Л02:仮定・願望
仮定法とは、すでに述べたように、
- 過去時制・現在時制 : 現実と反する事態を仮定する
- 未来時制 : 確信とは逆を仮定する
というものである。このような仮定をする意味としては、
- 純粋に頭の体操として仮定してみる。
- 「本当はこうなる筈だったのに」「こうなってくれたら良いのに」という願望(後悔・非難・妄想)を表明する。
のふたつの場合が多いだろう。と言うよりも、このふたつを厳密に区別することは、多くの場合できないだろう。
いずれにせよ、このような仮定をする場合、そのための条件を提示することが必要になる。
もしAがBだったら、CはDしていただろうに。
というのが、仮定法の文の基本パターンであると言える。
вступи́тельный(形容詞)始めの・始まりの・導入部の・導入用の、入学の・入会の
ка́чество(中性名詞)質・品質・素質
※в ка́честве 生格の資格で
почётный(形容詞)尊敬すべき、名誉の
наблюда́ть(不完了体動詞) ⇔ ─(完了体動詞)対格を注視する・観察する
пара́д(男性名詞)パレード
та́нк(男性名詞)戦車
непобеди́мый(形容詞)打ち負かしがたい・克服しがたい・抑えがたい、無敵の
завоева́ть(完了体動詞) ⇔ завоёвывать(不完了体動詞)対格を征服する・戦い取る
се́й(代名詞)この(古語)
пора́(女性名詞)時
※до си́х по́р いままで・これまで
- Е́сли бы о́н бы́л зде́сь, я́ рассказа́л бы ему́ интере́сную исто́рию. 「もしあいつがここにいたら、おもしろい話を聞かせてやれたんだがね」
- Е́сли бы ко́шка могла́ говори́ть, что́ она́ сказа́ла бы обо мне́? 「もし(この)猫が口が利けたら、ぼくのこと何て言うかな?」
- Е́сли бы ты́ занима́лся серьёзнее, то ты́ сда́л бы вступи́тельный экзаме́н. 「もっとまじめに勉強してたら、入試に受かってただろうけど(もっとまじめに勉強したら、入試に受かるんだろうけど)」
- 以前にも述べたが、この場合の то は「ここから主文が始まる」という目印に過ぎない。если や когда 等で始まる従属文が先にある場合、後続する主文の冒頭に置かれる。
- Я́ пошёл бы сего́дня в теа́тр, е́сли бы у меня́ бы́ло вре́мя. 「時間があったらきょう劇場に行く(行った)んだけどなぁ」
- Алекса́ндр Македо́нский, Це́зарь и Наполео́н в ка́честве почётных госте́й наблюда́ют пара́д во́йск на Кра́сной пло́щади.
─ Е́сли бы у меня́ бы́ли сове́тские та́нки, ─ говори́т Алекса́ндр, ─ я́ бы́л бы непобеди́м!
─ Е́сли бы у меня́ бы́ли сове́тские самолёты, ─ говори́т Це́зарь, ─ я́ завоева́л бы ве́сь ми́р!
─ А е́сли бы у меня́ была́ газе́та «Пра́вда», ─ сказа́л Наполео́н, ─ ми́р до си́х по́р не узна́л бы о Ватерло́о!
アレクサンドロス大王、カエサル、ナポレオンの3人が賓客として赤の広場の軍事パレードを見学している。
アレクサンドロス大王が言う。「もしオレにソ連の戦車があったなら、オレは無敵だっただろうに」。
カエサルが言う。「もしオレにソ連の飛行機があったなら、オレは全世界を征服してただろうに」。
ナポレオンが言う。「もしオレに『プラヴダ』があったなら、世界はいまに至るまでワーテルローを知ることもなかっただろうに」。- ソ連時代のアネクドートなので、いまの日本人にはピンと来ないだろうか。野暮を承知で解説すると、ソ連共産党機関紙『プラヴダ』は、«真実» という紙名にもかかわらず、ソ連共産党にとって都合の悪いことは徹底的に隠すか、事実を歪曲して報道していた。
- Е́сли б Корни́лов дошёл до Петрогра́да, исто́рия Росси́и была́ бы совсе́м друго́й. 「もしコルニーロフがペトログラードに到達していたら、ロシアの歴史はまったく違ったものになっていただろう」
- 母音の後の бы は、省略されて б となることがある。
以上の例から、次のような法則性が読み取られる。
- 条件を示す従属文は если бы ... で始める。
- 主文では бы は動詞の後に置く。
もっともこれはいずれも「よく見られる」というだけのことであって、文法的にこうでなければならない、というものではない。
#219 「もし〜なら」は если бы で始め、「〜だろうに」では述語動詞の後に бы を挿入するのが一般的。
条件を示すだけで終わる場合もある。
крыло́(中性名詞)翼
простуди́ться(完了体動詞) ⇔ простужа́ться(不完了体動詞)風邪をひく
хо́ть(小詞)せめて
разбуди́ть(完了体動詞) ⇔ буди́ть(不完了体動詞)対格を目覚めさせる
проигра́ть(完了体動詞) ⇔ прои́грывать(不完了体動詞)対格(もの)・与格(人)に負ける、対格を失う
би́тва(女性名詞)会戦
- Е́сли бы у меня́ бы́ли кры́лья! 「もしぼくに翼があったらなぁ」
- Е́сли б зна́ли вы́, ка́к мне́ до́роги 「あなたにわかってもらえたら ぼくにとってどんなに大切か
Подмоско́вные вечера́! モスクワ郊外の夕べが」 - То́лько бы о́н не простуди́лся! 「あいつが風邪引きさえしなけりゃ」
- То́лько бы ты́ зна́ла, 「ただ君が知ってくれていたら
Что никто́ тебя́ не лю́бит та́к, ка́к я́ люблю́. ぼくほど君を愛している者がいないことを」 - ─ Хо́ть бы ты́ меня́ разбуди́ла. 「せめてお前さんが起こしてくれてたら良かったのに」『桜の園』
- Что́, е́сли бы Росси́я проигра́ла Полта́вскую би́тву? 「ロシアがポルターヴァの戦いに負けていたらどうなっていただろうか」
これとは逆に、従属文(条件文)なし、主文だけの場合もある。
たとえば、条件が前後のコンテキストから明らかな場合である。
мэ́р(男性名詞)市長
испо́лниться(完了体動詞) ⇔ исполня́ться(不完了体動詞)成就する・実現する、満了する
- Я́ не купи́л бы тако́й кни́ги. 「こんな本は買わない(買わなかった)だろうに」
- Я́ могла́ бы танцева́ть всю́ но́чь. 「一晩中でも踊っていられたのに I could have danced all night.」『マイ・フェア・レディ』
- Лу́чше бы и́х бы́ло бо́льше. 「もっと多かったら良かった」
- 一応説明しておくと、「それら(かれら)がもっと多かったら良かった」という文。意味的には「それら(かれら)」が主語だが、ここでは生格 их になっている。これは数量を表す больше と結合しているからである。
- Пе́рвому мэ́ру Петербу́рга Собча́ку сего́дня испо́лнилось бы 80 ле́т. 「ペテルブルグの初代市長ソブチャークは(生きていたら)今日80歳を迎えた」
主語それ自体が条件になっている場合もある。
сня́тие(中性名詞)取り除くこと・除去・解除、撮影
са́нкция(女性名詞)裁可・認可・批准、処罰・制裁
по́льза(女性名詞)利益・効用
- Я́ бы не сказа́ла ему́ об э́том. 「わたしだったらかれにあのこと言わない(言わなかった)のに」
- О́н бы сде́лал лу́чше. 「かれならもっとうまくやる(やった)だろう」
- Сня́тие са́нкций с РФ пошло́ бы на по́льзу и Росси́и, и Герма́нии. 「ロシアへの経済制裁解除は、ロシアにとってもドイツにとっても利益になるだろう」(メルケル)
条件が条件文以外の形で表されることもある。
усло́вие(中性名詞)条件、要求、状況・環境(複数)
согласи́ться(完了体動詞) ⇔ соглаша́ться(不完了体動詞)на+対格に同意する、不定形することに同意する、с+造格に賛同する
красота́(女性名詞)美しさ・美
- Без тебя́ мы́ проигра́ли бы. 「君がいなけりゃおれたち負けてる(負けてた)よ」
- На таки́е усло́вия никто́ бы не согласи́лся. 「そんな条件じゃ誰も同意しない(しなかった)だろうよ」
- Бу́дь я́ поэ́том, я́ писа́л бы о красоте́ Сиби́ри. 「ぼくが詩人だったらシベリアの美しさについて書くんだがな」
- будь は быть の命令形。このように命令形で条件を示すやり方はけっこうあるが、詳しくは中級以上で学ぶことにしよう。ちなみに、日本語にもある。「求めよ、さらば与えられん」とか。
- Не бу́дь Е́льцина, не́ было бы ни колбасы́, ни Пу́тина. 「エリツィンがいなかったら、ソーセージもプーティンもありゃしないよ」
- エリツィンをどう評価するか聞かれたおばちゃんが言った言葉。ソーセージを買った帰りらしい。
Бу́дь но́с Клеопа́тры чуть покоро́че, о́блик Земли́ ста́л бы ины́м. 「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界は変わっていただろう」(パスカル)
日本語でもそうだが、ロシア語でも定訳はないので、微妙に違う文もある。たとえば、Бу́дь но́с Клеопа́тры чуть покоро́че, ве́сь ли́к земли́ измени́лся бы. ちなみに、原文では "Le nez de Cléopâtre, s'il eût été plus court, toute la face de la terre aurait changé."「もしクレオパトラの鼻がもっと短ければ、地球の顔全体が変わっていただろう」