ロシア語講座:初級

Н07:ну

ну は、文法的に厳密に言うと、その用法から小詞と間投詞に分類することができる。あまりこだわるべきところでもないので(少なくとも初級では)、ここでは無視する。

単独で

за́муж(副詞)嫁に
жени́ться(完了体動詞・不完了体動詞)結婚する(男が)
умоля́ть(不完了体動詞) ⇔ умоли́ть(完了体動詞)対格に懇願する
тро́гать(不完了体動詞) ⇔ тро́нуть(完了体動詞)対格にさわる
тро́нуть(完了体動詞) ⇔ ─ (不完了体動詞)対格を破滅させる
зо́ркий(形容詞)視力のいい
верста́(女性名詞)度量衡の単位(長さ・距離)

  1. 疑念・不信・驚愕 (= разве, неужели)
    • ─ Я́ сего́дня уезжа́ю. 「わたしは今日発ちます」
      Ну́? 「ほんとですか」
    • ─ Зна́ешь, Ка́тя вы́шла за́муж. 「あのよ、カーテャ結婚したってよ」
      ─ Да ну́? За кого? 「まさか? 誰と?」
  2. ぞんざいな応答
    • ─ Воло́дя! 「ヴォローデャ!」
      Ну́? 「あ?」
    • ─ Я́ на не́й женю́сь. 「オレあいつと結婚するんだ」
      Ну́? 「で?」「だから?」
      • 日本語だと「結婚する」一言で済むところが、ロシア語では結婚するのが男女どちらなのかで使う言葉が違う。
        1. 男の場合、жена を取らせる、ということで、жени́ть が「対格を на+前置格と結婚させる」、жени́ться が「на+前置格と結婚する」という意味になる。
        2. 女の場合、муж のもとに嫁ぐ、ということで、вы́дать за́муж が「対格を за+対格と結婚させる」、вы́йти за́муж が「за+対格と結婚する」という意味になる。
           ちなみに、за́муж は за+対格(主格と同形)になっている。за+造格で за́мужем だと副詞で「結婚して(いる)、既婚者(だ)」という意味になる。
           さらにちなみに、「(男性が)結婚して(いる)、既婚者(だ)」と言う場合には、жена́тый という形容詞(の短語尾)を使う。
  3. 促し (相手の返事や行動を促す)
    • Ну, скоре́й! 「ほら、急げ」
    • Ну, пожа́луйста. 「さあ、どうぞ」
    • Ну, открыва́й! 「さあ、開けてごらん」
      • 不完了体動詞を使った命令文は、単純に言うとふたつの用法がある。
        1. 不完了体の持つ意味・ニュアンスを表現する。
        2. こちらがして欲しいかどうかは関係なく、相手がしようとしている・したがっている・した方がいい・しなければならない行為をするように促す。
        このどちらであるかは、コンテキスト次第である。
    • Ну, откро́й! 「おい、開けろ」
      • 完了体動詞を使った命令文は、単純に言うとふたつの用法がある。
        1. 完了体の持つ意味・ニュアンスを表現する。
        2. 相手の事情にお構いなく、こちらの要求を一方的に伝える。
        このどちらであるかは、コンテキスト次第である。
    • Ну, пое́хали! 「それじゃ、行こう」
      • «поехали» は、「〜しよう」という表現としてはかなり特殊である。しかし過去時制で促しを意味するというのは、日本語にも「さあ行った行った」がある(ロシア語では一人称「わたしたちが」、日本語では二人称「きみ(たち)が」という違いはあれど)。
    • Ну, ну, да́льше, да́льше, умоля́ю ва́с! 「そう、そう! そのさきを、そのさきをお願いします」(水野忠夫訳)『巨匠とマルガリータ』
    • Ну, что́ ты́ мне́ хоте́ла сказа́ть? 「で、きみがぼくに言いたかったことって何?」
    • Ворон : Ка́рр, ка́рр! Иди́, брра́т, свое́й дорро́гой, никого́ не тро́гай. Да смотри́, ка́к бы тебя́ не тро́нули. Я́ во́ррон зо́ркий, за три́дцать вёрст с де́рева ви́жу. カラス「カー、カー。あっち行けよ、兄ちゃん、他人にかまわずにな。破滅させられねえように気をつけなよ。おれは目のいいカラスだ。木の上から30ヴェルスター先を見ることができるんだぜ」
      Волк : Ну́, что́ ж ты́ ви́дишь? オオカミ「で、何が見えるって?」『森は生きている』
      • カラスのセリフでところどころ -р- とあるべきスペルが -рр- となっているのは、巻き舌を強調したもの。カラスが人語をしゃべったとしたら巻き舌がきつくなる、とロシア人は(少なくともマルシャークは)思っているということだ。
      • идти своей дорогой とは「己が道を行く」という意味。「我が道を行く」でもいい。しかしこの場合は「オレの道に踏み込んでくるな」というニュアンスで使われている。
      • как бы ... で、「〜しなければいいのだが」という危惧と願望を表現する。主語のない不定人称文。直訳すれば、「お前さんを破滅させないといいのだが」という感じ。
      • ヴェルスターとは帝政時代後期のロシアの距離単位。ロシアの度量衡は、もともと地域ごとの違いが大きかった。1800年前後にようやく統一されている。ゆえに1ヴェルスターがメートル法だとどの位かも、1800年以前と以後で違う(以前だと地域ごとにも違う)。
         1 верста́ = 500 са́жен ≒ 1 km
         1 са́жень = 3 арши́на ≒ 2.1 m
         1 арши́н ≒ 71 cm

他の単語と

ве́щь(女性名詞)物、品物、身の回り品、家具、荷物、作品、事物・事情、こと
чи́стый(形容詞)綺麗な(汚れのない、片付いた)
зо́лото(中性名詞)黄金
ви́дно(述語副詞)(対格が)よく見える
тя́жесть(女性名詞)重さ・重量・重力、重荷
прекра́сно(副詞)素晴らしく・上手に
подкупа́ть(不完了体動詞) ⇔ подкупи́ть(完了体動詞)
   対格を買収する
тяну́ть(不完了体動詞) ⇔ вы́- | по- | про- (完了体動詞)
   対格を引く
попла́каться(完了体動詞) ⇔ ─ (不完了体動詞)
   しばらく嘆く・泣き言を言う

  1. 罵倒 (人称代名詞の対格を伴って)
    • Ну тебя́! 「もうたくさんだ」「いい加減にしろ」「どっか行っちまえ」「くそ喰らえ」「くたばれ」
    • Ну его́! (同上)
  2. 感嘆 (「ну и +主格」の形で。= Какой ...!)
    • Ну и молоде́ц! 「でかした!」
    • Ну и моро́з! 「なんて寒さだ」
    • Ну и пого́да! 「いい天気だな」「ひどい天気だ」
    • Ну и учёный! 「なんて素晴らしい学者だ」「とんでもない学者だ」
  3. 強調
    • ─ Всё око́нчено? 「全部終わった?」
      Ну да́. 「とうぜん」
    • ─ О́н тебя́ благодари́т. 「あいつきみに感謝してるよ」
      Ну да́? 「まさか」
    • Ну коне́чно. 「もちろん」
    • Ну, коне́чно, то́чно. 「もちろん、正確だとも」
      • この場合、конечно は挿入語であるので(文法上無視することができるので)、ну が強調しているのは точно の方である。
    • Ну ка́к та́м? 「あそこは一体どうなってるんだろう」
    • Ну что́ если спро́сят? 「聞かれたら一体どうしよう」
    • Ну не сты́дно ли ва́м? 「それでも恥ずかしくないのですか」
  4. 熟語
    • Ну и что́? 「それがどうした」「だから何?」
    • Ну что́ ж. 「よかろう」「いいとも」「ま、いっか」「仕方ない」
    • Ну та́к. (同上)
    • ─ Поня́тно. Э́та ве́щь из чи́стого зо́лота, ви́дно по тя́жести. Ну что́ же, я́ прекра́сно понима́ю, что меня́ подкупа́ют и тя́нут в каку́ю-то тёмную исто́рию, за кото́рую я́ о́чень попла́чусь. 「わかりました。これは純金製でしょう、重さでわかりますわ。まあ、いいわ、よくわかったわ、わたしが買収され、なにかいかがわしい話に乗り、そのために、あとでひどく泣く破目になることが」(水野忠夫訳)『巨匠とマルガリータ』
      • 念のため。
         «Эта вещь из чистого золота» は「純金製のこの物」ではなく、「この物は純金製である」。«из чистого золота 不純物のない黄金から(できている)» が述語になっているのである。
         続く «видно по тяжести» には、文法上「何が(見えるか)」が欠けているが、話の流れから一目瞭然なので省いているだけだ。なお、この по は根拠を示す。
         подкупают と тянут は三人称複数だが、主語がない。不定人称文である(受け身の意味である)。
         英語の history「歴史」と story「物語」は同語源だが、ロシア語の история もまた然り。基本的に история は「歴史」という意味だが、「顛末・一部始終の物語」という意味もある。そこから転じて、「主に不愉快な・スキャンダラスな事件・出来事」という意味でも使われる。ここでは темная история、すなわち「暗い история」と言っているのだから、この最後の意味である。
         подкупают と тянут がともに不完了体動詞の現在形(現在時制)であるということは、厳密に言えば、彼女はまさにいま現在買収されつつあり、「なにか暗い物語」に引きずりこまれつつあるのである。
         за+対格は、喜び・怒り・悲しみ・心配・恐怖などの感情を引き起こす原因を示す。

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最終更新日 14 07 2019

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