ロシア語講座:初級

Б06:お別れ

別れに際してロシア人が発する言葉は、実に多種多様である。それは日本人も同じことである。「じゃあ」、「またね」、「バイバイ」、「失礼します」等々。もはや日常会話では使われなくなったが、「あばよ」なんてのもある。TV番組であれば「また来週」と言ったりするし、「明日もよろしく」とか「じゃあ月曜日に」とか、状況次第で千差万別だ。
 とはいえ、基本は「さようなら」であろう(発音には多少のバリエーションがあるが)。

До свида́ния. /дасвида́ния/
 日本語の「さようなら」に相当する、と言っていいであろう、最もポピュラーでよく耳・口にされる、それだけにありふれた平凡な別れの言葉。
 ふたつの単語から成っているが、ひとつの単語のように発音される。そのため、до の о にはアクセントが置かれず、曖昧に /ə/ と発音される。
 この до という単語は、「〜まで」という意味の前置詞である。«До свида́ния.» は「(また)会うまで」という意味であり、フランス語の Au revoir. やドイツ語の Auf Wiedersehen. と同じである。この до という前置詞のそもそもの意味・用法からして、様々なバリエーションがある。そのすべてを網羅することは不可能だが(場面や個人によってつくりだされることもあるから)、いくつか挙げてみよう。
 «До ско́рого свида́ния.» は、すぐまた会おう、というニュアンスが込められている。
 «До встре́чи.» は «До свида́ния.» とまったく同じ意味だが、多少くだけた印象か。
 «До за́втра.» は、文法的には間違っているが、ロシア人がよく口にする言葉。「また明日」である。
 «До понеде́льника.» となれば、「また月曜日」という意味で、月曜日に会う予定がある場合に用いられる。このように до+曜日 の表現は曜日の数だけある。
 «До сле́дующей неде́ли.» は「また来週」である。
 文法が理解できれば、このような様々な言い方を好き勝手につくりだすことができるようになる。

 日本語でも、「さようなら」に「ごきげんよう」や「お元気で」を付け加えることが多いが、ロシア語でも同様で、«До свида́ния.» の一言だけではなく、それに次のような言葉を加えることが多い。

Всего́ хоро́шего. /фсево́ харо́шева/
 元来は「すべてのよいことがあなたにありますように」といった感じの言葉。日本語の「お元気で」や「ごきげんよう」と同様、これ単独でも別れのあいさつとなる。
Всего́ до́брого. /фсево́ до́брава/
 «Всего́ хоро́шего.» とまったく同じ言葉で、互換可能。
Жела́ю ва́м здоро́вья, сча́стья, успе́ха. /жела́ю ва́м здаро́вья ща́стья успе́ха/
 直訳をすると「あなたに健康、幸福、成功がありますように」ということになるが、日本語ほど堅苦しい感じはなく、ロシア人は意外と頻繁にこの大仰な言い回しを使う。もちろん、「健康 здоро́вья、幸福 сча́стья、成功 успе́ха」の部分は、どれかひとつないしふたつでもいいし、ほかの単語と入れ替えることも可能。
Счастли́вого пути́. /щасли́вава пути́/
 どこかに旅立つ人に対して言うセリフ。「道中ご無事で」とか「よい旅を」といった感じだろうか。
 счастли́вого の発音が少々厄介。сч が щ となり、стл の真ん中の т が発音されない。これは実はどちらも発音の規則どおりなのだが、ここではその規則自体を学んでいないので、この単語独自の特殊な発音として覚えておこう。
Счастли́вого Но́вого го́да. /щасли́вава но́вава го́да/
 日本語の「良いお年を」。
Пока́. /пака́/
 いわば «Приве́т.» に対応する言葉で、若者言葉。日本語のニュアンス的には、「じゃあね」といった感じだろうか。
Споко́йной но́чи. /спако́йнай но́чи/
 「おやすみ」、「おやすみなさい」。ロシア語では区別はない。英語の "Good night."。

日本語との違い

お先に失礼します
 ロシア人はこういうフレーズは使わない。もし使うとしたら、本当に謝罪する場合。つまり「先に帰ることをお許しください」という感じのセリフになる。
お大事に
 意味的に日本語の「お大事に」に相当するロシア語のフレーズは存在する。しかし実践的には、こちらも本当に相手の健康を懸念している場合に用いる。

 どちらも、いまの段階で覚えても仕方がない(どころか誤用されるおそれがある)ので、紹介しない。
 話は逸れるが、これらに限らず、日本語の慣用句のうちかなりの部分が、ロシア語には相当するフレーズが存在しない。

 これらはすべて形式的なフレーズであり、本来の意味はほとんど失われているし、本来の意味が残っていたとしても「こういう場面ではこのフレーズを使う」という慣例に従って使われている点、違いはない。
 もしロシア語でこれらの表現に相当する言い方をどうしてもしたければ、本来の意味に基づいた文字通りの言い方をするしかない。すなわち、「行ってきます」であれば「わたしは行きます」と言うしかないし、「今後ともよろしくお願いします」であれば「どうかわたしにいろいろ教えてください」とか「わたしに好意を寄せてください」とでも言うほかはあるまい。しかしそんな言い方をしても、ロシア人には通じないか、大笑いされるだけであろう。
 この手の慣用表現は翻訳不可能である。「日本人がこう言う場面で、ロシア人はこう言う」、「日本人がこう言う場面で、ロシア人は何も言わない」ということを理解することだ。それはまた、「日本人が何も言わない場面で、ロシア人はこう言う」ということもある。外国語、特にその会話能力を身につけるとは、そういうことである。単語や文法をどれほど知っていても何の役にも立たないことが少なくない。

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最終更新日 28 02 2015

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