの形成パターンがある。基本的にひとつの動詞からひとつのパターンに則ってひとつの副動詞がつくられる。ひとつの動詞から複数の副動詞がつくられる場合は、文体論的に使い分けられる。

  1. 現在語幹 + -я : 不完了体副動詞
  2. 現在語幹 + -учи : 不完了体副動詞(まれ)
  3. 過去語幹 + -в / -ши : 完了体副動詞

 基本的に、第1と第2のパターンは不完了体動詞から不完了体副動詞を、第3のパターンは完了体動詞から完了体副動詞を形成する。ただし第2のパターンは補足的なものであり、不完了体副動詞の形成パターンとして基本となるのは第1のパターンである。
 とはいえ、第1のパターンに基づいて完了体動詞から完了体副動詞を、第3のパターンに基づいて不完了体動詞から不完了体副動詞をつくる場合もあるので、形態だけから不完了体副動詞か完了体副動詞かを区別することはできない。副動詞の体の区別は、あくまでも基になった動詞の体による。

第1パターン

 第1のパターンは、基本的に不完了体動詞から副動詞をつくる。

 ただしこのパターンは、以下のような動詞からはつくられない傾向が強い。絶対的な法則ではないので、例外はいくらでもある。

  1. 現在語幹の末尾が子音
    1. I 式語尾で現在語幹の末尾がシピャーシチイ(ж、ч、ш、щ)
    2. I 式語尾で現在語幹の末尾が唇音 + -л (бл、пл、вл、фл、мл)
    3. 現在語幹が音節を形成しない動詞(現在語幹に母音がゼロ)
  2. 過去語幹から -ну- が消える -нуть
  3. -чь
  4. その他 бы́ть、бежа́ть、ле́зть、хоте́ть など

 さらに、このパターンに則って完了体副動詞をつくる場合がある。主に以下のものだが、ほかにも多数。

 ここでかっこで示したのが、第3のパターン(本来の完了体副動詞をつくる規則)に則ってつくられた、本来の完了体副動詞。しかしこんにちでは、-шедши よりも -йдя の方が一般的である。

第2パターン

 第2のパターンも不完了体動詞から副動詞をつくるが、実用上以下の1例のみ。

 これ以外は、こんにちでは 1) 古臭い、2) 俗語的といった特殊なニュアンスを持ち、日常的にはあまり使われない。

第3パターン

 第3のパターンは、基本的に完了体動詞から副動詞をつくる。過去形単数男性を基にする。アクセント位置は不定形に等しいが、語尾にある場合 -ти́ では、前に移動する。

 このパターンには、以下のような «揺らぎ» が見られる。

統語論的解説

 副動詞は、英語の分詞構文と同じ使い方をする。不完了体副動詞は現在分詞構文、完了体副動詞は過去分詞構文に相当する。基本的には когда に導かれた従属文と同じ役割を果たす。ただし、副動詞の動作主体と、主文述語の動作主体とは同じでなければならない。

 副動詞は、それ自体では時制を表現しない。主文の時制との関連で、それぞれの体的意義に応じて、原則次のような意味を表す。すなわち、不完了体副動詞は同時性、完了体副動詞は先行する完結。

 しかし実際の運用上は、このようにすっきりした使い方などほとんどされない、と言ってもいい。когда を用いた従属文がそうであるように、副動詞も、前後のコンテキスト次第でさまざまな意味合いを持つことになる。それどころか、上述のような主文との時間関係すら崩れることも少なくない。これについては法則性などないので、前後のコンテキストを的確に理解して判断するほかはない。
 なお、以下の例文はわざと直訳した。

Лев Толстой, будучи одной ногой в могиле, написал гневную статью "Не могу молчать". 「レフ・トルストーイは、片足を棺おけにつっこみながら、憤怒の論文『黙っていられない』を書き上げた」
А возмущённые родители во всем винят учителей, которые якобы заставили медсестру колоть прививки всем подряд, не обращая внимания на противопоказания. 「憤慨した親たちはすべてについて、看護士に拒絶反応に注意を払わず一人残らず注射をさせたとかいう教師たちの責任にする」

 このふたつの例文において、副動詞はいずれも主文の述語との同時性を意味している。すなわち、「書き上げた」その時点において、トルストーイは「棺おけに片足をつっこんでいる」状態にあった。また、「注射をさせた」のと「注意を払わない」のとは同時に起こった出来事である。

Завершая рассказ о "второй жизни" Бату, обратим внимание на весьма примечательный факт. 「バトゥの『第二の人生』についての話を終えながら、実に注目すべき事実に注意を向けよう」

 この場合、「終えようとしている」最中に「向ける」のだから、不完了体副動詞を使うのが正しい。しかし日本語の感覚として「終えながら向ける」という訳はいかにもおかしい。「終えるに際して」、「終えるにあたり」といったところだろうか。

Кто в последний раз ходил к врачу, не имея шоколадки в кармане или коробки конфет в сумке? Не получив подарочка, лекарь по-быстрому вытолкнет вас в дверь, посоветовав лечиться народными средствами. 「ポケットにチョコを、あるいはバッグにお菓子の詰め合わせを持たないまま、最後に医者にかかったのは誰か。プレゼントを受け取らず、医者は、民間療法で治すよう助言して、そくざにあなたをドアへと押しやるだろう」

 ここでも、「持たない」のと「かかる」のは同時であるが、日本語的にはむしろ前後関係と理解されよう。さらに、「受け取らない」のと「押しやる」、また「助言する」と「押しやる」の関係は、必ずしも単なる前後関係とは言えまい。この場合、「受け取らない」は「押しやる」の理由・条件的な役割を果たしているし(「受け取らないと押しやってしまう」)、「助言する」と「押しやる」の前後関係は、理屈はともかく、日本語でも「押しやる」が前、「助言する」が後でも問題ない(むしろその方がすっきりする)。
 ちなみに、「最後に医者にかかったのは誰か」は修辞疑問で、要は「そんな奴がいるんだろうか」と言いたい文である。

Малина полезна, но следует "разводить" по времени приём малины и аспирина, потому что они усиливают эффект действия друг друга, увеличивая риск кровотечения. 「キイチゴは有益ではあるが、キイチゴとアスピリンの服用は時間的に『分離』する必要がある。と言うのも、出血の危険性を高めながら、両者は互いの効果を強めあうからだ」
Всемирная компьютерная сеть охотно откликнулась, предоставив нам ссылки на сайты таких же озадаченных женщин. 「全世界的コンピュータ・ネットワークは、同じように当惑した女性たちのサイトへのリンクを我々に提供して、喜んで答えてくれた」

 このふたつの例文では、どちらの副動詞も主文の述語との同時性や前後関係を示しているのではなく、むしろ主文の述語を補足説明している(あるいは言い換え)。つまり、「危険性を高めながら強める」のではなく、「強めるというのはつまり、危険性を高めるということだ」であろう。同じく、「提供した後で答えた」のではなく、「答えてくれた、つまり提供してくれた」である。

Развивая тему, Николай приводит слова самой фигуристки, явно растерянной и ещё плохо понимающей, что ждёт её впереди. 「テーマを発展させながら、ニコライは、明らかに途方に暮れ、この先何が待ち受けているかまだよく理解していないフィギュアスケーター自身の言葉を引用する」

 この文では逆に、副動詞を補足説明(言い換え)しているのが主文である。つまり「発展させた、それはつまり引用した」ということだ。日本語でも「発展させて、引用した」というような言い方をする。
 このように、副動詞の実際上の用法というのは複雑である。もちろん、不完了体副動詞には同時性、完了体副動詞には先行する動作という基本的な意味がある。しかし完了体副動詞が時として後続する動作を示すように、前後のコンテキスト次第でかなり特殊な意味合いを持つことがある。

文体論的解説

 副動詞についての文法的解説は以上のとおりだが、現実問題として、副動詞は日常会話ではそうそう頻繁に使われるものではない。上掲の例文も、いずれも雑誌の記事や論文からの引用である(「食事をしながらTV云々」を除いて)。

 文体論的に言えば、副動詞は文語、書き言葉で主に用いられる。
 口語、話し言葉でも使用されないわけではないが、多くは以下のような場合である。

 上述のように、副動詞の動作主体と主文の動作主体は同じでなければならない。そのような場合にのみ副動詞は使い得るが、脊髄反射的な速度が求められる会話において、そのような判断は難しい。副動詞が会話においてあまり用いられないのはこのためであろう。

 特に、形態と文体との関係で見ると、次のような特徴が見られる。

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最終更新日 23 09 2012

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