「DするA」とは、文法的に言えば «名詞を修飾する動詞(文)» ということになるが、その具体的な表現法は、日本語でもロシア語でも、非常に多岐にわたる。
- 「男はつらいよ」
- 「生きてるってすばらしい」
- 「降り出した雨をぼんやり眺めていた」
- 「スターリンが死んだという知らせにかれは驚いた」
- 「問題は、かれがそもそも来なかった、という点にある」
- 「眠れる森の美女」
- 「昨日送ったメールは見た?」
- 「かれの話すロシア語は美しい」
- 「晴れ渡った空に虹がかかっていた」
これらすべて、あるいは日本語で、あるいはロシア語で、あるいは日本語でもロシア語でも、「DするA(Dすること)」とまとめることが可能だ。しかし見てのとおり日本語でもその表現は一様ではなく、ロシア語でも同じことである。
しかも、日本語とロシア語とが必ずしも対応していない。少なくとも、例文の最初のふたつは、日本語では「DするA」になっていないし(しかしこれらは「男であること」、「生きているということ」と考えることができる)、たとえば例文の最後のふたつは、ロシア語では「DするA」という表現にはならない(前者は「かれは美しくロシア語を話す」となるし、後者の「晴れ渡った」は形容詞である)。
「DするA」という表現を網羅的に検討するのは、初級レベルの話ではないので、ここではそのうちの一点だけを取り上げることにする。いわゆる «関係代名詞» である。
М01:関係代名詞
«関係代名詞» とは、日本語には存在しない概念であるため、説明が難しい。英語をご存知の方に対しては、「英語ではこうだが、ロシア語ではこうなる」で済む。しかし英語をご存知ない方に対しては、そもそも関係代名詞とは何ぞや、というところから話を始めなければならない。
ということで、以下、英語(あるいはフランス語でもドイツ語でも)をご存知ない方のために、関係代名詞とは何ぞや、という話をする。わかっている方にとっては今更な話であろうから、飛ばして頂いて結構である。
ごく単純に言うと、関係代名詞とは、文と名詞を結びつける接着剤である。
#221 関係詞とは、文と名詞を結びつける接着剤のひとつ。
文と名詞を結びつける接着剤にも、いくつかの種類がある。
- 「われわれは、かれが鏡を割った証拠を見つけた」
- 「かれが割った鏡は、まだそのままだ」
このふたつの例文から、それぞれ「文と名詞の結合」部分だけを抜き出してみる。
- 「かれが鏡を割った証拠」
- 「かれが割った鏡」
これを図式化してみると、次のようになろう。
文 | 名詞 | |
---|---|---|
1 | かれが鏡を割った | 証拠 |
2 | かれが割った | 鏡 |
1. と 2. とでは、文と名詞が結びついている、という点は同じだが、ロシア語では使われる接着剤が違う。すなわち、
- доказа́тельсто того́, что о́н разби́л зе́ркало
- зе́ркало, кото́рое о́н разби́л
1. で使われている接着剤 что は接続詞である。これに対して、2. で使われている接着剤 которое が、関係代名詞である。
では 1. と 2. はどう違うのか。日本語でもわかると思うが、ロシア語にその違いは如実に現れている。名詞と結びついている文が、完全な文か不完全な文か、という違いである。
1. で名詞「証拠」と結びついている文「かれが鏡を割った」は、これ単独でも文として必要十分である。
主語 | 目的語 | 述語 |
---|---|---|
かれが | 鏡を | 割った |
он | зеркало | разбил |
ところがこれに対して 2. で名詞「鏡」と結びついている文「かれが割った」には、目的語が欠けている。当然だ。なぜなら目的語「鏡」が、この不完全な文「かれが割った」と結びついている名詞になっているからである。
関係代名詞とは、このように、不完全な文と結合する名詞が、本来は不完全な文を構成するはずの一要素そのものである場合に、その不完全な文と名詞とを結びつける接着剤なのである。
- かれが割った鏡 ⇔ かれが鏡を割った
- チャイコーフスキイが遺した傑作 ⇔ チャイコーフスキイが傑作を遺した
- ピョートル大帝が始めた改革 ⇔ ピョートル大帝が改革を始めた
- 弟を殺した奴ら ⇔ 奴らが弟を殺した
- 急に降り出した雨 ⇔ 雨が急に降り出した
- 今年10歳になる少年 ⇔ 少年は今年10歳になる
この点、もう少し詳しく見ておこう。
通りを走っているイヌ
において、「イヌ」が名詞である。これを修飾しているのが、「通りを走っている」という不完全な文である。この文が不完全であるのは、主語(「何が」)が欠けているからである。完全な文としては、「イヌが通りを走っている」が正しい。つまりこの場合の「イヌ」は、「通りを走っている」という不完全な文によって修飾されていると同時に、本来「通りを走っている」という文の主語としてその一部を構成していたはずの要素でもある。
このように、不完全な文と名詞とを結びつけるのが関係代名詞である。ただし、関係代名詞が結びつけられる文と名詞には、次のような関係がある。つまり、その名詞は、本来なら不完全な文の一部となって完全な文を構成していたはずの要素なのである。
- 主語 : 「イヌが通りを走っている」 ⇔ 「通りを走っているイヌ」
- 目的語 : 「車がイヌを轢いた」 ⇔ 「(その)車が轢いたイヌ」
- 状況語 : 「うちのネコがイヌと一緒に寝ている」 ⇔ 「うちのネコが一緒に寝ているイヌ」
文法用語で言うと、名詞を修飾する不完全な文を «関係詞節»、その不完全な文によって修飾される名詞を «先行詞»、そして両者を結びつけるのが «関係代名詞» である。
#222 関係詞を伴う関係詞節によって修飾される名詞を «先行詞» と呼ぶ。
#223 関係詞に導かれて先行詞を修飾する文を «関係詞節» と呼ぶ。
#224 関係詞節内で先行詞の代わりとなっているのが関係詞である。
以上、一般化するために非常に抽象的でわかりづらい説明になったので、もう少し具体的に見ていこう。
関係詞節(不完全な文) | 先行詞 |
---|---|
通りを走っている | イヌ |
(その)車が轢いた | イヌ |
うちのネコが一緒に寝ている | イヌ |
日本語だと関係詞節が先に来て先行詞が後に置かれるが、ロシア語や英語では順序は逆転する。たとえば英語だと、
- a dog that is running in the street
- a dog that the car ran over
- a dog that our cat is sleeping with
すなわち
先行詞 | 関係詞節 | |
---|---|---|
関係詞 | 不完全な文 | |
a dog | that | is running in the street |
a dog | that | the car ran over |
a dog | that | our cat is sleeping with |
これがロシア語だと次のようになる。
- соба́ка, кото́рая бежи́т на у́лице
- соба́ка, кото́рую перее́хала маши́на
- соба́ка, с кото́рой спи́т на́ша ко́шка
構造的には、英語とまったく同じである。
先行詞 | 関係詞節 | |
---|---|---|
関係詞 | 不完全な文 | |
собака | которая | бежит на улице |
собака | которую | переехала машина |
собака | с которой | спит наша кошка |
#225 先行詞が前に、関係詞を含む関係詞節はその後に置かれる。
先行詞は単なる名詞である。ゆえに、全然無関係な文の中で、主語になったり目的語になったりする。
- 通りを走っているイヌがふと立ち止まった。
- ぼくは通りを走っているイヌに目を凝らした。
- きみのところのイヌと通りを走っているイヌとでは、どっちが速いだろうね。
#226 先行詞は、関係詞節とは無関係な文(主文)の中で、関係詞節とは無関係な役割を果たす。
関係詞の種類
ロシア語文法では、関係詞というのは特別に分類されているわけではない。これは «疑問詞» も同様で、どちらも文法上は、あるいは代名詞、あるいは副詞、あるいは数詞である。
疑問代名詞ないし疑問副詞は、基本的にそのまま関係詞として使うことができる。
- 関係代名詞 = 疑問代名詞
- что
- кто
- который
- какой
- чей
- 関係副詞 = 疑問副詞
- когда
- где
- куда
- откуда
- почему
- зачем
- как
- сколько
細かい話は後回しにして、とりあえずいまは、これらが関係詞として用いられることがある、ということだけを覚えておこう。