Е08:前置詞あれこれ
ここまでにもすでにいくつかの前置詞が使われているが、ここで、主なものを確認しておく。なお、個々の前置詞の詳しい使い方については辞書で。
生格 | 与格 | 対格 | 造格 | 前置格 | |
---|---|---|---|---|---|
без 1 2 | 〜なしに | ||||
в 1 2 | 〜の中へ | 〜の中で | |||
для | 〜のために | ||||
до /да/ | 〜まで | ||||
за | 〜の向こうへ | 〜の向こうで | |||
из 1 2 | 〜の中から | ||||
из-за /изза/ | 〜の向こうから | ||||
из-под 1 | 〜の下から | ||||
к 1 2 | 〜の方へ | ||||
кро̀ме | 〜を除いて | ||||
между | 〜の間で | ||||
на | 〜の表面へ | 〜の表面で | |||
над 1 2 | 〜の上空で | ||||
о /а/ 2 | (衝突の対象) | 〜について | |||
о̀коло /окала/ | 〜の近くで | ||||
от 1 2 | 〜から | ||||
перед 1 2 | 〜の前で | ||||
по /па/ | 〜沿いに | 〜まで | 〜の直後に | ||
под 1 2 | 〜の下へ | 〜の下で | |||
по̀сле | 〜のあとで | ||||
пре́жде | 〜の前に(時間) | ||||
при | 〜に付随して | ||||
про | 〜について | ||||
с 1 2 | 〜の表面から | 約〜 | 〜と一緒に | ||
спустя́ | 〜を経て | ||||
средѝ | 〜の真ん中で | ||||
у | 〜の近くに | ||||
через 1 2 | 〜を横切って |
1 後続する名詞・形容詞などの語頭の音によっては、語末の子音が有声化。
2 後続する名詞の語頭の音によっては語形変化(後述)。
- от+生格「〜から(出発点)」 ⇔ до+生格「〜まで(到達点)」
- от+生格「〜から」 ⇔ по+対格「〜まで」 ※日付
- из+生格「〜の中から」 ⇔ в+対格「〜の中へ」
- с+生格「〜の表面から」 ⇔ на+対格「〜の表面へ」
- с+造格「〜と一緒に」 ⇔ без+生格「〜なしに」
- из-за+生格「〜の向こうから」 ⇔ за+対格「〜の向こうへ」
- из-под+生格「〜の下から」 ⇔ под+対格「〜の下へ」
- перед+造格「〜の前で」 ⇔ за+造格「〜の後ろ側で」 ※空間
- перед+造格 | пре́жде+生格「〜の前に」 ⇔ по̀сле+生格「〜のあとで」 ※順序
とりあえず、前置詞に関して確認事項を以下に列挙する。
- このように、в|на には前置格と結合する以外の用法があり、その場合は意味・使い方が異なる。
- 基本的に、前置詞+対格は「運動の方向・目的地」を示す。
- 前置詞+造格は「場所」を示す(с は例外)。
- 与格と結合するのは к|по のみ。
- あとはすべて生格と結合(と思っておいてもいい)。
- 前置詞の意味に関係なく、熟語となっている前置詞+名詞もある。
前置詞の基本原則
- 単独での使用は不可。常に名詞とともに用いられる。
- 語順が絶対的に決まっている。常に名詞の直前(もちろん間に形容詞などがはさまることはある)。
- 名詞の斜格(主格以外)と結合する。どの格と結合するかは、前置詞ごと(意味ごと)に異なる。
- 名詞の語頭の音によっては、形を変えるものがある。
- アクセントはない。ただし、
- 名詞のアクセントが消えて前置詞に移る場合がある。
- 一部の前置詞には弱アクセントがある。
- 派生的前置詞にはアクセントがある。
2. 語順について
常に名詞の前。英語の "What are you looking for?" のように前置詞と名詞が切り離される、ということはロシア語にはない。常に名詞の前に置かれる。
- С ке́м ты́ разгова́ривала? 「誰とお喋りしてたんだ?」
- О чём ты́ ду́маешь? 「何考えてるんだ?」
4. 形の変化について
前置詞の中には、後続の名詞の語頭の音に応じて、形を変えるものがある。
- без ⇒ безо
- в ⇒ во
- из ⇒ изо
- к ⇒ ко
- над ⇒ надо
- о ⇒ об
- о ⇒ обо
- от ⇒ ото
- перед ⇒ передо
- под ⇒ подо
- с ⇒ со
- через ⇒ черезо
やはりロシア人にとっても、子音が3つも4つも続くと発音しづらくなるので、そのような場合に上掲のような形に変えることが多い。しかし、どのような場合に形を変えるのか、その法則は必ずしも厳密ではない。
たとえば、с という前置詞が вступление という名詞と結合する場合、
- с вступлением
- со вступлением
のどちらになるか、どうやら人によるらしい。
とはいえ、通常は単語ごとに決まっているので、いちいち辞書で確認すること。たとえば о + я ⇒ обо мне は絶対。о мне とも об мне とも言ってはいけない。
5. アクセントの移動について
前置詞の中には、後続の名詞によっては、アクセントを名詞から奪うものがある。そのすべてをここで列挙するのは不可能なので、いくつか例だけを挙げてみる。
- до́ ночи
- за́ город | за́ городом
- на́ ухо
- по́ лесу
- по́д ноги
ネイティブは言葉を、目で見て覚えるのではなく、耳で聞いて覚える。だからロシア人は、「夜まで」という場合は [dónəʨɪ] と覚える。文字で書くと до ночи だから、目で見て覚える外国人だけがこれを [dənóʨɪ] と間違えて発音する。その結果、外国人は [dónəʨɪ] と聞いてもそれが до ночи だと理解できない。つまりロシア人が何を言っているのかわからない、ということになる。[ónȿólpólɪsu] と聞いて、前半は Он шёл「かれは歩いていた」とちゃんと理解できたのに、後半をポリスと勘違いして、「警察? いやロシア語ではポリスとは言わなかったような。古代ギリシャの都市国家? 関係ないよな。何だろう」と、結局相手の言いたいことが理解できないままだった、という人がいる。ポリスという音をちゃんと聞き取ったという点では誉められるべきだが、理解できなかったのでは何の意味もない。これは по́ лесу 「森を」である。なおこの人は、そう説明されても理解できず、文字で書いてもらってようやく得心していた。
これまた、どのような場合にアクセントが移動するのか、法則らしきものはあるが、いまの段階ではひとつひとつ覚えた方が早い。
Выходи́ла на́ берег Катю́ша 『カテューシャ』