ロシア語講座:初級

Л03:願望

少々細かい話だが、仮定法による願望表現について補足しておきたい。

一人称・二人称

 仮定法には願望のニュアンスが込められ得る。そこから進んで、いささか控えめな願望の表現として仮定法が使われることが多い。すなわち、

Я́ улете́л бы.

は、

「(もし翼があったら)飛んでいくのに」

というような意味である。「翼などありゃしない」という現実に反する仮定をしているわけであるが、同時に、そんな妄想をしたいぐらい「飛んでいきたい」という願望が込められている。

Я́ хочу́ улете́ть.

と、結果的には同じようなことを表明していることになるが、こちらはもっと直接的に、できるできない無関係に

「飛んでいきたい」

と自身の願望を述べている文である。

  1. Хочу́ разгова́ривать ещё немно́го. 「もうちょっとお喋りしていたい」
  2. Разгова́ривал бы ещё немно́го. 「(もしできれば)もうちょっとお喋りしていたいのだが」

 このように、一人称・二人称では、仮定法は願望のより控えめな表明となる。

  1. Вы́ мо́жете мне́ помо́чь?
  2. Вы́ могли́ бы мне́ помо́чь?

この例文はどちらも「手伝っていただけますか?」という程度の意味である。違いと言って、ニュアンスの違いでしかない。つまり仮定法を使った 2. の文は、仮定法であるがゆえに「ダメだとは思うが、もし可能ならば」といったニュアンスが生じ、より控えめな願望の表現になっている。

 願望を表現する動詞として、代表的なものに хотеть があり、その無人称動詞が хотеться である。このふたつの区別もつけづらいが、これに仮定法が加わって、4通りの表現が可能になる。

直説法仮定法
хотетьхотеть бы
хотетьсяхотеться бы
  1. 直説法
    1. Я́ хочу́ пи́ть ча́й. 「飲みたい」
    2. Мне́ хо́чется пи́ть ча́й. 「飲みたい気分だ」
  2. 仮定法
    1. Я́ хоте́л бы пи́ть ча́й. 「(飲めたら)飲みたいのだが(ダメだろう)」
    2. Мне́ хоте́лось бы пи́ть ча́й. 「(飲めたら)飲みたい気分なのだが(ダメだろう)」

これら4つの厳密な使い分けは、ロシア人ですら必ずしもできているわけではないので、初級レベルのわれわれ日本人が頭を悩ませてもあまり意味がない。強いて言うなら、1-1 は最も直接的な表現であり、家族など親しい者に対して使うには問題ないだろう。逆に 2-2 は最も婉曲な表現なので、赤の他人、なかんずく年上だったり地位が上の相手には最適と言えるかもしれない。それからすると、普通に使う分には 1-2 か 2-1 でいいだろう。

三人称

позити́вно(副詞)肯定的に
сказа́ться(完了体動詞) ⇔ ска́зываться(不完了体動詞)現れる、影響を及ぼす

  1. Встре́ча Пу́тина и Тра́мпа позити́вно ска́жется на отноше́ниях дву́х стра́н.
  2. Встре́ча Пу́тина и Тра́мпа позити́вно сказа́лась бы на отноше́ниях дву́х стра́н.

 このふたつを比べてみよう。
 1. は、単純な完了体未来時制である。完了体未来時制は、話者・筆者の確信を含意することがある。そこも考慮するとこの文は、「プーティンとトランプの会談は、両国関係にポジティヴな影響を及ぼす(はずだ)」というようなニュアンスで捉えることができる。
 これに対して 2. は仮定法の文である。条件文がないので、そこはこちらで補うほかはないが、「会談が行われれば」というようなところだろう。実際にはこの文は、すでに米ロ首脳会談の開催が決定された後のものなので、「もし会談が行われるとするならば」ではなく、「会談が行われた暁には」という程度の意味合いである。そしてこの文も、「プーティンとトランプの会談は、両国関係にポジティヴな影響を及ぼすだろうに(実際は及ぼさないだろう)」ではなく、「及ぼすだろう・及ぼしてくれるといい(と話者・筆者は期待している)」というニュアンスである。

Великобрита́ния предпочла́ бы ви́деть в Росси́и конструкти́вного партнёра. 「イギリスとしては、ロシアを建設的パートナーと見たいものだ」(テリーザ・メイ)
直訳すると、「イギリスはロシアの中に建設的パートナーを見ることの方を好む」。ロ英関係がギクシャクしている中、敵対的関係にあるよりも、というのが предпочесть(AよりBを好む)という動詞を使っている意味であろう。そして「できるならば」、「クリミア問題等が解決してくれれば」という条件と願望を、仮定法で表明している、と見ることができる。

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最終更新日 15 10 2018

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