И11:程度の表現
比較級にかかわる程度の表現をいくつか確認しておこう。
差
「A は A' より B だ」において、A と A' との差が明確な数字で表現され得る場合は、
на+対格
で表される。
дре́вний(形容詞)古代にあった(いまはない)、古代から残る・続く(いまもある)
полчаса́(男性名詞)30分 ※格変化は特殊
- Во́ва на три́ го́да ста́рше меня́. 「ヴォーヴァはわたしの3つ年上だ」
- Новгоро́дский кре́мль оказа́лся на 300 ле́т древне́е. 「ノーヴゴロドのクレムリンは300年古かった(ことが判明した)」
- クレムリンはロシアの古都には必ずある(あった)から、このように必ず都市名をつけて呼ぶ。ただしモスクワだけは例外。
- ちなみにノーヴゴロドのクレムリンは кремль ではなく дети́нец と呼ばれるのが一般的。
- 「これまで考えられていたよりも」300年古かった。
- оказался であるから、単に「古かった」ではなく、「調査の結果判明した」というニュアンス。
- Я́ пришла́ на полчаса́ ра́ньше. 「わたし30分も前に来てたのよ」
- Сла́ва вы́ше меня́ на́ голову. 「スラーヴァは頭ひとつ分ぼくより背が高い」
- На ско́лько часо́в опа́здывает самолёт? 「飛行機は何時間遅れてるんだ?」
- 比較級は使われていないが、これもまた差を表す на。
これとは別に、造格で表されることもある。とはいえ、数詞+名詞の格変化を完璧にこなせないうちは、避けた方が無難だろう。
- Во́ва тремя́ года́ми ста́рше меня́. 「ヴォーヴァはわたしの3つ年上だ」
- О́н живёт двумя́ этажа́ми вы́ше. 「かれが住んでいるのは2階上だ」
他方、A と A' との差が曖昧な場合は、副詞が用いられる。
- гора́здо 「ずっと」
- Она́ пи́шет гора́здо лу́чше. 「彼女ははるかに文章が・文字がうまい」
- намно́го 「ずっと」
- Э́тот за́л намно́го ши́ре, чѐм то́т. 「あっちのホールよりもこっちの方がはるかに広い」
- немно́го 「少し」
- Во́ва немно́го ста́рше меня́. 「ヴォーヴァはわたしよりちょっと年上だ」
倍
A と A' との差が倍数である場合は、
в+対格+раз
で表される。
- Сто́ в пя́ть ра́з бо́льше, чѐм два́дцать. 「100は20の5倍である」
- 念のため説明しておくと、この文は «Сто больше.» であり、主語は сто、述語は больше である。「100はより多い」という文である。
- И́горь в два́ ра́за ста́рше Ни́ны. 「イーゴリはニーナの倍の歳だ」
- Та́ня поёт во мно́го ра́з лу́чше меня́. 「ターニャはぼくの何倍も歌がうまい」
ちなみに、
単数 | 複数 | |
---|---|---|
主格 | ра́з | разы́ |
生格 | ра́за | ра́зу | ра́з |
与格 | ра́зу | раза́м |
対格 | ра́з | разы́ |
造格 | ра́зом | раза́ми |
前置格 | ра́зе | раза́х |
つまり2、3、4と結合する時に раза となるほかは、раз である。
この表現について、日本人にはわかりづらい例を挙げる。
т.е. /то́исть/(接続詞)つまり ※то есть の略記。略さず то есть と書かれることもある。
- Росси́я в 45 ра́з ши́ре Япо́нии, т.е. Япо́ния в 45 ра́з у́же Росси́и. 「ロシアは日本の45倍広い。つまり、日本はロシアの45分の1の狭さだ」
- 45 は対格で со́рок пя́ть。
- т.е. は то́ есть の略記。то́ есть は熟語、と言うより、これふたつでひとつの単語。ゆえにアクセントの位置も то́ にのみあって есть は無力点。
接続詞で、前言を補足・修正する際に使う。「つまり、ということは」というような意味。
これを т.е. と書くのは、あくまでも書く時だけの規則。т.е. と書いてあるからと言って、「テーイェー」とか読んではいけない。口から発する際には必ず /тоисть/。日本語の「々」のようなものである。「時々」と書いてあるからと言って「ときのま」とか読む人はいない。
в 45 раз уже は直訳すると「45倍狭い」。日本語からするとおかしいが、ロシア語ではこう言う。
зарпла́та(女性名詞)給料・賃金(どちらかと言うと口語的) ※本来は略語
- О́н в два́ ра́за моло́же меня́. 「かれはわたしの2倍の若さだ」=「かれはわたしの半分の歳だ」
- Я́ получа́ю зарпла́ту в пя́ть ра́з ме́ньше его́. 「ぼくはかれより5倍少ない給料をもらっている」=「ぼくの給料はかれの5分の1だ」
- この場合の меньше は、зарплату を修飾している。
概数
話は逸れるが、「2年」ではなく「2、3年」、「5個」ではなく「5、6個」という表現は、ロシア語でも日本語と同じである。
つまり、日本語ではこのような場合、数詞をただ並べる(場合によっては数詞+助数詞)。ロシア語でも、数詞をただ並べるだけだ。なお、文字で書く場合には数詞と数詞の間にダッシュなどを挟む。
- Во́ва на три́-четы́ре го́да ста́рше меня́. 「ヴォーヴァはわたしの3つ4つ年上だ」
- Новгоро́дский кре́мль оказа́лся на 300─400 ле́т древне́е. 「ノーヴゴロドのクレムリンは3、400年古かった(ことが判明した)」
- 読みは、три́ста-четы́реста。
- Сла́ва вы́ше меня́ на́ голову-две́. 「スラーヴァは頭ひとつふたつ分ぼくより背が高い」
- О́н е́л в четы́ре-пя́ть ра́з бо́льше меня́. 「かれはぼくの4、5倍は食べた」
- четыре раза と пять раз が結ばれた場合、上記のように четыре-пять раз となる。つまり、名詞は、後の数詞の支配を受ける。
中級ないし上級で学ぶことだが、正書法によれば、アラビア数字を結ぶのはダッシュ「 ─ 」、ロシア語を結ぶのはハイフン「 - 」。空白は入れない。
限界
「これ以上〜〜できないくらい」という表現。これは非常に単純で、как と можно ないし нельзя を比較級と組み合わせる。можно と нельзя の違いは、上級レベルで考えるべきことで、いまは無視しておいていい。
- ка́к мо́жно ра́ньше 「できるだけ早く(早い時間に)」 ≒ ка́к нельзя́ ра́ньше 「これ以上ないくらい早く(早い時間に)」
- ка́к мо́жно скоре́е 「できるだけ早く(すぐに)」 ≒ ка́к нельзя́ скоре́е 「これ以上ないくらい早く(すぐに)」
- ка́к мо́жно лу́чше 「できるだけ良く」 ≒ ка́к нельзя́ лу́чше 「これ以上ないくらい良く」
- ка́к мо́жно бо́льше 「できるだけ大きく」 ≒ ка́к нельзя́ бо́льше 「これ以上ないくらい大きく」
これを、主文と「 , 」で結ぶ。
- Позвони́ мне́, ка́к мо́жно ра́ньше. 「できる限り早く電話して」
- Она́ пе́ла, ка́к нельзя́ лу́чше. 「彼女はこの上なくうまく歌った」
ますます
ますます
「ますます〜だ」というのは、程度が深まっていく様を表している。ゆえに、ロシア語ではこの手の表現は必ず比較級とともに用いられる。
- ещё
- Она́ ста́ла ещё краси́вее. 「彼女はますます綺麗になった」
- Она́ ре́дко смея́лась, ещё ре́же пла́кала. 「彼女はめったに笑わなかったし、泣くのはもっとまれだった」
- всё
- Ста́ло всё темне́е. 「いっそう暗くなった」
- До́ждь идёт всё сильне́е. 「雨がますます激しくなってきた」
- ロシア語の文には「なってきた」「なった」という意味の単語が存在していない。ただ単に「降っている идёт」と言っているだけだ。しかし比較級とともに用いられていることで「以前も雨が降っていた」、「現在も雨が降っている」、「以前よりも現在の方が雨が激しい」という3つの意味を持つ。この結果、「以前」と「現在」との間に雨脚が変化したことが言外に語られており、結果として日本語の「激しくなった」というニュアンスを持つ。
- Я́ люблю́ тебя́ всё бо́льше и бо́льше. 「きみのことがもっともっと好きになった」
- ロシア語の文には「なった」という意味の単語が以下同上。
- всё は強調の小詞だが、この文では бо́льше を繰り返すことで、強調のニュアンスを強調している。このように、「比較級 и 比較級」という強調の表現は口語ではよく見られる。
〜であればあるほど
「〇〇であればあるほど××だ」、「〇〇すればするほど××になる」という表現は、ロシア語では、単純に言うと、
чем 比較級, тем 比較級
となる。具体例を見た方が早いだろう。
рассве́т(男性名詞)夜明け(の時間、その空)
дрова́(女性名詞)まき・たきぎ
- Чѐм бо́льше, тѐм луч́ше. 「大きければ大きいほどいい/多ければ多いほどいい」
- Чѐм темне́е но́чь, тѐм бли́же рассве́т. 「夜が暗ければ暗いほど夜明けは近い」
- Чѐм да́льше в ле́с, тѐм бо́льше дро́в. 「森を行けば行くほど薪は多くなる」(事態の進展につれて予期せぬ問題は多くなるもの)
- в лес は対格。これは「森の中へ入っていけばいくほど」を意味するから。
- дрова が複数生格になっているが、これは数量を表す больше とともに用いられているから。
- Чѐм бо́льше я́ узнаю́ про США и европе́йские стра́ны, тѐм ме́ньше я́ хочу́ туда́ переезжа́ть. В Росси́ю я́ тѐм бо́лее не хочу́. Где́ жи́ть? 「アメリカやヨーロッパ諸国について知ればしる程、そこに住みたくなくなる。ロシアなんかもっとやだ。どこに住んだらいいんだ?」
- США の発音は /сэшэа́/。