ロシア語講座:初級

Д01:Aはある・いる

存在を表す表現は、ロシア語では独特の文型になる。

 このように、存在そのものを言う文というのは、日本語でも少々特殊である。次のような文と比べてみよう。

 A群とB群の違いは、「どこに」が示されているかどうか、にある。A群のように「どこに」を示さずに、そもそもこの世にはこういうものが存在している、と言う文は、日本語でもロシア語でもかなり特殊な状況でしか用いられない。

 なお、ロシア語には「いる」と「ある」の区別はない。念のために確認しておくが、日本語では動物名詞と非動物名詞の区別に基づいて「いる」と「ある」を使い分けるが、ロシア語では動物名詞と非動物名詞の区別は生格の変化語尾にのみ反映される。「いる」と「ある」の区別とは無関係である。

#76ロシア語には「いる」と「ある」の区別はない。

Aはある・いる

 「Aはある・いる」というように、Aというものが存在していることを問題にした文は、есть というかなり特殊な単語を使う。

бо́г(男性名詞)神
е́сть ※本文参照
ра́й(男性名詞)天国

つまり

  1. 「ある・いる」は есть。
    • もちろん「存在する」という動詞を用いることも可。違いは、日本語の「神はいる」と「神は存在する」の違いと似たり寄ったり。動詞の使い方はいずれ改めて学ぶので、とりあえずここでは есть という単語を使った言い方を覚えておこう。
  2. 「Aはいる・ある」は、Aと есть とを並べて置くだけ。その意味では、「AはBである」と同じような形である。
  3. Aが何であろうと есть は不変化。男性名詞であろうが女性名詞であろうが中性名詞であろうが、単数だろうが複数だろうが、何ら区別なく есть を用いる。

 例として挙げた「神はいる」とか「天国はある」は、少々特殊な場面でしか用いられない文だと思うが、省略文としての「Aはある・いる」は日常的に用いられる。

このような場合でも、Aと есть を並べる文が用いられる。
 もちろん、日本語と同様に、Aの有無を問題にしている、ということが周知の場合は、Aも省略して есть だけにすることが可能だ。たとえば学校で、出欠の際に、名前を呼ばれてロシア人の生徒が何と返事するかと言うと、

の3通りがある。ふたつ目と三つ目は、要するに «Я здесь есть.» 「わたしはここにいる」を省略したものである。
 このように、е́сть という単語は、単独で「ある・いる」を意味する。ゆえに、繰り返しになるが、Aの有無を問題にしている、ということが周知の場合は、Aは省略可能なのである。

語順

 「AはBだ」の場合、ABという語順は日本語と同じであった。これは単純に、語順をひっくり返すと意味もひっくり返ってしまうからだ。

この日本語からも、ひっくり返したらいかにおかしいかがわかるだろう。文法的に言うと、これはAとBとが言うならば等価であるために起きる現象である。
 ところが「Aがある・いる」の場合、Aと есть は役割も品詞もぜんぜん違う。このため、語順をひっくり返しても意味がひっくり返るということはあり得ない。

このように、ひっくり返しても十分まともな文なのである。

 これはロシア語における語順という、非常に厄介な問題とからむので、ここではこれ以上突っ込まない。とりあえず、「Aはある・いる」という文においては、«A е́сть.» という語順でも «Е́сть A.» という語順でも、どちらも可、ということは理解しておこう。
 ただし一般的には «A е́сть.» が用いられる。この点、詳細は後述。

時制

 時制を表現するには есть の代わりに быть の過去形・未来形を使う。その場合、主語は「Aは」であるから、быть の変化形はAに従う。

#77 「ある・いる」を意味するのは、現在時制では есть、過去時制・未来時制では быть。

#78 「Aはある・いる」という文は、Aと есть | быть を並べるだけ。

#79 есть は不変化。быть はAに合わせて変化。

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最終更新日 01 05 2015

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