Г22:造格の用法
造格の変化語尾
先ず造格の変化語尾を確認しておこう。
名詞の造格
- 単数形
- 単数主格が子音で終わる名詞 ⇒ 単数主格の末尾に -ом をつける (正書法の都合で -ем になることがある) : обе́д ⇒ обе́дом
- ただし -й で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -й の代わりに -ем : музе́й ⇒ музе́ем
- 単数主格が -ь で終わる名詞
- 男性名詞 ⇒ 単数主格末尾の -ь の代わりに -ем : автомоби́ль ⇒ автомоби́лем
- 女性名詞 ⇒ 単数主格末尾の -ь の代わりに -ью : кро́вь ⇒ кро́вью
- 単数主格が -а で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -а の代わりに -ой (正書法の都合で -ей になることがある) : доро́га ⇒ доро́гой
- 単数主格が -я で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -я の代わりに -ей : исто́рия ⇒ исто́рией
- 単数主格が -о で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -о の代わりに -ом (正書法の都合で -ем になることがある) : письмо́ ⇒ письмо́м
- 単数主格が -е/-ё で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -е/-ё の代わりに -ем : полоте́нце ⇒ полоте́нцем
- 単数主格が子音で終わる名詞 ⇒ 単数主格の末尾に -ом をつける (正書法の都合で -ем になることがある) : обе́д ⇒ обе́дом
- 複数形
- 単数主格が子音で終わる名詞 ⇒ 単数主格の末尾に -ами をつける : Ива́н ⇒ Ива́нами
- 単数主格が -а/-о で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -а/-о の代わりに -ами : рука́ ⇒ рука́ми
- 単数主格が -е/-ё/-й/-ь/-я で終わる名詞 ⇒ 単数主格末尾の -е/-ё/-й/-ь/-я の代わりに -ями (正書法の都合で -ами になることがある) : ли́ния ⇒ ли́ниями
これを図式化すると次のようになる。5パターンに分かれる。
主格末尾の文字 | 単数 | 複数 | |
---|---|---|---|
1 | 子音 / -о | -ом | -ами |
2 | -а | -ой | |
3 | -ь (男) | -ем | -ями |
-й / -е / -ё | |||
4 | -я | -ей | |
5 | -ь (女) | -ью |
※ただし、変化語尾 -ем / -ей にアクセントがある場合(移動した場合も含む)は、-ём / -ёй となる。
これ以上単純化させようがないが、あえて与格の時のように並べ替えてみる。
硬変化 | 軟変化 | ||
---|---|---|---|
単数 | その他 | -ом | -ем |
-а/-я | -ой | -ей | |
-ь (女) | (なし) | -ью | |
複数 | -ами | -ями |
代名詞・形容詞の造格
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | мно́й | на́ми | |
二人称 | тобо́й | ва́ми | |
三人称 | 男性 | и́м | и́ми |
中性 | |||
女性 | ей |
単数 | 複数 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 中性 | 女性 | ||||
単数 | 一人称 | мои́м | мое́й | мои́ми | ||
二人称 | твои́м | твое́й | твои́ми | |||
三人称 | 男性 | его́ | ||||
中性 | ||||||
女性 | её | |||||
複数 | 一人称 | на́шим | на́шей | на́шими | ||
二人称 | ва́шим | ва́шей | ва́шими | |||
三人称 | и́х |
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 中性 | 女性 | ||
硬変化 | -ым | -ой | -ыми | |
軟変化 | -им | -ей | -ими |
古形
名詞、形容詞、代名詞を問わず、造格語尾 -ой | -ей は、古形では -ою | -ею となる。
- доро́гой ⇒ доро́гою
- исто́рией ⇒ исто́риею
- мно́й ⇒ мно́ю
- тобо́й ⇒ тобо́ю
- е́й ⇒ е́ю
- мое́й ⇒ мое́ю
- твое́й ⇒ твое́ю
- на́шей ⇒ на́шею
- ва́шей ⇒ ва́шею
- краси́вой ⇒ краси́вою
- ра́нней ⇒ ра́ннею
単純に言って、この形はこんにちでは詩で用いられるものと考えていい。
Доро́гой дли́нною, да но́чкой лу́нною (= Доро́гой дли́нной, да но́чкой лу́нной)
「弱強」の韻脚が6つ並んでいる。
доро́|гой дли́н|ною,| да но́ч|кой лу́н|ною
(оо́|ои́|ою|ао́|оу́|ою)
これを整えるために -ою が使われている。
確認だが、造格以外の -ой | -ей は、-ою | -ею にはならない。
道具・手段
造格の本来的な使い方は、動作遂行のための道具・手段を示すことにある。
разре́зать(完了体動詞) ⇔ ре́зать(不完了体動詞)対格を切る・切断する
но́жницы(複数名詞)ハサミ
е́сть(不完了体動詞) ⇔ съе́сть(完了体動詞)対格を食べる
па́лочка(女性名詞)小さい棒
- На́до писа́ть карандашо́м. 「鉛筆で書かなければならない」
- Э́то нельзя́ разре́зать но́жницами. 「これはハサミでは切れない」
- 文頭の это は主語ではなく、разрезать の目的語。格は対格。だから直訳すれば、「これをハサミでは切れない」。
- Не тру́дно бы́ло е́сть «па́лочками»? 「箸で食べるのは大変じゃありませんでした?」
- ロシア語に「箸」などという名詞は存在しない。
#73 造格は基本的に「〜で」。ただし場所ではなく方法。
меша́ть(不完了体動詞) ⇔ помеша́ть(完了体動詞)与格を邪魔する
разгово́р(男性名詞)会話・対話・お喋り
перегово́ры(複数名詞)交渉・談判・折衝・話し合い
соглаше́ние(中性名詞)合意・同意・協定
наде́жда(女性名詞)希望・期待 ※英語の hope
россия́нин(男性名詞)ロシア人(ただし「国籍がロシア」)
※民族的な意味での「ロシア人」は ру́сский。
道具・手段とは違うが、次のような場合にも造格を用いる。
- Нельзя́ меша́ть ему́ разгово́рами. 「お喋りでかれの邪魔をしてはいけない」
- Легко́ помо́чь слова́ми. 「言葉で手伝う/助けるのは簡単だ」
- Ну́жно зако́нчить перегово́ры соглаше́нием. 「交渉を合意で終える必要がある」 ⇒ 「交渉をまとめて合意をしなければならない」
- Ва́жно жи́ть наде́ждой. 「希望で生きることが大事だ」 ⇒ 「希望して生きる・希望を生き甲斐とすることが大事だ」
このように、直接的な道具・手段ではなくとも、比喩的な意味も含めて、かなり広く何らかの道具・手段を表すのが造格である。その場合、特に最後の2例が示すように、日本語とはかなりのズレが生じる場合が少なくない。これらは、とりあえず今の段階では、そういう言い回し(一種の熟語)として覚えておいた方が早い。
なお、このような意味合いは、形容詞と結合した造格も持つ。
- бога́тое ры́бой о́зеро 「魚で豊かな湖」 ⇒ 「魚の豊富な湖」
- Никола́й Остро́вский ─ сове́тский а́втор, изве́стный россия́нам рома́ном «Ка́к закаля́лась ста́ль». 「ニコライ・オストローフスキイは、『鋼鉄は如何に鍛えられたか』という小説でロシア人に知られているソ連の作家である」
- известный россиянам романом «Как закалялась сталь» советский автор という語順も、文法的には可能。しかしこれでは известный という修飾語と автор という被修飾語との間に、あまりに多くの単語が挟まれてしまうため、非常にわかりづらい。そのため、このように長ったらしい補語を持つ修飾語は、コンマとともに後に置かれるのが一般的。ゆえに前の例も、озеро, богатое рыбой という語順が可。
様態
造格のもうひとつ代表的な用法が、動作の様態を示す、というものである。わかりやすく言うと、「どんな風に」ということだ。
すでに述べたように、「どんな風に」を表すのは副詞である。しかし副詞では、「(名詞)のように」を表現することができなかった。これを表すのが造格なのである。
もっとも、これは多くの場合日本語では「〜で」となる。
улы́бка(女性名詞)微笑み ※英語の smile
ша́г(男性名詞)一歩
стрела́(女性名詞)矢
труба́(女性名詞)管・パイプ・煙突・ラッパ・トランペット
- отве́тить улы́бкой 「笑顔で答える」
- смотре́ть до́брыми глаза́ми 「優しい目で見る」
- ходи́ть бы́стрыми шага́ми 「早足で歩く」 ≒ ходи́ть бы́стро
- говори́ть гро́мким го́лосом 「大声でしゃべる」 ≒ говори́ть гро́мко
さらに「比喩」としても用いられる。
- лете́ть стрело́й 「矢のように飛ぶ」
- поднима́ться трубо́й 「煙突のようにのぼる」=「まっすぐ上にのぼる」(煙などが)
一部の動詞の目的語
造格は、一部の動詞の「〜を」となることがある。これは「造格の用法」と言うよりも「動詞の支配」として、個々の動詞ごとに覚えた方が早い。
дыша́ть(不完了体動詞) ⇔ ×(完了体動詞)呼吸をする、造格を吸う・吐く
во́здух(男性名詞)空気・空中・空 ※英語の air
горди́ться(不完了体動詞) ⇔ ×(完了体動詞)造格を誇る・自慢する
- управля́ть маши́ной 「車を運転する」
- дыша́ть во́здухом 「空気を吸ったり吐いたりする」
- занима́ться спо́ртом 「スポーツをしている」
- горди́ться сы́ном 「息子を自慢する」