ロシア語講座:初級

Г17:不変化名詞

複数形を学んだ際にも確認したが、改めて不変化名詞、つまり格変化をしない名詞について見ておこう。

 ロシア語の名詞は、原則としてすべて格変化する。例外が、

  1. 外来語
  2. 略語

である。これらはいかなる格変化もしない。生格になろうと、対格になろうと、はたまた複数になろうと、主格と同じ語尾のままである。ただし形容詞など、関連する単語は格変化する。

外来語略語
空いているタクシー興味深い写真
単数主格свобо́дное такси́интере́сное фо́то
生格свобо́дного такси́интере́сного фо́то
与格свобо́дному такси́интере́сному фо́то
対格свобо́дное такси́интере́сное фо́то
造格свобо́дным такси́интере́сным фо́то
前置格свобо́дном такси́интере́сном фо́то
複数主格свобо́дные такси́интере́сные фо́то
生格свобо́дных такси́интере́сных фо́то
与格свобо́дным такси́интере́сным фо́то
対格свобо́дные такси́интере́сные фо́то
造格свобо́дными такси́интере́сными фо́то
前置格свобо́дных такси́интере́сных фо́то

外来語

 外来語は、語末の文字により次の6タイプに分類することができる。

語末の文字語尾変化
1子音字男性名詞する
2-а, -я女性名詞
3-ы, -иなし(複数名詞)
4中性名詞しない
5-о, -е
6-у, -ю, -э

 たとえば次のような名詞である。

  1. бале́т バレエ、волейбо́л バレーボール、гаста́рбайтер 外国人労働者、ди́лер ディーラー、интерне́т インターネット、ли́фт エレベーター、ме́неджер マネージャー、музе́й 博物館・美術館、партнёр パートナー、премьѐр-мини́стр 首相、при́нцип 原理、реце́пт 処方箋・レシペ、са́йт サイト、стадио́н スタジアム、теа́тр 劇場、те́кст テキスト、те́ннис テニス、те́ст テスト、тре́нер トレーナー、туберкулёз 結核、футбо́л サッカー、хокке́й ホッケー(ロシアでは一般的にアイス)、эта́ж 〜階、その他無数
  2. афи́ша 貼り紙、брошю́ра 小冊子、иде́я 理念、ка́сса レジ、конфе́та お菓子(日本語の金平糖と同語源)、литерату́ра 文学、медици́на 医学、му́зыка 音楽、о́пера オペラ、па́ста ペースト、пневмони́я 肺炎、програ́мма プログラム、револю́ция 革命、рефо́рма 改革、сту́дия スタジオ、эпо́ха エポック、э́ра 紀元、-ия の多く
  3. гастро́ли 客演公演、де́ньги お金、джи́нсы ジーンズ(のズボン)、макаро́ны マカロニ、мемуа́ры メモワール、фина́нсы 財政、ша́хматы チェス、Афи́ны アテネ
  4. джерси́ ジャージ、жюри́ 審査員、ре́фери́ レフェリー(力点はどちらでも可)、такси́ タクシー、хо́бби /хоби/ ホビー
    • 女性名詞/不変化 : саля́ми サラミ
  5. ателье́ アトリエ、бюро́ ビューロー、кафе́ カフェ、кино́ 映画、пальто́ 外套、ра́дио ラジオ、та́нго タンゴ、эскимо́ チョコでコーティングされた棒アイス
    • 中性名詞/変化 : э́хо エコー
    • 男性名詞/不変化 : ко́фе コーヒー、шимпанзе́ チンパンジー
  6. интервью́ インタビュー、кано́э カヌー、меню́ メニュー、табу́ タブー
    • 男性名詞/不変化 : кенгуру́ カンガルー

 繰り返しになるが、この分類は絶対的なものではない。そもそも、«外来語» という概念自体が曖昧だ。ロシアは10世紀にビザンティン帝国(ギリシャ)から文字を輸入したが、その際に教会用語を筆頭に大量のギリシャ語を輸入している。その後、16世紀・17世紀にはポーランド経由でラテン語が、18世紀・19世紀にはドイツ語・フランス語が、大量にロシア語にもたらされている。ソ連崩壊後に輸入された英語はロシア人の誰もが外来語と認識しているだろうが、зал 「ホール」や ремонт 「修理」など、こんにちほとんどのロシア人が外来語と認識していないだろうが、もともとはれっきとした外来語である。Президент Российской Федерации 「ロシア連邦大統領」は、すべて外来語から成っている(と考えることもできる)。
 もっとも、外来語の定義などこの際どうでもいいことで、ここで重要なのは不変化名詞の区別である。

 1 と 2 は無数にある。その多くが、こんにちではロシア語化してしまっている。これらはきちんとロシア語の名詞と同じく格変化するので、外来語か本来のロシア語か、区別する必要はない。

 3 と 4 の区別は難しい。3 は複数名詞として格変化するのに対して、4 は中性名詞に分類されて不変化であるから、きちんと区別できないと問題だ。しかしこの区別は、ロシア語に入ってきた時期とか、集合名詞的な使い方・意味かどうか、などが考慮されるが、厳密な基準があるわけではない。
 ひとつひとつどちらなのか覚えた方が早い。
 3 はまだほかにもあるが、4 は、少なくともわれわれが覚えておくべきはここで挙げたものぐらいであろう(ここで挙げたものも、必ずしも覚えておく必要はない。最低限 такси だけでも十分)。
 ちなみに салями が女性名詞に分類されている理由は単純で、サラミはソーセージ колбаса́ だからである。

 5 は、普通に格変化する中性名詞との区別が非常に困難。われわれ日本人にも耳馴染みのある単語なら不変化だとわかる。しかし、多くの学生が пальто を格変化させ、эхо を変化させない、という間違いを犯す。もっとも、逆に言えば、注意すべきはこのふたつだけだろうか。
 кофе が男性名詞に分類される理由は単純だ。кофе は17世紀に英語から輸入された時には ко́фей ないし ко́фий という男性名詞だったのである(英語の coffee の発音が音写されたのだ)。これまた中性名詞と間違える学生が多い。注意すること。
 他方、шимпанзе が男性名詞扱いされるのは当然だ。チンパンジーは動物、すなわち шимпанзе は動物名詞だから、中性名詞では具合が悪い。なので無理やり男性名詞に分類しているのである。

 6 は、そもそもロシア語の名詞には存在しない語末の文字をしている。ゆえにどんなロシア人も、何百年も使っている単語であっても、「これは外来語だ」と認識している。ゆえにこれらは中性名詞扱いし、格変化させない(させようがない)。われわれにとっても、これは非常にわかりやすい。
 例外は кенгуру だが、これは шимпанзе と同じ理屈である。

 なお、外来語には当然固有名詞(人名、地名)も含まれるが、話がややこしくなるので、とりあえず上記の規則に準ずると考えておいていい。

略語

 実は略語の中にも、格変化するものがある。

  1. 格変化する略語 : 一単語として発音でき/し、かつ語末が子音字。 ⇒ 男性名詞扱い
    • 頭文字を足したもの : ву́з 高等教育機関(短大・大学・大学院・専門学校)、за́гс 戸籍登録課、БАМ バム鉄道、МИД 外務省、МХАТ モスクワ芸術座
    • 音節を足したもの : заммини́стр 閣僚の次官、колхо́з コルホーズ、коминте́рн コミンテルン、Минздра́в 保健省、Минтру́д 労働省
  2. 格変化しない略語 : その他。
    • 頭文字を足したもの : МГУ モスクワ大学、ООН 国連、РФ ロシア連邦、СССР ソ連
    • 音節を足したもの : заммини́стра 閣僚の次官、са́мбо サンボ、Миноборо́ны 国防省、Минтруда́ 労働省
    • 一単語を省略したもの : метро́ 地下鉄、фо́то 写真

 これまた絶対的な規則ではない。

 大文字だらけの略語は、次のように格変化する。

表記発音
主格МХАТ/мха́т/
生格МХАТа/мха́та/
与格МХАТу/мха́ту/
対格МХАТ/мха́т/
造格МХАТом/мха́там/
前置格МХАТе/мха́те/

 ちなみに、頭文字を足した格変化しない略語は、読む(声に出して発する)時には、「開く」。基本、この手の略語はあくまでも「書く時」専用。

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最終更新日 20 03 2015

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